『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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エルフの森の姉妹

485:招かれた先で

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 シアリスの後をついていき、およそ一週間の旅を終えてついにケイノアの故郷であるエルフ達の森に入った俺たちだが……

「おいケイノア。これはどう言うことだ?」

 俺はアイマスクをして口を開けながら呑気に寝ているケイノアに寝ているケイノアに、今の異常について聞くためにアイマスクを捲って尋ねる。

「ほ? ……何が?」

 が、ケイノア本人は今の俺たちが感じている異常事態に気がついていない様で、不思議そうに首を傾げている。

「周りを囲まれています」
「………………え!?」
「反応が遅えよ」

 いつも通り御者席にいるイリンからの言葉を聞いて、たっぷり数秒間固まってから視線を外へと向けたケイノアは驚いた様に俺へと振り向いた。

「……で、みた感じエルフばかりなんだが、何か知ってるか?」

 軽く探知を広げてみた感じでは、周囲にいるのは魔物の類ではなくエルフだったのでこの森の警護などではないかと思っているのだが、実際のところがどうだか分からない。エルフにも野盗の類がいるかもしれないからな。

 それに、何だか妙に殺気立っているというか、攻撃的な雰囲気を感じる。
 一応ケイノアがいるのだからすぐに襲いかかってくるってことはないだろうけど、警戒はしておくべき、だよな。

「んー? んー……」

 だから事情を知ってそうなケイノアに尋ねたのだが、ケイノアは呻き声を上げながら首を傾げているだけだ。

 だが、そうしているうちに何かを思いついたのか、ハッと窓の外を見るとそのまま窓から顔を出して……

「ねー! シアリスー! 何でこんなに人が多いのー?」

 大声で前を進むシアリスにそう尋ねた。

「……ばか」
「あなたは何をしているんですか……」

 が、返ってきたのはシアリスからの返事などではなかった。

 ケイノアが叫んでシアリスに尋ねると同時に、周囲に隠れていたエルフ達がその姿を現し、俺たちの道を塞いだのだ。

「え?」

 突然自分たちの馬車を囲まれる様に現れたエルフに訳が分からないでいるケイノアは、その状況と俺たちの言葉に不思議そうな声を出したが、この状況は当然だ。

「隠れて囲っていたのに、それに気づかれたら警戒するに決まってんだろ」

 隠れてたってことは、見つかりたくなかった、そして見つからない自信があったということだ。
 それが俺たちを観察するためだったのか、それともこれから何かするつもりだったのかわからないが、それでも見つかりたくはなかったはずだ。

 それなのに、大声ですでに見つかっていることをバラされたらどうするか。そんなの、隠れるのは意味がないと判断して次の行動に移るに決まっている。

「で、それはまあいいとして……どう言うことだ?」

 とはいえ、このまま進んでいたとしてもそのうち今と同じ様な状況にはなっていただろう。ただの監視であれば、これほど多くの者をこの場所に集めたりはしないだろうからな。

 だがそうなるとやはり、どうしてここにこんなにエルフが集まっているのか、というのが気になってくる。
 まさかシアリスが俺たちを嵌めるためにここまで連れてきたとは思えないし、ケイノアが俺たちを嵌めたというのも考えられない。だってケイノアだし。

 なので、もう一度ケイノアに尋ねたのだが、ケイノアは思い切り首を横に振っているだけだった。

「し、知らないわよ! 私だって今着いたばかりなんだから、知るわけないじゃない!」
「普段からこんなに配置してるわけじゃないよな?」
「ええ。巡回はいたはずだけど、一箇所にこんなに留まり続けることはないし、こんな数でもないわ。それに、巡回の範囲はもう少し奥に入ってからのはずよ」
「野盗の可能性は?」
「ないわね。この森の中でそんなことがあったら入った瞬間に潰されるわ」

 つまりこれは俺たちのために用意された特別仕様ってことか。ま、予想していたことではあるけど。

「……歓迎されないだろうなとは思ってたが、まさかここまでとは思ってなかったぞ」

 シアリスが俺たちをここに連れてきた状況や俺たちを見るユーリアの態度、後はグラティースからの前情報なんかを知っていれば、歓迎されるとは思っていなかった。

 だが、それでもいきなりこんな状況になるとも思っていなかった。一応こっちには『姫様』なんて呼ばれてる奴が乗っているわけだし……

「姫様。シアリス様。お待ちしておりました」

 そう思っていると、そんなふうに声がかけられ、俺たちは窓から外を覗いた。
 すると、前方のシアリスが乗っている馬車の隣に一人のエルフの女性が立っていた。
 シアリスと共にケイノアの回収に来たユーリアだ。

「ちょっとユーリア! これどう言うことよ! 何で武器なんて向けられんの!?」

 ケイノアは叫び、怒りを前面に押し出しながら乱暴に馬車の扉をあけて外に出て行った。

「申し訳ありません。ですがこれはあなたに向けられたものではなく、そちらの人間達へと向けたものです」
「そんなのはどっちでもいいわ! 何で武器を向けてんのかって聞いてんのよ!」

 ケイノアが姿を出してもなお、俺たちを囲んでいるエルフ達はそれぞれが構えている武器を下ろそうとはしない。
 むしろ、傷つけてはいけない対象であるケイノアが降りたからか、馬車の中に残っている俺たちへと向けられる悪意が強まった様にすら感じる。

「ご存知の通り、先日人間が起こした騒ぎの影響がこの森においても出ております。そのせいで森に入り込んだ人間は全て処理することになっているのです。いかに姫様の知り合いといえど、見逃すことはできません」

 ……ユーリアの言うことにも一理あるとは思う。

 人間が事件を起こして自分たちの長や仲間が危険な状態になったのなら、森に入ってくる人間を全て排除しようと考えてもおかしくはないのだ。

 まあ、その考えが本当なら、だけど。
 どうにも目の前で話しているユーリアの言葉には嘘くさいものがあるのだ。嘘は言っていないけど、本当のことも言っていない、みたいな。

「ふざけないでよ! こいつらは私が無理言ってついてきてもらったの。それなのにこの扱いだって言うんなら、私にも考えがあるわよ」

 そんなユーリアの言葉に対して、ケイノアはそんなことはどうでもいいと自分の考えを下げようとはしない。

「ですがこれは氏族長の決定で──」
「うるさい! 寝てなさい!」

 ケイノアがそう叫ぶと、突然ケイノアを中心に全方位に広範囲の魔術が放たれた。
 何かが体を通り抜ける感覚とともに、くらっと意識が揺れる感覚がした。さっきのケイノアの言葉から考えると、あいつの生来魔術である眠りの魔術を使ったんだろうな。

 それを証明する様に、俺たちを囲っているエルフ達の半分近くはその場で崩れ落ちたし、まだ姿を現していなかったエルフ達が潜んでいた茂みや木の上からもドサドサと何かが落ちたり倒れたりする音が聞こえる。
 ……木から落ちたやつはちょっとやばくないか? いや俺関係ないからいいんだけどさ。

「……流石ですね。眠りには対策をしていたはずですが、半分以上がやられましたか」

 ケイノアの魔術を顔をしかめるだけで堪えたユーリアは、そんな周囲の様子を視線だけで一瞥して感嘆の息を漏らした。

 俺たちは対策用の魔術具を持っていたから少しだけで終わったが、どうやらユーリア達も、完璧だとはいえなかったが対策はしていた様だ。

「チッ! ……まだやる気? 次は全力でやるわよ?」

 全員倒すつもりだったのだろう。だが思った以上に残ったことで、ケイノアは周りを見回して舌打ちをしてから次の魔術の準備を始めた。

「いえ、館までお連れしましょう」

 が、その様子を見たからか、ユーリアは先ほどとは打って変わって俺たちへの敵意を潜めると、首を振ってそう答えた。

「……随分とあっさり認めるのね」
「氏族長からも言われておりますので。もし姫様が暴れる様ならば連れてこい、と」

 元々ケイノアが暴れる言葉織り込み済みだった様で、ケイノアが抵抗せずに俺たちの様な部外者を消せれば良し。消せなくとも最初から受け入れる準備はしていた、とそう言うことらしい。

「あのバカ親父! ガツンと言ってやるんだから!」

 ケイノアは憤りをあらわにして両手を振り回しながら叫んでいる。

「ほら、いくわよ! あんた達ついてきなさい!」

 ケイノアは振り返り俺たちにそう言って歩き出したが、馬車には乗らなくていいんだろうか? 確か、まだ距離がある、みたいなことを言ってたと思うんだが……。

 まあ、そのうち疲れたら乗るだろう。

 そうして俺たちは再び進み出したシアリスの馬車を追って、ケイノア達の親でありこの地を納めている氏族長のいる場所へと進んでいった。



「──で、たどり着いたのがここか」

 俺たちは現在、薄暗い石に囲まれた部屋にいる。
 四方の壁の一面だけが鉄格子になっていることから考えると、ここはどうやら牢屋の様だ。

「え? あれ? 今確か建物の中にいたはずなのに……」
「ここも一応建物の中と言えなくもない様ですけどね」

 混乱している環と落ち着いているイリンがそんなふうに話しているが、環の混乱も無理はない。
 何せ俺たちは、先ほどまでは環の言った様に建物──こんな牢屋とは違うまともな建物にいたのだ。

「おそらくは転移魔術でしょう。自身が使ったことはありませんが、先ほどの感覚と今の状況から考えると、それが可能性としては高いです。まさか、一瞬にして眠らされて運ばれたとも思えませんから」
「だな。もしそうなら全員が同時に起きるってのもおかしい。ズレがあるはずだし、意識にタイムラグもあるはずだ。多分トラップの一種だろうな」

 俺たちはユーリア達に先導されて、途中で歩き疲れたケイノアを拾いつつも氏族長のいる館──ケイノアとシアリスの実家へと辿り着いた。

 そこで何だか色々挨拶を受けてうんざりした様子のケイノアを先頭にして俺たちは館の中へと入って行ったのだが、足元から魔力を感じたと思ったら何かが体の内をかき乱す様な感覚に襲われ、突如視界が切り替わった。

 そして気がつけばここ、と言うわけだ。

 まあ嵌められたわけだな。発動するまで察知させることもなく、発動しても対処する間も無く転移させられたのは素直にすごいと思う。
 何となく違和感は感じていたのだが、それは館中にしかけられた魔術のせいだと思っていた。次からはもう少し警戒しよう。

「どうして二人はそんなに落ち着いてられるのよ」

 だが、そんなふうに冷静に状況確認をしている俺たちに、慌てた様子の環が問いかけてきた。しかし……

「どうしてと言われても……なあ?」
「はい。出ようと思えばいつでも出られるので。あなたもこの程度なら危険などないでしょう?」

 そう。俺たちはその気になればいつでも出られるのだ。
 これがもし『いしのなかにいる』と言う様に壁の中に転移されたら俺だって必死になって対処した。
 俺は収納を使えば壁の中だろうが地面の下だろうが関係ないけど、イリンと環はそうはいかないからな。
 だからその場合は、手当たり次第に収納してこの辺りを更地にしたことだろう。

 だが、今はそうではない。この場所の影響か何となく不快感は感じるけど、それだけだ。
 感覚的にスキルは使えるのが分かるし、いざとなったら建物を収納して強引に出ていけばいい。流石に牢屋全体が生き物ということもないだろうから、それくらいなら余裕だ。

「……言われてみればそうね。牢屋ってことで焦ったけど、魔力は……使いずらい? でも一応使えるし……スキルも使えそうね」

 俺の言葉で環も状況を理解したのか、それまでの混乱を消して手元に小さな灯りを生み出した。

「出ようと思えば出られる、ねえ。お前ら、甘く見過ぎだろ」

 環が灯りを生み出したことで薄暗かった牢屋は明るくなり、今までよりもはっきりと今いる場所の確認をすることができた。まあ、いる場所は牢屋だとわかっただけだが。

「と言うわけで、この後の動きとしてはこのまま待つか脱出するかだけど、捕まえたってことは殺さないと思うんだが、どう思う?」
「え?」
「そうですね。殺す気ならば転移させた直後に罠を起動させて殺しにかかるでしょうし、何なら水や毒で埋め尽くされた部屋に転移させてしまえばいいだけですから。それがないと言うことは、利用価値があると判断されたか、拷問するか、もしくは他の何かしら生かす理由があると言うことでしょう」

 ……うん。殺され方や拷問については考えてなかったけど、殺されないだろうって考えは合ってる様だ。

「その牢の中で魔術が使えるのは大したもんだが、それでもそんなしょぼい火しか作れねえみたいだし……」

 それにしても、生かす理由か……情報がなさすぎてわからないな。

「……あなた、わりと恐ろしいことをさらっと思いつくわよね」
「そうでしょうか? 罠とは単独では意味がないのですからその後を考えるのは普通では?」

 環は少しだけ混乱した様子を見せながらも、一瞬の逡巡の後、若干引き気味にイリンへと先ほどの意見への感想を述べた。
 そんな環の言葉にイリンは何でもない様に答えているが、普通ではないと思う。言わないけど。

「聞けよ!」

 そうして現状について話し合っていると、牢屋の外。鉄格子を挟んで向こう側から男性の怒鳴り声が聞こえた。
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