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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第114話

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 返璧之白之勾玉(たまがえしのしろのまがたま)が形作った鎧は、高い防御力と耐魔・耐術能力を持ち、ナユタの身体能力を高めるだけでなく、翼やスラスターのようなものを必要とせず空を飛ぶことができた。

 璧隣之連剣(かべどなりのつららぎ)は、両手の手の甲や両腕、鎧のいたるところから刃が伸縮する。柄だけが腰にあり、剣としての使用も可能な合体・変形機能を有する何ふりもの剣であった。

 比良坂之鏡(ひらかさのかがみ)は常にナユタのまわりを回り続ける自動防衛システムだ。

 一跳びで何百キロも先の九頭龍 天禍天詠にたどり着いただけでなく、迫り来るデウスエクスマキナたちをすべて斬り捨てるその姿を、

「あれがナユタか……
 神々しく、猛々しい。まるでスサノオかヤマトタケルだな」

 フギの北、ンゲンのさらに北に位置するローシアの人里離れた場所で、空を見上げながら青年は呟いた。

 そこは、どこかから転移してきたと思われる外宇宙知的生命体の宇宙船らしきもののそばだった。

 昨日までそれはそこになかった。
 だから転移してきたことがわかった。

 だがそれが、リバーステラのアララト山の山頂付近、ノアの方舟の残骸とおぼしきものが修復するように現れ、テラに転移してきたものだとは、青年にはわからなかった。

 全長10キロの宇宙船は、すでに青年が破壊していた。
 中にいた数千人の異星人もまた皆殺しにしていた。

 すべてを喰らう者が、その存在を許したからだ。

 だから青年は、テラとリバーステラのためにそれを破壊した。皆殺しにした。

 宇宙船の中にいた者たちは、人によく似ていた。
 よく似てはいたが、猿以外の何かが進化した人ならざる者たちだった。

 言語もエーテルのおかげで理解できた。
 最初はなぜ、高度なセキュリティシステムを持つ宇宙船に、人の侵入を許したのか困惑していた。
 人がなぜここまで強力な力を持つのかも。
 そして、最期には命乞いをしていた。

 匣をもたらしたアンサーとは別の、高度な科学文明を持つ外宇宙知的生命体だった。
 おそらくは進化というものは、どの星でも二足歩行にたどり着き、尾を必要としなくなり、翼を得ることはないのだ。

 彼らは匣によく似たものをもたらそうとしていた。

 かつてこの世界が放射性物質のゴミ処理場にされたとき、すべてを喰らう者はその存在を許した。
「我々」や「匣」、「世界の理を変える力」など、すべてを喰らう者はこの世界に存在して良いものとならぬものを仕分け、ならぬものを喰らうが、それは人間準拠ではない。
 すべてを喰らう者の仕分けは、テラに生きる人のためにはならない。

 青年は気づいていた。
 今はまだ、人はテラの王でいられているが、いずれ王となるのはすべてを喰らう者だ、と。

 だから青年はこの数ヵ月、すべてを喰らう者が存在することを許してしまった、人に仇なすものを破壊する旅を続けていた。
 最初は彼ひとりだった。
 だが今は仲間がいた。

「あれが戯使遣いの力か? サブロー」

 青年のそばにはサブローと呼ばれた男がいた。
 エビス・サブローという。

「そうだ。不老不死の肉体を手に入れ、無量大数の力にしながらも、その力を自ら手放すことを選ぶことができるだけの強い心を持つ……」

「そのような戯使遣いが現れることはないと思っていたが、とうとうジパングの三種の神器を扱うことが許される者が現れたわけか……」

 そしてもうひとり、アハシマ・カグツチ。

 エビスとアハシマは、ジパングの初代女王以前に生まれたアンフィス・バエナ・イポトリルとその弟子マグ・ダラの子であった。
 ふたりは、このイレブンス・テラの聖書におけるカインとアベルのように五体不満足で生まれた存在だった。
 エビスはアンフィスとマグ・ダラの長男であり、結晶化したエーテル・ヒヒイロカネで手足をはじめとする生まれながらに欠損していた部位を作られ、次男であるアハシマは、マグ・ダラが最期に産み落とし、彼女を死に追いやってしまったカグツチの、本来なら二つに分けなければいけなかった力を無理矢理抑え込むために一体化させられた、棗弘幸ですらその存在にたどりつけなかった、生ける偽史だった。

「ナユタが来ているなら、ピノアもいるだろう。俺の出番はなさそうだな……」

 青年は、雨野ムスブは、もう一度空を見上げて呟いた。

 自分は表舞台に立つべき者ではない。
 裏方の人間だ。

 だが、会いたいな、と思った。

 愛する弟と、愛する少女に。
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