夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

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6話 小さな田舎町の薬師

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 メリエルラシア帝国は、魔法が発達した国であり、独特な進化を遂げている。電気やガスは無いが、魔道具を使ったランプや炊事場があり、映像を残すカメラのような魔道具もある。
 その領土によって発達の違いはあるが、セントラル領はセントラル侯爵様が統治する領土であり、自然豊かな、薬学に精通した領土として有名である。
 ソウカが住む場所に選んだセントラル領の一つ、小さな町コルンは、電気やガスに代わる魔道具はあるが、水は井戸や川の水を使い、冷蔵庫のような便利な物は無く、食材はその季節で食べれる物を、冬は乾燥させたものや長期保存出来るお米などを食べて過ごすような土地。

 クレオパス領を出た私は、ここ、コルンで小さな一軒家を借り、駆け出しの薬師として過ごしていた。

「よいっしょっと」

 井戸水を汲み上げる作業が、何だかんだ一番の重労働だったりする。
 クレオパス子爵邸でも水汲みはしていたけど、ポンプ式だったので幾分かマシだった。いつかお金を貯めて、ポンプ式の井戸に変えることが、今の私の目下の目標。

「ソウカちゃん、今空いてるかのー?」

「あ、はーい!」

 汲み終えた水を一旦横に置き、私は急いで、声が聞こえた玄関に向かった。

「おやソウカちゃん。ごめんなぁ、忙しかったかい?」

「大丈夫ですよ、ヒナギクさん。今日はどうされましたか?」

「実は昨日から腰が痛くてね。薬を出してくれたら嬉しいんだけど」

「分かりました、少し待っていて下さいね」

 ヒナギクさんは、コルンに来てから私の面倒をよく見てくれるお得意様で、御歳九十歳の元気なおばあ様。コルンから少し離れた場所にあるこの家にも、元気よく歩いて来てくれる。

 確か、腰痛薬と湿布はこの前作って、ストックがあったはず。

「ソウカちゃんがコルンに来てくれて助かったよ。こんな小さな町に、今まで薬師はいなかったからねぇ」

 専門的知識が必要とあってか、薬師の数は基本、少ない。セントラル領は薬学に精通している土地だから、薬師も他の土地より多いのかなって勝手に思っていたけど、コルンのような小さな町では、いないことが普通らしい。

「そう言って下さって嬉しいです。私も、この町が好きになりましたから」

「ほほ、こんな田舎町を好きになるなんて、ソウカちゃんは変わってるねぇ」

 コルンは小さな田舎町だが、自然溢れる農業の町であり、薬草栽培が盛んな薬草の町である。
 至る所で薬草を栽培し、それを売り、生計を立てている平民が多くいて、周りにも自然が広がり、色々な薬草があるのが魅力。それに町の人も、皆、優しくて暖かくて、新参者の私にも良くしてくれる。
 だから私は、ここを選んで良かったと心から思っている。

「そう言えばソウカちゃん、もうすぐコルンに、セントラル侯爵様が来られるそうだよ」

「フォルク様が?」

 フォルク=セントラル侯爵。この広大な自然溢れるセントラル領を統治する領主様。

「ああ、何でも、月見草の採取に来るそうで――」

「月見草!?」

「ほっほっほっ、やっぱりソウカちゃんも薬師だねぇ、珍しい薬草には目の色が変わるよ」

「す、すみません」

 月見草と言えば、薬師の間では、とてもとても有名で、希少な万能草。
 月見草が生えるのは、数百年に一度、自然豊かな土地であることや、月の光が集まる場所など、他にもいくつかの条件が揃う必要があると言われており、全容は解明されておらす、その入手の困難さから、幻の薬草とも言われている。

 そんな月見草が採取出来るなんて、流石はセントラル領! 薬草の町コルン!

「一緒に薬草の目利きをしてくれる人を募集しているみたいだから、ソウカちゃんも行ってきたらどうだい? 終わったら採れた薬草を報酬に少し分けて貰えるそうだよ」

「そう……ですね」

 メリエルラシア帝国では、魔物との棲み分けが比較的上手くいっており、街を襲うことは稀で、普通に街で暮らす分には、平和な世の中になっている。だが、山や海、魔物の領域に入るとなると、話は変わる。薬師が必要とする薬草は自然の奥深くにあることも有り、希少な薬草の採取をするとなると、どうしても危険と隣り合わせになる。

「貴族は苦手かい?」

 戸惑いを感じ取ったヒナギクさんは、腰に湿布を貼る私に振り向きながら、尋ねた。

「苦手……そうですね、苦手かもしれません」

「横暴な貴族様もいるからねぇ。でも大丈夫だよ、フォルク様は良い領主様だから」

 貴族が悪い人達ばかりでないのは分かっている。
 私の両親は貴族だったけど優しかったし、お義母様も、素敵な人だった。ただ、ジェイド様とミレイ様が屑過ぎただけ。
 分かっていはいるけど、出来るだけ貴族とは関わりたくない。それには、明確な理由がある。

「分かりました、募集してみます」

 それは、誰にも私が、元貴族だとバレたくないから!

 平民落ちした貴族は、悪い意味で目立つ。
 ただでさえ元貴族ってだけで敬遠されるのに、平民落ちした貴族には、今は自分も平民のクセに、平民を見下し、横柄な態度をとる者が一定数いて、その所為で余計に敬遠されている。
 だから私は、出来るだけ元貴族だとバレたくない!

 フォルク様とは一切面識が無いし、向こうも、私の顔なんて知らないはず。身バレは怖いけど、月見草は喉から手が出るほど欲しい!

 幸い、今のところ誰にもバレていないし、このまま何事も無く、平和に穏やかに暮らしたい。

 あの家にいた頃の私は、心も体もボロボロだった。お義母様だけが心の支えで、お義母様を守るためだけに、あの家にしがみついた。
 今の私は、あの家にいた頃よりも、心も体も穏やかだ。

(お義母様、私は今、幸せです)

 コルンで初めてした買い物は、素朴な木の写真立て。
 その写真立てには、お義母様の写真を入れて、部屋の一番日当たりの良い場所に飾った。

 私はもう、ただの駆け出しの薬師ソウカ。静かに心穏やかに、ここで幸せに暮らしています。

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