上 下
27 / 123

第27話 異世界からの転移者たち

しおりを挟む
 リバーステラ。

 西暦2038年1月7日午前7時20分。

 日本に、異世界から数万人の転移者が訪れた。

 転移者たちは皆、かつての魔法大国エウロペの民たちであり、その代表は女王ステラ・コスモス・ダハーカと、その王配レンジ・フガク・ダハーカである。

 レンジは、タカミやミカナ、ナユタの家や、ピノアが世話になっていたという自分の実家が、六大都市のひとつN市に隣接する八十三市(やとみし)にあったため、ピノアやイルルには転移先として市内にある海南こどもの国という大きな公園を指定していた。

「おっきなローラー滑り台とか、ゴーカートとかあるとこだよね? 使われなくなった消防車もあるよね。
 真依やミカナといっしょにナユタとそこでよく遊んだし、ついこないだナユタとそこで青姦したばっかりだから大丈夫!」

 最後の情報はいらなかったが、ピノアは自信たっぷり送りだしてくれた。
 青姦って何? とステラはやっぱり聞いてきた。教えると赤面していた。

 だが、そこはレンジが指定した場所ではなかった。

 空気がとても澄んだ森林だった。

「ここは……こどものときに父さんと母さんに連れてきてもらったことがある……」

 レンジはその光景を見たことがあった。昔ここに来たことがあった。

「不思議……エーテルではないけれど、エーテルによく似た何かの存在を感じるわ……」

 そこは、伊勢神宮とおかげ横丁の間にある森林だった。

 まだパワースポットという言葉がなかった時代から、学生時代の父と母はこの場所が好きで、年に数回訪れていたという。
 ふたりは毎回ではないものの何度かすれ違ううちに顔見知りになり、やがて挨拶や会話をするようになり、連絡先を交換して交際に発展したと聞いていた。

 この森林の先には、テラではジパングの初代女王や二代目の女王と同一の存在とされているアマテラスという神を祀る神社がある。

 レンジたちが17年前に破壊した匣のうちのひとつが奉納されていた場所でもあった。最もここには以前からレプリカが奉納されていただけなのだろう。

 この場所が大好きだった父は、リバーステラからテラへの最初の転移者であり、息子であるレンジは一万人目の転移者だった。

 邪馬台国があった場所とされる有力な説はふたつあり、九州説と近畿説だ。
 ここは三重県にあたるが、三重県は中部地方にも近畿地方にも属している。
 まさか、邪馬台国があったのはこの場所だということだろうか?
 仮にここに邪馬台国があったのだとしたら、その滅亡後に女王や民の血を引く者たちが集落をつくり、やがて村となったのが、隣県の三重寄りに位置する旧・海女郡返璧隣村だというのもうなづける。
 徒歩では何日かかるかわからないが、距離としてはおそらく120キロほどだった。決して歩けない距離ではない。

 邪馬台国の場所はともかく、ピノアが指定した場所ではなくこの場所に転移してしまったことや、匣、アマテラス、父、ステラが感じているエーテルではないがエーテルによく似た存在、そして自分、あまりにも、出来すぎなほど揃いすぎていた。

「伊勢神宮の伊勢は、異世界の異世だったということか……」

 レンジは、ピノアから手渡されたスマホで、父に電話をかけることにした。

 17年前に異世界へと転移したレンジの携帯は既に解約されており、ピノアが父や妹、タカミやミカナ、ショウゴの携帯電話の番号が登録されているから、と自分がつい昨日までこの世界で使っていたものを渡してくれていた。

「ピノアか? 今どこだ? ナユタもいっしょか?」

 ワンコールもしないうちに電話に出てくれた父の第一声は、ピノアのことを自分や妹のように、本当の娘のように思って、大切にしていたのがわかるものだった。

「父さん、ぼくだよ。レンジだよ」

「レンジ……? どうした? 一体何があったんだ?」

「ピノアとナユタくんは、テラにいる。あっちの世界のマヨリがふたりを呼んだんだ。
 話すと長くなるから、事情はあとでゆっくり話したいんだけど、ふたりのそばには、イルルとサタナハマアカがいるから大丈夫だよ」

 父は、そうか、とだけ言った。

「ぼくとステラとそれからサクラは、今伊勢神宮にいるんだ。迎えに来てほしいんだけど……」

「お前もやっぱり伊勢神宮に帰還してきたのか……」

 父も、帰還の際は、レンジたちが指定した八十三市内ではなく、この場所だったということだろう。おそらくは、共に帰還したショウゴもまた。


「わかった、すぐ車を出す」

 父はそう言ってくれたが、

「実はさ、エウロペに住む人たち全員と、こちらの世界に転移しなきゃいけなかったんだよね。
 三万人くらい乗れる車、ある?」

 父は、あるか、と言った。呆れたように。でも、とてもうれしそうに。

 タカミくんやミカナちゃんやショウゴくんと相談してまた連絡する、と言って父は電話を切った。


「少し時間はかかりそうだけど、父さんやタカミさんたちがなんとかしてくれるみたいだ」

 レンジはステラにそう言ったが、

「サクラがいないの……どこにもいない……」

 ステラは震えながらそう言い、レンジもまた愕然とした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔鬼祓いのグラディウス

紅灯空呼
ファンタジー
 魔の邪気が体に憑くことで狂ってしまう動物や人間――それが魔鬼だ。少年セブルは魔鬼を祓う特別な能力を身につけた数少ない勇士である。セブルは、願い巫女の血を受け継いだ少女リルカと八年ぶりに再会する。この春からセブルとリルカは一緒にブルセル村の学問所へ通うことになる。だがそこには、何と魔鬼らしき少女と女性が待ち構えていた。セブルはグラディウスを現出させて立ち向かう。しかし二匹を相手に苦戦を強いられ、ついには分身してケリをつけようとする。果たして勝てるか? リルカを守れるか? ――これは、自由と平等と博愛を謳うフランセ国の平和を背負った少年セブルと個性豊かな少女たちが織りなす勇気と希望と恋の物語である。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界にタワマンを! 奴隷少年の下剋上な国づくり ~宇宙最強娘と純真少年の奇想天外な挑戦~

月城 友麻
ファンタジー
 奴隷で過酷な労働を強いられていた少年は、ある日、天から降りてきた自称『宇宙最強』の青い髪の少女に助けられ、奴隷から解放されることとなった。  喜ぶ少年は、奴隷や貧困のない『自由の国』を作ろうと決心する。少年は不思議な力を持つ少女に助力を願ったが、少女は国づくりを手伝う代わりに、「失敗したら世界そのものを消去する」という条件を突きつけた。  少年は悩みながらも理想郷づくりに全てをかける決断をする――――。  襲われる王女を助け、王宮で大暴れする少女……。彼女は圧倒的すぎる戦闘力は持つものの、雑なのが玉にきず。少年はほんろうされながらも、理想を説いて『自由の国』創りの仲間を増やしていく。  絶世の美女である王女、厳ついウロコに覆われた巨大なドラゴンを引き連れ、国づくりの参考にしたのは日本だった。  渋谷のスクランブル交差点に降り立った一行、果たして国づくりは上手くいくのか?  奇想天外なファンタジーが、読む者を世界の深淵へと引き込んでいく問題作。

処理中です...