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第24話 恋に恋する、せっくすにせっくすする

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 翌朝、ナユタとピノア、サクラの3人は盛大に寝坊した。
 ナユタとサクラのせっくすが明け方まで続いたからだった。

 三人が起きたときには、すでに正午を過ぎており、女王の間に顔を出すと、イルルとサタナハマアカは三時間以上前から三人を待っていた。
 申し訳なかった。

 女王の間は、かつては前国王の謁見の間であり、部屋にはマキナによるからくりがいくつかあった。
 そのからくりのうちのひとつに、国政の中枢を担う大臣らが集められ、スイッチひとつで会議用の円卓と椅子が床の下から現れ、円卓の間となるものがあった。

 ステラやレンジ、ピノア、イルル、サタナハマアカたちはこの17年間、肩書きこそ違うものの同じ立場で意見を述べ合い、国政を決めてきた。

 イルルは、ピノアやナユタやサクラが相当に疲れているであろうことはわかっていたため、寝坊をしてもしかたがないと、サタナハマアカとすでに今後の方針についての大体のことを決めてはいた。

 が、まさかピノアがナユタだけでなく、サクラといっしょに三人で、ピノアの部屋からやってくるのは思いもよらなかった。


「ナユタ、どうしたんだい?
 昨日よりだいぶやつれているように見えるけど……」

 イルルはナユタにそう声をかけたが、ナユタは本当にげっそりしており、今にも倒れてしまいそうだった。
 隣にいたピノアがしょんぼりしており、サクラは逆にいつもより肌艶がよくイキイキしていたから、すべてを察した。

 ピノアのことだから、ナユタとせっくすしているときに、どうせサクラが部屋に入ってきてしまったのだろう。
 すでに快楽に溺れてしまっており、正常な思考ではなかったピノアは、サクラを誘い、三人でせっくすをしはじめたのだろう。
 そのあと、なにがどうなったかまではわからないが、ピノアはサクラにナユタを寝とられてしまったのだ。

 そして、明け方までふたりのせっくすが続き、ピノアはただそれを見ているしかなかった。
 きっとそんなところだろう。

 また三角関係になったのか、と思ったが、サクラはおそらくまだナユタに恋愛感情はない。
 恋に恋するではなく、せっくすにせっくすしてしまったのだ。

 だからまぁ心配はないだろう。
 だが、しょんぼりしているピノアを見るのは嫌だった。

 ステラやレンジは、慣れない国政をよくやってくれていた。
 だが、皆を支え、そして民を支えたのは、ピノアの笑顔だった。
 どんなときも彼女が明るく前向きにふるまってくれたから、皆が頑張れた。
 無論、ピノアが無理をしているのはわかっていた。
 だから、イルルはピノアのことをいつも気にかけてきた。
 尊敬していた。偉大だと思っていた。愛していた。
 だから、後でこっそりフォローをしておこう、と彼女は思った。


 とりあえずは、今後の方針を伝えるべきだろう。
 新しい情報もあった。
 決して良い知らせとは言えなかったが、世界各国が敵にまわるかもしれなかった昨日よりははるかによかった。


「ランスの国王、ジルニトラ・リムドブルムが昨日急死したそうだ。
 数日後に次期国王になる第一王子バラウール・リムドブルムが今朝新たな声明を発表した。
 国王ジルニトラは、数日前から何者かに取り憑かれていたらしい。
 王の間を人払いし、王妃やバラウール王子やその兄弟だけでなく大臣らも近づけさせなかったそうだ。
 王のそばには預言者を名乗る女がいたらしいが、その女は昨日の戦争の後、首や手足がバラバラになって崩れ、その体は人形だったそうだ。
 バラウールが王の間に駆けつけると、ジルニトラはすでに精神が破綻しており、そばには着物姿の少女がいたらしい」


「月の審神者かー」

 ピノアが、気のない返事をした。

「ステラも取り憑かれていたが、何もされなかった。
 もしかしたら、何かされていたのかもしれない可能性もあるけどね。
 少なくともランスの国王のように、性格が豹変し精神が破綻することはなかった。
 その月の審神者とおぼしき人物は、すでにランスを後にしたようだが、その際にバラウールに対し謝罪の言葉を口にしたそうだ」


 あまり期待できることではないが、月の審神者はすべてが血も涙もない存在ではないのかもしれない。
 彼女たちが、人であるのか魔人であるのか、人とは異なる別の存在なのかはわからない。
 仮に人であったのだとしたら、幼い外見からも、彼女たちが善悪の区別がまだつかない年頃に、正しく使わなければ世界を滅ぼしかねない力を手にしてしまった可能性があった。

 そして、ジルニトラに取り憑いた月の審神者は、民を愛し戦を好まなかった彼に取り憑いただけでなく、彼を利用し精神までをも破綻させたことに対し謝罪の言葉を口にした。
 無論、その場限りの言葉だけの謝罪であったかもしれない。
 だがもし、彼女にそれまではなかった後悔や自責の念といったものが産まれていたのだとしたら、その彼女だけは敵ではなくなるのかもしれない。

 イルルは、自分らしくない楽観的すぎる考えだなと苦笑した。

「それから、ジパングのふたりの女王の暗殺の命を受けたのは、竜騎士団長である聖竜騎士ニーズヘッグ・ファフニールと、彼の兄たちでもある四人の部隊長らしい」

 ピノアがニーズヘッグの名前に反応した。

「それって、前の世界のニーズヘッグじゃなくて、竜騎士がいない世界に産まれたニーズヘッグだよね?
 前の世界で恋人だったアルマは、この世界でアストリアの王家に嫁いじゃってたけど……
 ニーズヘッグはこの世界では竜騎士にならずにすんで、大好きな読書や演劇をいっぱい楽しんで生きることできたはずだったのに……」

「そのアルマのことだけど、アストリアに嫁いでいないらしい。
 世界の理を変える力で、竜騎士と戦乙女が存在する世界になってしまったために歴史が変わり、彼女はペインの第三王女のままだった。
 ジパングにいた戦乙女のひとりはアルマだった。
 ニーズヘッグたちと同様に行方不明になったそうだよ」

「全部メチャクチャだね……
 わたしたち、これからどうしたらいいんだろう……」

 ピノアの顔が本当に暗かった。

 ナユタはその手を握ろうとしたが、さっと手を下げられてしまった。

 自分はピノアを裏切った。
 心配いらないよ、と言って、お姫様だっこまでしたくせに、彼女の目の前でサクラを抱いてしまった。

 だから、嫌われてもしかたがないと思った。
 だから、ピノアと、ピノアが生まれ育った世界のためにできることをしようと思った。

 それで許してもらおうなんて思っているわけではない。
 他には自分ができることが何もないだけだ。


「まずは月の審神者を倒すこと。
 それから、ぼくに与えられた力で世界を元に戻せばいい。
 そして、ステラさんやレンジさんたちと入れ替わりに、ぼくが元いた世界に帰る。
 そのときに、ぼくがこの世界に来たことをなかったことにすれば、サクラちゃんは力に目覚めなかったことになる。
 ピノアちゃんが今感じてるいろんな気持ちも全部なくなる」


 あとは、ぼくひとりでぜんぶなんとかする。


 ナユタはそう言った。
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