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第158話 意地
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ミロア・レトスノムにとってのガンマ・ドープアントは、嘗ては恋い慕う婚約者だったのは間違いない。ただ、それはミロアがガンマに盲目的な思いを抱いた気の迷いにすぎない……と、今のミロアはそう解釈している。
(今は違う。今は、この王子には嫌悪感しかない。っていうか婚約してから破棄するまでいい思い出が何一つない。前世を思い出さなければ本当に気付けなかった。だからこそ言ってやるわ! 全部!)
今のミロアにとってはガンマなど自分に群がる害虫に過ぎない。それを言葉にして伝えることにした。女の意地にかけて。
「ガンマ殿下。そうやってすぐに癇癪を起こす癖、昔から変わらないのは進歩がない証拠ですわ」
「進歩がないだと!?」
「どのように進歩がないかと言うと全てですね。性格が子供のままでちっとも大人にならないし、勉強しないから頭も悪く、最低限の稽古もさぼるため身体能力まで一般男子以下。本当に大きな子供と言われても仕方がないでしょうね」
「お、大きな子供……!?」
「いえ、間違えました。子供以下の青年です」
「こ、ここここ子供以下!?」
子供以下、そこまで言われてガンマは顔を真っ赤にするが、ミロアの言葉はまだ続く。
「子供以下でしょう。王族だからといって目上の者・年上の者・敬意を示すべき者にたいしても上から目線な態度を取るなどあってはいけないというのに、今でもそれを理解しない。自分以外の人をご自身の都合のいいように考えて接するため、目下の者を道具か何かのように扱う。国のお金の尊さを理解しないから金遣いが荒い。更には、」
「うるさ―――い!」
ミロアの言葉を遮って、ガンマは怒りを込めて怒鳴った。これ以上ミロアの話を聞きたくないし、ミロアにも言いたいことが山ほどあったのだ。
「ふっざけんなよミロア! お前は公爵令嬢にすぎないのに王子であるこの僕にそんなことを言い出すとは何様のつもりだ! 悪口ばっかり言いやがって! お前なんかが……お前こそ僕に言われなきゃいけないことがたくさんあるんだぞ! そこんとこ分かってんのか!?」
「……と、言いますと?」
「お前が僕の婚約者になってから、僕は散々な毎日だったんだぞ! 子供の頃から楽しくない遊びに呼ばれたり、不味い手料理を食わされたり、無理やり一緒に勉強させられて成績の差を見せつけられたり! 辛くて苦しくて悔しい日々だったんだぞ!」
「言ってくだされば……」
「言えるか! 僕にも男の意地があるんだ!」
「!」
男の意地。そんな言葉がガンマの口から出たことにミロアは驚いた。ミロアの印象だが、男の意地などガンマにあるとは思えなかったのだ。
「驚きました。殿下にも意地があったのですね」
「当たり前だ! 馬鹿にすんな! 僕にだって勝手に婚約を決める親に縋らないくらいの意地はあるんだよ!」
「……」
(そんなことに意地を張ってただけなわけか……)
ミロアは呆れて思った。くだらない意地だと。
(今は違う。今は、この王子には嫌悪感しかない。っていうか婚約してから破棄するまでいい思い出が何一つない。前世を思い出さなければ本当に気付けなかった。だからこそ言ってやるわ! 全部!)
今のミロアにとってはガンマなど自分に群がる害虫に過ぎない。それを言葉にして伝えることにした。女の意地にかけて。
「ガンマ殿下。そうやってすぐに癇癪を起こす癖、昔から変わらないのは進歩がない証拠ですわ」
「進歩がないだと!?」
「どのように進歩がないかと言うと全てですね。性格が子供のままでちっとも大人にならないし、勉強しないから頭も悪く、最低限の稽古もさぼるため身体能力まで一般男子以下。本当に大きな子供と言われても仕方がないでしょうね」
「お、大きな子供……!?」
「いえ、間違えました。子供以下の青年です」
「こ、ここここ子供以下!?」
子供以下、そこまで言われてガンマは顔を真っ赤にするが、ミロアの言葉はまだ続く。
「子供以下でしょう。王族だからといって目上の者・年上の者・敬意を示すべき者にたいしても上から目線な態度を取るなどあってはいけないというのに、今でもそれを理解しない。自分以外の人をご自身の都合のいいように考えて接するため、目下の者を道具か何かのように扱う。国のお金の尊さを理解しないから金遣いが荒い。更には、」
「うるさ―――い!」
ミロアの言葉を遮って、ガンマは怒りを込めて怒鳴った。これ以上ミロアの話を聞きたくないし、ミロアにも言いたいことが山ほどあったのだ。
「ふっざけんなよミロア! お前は公爵令嬢にすぎないのに王子であるこの僕にそんなことを言い出すとは何様のつもりだ! 悪口ばっかり言いやがって! お前なんかが……お前こそ僕に言われなきゃいけないことがたくさんあるんだぞ! そこんとこ分かってんのか!?」
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「驚きました。殿下にも意地があったのですね」
「当たり前だ! 馬鹿にすんな! 僕にだって勝手に婚約を決める親に縋らないくらいの意地はあるんだよ!」
「……」
(そんなことに意地を張ってただけなわけか……)
ミロアは呆れて思った。くだらない意地だと。
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