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6 それぞれの異世界転移(2)
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【高梨家の場合】
高梨舞は、高校生くらいの少女だった。
高い位置で結んだポニーテールから、活発そうな印象を受ける。
もしかしたら、柚乃と同学年かもしれないな。
制服は違えど、彼女の姿に娘が重なり、思わず泣きそうになる。
「私はきょうだいを失いました。二つ下の、双子の弟と妹のふたりです。」
彼女がいうには、家の玄関の扉を開くと、いきなり異世界につながったらしい。
まずは扉をあけた弟が異世界へ吸い込まれ、そのまま妹も吸い込もうとした。
彼女はとっさに妹の手をつかみ、連れ去られまいと玄関わきに手すりを握りしめた。
しかし扉の吸い込む力は強く、妹の身体は徐々に扉の向こうへ引き寄せられていった。
やがて妹の身体がすべて扉の向こう側へいったとき、強い光とともに扉の向こう側の世界も彼女のきょうだいも消え去ったという。
「呆然としていた私は、妹を掴んでいた腕の熱さで我に戻りました。そして腕を見ると…肘から先がなくなっていたんです。」
カチャリ、と音を鳴らし、彼女は自分の右腕を外してみせた。
義手だったとは、気づいていなかった。
「おそらく私の手は、あの扉の向こう側にあったのだと思います。だから、扉が消えるときに私の腕ももっていかれてしまった。そう考えると納得できます。」
でも、と彼女は言葉を詰まらせた。
「私の場合、みなさんとは異世界転移による影響が異なります。みなさんの家族は、世間にも失踪したとみなされていますが、私の弟と妹は、存在すらしていなかったことになったんです…!」
「存在すら…?」
「父も母も、我が家は一人っ子だというんです。二人の友だちも、学校の先生も、そんな子たちはいないって!持ち物や写真さえ、何もかもなくなってしまいました……。私の怪我は、玄関ドアが勢いよくしまったときに挟まってしまったことが原因だと判断されました。私の腕も見つかっていないのに…‥誰も疑問すら持ちません…。」
大粒の涙をポロポロ流しながら、懸命に語り続ける姿が痛々しい。
大事な家族を、最初からいなかったものとされるなんて……どれほどつらく、苦しい思いをしてきたことか。
「弟と妹を取り戻したい…!また3人でくだらない話をして、のんびり過ごしたい!……私の望みは、ただそれだけです。」
※
「つらい話を、みなさんありがとうございます。瀬野さん、ほかのメンバーについては、またおいおい。それぞれの事情があるので、勝手に話をするわけにはいかず、申し訳ないです。」
「いえ、ありがとうございます…。」
パン、と佐々木が手を叩き、「さあ、ここからは情報共有です。みなさん、新しい情報は手に入りましたか?」と訊ねる。
もともとこの場は、それぞれが集めた情報を共有するためのものらしい。
「まずは俺からなんですが、新たな被害者家族である瀬野さんとの出会いがありましたが、ほかに収穫はありませんんでした。」
残念そうに話す佐々木に続き、大和や川西夫妻も首を横に振った。
そんな中、舞が「眉唾ものの話なんですけど…。」と口を開く。
「私の先輩の知り合いに、”異世界から戻ってきた”って話している人がいるらしくて…。もしも本当なら、異世界転移の当事者に話を聞けるかもしれません。先輩に取り持ってもらって、今度会うことになっています。」
異世界転移からの帰還者。
そんな人がいるなら、多くの情報を得られるかもしれない。
それなのに、メンバーは一様に暗い表情のままだ。
「今回は本物だといいんだけどな。」
力なく大和が呟く。
どうやら今までに「帰還者」を名乗る偽物が現れたことがあったらしい。
「できれば、どなたかについてきてもらいたくて……。私だけじゃ、ちゃんと話を聞いてもらえないかもしれないから……。」
「あいだを取り持ってくれる先輩は?」
「頼んだらついてきてくれるかもしれないけど、先輩は異世界転移を信じてくれていなくて。今回紹介してくれるのも、私の目を覚まさせようとしているからみたいです。」
約束の日付は、火曜日の夕方17時。
「今日会ったばかりで頼りないかもしれないけど……。」
控え気味に手を挙げる。
正直、直接話を聞ける可能性があるなら、多少無理を言ってでも同行したい。
「お仕事とかは…?」
佐々木が尋ねる。
「今は娘の捜索のために休暇をとっています。」
「なるほど。……俺もその日は仕事を早上がりするから、3人で行きましょう。舞も、それでいい?」
緊張した顔をしていた舞は表情を緩ませ、小さく頷いた。
どうやら彼女は、佐々木のことをずいぶん信頼しているらしい。
俺たちとは違い、きょうだいの存在すら周囲に信じてもらえない状況に苦しんでいるからこそ、佐々木の作ったこの会の存在が彼女の心の大きな支えになっているのかもしれない。
「では、瀬野さんと舞はまた火曜日に。ほかの皆さんには、後日詳細をお伝えします。」
帰還者が本物である可能性は、おそらく低いだろう。
それでも、一縷の望みをかけずにはいられなかった。
高梨舞は、高校生くらいの少女だった。
高い位置で結んだポニーテールから、活発そうな印象を受ける。
もしかしたら、柚乃と同学年かもしれないな。
制服は違えど、彼女の姿に娘が重なり、思わず泣きそうになる。
「私はきょうだいを失いました。二つ下の、双子の弟と妹のふたりです。」
彼女がいうには、家の玄関の扉を開くと、いきなり異世界につながったらしい。
まずは扉をあけた弟が異世界へ吸い込まれ、そのまま妹も吸い込もうとした。
彼女はとっさに妹の手をつかみ、連れ去られまいと玄関わきに手すりを握りしめた。
しかし扉の吸い込む力は強く、妹の身体は徐々に扉の向こうへ引き寄せられていった。
やがて妹の身体がすべて扉の向こう側へいったとき、強い光とともに扉の向こう側の世界も彼女のきょうだいも消え去ったという。
「呆然としていた私は、妹を掴んでいた腕の熱さで我に戻りました。そして腕を見ると…肘から先がなくなっていたんです。」
カチャリ、と音を鳴らし、彼女は自分の右腕を外してみせた。
義手だったとは、気づいていなかった。
「おそらく私の手は、あの扉の向こう側にあったのだと思います。だから、扉が消えるときに私の腕ももっていかれてしまった。そう考えると納得できます。」
でも、と彼女は言葉を詰まらせた。
「私の場合、みなさんとは異世界転移による影響が異なります。みなさんの家族は、世間にも失踪したとみなされていますが、私の弟と妹は、存在すらしていなかったことになったんです…!」
「存在すら…?」
「父も母も、我が家は一人っ子だというんです。二人の友だちも、学校の先生も、そんな子たちはいないって!持ち物や写真さえ、何もかもなくなってしまいました……。私の怪我は、玄関ドアが勢いよくしまったときに挟まってしまったことが原因だと判断されました。私の腕も見つかっていないのに…‥誰も疑問すら持ちません…。」
大粒の涙をポロポロ流しながら、懸命に語り続ける姿が痛々しい。
大事な家族を、最初からいなかったものとされるなんて……どれほどつらく、苦しい思いをしてきたことか。
「弟と妹を取り戻したい…!また3人でくだらない話をして、のんびり過ごしたい!……私の望みは、ただそれだけです。」
※
「つらい話を、みなさんありがとうございます。瀬野さん、ほかのメンバーについては、またおいおい。それぞれの事情があるので、勝手に話をするわけにはいかず、申し訳ないです。」
「いえ、ありがとうございます…。」
パン、と佐々木が手を叩き、「さあ、ここからは情報共有です。みなさん、新しい情報は手に入りましたか?」と訊ねる。
もともとこの場は、それぞれが集めた情報を共有するためのものらしい。
「まずは俺からなんですが、新たな被害者家族である瀬野さんとの出会いがありましたが、ほかに収穫はありませんんでした。」
残念そうに話す佐々木に続き、大和や川西夫妻も首を横に振った。
そんな中、舞が「眉唾ものの話なんですけど…。」と口を開く。
「私の先輩の知り合いに、”異世界から戻ってきた”って話している人がいるらしくて…。もしも本当なら、異世界転移の当事者に話を聞けるかもしれません。先輩に取り持ってもらって、今度会うことになっています。」
異世界転移からの帰還者。
そんな人がいるなら、多くの情報を得られるかもしれない。
それなのに、メンバーは一様に暗い表情のままだ。
「今回は本物だといいんだけどな。」
力なく大和が呟く。
どうやら今までに「帰還者」を名乗る偽物が現れたことがあったらしい。
「できれば、どなたかについてきてもらいたくて……。私だけじゃ、ちゃんと話を聞いてもらえないかもしれないから……。」
「あいだを取り持ってくれる先輩は?」
「頼んだらついてきてくれるかもしれないけど、先輩は異世界転移を信じてくれていなくて。今回紹介してくれるのも、私の目を覚まさせようとしているからみたいです。」
約束の日付は、火曜日の夕方17時。
「今日会ったばかりで頼りないかもしれないけど……。」
控え気味に手を挙げる。
正直、直接話を聞ける可能性があるなら、多少無理を言ってでも同行したい。
「お仕事とかは…?」
佐々木が尋ねる。
「今は娘の捜索のために休暇をとっています。」
「なるほど。……俺もその日は仕事を早上がりするから、3人で行きましょう。舞も、それでいい?」
緊張した顔をしていた舞は表情を緩ませ、小さく頷いた。
どうやら彼女は、佐々木のことをずいぶん信頼しているらしい。
俺たちとは違い、きょうだいの存在すら周囲に信じてもらえない状況に苦しんでいるからこそ、佐々木の作ったこの会の存在が彼女の心の大きな支えになっているのかもしれない。
「では、瀬野さんと舞はまた火曜日に。ほかの皆さんには、後日詳細をお伝えします。」
帰還者が本物である可能性は、おそらく低いだろう。
それでも、一縷の望みをかけずにはいられなかった。
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