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7話 この方が、フォルク様
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――――数日後。
月見草の採取に応募した私は、簡単なテストを受け合格し、見事、目利きに選ばれた。
私以外にも目利きに選ばれた人は二人いたが、薬師は私だけで、後はコルンの外から来た、採取を専門として稼ぐ人達で、魔物との遭遇に備えた剣士も含め、八人程の小隊になった。
「初めまして、コルンで薬師をしております、ソウカと申します。どうぞよろしくお願いします」
月見草の採取に向かう仲間に、軽い自己紹介と挨拶を交わす。
「おお、よろしく! って、なんだ、随分かしこまった挨拶だなぁ。まるで貴族のご令嬢みたいな上品なお辞儀なんてしてよ」
ギクリ。
「え、あ。私、貴族のご令嬢に憧れがあって、その……真似してるんです」
「そう言えば、うちの五歳の娘もよくお姫様ごっこしてるなぁ。それと一緒か」
「はい、そうです!」
危ない危ない、挨拶の一つでも違いがあるのね。次から気を付けなくちゃ!
「全員、集まったか?」
「!」
「フォルク様! はい、全員揃っておりますよ!」
この方が……フォルク=セントラル侯爵様。
セントラル侯爵家は薬草や薬を主とした流通を司る事業を営んでおり、フォルク様ご自身もまた、名高い薬師でもある。そのな端正な顔立ち、人当たりの良い優しい笑顔に、貴族令嬢達はこぞって自分を売り込むような、超絶優良物件と言われている。
貴族の情報に疎い私でも知っているような、有名人。
「今日は月光草の採取に参加してくれてありがとう。魔物がいる危険な場所に赴くことになるが、君達に危険が及ばないよう十分に配慮する」
その言葉には、薬草の目利きに選ばれた非戦闘員である私達三人を、安心させようとしているのが伝わった。
「では行こうか」
お顔を拝見したのは初めてだけど……オレンジの明るい髪に透き通るような青い瞳。裏表が無さそうな純粋な笑顔は、見るからに好青年に見えた。
(……私が元貴族だって、バレていないよね?)
剣士達に囲まれ森の中を進む中、フォルク様の背中を見つめながら、私は懸念事項を思い返した。
私がまだグローリア男爵令嬢だった頃、お父様に付き添い何度か社交界に顔を出したことはあるが、フォルク様とは一度も顔を合わせたことはない。私が薬学の勉強にかまけて社交界にあまり参加していなかったことも原因だが、確かフォルク様も、社交界にあまり顔を出すタイプではなく、本当に出席しないといけない宴以外、参加していないと聞いたことがある。
そもそも、結婚後はジェイド様に社交界に参加する必要は無いと言われて参加していなかった。
(月光草欲しさに来たけど、フォルク様とは完全に初対面だし、例えどこかですれ違っていたとしても、しがない男爵令嬢の一人で、存在感の薄かった私の顔を覚えている人なんて、中々いないと思う。うん、大丈夫大丈夫)
自分一人で納得し、ホッと、安堵の息を吐いた。
「――失礼、ソウカ――だったかな?」
「! はい!」
急に懸念事項の張本人から声をかけられ、驚いて心臓が飛び跳ねるくらい、動揺する。
「すまない、驚かせてしまうつもりはなかったんだが」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。少し考え事をしておりまして」
貴方のことですけどね、とは、言えない。
「ソウカは私と同じ薬師と聞いたから、話してみたいと思ったんだ」
薬師と言っても、私はまだまだ駆け出しの新米ですよ? そんな新米薬師と、名のある有名な薬師のフォルク様が、何を話します?
「私なんて、フォルク様のような名のある薬師様に比べれば、足元にも及びません。フォルク様がお話する価値もないと思いますが」
「……なんだか、ソウカは変わってるな」
「――どこら辺でそう思われましたか?」
おかしな箇所があるなら、早急に対処します。
「上手く説明出来ないんだが、雰囲気がこう、まるで貴族のご令嬢のような気品さがあるのに、貴族のご令嬢では考えられないような危険な場所に平気で来たり、これだけ歩いても体力があるようだし、文句も言わない。なんだか、貴族と平民が混ざり合っているような――」
ある意味正解です。素晴らしい観察眼過ぎて、怖い。
「ソウカさんは貴族のご令嬢に憧れて真似してるらしいですよ、フォルク様」
「そうなのか」
「はい、そうなんです。日々、貴族令嬢の振る舞いを研究しています」
「薬師の片手間にか?」
「はい、薬師の片手間に」
「やっぱり、ソウカは変わってるんだな」
自分でも言っててそう思います。
私が貴族らしくないと思われるのは、私が結婚生活の六年間、貴族夫人として扱われず、家政婦のように働き続けたためでしょう。皮肉にも、それで家事スキルや体力がつきましたからね。普通の貴族令嬢やご婦人は、自分で家事なんてされないでしょうから、家事スキルゼロでしょうし。
月光草が生えているのはまだ先、日が暮れる前にと、川の近くにある平坦な場所で野営をすることに決め、荷物を下ろし、簡易なテントを建て、森や川で採れた食材を使い食事をする。
道中何度か魔物に襲われたが、流石はセントラル侯爵に仕える剣士の皆様。難なく振り払った。それに――――
「何を作るんだ? ソウカ」
「寝ずの番をして下さる方に、温かい香草茶を差し入れしようかと」
「ソウカの作る香草茶か、私も飲んでみたいな」
フォルク様が指を鳴らすと、用意していた薪に、一瞬で火が灯った。
フォルク様は魔法が使えた。
それも、結構な強い魔法を使え、魔物を一瞬で消し去った姿には、恐怖すら感じた。
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