もしも、えっちなことをしてる途中で異世界転移しちゃったら。【異世界転移奇譚 NAYUTA 1~】

雨野 美哉(あめの みかな)

文字の大きさ
上 下
84 / 123
【第五部 異世界転移奇譚 NAYUTA 2 - アトランダム -(RENJI 5)】もしもしっくすないんしてる途中で異世界転移しちゃったら。

第84話

しおりを挟む
秋月リサは、エウロペ城のバルコニーにいた。

すでに日は沈んでおり、この場所から見渡せるという地平線の彼方は見えなかったが、聞いていた通り、夜空には月が三つ浮かんでおり、その形はひとつひとつが三日月、半月、満月と違っていた。
千古は三つの月のうちのひとつ、ラーガルに1800年も封印されていたそうだが、どれがその月なのだろうか。

そして、聞いていた通り、この世界の空気は伊勢神宮の森林やどんなパワースポットよりも澄んでいた。
エーテルが存在するからだろう。
そして、排気ガスなどの大気を汚す物質がないからだろう。

かつてこの世界は放射性物質のゴミ処理場にされており、放射性物質がエーテルにとりついたダークマターという負の魔素も存在したそうだが、今はそれももうない。

やっとこの世界にこれた。

リサは、澄んだ空気を思いっきり吸い込み吐き出した。
嬉しかった。涙が出るくらいに。
本当にこの世界に来れた。
兄がいるこの世界に。

やっと、わたしが本当にしたかったことができる。


「確か、ステラさんやピノアちゃんのお父さんは、人工的に産み出された魔人だったよね……」

魔人か……と、リサは呟いた。

彼女は、父や兄を尊敬していた。
そして、ずっとピノアに憧れていた。

でも、本当に自分にできるだろうか?

彼女がこれからしようとしていることは、父も兄も、そしてピノアも、この世界の誰もしたことがないことだった。

そして、とても危険なことだった。
失敗すれば、命を失うかもしれないことだった。

いや、出来なくてもいい。
死んでしまってもいい。
死ぬことを恐れて試すことをしなければ、必ずもとの世界に帰ったときに後悔する。
試してみなければ、何のためにこの世界に来たのかわからない。
それはこの世界でしかできない。
あの世界には何の未練もない。帰れなくてもいい。

かつて彼女が書き記し、兄の部屋の押し入れに封印したもののピノアが見つけてしまった秋月文書。
それはピノアや父、雨野家の人たちから聞いた話を元に、異世界を全く知らない彼女の観点から様々なことを夢想したものであった。

この世界に生まれた者は、この世界のことしか知らない。
しかし、この世界にとって異世界にあたる世界に生まれた父は、ふたつの世界を知っていた。
だから、この世界には誰も思いつきもしなかった技、魔法剣を産み出そうとした。
父はそれを実現できなかったが、兄がそれを実現させた。

父や兄は、リサから見てもすごい人だった。
存在することも知らなかった異世界に突然異転移し、右も左もわからない中で右往左往しながらも仲間と共に旅をし、何度も危険な目に合いながらも、この世界だけではなく自分たちが生まれた世界までをも救った。

だが、自分が異世界に転移したなら、きっともっとすごいことができる。
リサはずっとそう考えていた。
だから、異世界の話をたくさん聞いた。
忘れないようにメモしノートにまとめた。
自分がいつ異世界に転移してもいいように、あらゆる準備をした。

だが、大人になるにつれ、それは小説や漫画を読んだときに自分ならもっとおもしろいものが書けると思うような、何の実績もない自分を過大評価しているだけに過ぎないのではないか、と気づいた。
小説や漫画なら、実績は新人賞を取るとか連載するとか書籍化するといったことだ。
実際に書きはじめたら、自分の方が、と思っていた作品よりはるかに出来の悪いものができる。
そこでようやく自分には才能はないことや、仮にあったとしても相当の努力をしなければいけないのだとわかる。
週刊少年漫画雑誌に、一度だけ、3ヶ月だけ連載し、打ち切られ、二度とその作者の名前を見ることがないような漫画家も、自分よりはるかに才能があり、はるかに努力をした人なのだ。

芸人なら漫才やコントの大会で優勝するとか、決勝までいくとか、ネタ番組でブレイクするとかだ。
一発屋と呼ばれるような、リズムネタでブレイクしバラエティー番組を一周した後はその後全くテレビで見ることがないような芸人も、才能があり努力をしたからこそ、そこまでいけた。

そして、運もあったのだろう。

それに気づいたとき、異世界に行くことすらできない自分には、父や兄よりもすごいことなどできないとリサは理解した。
だから、中二病を卒業できた。

だが、完治はしなかった。
目の前に自分も異世界に行けるチャンスを突きつけられたとき、彼女はためらうことなくそれに乗ろうと思った。
そして、異世界に行くのは大人になってしまった今の自分ではなく、身体だけでもあの頃の自分が良いと思った。

あの頃の身体なら、きっとしたいと思っていたことができる、と。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

母娘丼W

Zu-Y
恋愛
 外資系木工メーカー、ドライアド・ジャパンに新入社員として入社した新卒の俺、ジョージは、入居した社宅の両隣に挨拶に行き、運命的な出会いを果たす。  左隣りには、金髪碧眼のジェニファーさんとアリスちゃん母娘、右隣には銀髪紅眼のニコルさんとプリシラちゃん母娘が住んでいた。  社宅ではぼさぼさ頭にすっぴんのスウェット姿で、休日は寝だめの日と豪語する残念ママのジェニファーさんとニコルさんは、会社ではスタイリッシュにびしっと決めてきびきび仕事をこなす会社の二枚看板エースだったのだ。  残業続きのママを支える健気で素直な天使のアリスちゃんとプリシラちゃんとの、ほのぼのとした交流から始まって、両母娘との親密度は鰻登りにどんどんと増して行く。  休日は残念ママ、平日は会社の二枚看板エースのジェニファーさんとニコルさんを秘かに狙いつつも、しっかり者の娘たちアリスちゃんとプリシラちゃんに懐かれ、慕われて、ついにはフィアンセ認定されてしまう。こんな楽しく充実した日々を過していた。  しかし子供はあっという間に育つもの。ママたちを狙っていたはずなのに、JS、JC、JKと、日々成長しながら、急激に子供から女性へと変貌して行く天使たちにも、いつしか心は奪われていた。  両母娘といい関係を築いていた日常を乱す奴らも現れる。  大学卒業直前に、俺よりハイスペックな男を見付けたと言って、あっさりと俺を振って去って行った元カノや、ママたちとの復縁を狙っている天使たちの父親が、ウザ絡みをして来て、日々の平穏な生活をかき乱す始末。  ママたちのどちらかを口説き落とすのか?天使たちのどちらかとくっつくのか?まさか、まさかの元カノと元サヤ…いやいや、それだけは絶対にないな。

処理中です...