もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1~】

雨野 美哉(あめの みかな)

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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第115話

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「ナユタが来ているなら、ピノアもいるだろう。俺の出番はなさそうだな……」

 雨野ムスブは、もう一度空を見上げて呟いた。
 ローシアの空は、いつも灰色の低い雲が浮かんでいる。
 この地にはまだ数週間しか滞在していなかったが、彼はその空が、青空や雨上がりの虹がかかった空よりも好きだった。

 この数ヵ月、ムスブはテラの世界中を旅していた。
 それは、棗弘幸がしていた真実の歴史の探求のフィールドワークのようなものだった。
 リバーステラでは邪馬台国の場所や歴史がわからず、棗が異世界であるテラにまでフィールドワークを拡大したように、彼もまたテラの歴史を知りたかったのだ。
 なぜリバーステラにかつて存在した組織によって、匣やアカシックレコードの技術や知識が用いられ産み出されたテラに、リバーステラの真実の歴史が存在するのか。そして、テラとは、アカシックレコードとは何なのか、それを探求する旅だった。

 その探求心が、ムスブの中に眠る戯使遣いの力を引き出しつつあったことに、彼は気づいていなかった。
 気づいたのはつい先程のことだった。
 本来の戯使遣いである棗弘幸の力が弟のナユタに移ったことにより、ナユタは「リバーステラの戯使遣い」になった。それと同時に、ムスブもまた新たな力に覚醒した。「テラの戯使遣い」となったのだ。

 数ヵ月前のラ・ムー大陸でのナユタとの戦いの後、ムスブははるかかなたの外宇宙で数十万年も続いているという銀河間戦争を終結させるべく、外宇宙に向かうふりをして、空高く舞い上がった。

 戦争などという不毛極まりないものは、武力によって介入したところで終結させることはできても根絶など出来はしない。
 また新たな火種が生まれ、戦火となるだけだ。
 戦争とはゴキブリのようなものだ。
 遺恨を持つ者をひとり見つければ、その者の周辺や背後に同様の者が百人は、いや千人はいる。

 銀河間戦争を終結させるだけの力を彼は持っていた。
 だが、それでは必ず再び戦争が起きる。
 生命が存在し、匣がもたらされた星はリバーステラだけではなかったからだ。
 それらの星の知的生命体が、強化外骨格やヒト型の大型機動兵器を開発し、宇宙空間で戦闘行為が可能なレベルにまで文明が発展すれば再び銀河間戦争が起こる。
 リバーステラやテラが巻き込まれてしまうのを数百年か数千年先延ばしにするだけだ。

 だから、戦争という概念自体を「世界の理を変える力」によって消すしかなかった。

 テラはすでに、世界そのものが「世界の理を変える力」の干渉を受けない「特異点」となっていたため、ナユタやピノアの前では隠していたシャーマニズムと陰陽道の力を使い、空高く舞い上がった彼はゲートを開き、リバーステラへと一度帰った。

 リバーステラならばどこでもよかったからゲートの行き先を指定はしなかったが、伊勢神宮に戻された。
 伊勢神宮は、やはり異世神宮ということなのだろう。

 リバーステラで戦争という概念そのものを消した後、彼は再びテラへと戻ろうとした。
 テラだけは、彼が宇宙から消した戦争という概念が残ってしまっていたからだ。

 ピノアやステラ、イルルといったアルビノの魔人がゴールデン・バタフライ・エフェクトを使えば、テラで起きる戦争は止められる。
 だが、それはやはり第三次魔導大戦の先延ばしにすぎない。
 カインズとアベルズは17年前に互いを理解し合うことを覚えたが、いつどこで何が火種になるかはわからない。

 それに、余剰次元のかなたに存在するアカシックレコードが自我を持ち、レコーダーという存在を産み出していた。
 人が知識や技術を持てば、それの軍事利用を考え、必ずそれを試す。試してから、自らの行いの愚かさを知る。自我があり好奇心があるからだ。知るが学べない。受け継がれない。魔人以外は短命な実体しか持たないからだ。
 アカシックレコードはデータベースに過ぎなかったが、そこに自我が芽生えれば好奇心が生まれ、必ず実体を持つことを考えることは目に見えていた。知識や技術はあらかじめ持っている。宇宙には無限の資源が存在する。それの軍事利用を考え、必ずそれを試す。
 そして、アカシックレコードが持つ、人よりもはるかに膨大な知識と技術を試すことができる場所は、もはやテラしかなかった。
 戦争という概念が、全宇宙で唯一残ってしまった場所だからだ。

 だから、彼はテラで生きることを選んだ。
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