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【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第85話

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エーテルの扱い方はピノアから聞いていた。
まずは、大気中からエーテルだけを手のひらに集め、球体を作り出す。
集めたエーテルは、そのままでも精霊の力を借り魔法を放つことができる。だが、その威力は弱い。
だから凝縮させる。凝縮させながら、同時にエーテルをさらに集める。
凝縮させすぎてしまうと、エーテルは結晶化してしまう。
だから、その直前に魔法を放つ。
魔法はそうすることによって本来の威力を発揮する。

エーテルを集めることはすぐにできた。
凝縮させることも、同時に集めながら、さらに凝縮させることもできた。
一度目はわざと結晶化させた。
結晶化する直前がいつなのかタイミングを知るためだ。
二回目は結晶化する直前で凝縮を止めることができた。

だが、リサがしようとしていたことは、魔法を放つことではなかった。

だから三回目は、二回目にできたことを維持することができるかを試してみた。
維持できた。

彼女がしたいこととは、この世界に生まれたわけではない自分が、自らの手によって、人工的に魔人になることだった。

かつてこの世界には、人工的に産み出された魔人が三人いたという。
三人は、母親の胎内にいるときに魔人にされたそうだ。
それをしたのは、この国の三賢者と呼ばれた優れた魔法使いの三姉妹だ。
自分は魔法使いでもなければ、彼女たちのお腹の中にいた胎児でもない。
二次性徴の途中にあり、胎児よりもはるかに大きく、はるかに重い。
細胞の数も桁違いだ。

だが、出来る気がした。

彼女は凝縮されたエーテルをいくつも作り出し、それらを両手で抱きかかえるようにして、胸の中心に取り込んだ。
エーテルを取り込んだ彼女の身体は、細胞のひとつひとつがエーテルと一体化しはじめた。
彼女には、自分の身体の内側の変化していく様子が手に取るようにわかった。

痛みはなかった。
むしろ、快楽、いや、これは幸福だろうか、そのような感覚を感じた。

やがて、目に見える世界の情報量が変わった。
無機物ならそれを構成する様々な物質が分子レベルで見えた。有機物なら細胞が、DNAが見えた。

リサは自分の手のひらを見つめた。
自分の細胞やDNAも見えた。

ついさきほど、彼女は女王の間で銀髪の長い髪を一本拾った。
それがピノアのものかステラのものなのかはわからないが、エーテルを取り込む前の自分の髪と、取り込んだ後の髪を見比べた後に、取り込んだ後の髪とその髪を見比べるためだった。

ちゃんと魔人だけが持つエーテル細胞に変化しているかを確かめた。
リサは黒髪のままであったが、ステラやピノアは魔人の中でも特別な存在だ。そこまでの贅沢は言えない。
彼女の髪の細胞は、先ほどまでと今では、彼女を彼女たらしめるDNAの塩基配列こそ同じであったが、DNAの情報量が桁違いだった。
銀色の髪の細胞とは少し異なるが、エーテル細胞になっていた。

ここまではなんとかできるだろうと思っていた。

魔人は、人と同じ世界を見ていても見えている情報量が異なるだけではなく、人とは比べ物にならないほど知能指数が高く、魔法の才能にも優れている。おまけに不老長寿だ。

彼女が生まれた世界では進化の袋小路にいた人類には、遺伝子操作以外の進化の方法はなかったが、魔人は人類が生み出したもうひとつの世界で、それとは異なる方法で進化した存在だ。

だが、この世界の魔人たちは、エーテル細胞の使い方を理解していない。
大気中にエーテルがないときに、自らのエーテル細胞を触媒として魔法を使うことしか知らない。

リサは指を強く噛み、血をにじませた。

リサが頭の中で、その小さな血の球が別の形になるように思い浮かべると、その血はまるで液体金属であるかのように形状を変化させた。

思っていた通りだった。

頭の中で、兄の強化外骨格のような姿を思い浮かべると、血液は形状を変化しはじめた。

「ブラッディ・ライドレス」

リサは、兄が胸につけた逆三角形のエムブレムの魔装具を使うときに口にする言葉のように、そんな言葉を口にした。

その直後、彼女は赤い強化外骨格を彼女はその身にまとっていた。

彼女はその強化外骨格にすでに名前をつけていた。

ライドドレスだ。

背中には伸縮可能な翼があり、そして肩や腰には補助アームと補助レッグが搭載されている。
翼を広げれば空を飛べるだけでなく、翼に搭載されたドローンを脳波で飛ばし、自動追尾攻撃と自動防御を同時に行うことができる。
補助アームを出せば、千手観音のようになり、無数の武器が操れるようになる。
補助レッグを出せばケンタウロスのようにもなれる。

リバーステラの科学や宗教や伝説、創作物を知ることによって、魔人は自らをそれらに等しい姿に変えることができるのだ。

彼女はその両手に武器を作り出そうとしたが、

「リサ、こんなところにいたの?
みんなでひさしぶりにご飯を食べよう」

バルコニーに兄が現れたので、慌ててライドドレスを解いた。

出来た。本当に出来た。
あの頃、考えていたことがきっとこの世界なら全部できる。

中二病は、あの世界では何の役にも立たなかった。
クラスから孤立するだけで、孤立すればするほど、自分を孤高の特別な存在だと思い込むしかなかった。
中学や高校の6年近い時間をただただ無駄にした。

だが、この世界は違う。
この世界は、中二病患者のために、いや違う、自分のためだけにある世界なのだ。

この世界に、わたしと兄のための国を作ろう。
神聖りさりさ皇国(仮)を。

リサはそう思った。

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