【完結】聖女様にいじめられていたら、大大大推しと急接近したんですが~ていうか私”も”聖女ってどういう意味?~

神無月りく

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第六章――⑥

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「これくらいなら許容範囲だろう?」
「ま、まあ……いいんじゃない?」

 そもそも密室で男女二人きりという時点で倫理的にアウトだが……細かいことは気にしてはいけない。
 それから私たちは、触れ合った肩と指から伝わる温もりを感じながら、穏やかな沈黙に身を委ねていた。話したいことはいくらでもあるが、これ以上口を開いたらとめどなく未練と涙が溢れ出てきそうで、唇を引き結ぶしかなかった。

 どれくらいそうしていたのか、その沈黙を破ってポツリとユマがつぶやく。

「俺はこれまで数え切れないほどの聖女を育てて見送ってきたが、使命に関係なく守りたいと思ったのはハリだけだ。どんな手段を用いても傍にいたい、身も心も全部俺のものにしたいと思うのも、ハリだけだ。なのに、手放さないといけないなんて……」
「ユマ……」

 悔しさと愛しさで強く絡められた指に胸が痛んだと同時に、視界が二重三重にブレて体が急に重くなり、そのまま床に倒れ込みそうになるところをユマに支えられた。

「ハリ!? まさか、もう……」
「た、多分……」

 女神様が何かしてくれたのか、さっきのような激痛は感じなかったが、その代わり瞬く間に四肢の感覚がなくなっていって、ユマの腕の中にいるのにその感触も温もりも分からなくなっていく。
 それが怖くてギュッと縋りつくのに、まるで雲でも掴んでいるような反発のなさにゾッとした。これが肉体と魂が分離するということなのか。

「い、嫌、離れたく、ない。ユマと、一緒……」
「……心配するな。離れるのは一時だけだ。必ずハリに会いに行く。どれだけ時間がかかっても、必ず。だから、向こうで待っていてくれ」

 ぼやけた視界の中で、忠誠を誓う騎士のようにユマが私の手を取って甲にキスを落とした。
 この肌はもう何も感じないはずなのに、唇が触れたところだけは妙に熱いような気がしたのを最後に――パチンと電源が落ちるように意識がブラックアウトした。

 その後すぐに……かどうかは分からないが、私は夜明けと共に小さな病室で目を覚ました。
 会社の近くにある総合病院のようだ。

 医者の話を聞くと、傷自体は深く出血多量だったが臓器に目立った損傷はなく、術後の経過も順調だったに関わらず、私は丸三か月も意識不明だったらしい。
 異世界で過ごしたのはひと月ほどだったと思うのだが、向こうとこちらとでは時間の流れが違うのかもしれない。

 そんなことを寝起きの頭でぼんやり考えていると、私の意識が戻ったと聞いて真っ先にやって来たのは家族ではなく、警察と検察と弁護士だった。
 事件関係者に対する事情聴取という奴である。

 といっても、形式的なことを聞かれるだけで、どれもものの十分と経たずに終わった。
 犯人はその場で警備員に取り押さえられご用となり、すでに送検されているおかげだ。

 私の生死如何で罪状が傷害罪から殺人罪に替わる恐れがあり、正式な裁判はまだ始まっていないようだが、これで無事開廷となるだろう。ただ、被告人が薬物乱用による心神耗弱状態だったことから、まともな刑罰は適用されないのではという見方が強い。

 となると、私が民事で損害賠償を請求しても勝ち目は薄そうだ。
 まあ、面倒だし別に訴えるつもりはないけど。

 司法関係者の来客を次々と捌き、時々うたた寝しつつ養生していると、ノックのあとに看護師さんが顔を覗かせて満面の笑みを浮かべた。

「横山さん、カレシさんが面会に来てますよー」
「は!?」
「スッピンは恥ずかしいかもしれませんけど、毎日のように来られててもう飽きるほど見られているので、気にしちゃダメですよ」
「うえあ!?」

 カレシ!? 三十年の人生の中でそんなもん、一度もできたことありませんが!?
 しかも毎日来るってストーカーの間違いじゃありませんか?
 そんな心当たりないですけども、それ以外に考えらえるとしたら、まさか新手の詐欺? 私なんか騙しても大した金は出てこないぞ? いやむしろ“カレシ”とかいうのは人名と考えるべき? つってもそんな知り合いいないけど。

 などと混乱する私をよそに、カレシさんとやらが入室してきた。
 どこの誰だ――とこぶしを握り締め身構えたのは一瞬のこと。

「ユ、ユマ……?」

 パーカーとジーンズというラフな格好をしているし、心なしか歳を重ねたようにも見えるが、間違いなくついさっき(個人的感覚)別れたばかりのユマにしか見えない。

 一応両想いだから恋人だし、カレシと言っても問題はないけど……なんでここにユマが?
 幻覚? いや、それなら看護師さんに見えるわけないし、どういうこと?

 念のため頬をつねって現実かどうか確かめた。
 しっかり痛かったので夢ではなさそうだ。
 三十路がどんな原始的な確認の仕方をするのだと自分でも呆れるが、それくらい非現実的なことだったのだ。

「……何してるんだ?」
「いや、その、夢オチかなーっと……」

 仕方ないじゃないか、もう会えないことを覚悟していたのに、こんなにあっさり再会を果たすなんてご都合主義がそう転がっているわけがない。
 これが夢じゃないなんて、この痛みをもってしても正直信じられない。

 ユマは私の奇行に呆れ顔をしながら近くの丸椅子に腰かけてつねった頬に触れる。
 あの時と同じ感触と温もりに、心拍数が一気に上がった。

「言っただろう。必ず会いに行くって」
「え、あ、言ってたけど……でもあれは……」
「その場しのぎの嘘だと思ったのか? 心外だな」
「だって、そんな話全然現実的じゃないし……ていうか、何がどうしてこうなったの?」

 説明を求める私に、ユマは不服そうに口元を歪める。
 なんだか少し見ない間に表情が豊かになって、嬉しいような寂しいような……と思考が横道にそれていると、ずいっと顔が近づいて来た。

「話してもいいが、その前にキスがしたい」
「は、はい?」
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