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第159話 気持ち悪い

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更にこの辺りで、さっきまで黙っていたローイが遂に口を開きだした。信じられないようなものを見るような目で


「……ほ、本当に……貴女が、ミロア様……ミロア・レトスノム様なのですか……?」

「……はい、私はミロア・レトスノムです」

(なんか異様な雰囲気ね……今にも襲いかかりそうな感じ……まるでアイドルに狂信的なストーカーを見ている気分だわ。ローイ・ミュド……迂闊に刺激するようなことを言わないほうがいいかしらね)


ミロアが前世の知識を交えながら印象づけた通り、今のローイは精神面でおかしくなっていた。整った顔立ちが青ざめて、目を大きく見開いて、体全身で震えながら、指をさしてミロアに問いかけた。


「ミロア様……そのお姿は……どうされてしまったのですか……?」

「髪型を変えて、化粧と服装を慎ましくしただけです。今のほうが私に似合うと高評価です」

「そんなバカな……ミロア様は……以前のお姿のほうが美しかった!」


ローイは叫んだ。ミロアに向かって、己の思いをその場でぶつけてきた。


「以前のミロア様は本当に美しかった! 血のように赤く妖艶な長い髪に派手派手しくて月のように輝く化粧と服装のセンス! 男の目を集中させざるを得ない美貌とスタイル! そして、愛する男に向ける過激な愛情表現と行動力! それらこそがミロアの全てだったはずなんだ! そんなミロア様のことを僕はお慕いしてきたんだ! 何としてでも僕だけのものにしたいと、馬鹿で愚かでクズな王子の側近の立場にいた頃から!」

「……」


ミロアは、過去の自分がよく言われていると分かっているが素直に喜べない。むしろ気持ち悪くなってきた。過去の自分のことはすでに黒歴史であり、それ以上に口にしているローイもろくでもないのだから。


(……なんか嫌だわ)

「ミロア様の御髪! その毛先をだけでも触りたく、僕はいつも抜け毛だけでも探して見つけるたびにとっておいたんだ! それほどの価値のある御髪を何故ミロア様は短く切ってしまわれたんです!? それにその慎ましい姿も何なんですか!? そんな化粧と服装ではミロア様の美しさを引き出せないじゃないか! この手で触れたいと思うようなお肌にふさわしい化粧と男の情欲を引き立てるようなスタイルをも隠す服のセンスを無くしてしまわれたというのですか!?」

「「「「「…………」」」」」


ローイの思いを込めたありったけの叫び。とても学園での姿とは思えないようなその異様な姿に、ミロアもついてきた家臣たちも、元騎士団長も、男爵も、味方のはずのガンマすらも同じことを思った。


(((((何だこいつ……気持ち悪い……)))))


誰もが気持ち悪いと思うしかなかった。


(ぼ、僕は、こんな奴のそばにいたというのか……)


ローイの異常性に改めて気づいたガンマは顔を青ざめた。元とは言え、側近だった男の本性に恐怖したのだ。


(こいつ……いやもう何も考えたくないわ……)


ローイの想い人であるミロア本人は今にも吐きそうだった。粘質な思いだと分かってはいたが想像以上だ。
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