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第26話 造化三神

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 この世界の名はテラという。
 ナユタやレンジが生まれ育った世界は、この世界ではリバーステラと呼ばれていた。

 ふたつの世界は、世界地図が鏡写しのように反転していた。

 エウロペはイタリアがある場所にあり、ランスはフランス、ペインはスペイン、ゲルマーニはドイツ、アストリアはオーストリアがある場所にあった。

 テラは、古代のリバーステラに外宇宙からもたらされた72個の「匣」と呼ばれる超小型大容量記憶端末を研究する「我々」という組織が産み出した、もうひとつの地球であった。

 無論、仮想空間などではない。

 匣には、それだけの力があったのだ。

 原初のテラは、「我々」にとって組織の裏切り者を閉じ込めるための牢獄に過ぎなかった。
 その後は、捨てる場所に困りはじめた放射性物質のゴミ処理場となった。

 原子力は、匣によってもたらされた技術であり、1900年代初頭にようやくリバーステラの科学技術はそれを実現させたが、どの匣にも放射性物質や放射能の浄化方法は記録されていなかった。

 だが、匣の持つ力によって産み出されたテラには、魔法が存在した。
 ゴミ処理場にした世界から、放射性物質の浄化方法を編み出す者が現れることを期待していたわけではなかった。
 現れればゴミ処理場にも価値があったということになり、現れなければただ捨て続けるだけだ。


 テラでは、リバーステラにも存在する「神が7日間かけて天地創造を行ったとされる年を元年とする」、「世界創造紀元」という暦が用いられている。

 テラの人の歴史は10回も大厄災によってリセットされているため、実際には数万年の差異が生じているが、現在は世界創造紀元7547年(リバーステラでは西暦2038年)となる。

 後に月の審神者となる迦具夜、千古、馬岐耳の三姉妹は、世界創造紀元5724年に生まれた。

 三姉妹は三つ子であり、邪馬台国の初代女王である天照卑弥呼(あまてらすのひみこ)と、その弟である須佐之男和多流(すさのおのわたる)の妹であった。

 邪馬台国は、卑弥呼が女王となるまでは男の王が治めていた。
 邪馬台国の民は元々は移民であり、その始祖は2000年前のアルビノの魔人アンフィス・バエナ・イポトリルと数人の弟子だったという。

「この世界のアンフィスは、確か第一次魔導大戦の後、わたしにも行方がわからなくなってたけど……ジパングに行ってたんだ……」

 ピノアは、自分が振っちゃったからかな、と思った。かなり落ち込んでたからなー、と。

「アンフィスって人は、ぼくやレンジさんの世界でいうキリストだよね?
 確かにキリストが日本に渡来した、日本人の始祖はユダヤ人だっていう説があるけど……
 レンジさんが読んだ偽史倭人伝ていうのは、あっちの世界で偽史とされているものが、こちらの世界では正史で、それがまとめられている書物なのかな……」

 ジパングには、山人(さんじん)と呼ばれる高い身体能力を持つ先住民族がおり、邪馬台国は山人との戦を繰り返していたそうだ。

「山人も、柳田クニオっていう昔の学者が、いたんじゃないかって言ってた存在だった気がする」

 卑弥呼は、高いシャーマンの力を持っていた。
 太陽の巫女と呼ばれ、そして世界の理を変える力を持っていた。
 卑弥呼はその力によって、山人をただの人に変えただけでなく、邪馬台国の民にし、戦を終わらせたという。

 邪馬台国の民はアンフィスやその弟子たちの子孫たちということになるが、卑弥呼にその力を与えたのは、神の子であったアンフィスの父であり、聖書における唯一無二の絶対神ハオジ・マワリーではなかったという。

 卑弥呼は生まれつきその力を持っていた。

 そして、彼女の前には、アメノミナカ、タカミムスヒ、カミムスヒと名乗る存在が現れたという。

「確か、日本神話の最初に登場する三柱の神だよ。造化三神って言ったかな。
 アマテラスは、神の国の最高神だったけど、重要なことを決めるときは、必ずアメノミナカに助言をもらって、そのとおりにしてたんだって」

「アメノミナカ……最後の二文字を変えたら、ミカナの名前になるね。
 それに、タカミも……」

「父さんから聞いたことがあるよ。
 ぼくは母さんの方のじいちゃんとばあちゃんしか知らないけど、横浜に今も住んでる父さんやミカナちゃんの方のじいちゃんばあちゃんは、日本神話なんて何にもしらない人だったのに、ふたりに神様の名前をつけたんだって。偶然にしては出来すぎてるって言ってた」

「ムスヒが結びを意味する言葉なら、お兄さんのムスブもそういうことになるよね。
 ナユタだけ仲間はずれだね」

 本当だ……とナユタは愕然とした。


 その三人は神でもなければ人でもなかった。男か女かもわからなかったという。

「そちらの世界のアマテラスという神は、こちらの世界の卑弥呼にあたるのであろう?
 卑弥呼もそうだった。得体の知れない存在の言いなりだった。
 和多流も、わたしたちも何度も止めた。
 でも、卑弥呼は完全に洗脳されていた」

 卑弥呼は、最初こそ戦のない秩序ある国政を行っていたが、ジパングを完全に支配した後は、元は山人であった民だけを異形の姿へと変え軍を組織し、東の半島を攻め、フギをも支配する計画を企てていたという。

 和多流は卑弥呼を最後まで見捨てなかったそうだ。
 だが、迦具夜、千古、馬岐耳の三姉妹もまた、世界の理を変える力を持っていたために、卑弥呼とは袂をわかつことにした。

 そして、卑弥呼と和多流を暗殺しようとしたが失敗し、ふたりに深手を負わせたものの、千古以外のふたりは月に封印されてしまったという。
 卑弥呼と和多流は、その傷が元でまもなく他界したが、アメノミナカたちはすぐに新しい太陽の巫女を用意した。

 二代目の女王・壱与は、卑弥呼とまったく同じ顔をしていたという。

「クローン人間かもしれないね」

「それって、ゲルマーニの、髪や爪から肉体の複製を作る医療魔法みたいなやつだよね」

 そして、和多流のそばには他卦留(たける)という和多流そっくりの弟がいたそうだ。

「ひとり残された私は、壱与によって月に封印された。
 フギが今も存在し、現在のジパングのふたりの女王がアメノミナカたちに洗脳されていないということは、壱与と他卦留は、卑弥呼の間違いに気づいたのだろう」

 だからなのだろうな、と千古は言った。

「私達、月の審神者は、アメノミナカたちによって封印を解かれた。
 そして、卑弥呼と同じように洗脳されていた。
 馬岐耳はすでにお前たちが消したようだし、私はこうして洗脳から逃れることができた。
 わたしがここにきたのは、お前たちに迦具夜とアメノミナカたちを止めてもらうためだ」


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