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自分に出来ることと、不穏な影

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「多分、向こうが気付いたら絶対に美桜に接触してきたはずだ。だけど、会った後に接触して来ないということはまだ美桜のことには気づいていないし、ここで働いているというのは知られていないと思う」

「うん」

「だから、美桜は昼の外食は極力控えるだけで、あとは今まで通り過ごせばいい」

落ち着かせるように優しくポンポンと背中を叩く。
テツの言葉はいつも私を安心させてくれる。

そうだよね、まだバレたわけではない。

「万が一、あいつにここで美桜が働いているって知られても心配しなくていい。社長には腕のいい弁護士もついているし、海里の知り合いが警察官だという話を聞いたことがあるからな。この二人に相談すればどうにかなる」

「そうなの?」

「ああ」

弁護士に警察官、それは頼りになるかもしれない。
社長も私の事情を知ってくれているみたいだから、何かあったら相談できるのは心強い。
いつもテツに助けられていて、感謝しかない。

テツは抱きしめていた腕を緩め、コツンと額を合わせてきた。

「美桜は変に意識せず普通に生活すればいい。何かあったらすぐ俺に言ってくれ。俺が美桜を守るから」

テツは真っ直ぐに私を見つめて言葉を紡ぐので、不謹慎にもキュンとしてしまった。
テツは何度も私のことを守ると言ってくれるので、その言葉だけで安心できる。

最近、テツがさらにかっこよく見えて仕方ない。
顔はもちろんイケメンなんだけど、言動もすべてが私のツボをつくようなことを言ってくれる。
テツはモテる要素しかない気がする。

「うん。ありがとう」

私がお礼を言うと、テツは不服そうな顔をしていた。
何でだろうと思ったら、とんでもないことを言い出した。

「お礼ならキスでいいよ」

「は?バカなこと言わないでよ。こんなところで出来る訳がないでしょ」

テツの胸を押して距離を取った。
はずだったのに、顎を掴まれ上を向かされると、テツの顔が近づきチュッと音を鳴らしキスをしてきた。

「仕方ないからこれで我慢しとく」

ニヤリと笑いながら、親指で私の唇をなぞった。

「だ、誰かに見られたらどうするのよ」

私は真っ赤になりながらドアに視線を向けた。
まさか、本当にキスをしてくるとは思ってなかったので焦る。

「別に俺はどうもしない。なんなら見せつけてやりたいけどな」

そんなことを言われ、私の頭の中はテツでいっぱいになっていた。
斉藤さんのことを忘れるぐらいに。

「じ、準備が終わったから私は行くね」

テツに翻弄されっぱなしの私は、真っ赤に染まった顔を元に戻して会議室を後にした。
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