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第51話 智謀
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深い廻天の狂気の痕残る空、流星雨と羽虫に覆われた破壊と再生を繰り返しながら、世界は本来は存在しないはずの時間に到達しようと蠕動していた。
その空の下に人影は二つあり、亀裂が入った大地から烈風を伴って持ち上がる土塊を見上げて標榜していた。
「――これが因果の果て、ね」
「ああ、本来であればこの先の時間があったはずの地球が、完全に“意志”を失って膠着している。雪星――いや、これが成熟した“宇宙からの色”が非物質の持つエネルギーでさえも吸い上げている光景だよ。こんな大きな力に扱える生物はいない……普通ならね」
一所に集まった大地や海の欠片は、うねる湾曲した火花を放ちながら飛び散っては混ざり、時折弾ける青紫色のチェレンコフ光の瞬きだけが人類の知る色といっても良かった。
「本来なら宇宙からの色は生命力を他の生き物の肉体を構成している栄養素などを吸い上げて育つはずだが、成熟しきった個体が産卵を行う前はより高エネルギーなものを食しようとする傾向にあるのだろう。物質、非物質の境界さえも浸食し――いや、ひょっとすると彼らにとってはただ肉体を好んで食しているだけなのかもしれないが」
成熟しきり星の大きさとほぼ同等か、それ以上となった彼らにとっても本来は『地球の意志の捕食』など大それた所業は不可能であるはずだった。しかし、ある要因が重なったことがそれを可能にしていることを一木は理解していた。
「――見ているのだろう……カリナ。お前も」
何度も断続的に訪れる雪星の襲来、それによって幾度となく地上に産み落とされた小さな色の種子達がゆっくりと星を蝕み続けたのだ。そして、ゆっくりと地球とその生命達は“意志”を失っていった。
「非物質の持つ精神を吸いあげる――なるほど、だからこそこれほどの力が」
「更にカリナはもう直にもう一度雪星を襲来させるだろう。それが最後だ」
「これが終わりではないの?」
十分に滅びきった世界の残影は、これ以上に破壊の余すところはないように思える。地球は自転をやめ、生き物のほぼ全体は意志を失い生命は本来の殻を失って、翼とゴム質の肌を持つ新しい“何か”に変貌を始めようとしている。変貌に耐えられなかった者の残酷な遺体が風に流れて地面へ激突しては不揃いな骨がむき出しになった翼を痙攣させている。積み重なった死体はまるで大きな鳥の巣のようだ。その中に絶望の皇が舞い降りる為の巣というように。
一つの星の終焉には相応しい絶望であろう。けれど一木はこれで終わりではないという。
「今は何者も動けない状態に等しいんだ。意志が限りなく0に近付いているわけだからね。だが、これまでのヤツの傾向を見れば、おそらく――このまま意志の領域をマイナス値にまで引き下げるつもりだ。そうすれば、記憶を元に動作するだけの生命を造り出すことが出来る」
「……なるほど、世界だって終わっちゃうわけだわ。秘策は?」
もどるは髪をかき上げて、しゃなりと聞いてみせた。
「ある」
その空の下に人影は二つあり、亀裂が入った大地から烈風を伴って持ち上がる土塊を見上げて標榜していた。
「――これが因果の果て、ね」
「ああ、本来であればこの先の時間があったはずの地球が、完全に“意志”を失って膠着している。雪星――いや、これが成熟した“宇宙からの色”が非物質の持つエネルギーでさえも吸い上げている光景だよ。こんな大きな力に扱える生物はいない……普通ならね」
一所に集まった大地や海の欠片は、うねる湾曲した火花を放ちながら飛び散っては混ざり、時折弾ける青紫色のチェレンコフ光の瞬きだけが人類の知る色といっても良かった。
「本来なら宇宙からの色は生命力を他の生き物の肉体を構成している栄養素などを吸い上げて育つはずだが、成熟しきった個体が産卵を行う前はより高エネルギーなものを食しようとする傾向にあるのだろう。物質、非物質の境界さえも浸食し――いや、ひょっとすると彼らにとってはただ肉体を好んで食しているだけなのかもしれないが」
成熟しきり星の大きさとほぼ同等か、それ以上となった彼らにとっても本来は『地球の意志の捕食』など大それた所業は不可能であるはずだった。しかし、ある要因が重なったことがそれを可能にしていることを一木は理解していた。
「――見ているのだろう……カリナ。お前も」
何度も断続的に訪れる雪星の襲来、それによって幾度となく地上に産み落とされた小さな色の種子達がゆっくりと星を蝕み続けたのだ。そして、ゆっくりと地球とその生命達は“意志”を失っていった。
「非物質の持つ精神を吸いあげる――なるほど、だからこそこれほどの力が」
「更にカリナはもう直にもう一度雪星を襲来させるだろう。それが最後だ」
「これが終わりではないの?」
十分に滅びきった世界の残影は、これ以上に破壊の余すところはないように思える。地球は自転をやめ、生き物のほぼ全体は意志を失い生命は本来の殻を失って、翼とゴム質の肌を持つ新しい“何か”に変貌を始めようとしている。変貌に耐えられなかった者の残酷な遺体が風に流れて地面へ激突しては不揃いな骨がむき出しになった翼を痙攣させている。積み重なった死体はまるで大きな鳥の巣のようだ。その中に絶望の皇が舞い降りる為の巣というように。
一つの星の終焉には相応しい絶望であろう。けれど一木はこれで終わりではないという。
「今は何者も動けない状態に等しいんだ。意志が限りなく0に近付いているわけだからね。だが、これまでのヤツの傾向を見れば、おそらく――このまま意志の領域をマイナス値にまで引き下げるつもりだ。そうすれば、記憶を元に動作するだけの生命を造り出すことが出来る」
「……なるほど、世界だって終わっちゃうわけだわ。秘策は?」
もどるは髪をかき上げて、しゃなりと聞いてみせた。
「ある」
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