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淫内感染

白衣に隠された素顔

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 あれだけ咲き乱れていた桜散る季節
 男だらけのルームシェアは1か月ほど経過。

 日中は暑くて半袖で過ごすことも多くなると、日焼けで健康的な肌色に見惚れる。
 腹は白いよ?黒いよりいいだろ。

 「晃汰早く、アイス溶けるって」

 コンビニの日陰で野良猫と戯れるベビーフェイスの晃汰は「またね」サドルを跨ぐと地面を蹴ってタイヤが勢いをつけた。後部座席の俺はカーブで重心を傾け、坂道では降りて立ち漕ぎを押してサポート。
 下り坂で2ケツして風を切る
 午後1時、棒アイスをかじりながら自転車から飛び降りる。

 ここは行列のできる院外薬局。

 白衣の照真輝てるまあきらは眼鏡を指で上げながら患者を捌く。
 腕時計の針はとっくに約束の時間を過ぎている、この分だと昼休憩は何時になるかわからない。日陰に残してきた晃汰に視線を送るとアイスの棒を振って見せていた。
 当たったのか?運のいい男だ。
 ネクタイを緩めた薬剤師は眼鏡を取るといつもの厳しい瞳を光らせて隷属れいぞくの姿を取り戻し、木陰で待つ俺達の前に先の細い革靴の先を向ける。

 「久しぶり。あれから変わりない?」
 「…ああ、そっちは見た通りか」

 会釈する晃汰は気まずそうに視線を反らし、拭きあがり地面を叩く噴水の音が雰囲気を洗い流す。

 「今月のノルマだ。一本も落とすなよ」
 「24時間拘束の勤務体制。あれ、何とかならない?予約制にしてくれ」
 「本指返すようになってから言え」

 手厳しいお言葉で。
 受け取った封筒の中には顧客リストの名簿。データ化しないのは重要な個人情報の為、毎度手渡しで夜に打ち合わせ、個人情報を頭に入れたら返却する。客の予約状況はスケジュールとしてデータが送られてくるが、まだ個室は貰えないので客が待つホテルや自宅に伺う出張デリバリースタイル。

 言葉もなく背を向ける青輝丸の足元に小さな子供がぶつかる。
 膝を折って子供の安否を確認をすると、駆け寄る母親に笑顔で渡す。何度も頭を下げる親子に手を振りながら日常に戻っていく姿は立派な好青年だが、業界では「折檻アドバイザー」として恐れられているネクロマンサーで俺の兄師えし青輝丸あおきまる


 折檻とは肉体を懲らしめ、厳しく換言かんげんする事。


 青輝丸の行動計画プランニング通りに行うと本能的な苦痛と煩悩が刺激され絶大な心理効果が得られる事から、相手は絶対服従すると定評。本人が手掛ければ殺してしまうので余程の事情を青嵐が認めない限り実働は無いと聞くが…実際のところは知りたくもない。

 「何回見ても綺麗だね、あの人」
 「外面だけは、な…晃汰ああいうタイプ好き?」
 「あはは。ご飯食べて帰ろう」

 はぐらかされた。まぁ、いっか。
 晃汰とは休みの日しか会えない。
 穏やかな性格が作り出す雰囲気が堪らなく心地良い。丁寧な気遣いには理屈があって、自分が嫌な思いをしない為の善処らしい。
 そうか、言われてみれば俺は生きていくのが精一杯で考えたこともなかった。
 もっと早くこの言葉を理解できていれば悔しい思いをすることもなかったし、衝動的な反抗も留めて、名の通りに吉を変える事が出来たのか…確かめる術はない。
 見習うべきところはたくさんあって、もっと一緒に居たい。
 でも、夢中になるのが躊躇われる。
 晃汰を体で繋ぎ止める卑劣さから目を反らし、自分を庇うのは…


 別れても、寂しくないように。


 シャワーを浴びて部屋を出る俺は、夜風に解き放たれ久遠くおんを泳ぐ。
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