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エルフの森の姉妹
483:嫌なんだけど?
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「はあ……シアリス。とりあえず、ケイノアは置いてけ」
ユーリアに抱き抱えられたままのケイノアへと視線を向けてそう言い放つ。
そんな俺の言葉にユーリアはムッとした様に俺を睨み付けるが、ケイノアを抱えているからか、それともシアリスがいるからか、それ以上の行動を起こそうとはしない。
そしてシアリスはその無感情な瞳で俺を見つめたが、しばらくしてから口を開いた。
「……これは我々の問題です。あなたに口を出す権利があるとで──」
「ここは俺の家で、お前らは不法侵入者だ」
だがそんな言葉を遮って俺はそう切り捨てる。
「俺はケイノアの在宅を認めはしたし、その妹であるお前を招き入れたりもした。が、今回は招いていないし、そっちのユーリアに関しては紹介さえされずに勝手に連れ込まれた状態だ。──帰れ」
「……ええ。お姉さまをお連れして帰ります」
「いいや。そいつは置いてけって言ったろ。そいつはまだ俺と契約中だ。俺が旅の最中はこの家を守るってな。それはお前も知ってるはずだが?」
「ですがあなたの旅は終わり、この家に戻ってきた」
「俺たちは一時的に寄り道をしただけだ。現に、ケイノアとの契約の解除は行なっていない。これは冒険者ギルドを通しての依頼だから、ここで無理やり破らせれば契約違反だ」
依頼人の都合で解除されたならまだしも、受け手の都合で依頼を解除することはできないし、ましてや依頼に関わっていない部外者が口出しして解除できることでもない。
それを無理にやらせようとすれば、そいつはギルドからのお尋ね者として扱われることになる。
「エルフは、人間との約束は一方的に破っても構わないと思うような野蛮で品のない種族なのか? だとしたらそのことを知り合い全員に伝えないといけないんだがな」
知り合いと言ってもそう多いいわけじゃないが、それでも質ならばそれなりだと思っている。何せ王様が知り合いにいるし。
そんな俺の言葉はユーリアにはだいぶ効いたようだ。
あいつは最初姿を見せた時は感情を表に出さない様な使用人然とした顔をしていたが、今ではその感情を隠そうともしない高慢さが表に出ていた。
まあ、元々他者を……エルフ以外限定かもしれないが見下す様な目をしてたし、猫を被ってられる時間も短いんだろうな。
だが、シアリスの表情は全く見えてこない。
「わかりました。お姉さまを置いて引き下がるとします。……今日のところは」
「シアリス様!?」
「大丈夫です。ここで引いたとしても、お姉さまは帰りますよ。……ですよね?」
何を言っているんだとばかりに叫ぶユーリアだが、シアリスはそんな彼女をなだめる。
が、その言葉は視線とともに俺にも向けられていた。
「いやよ!」
その言葉が自分に向けられていると勘違いしたケイノアはそう叫んで暴れているが、だがそれはお前にかけられた言葉ではなく、俺への言葉だ。
だから俺は頷く。今回の件は、いくらここで断っていたところで終わる問題ではない。
近いうちにケイノアを故郷に連れて行って根本から終わらせないとならないのだ。そしてケイノアにいなくなってもらっては困る俺は、それに関わらなくてはならない。
「ではアンドーさん。一週間待ちますので、気が向きましたら私の店へ来てください」
シアリスはそれだけ言って歩き出し、玄関のドアに手をかけた。
だが、そこでピタリと動きを止めると、顔だけをゆっくりとこちらに向けて肩越しに俺と視線があった。
「お姉さまを、よろしくお願いします」
シアリスが最後にそう言うと再び視線を正面へと戻して外へと出ていった。
そんなシアリスの姿を見ていたユーリアは渋々と言った様子でケイノアを下ろし、最後に俺を睨みつけてからシアリスの後を追う様に歩き出して行った。
「あんた、なかなかかっこいいわね。やるじゃない。見直したわ!」
そんな二人の後ろ姿を見ていると、体を伸ばしてほぐしていたケイノアが腰に手を当ててそう言ってきた。
「それはどうもありがとう。だがお前と結婚はしないぞ」
俺がそう言うと、シアリス達が出て行った玄関からイリンと環が入ってきた。
「そうですね。どうしてもというなら、少しお話ししましょうか」
あ……忘れてた。
シアリスの変わり様や、ケイノアの言った勇者の洗脳解除のことについて考えすぎたせいですっかり忘れていたが、そういえばケイノアの結婚宣言をイリン達が聞いてたんだった。
……あれ? でも、環はいいとしても、イリンはキッチンにいたんじゃなかったっけ? なんで玄関から?
「え? イ、イリンッ!? いたの!?」
「ええ、キッチンにいたのですから、聞こえないはずがないでしょう?」
だよな。確かにキッチンにいたよな。空間移動……は無理だし……窓から出たのか? でもなんで?
「私も混ぜてもらっていいかしら? ああ、ちなみに私は庭にいたわよ? 窓が開いてたからよく聞こえたわ」
「タマキッ!?」
イリンだけではなく環もいることに今気がついたのか、ケイノアはこれ以上ないくらいに驚き、震えている。
「ち、違うの! あれはそんな気はなくてっ! 言葉の綾っていうかその場の流れっていうか……わかるでしょ!?」
そして二人の顔へ何度も交互に視線を動かしてから、慌てて弁明をした。
「言いたいことはわかるけど……」
「可能性はしっかり把握しておかなければなりませんから」
が、それでも二人は取り合う気は無いようで、一歩ずつケイノアに近づいている。
「ちょっ、あんたもわかってんでしょ!? 助けなさいよ!」
ケイノアはそう言いながら二人に背を向けて這々の体で俺の元へと縋り付く。
……一応、洗脳の解除には協力してもらうんだし、機嫌を損ねすぎない様に庇っておくか。
「……あー、イリン」
「はい」
「……お前キッチンにいたはずなのに、なんで玄関から来たんだ?」
と思ったのだが、口から出てきたのはそんな言葉だった。
自分を庇う言葉とは全く関係ない言葉が俺の口から出たことで、ケイノアは「ちょっとおおお!?」なんて叫んでいるが、これは仕方がないんだ。
すまん、ケイノア。あの二人を見たらお前を庇うなんてできなかった。
「確かにキッチンにいたのですが、お客様が来られた様なのでお茶を出そうと準備をしていたところ、何やら不穏な様子でしたので様子を伺っておりました」
あ、来ないと思ったらやっぱり様子を伺っていたのか。
「おかえりになられる様でしたので、最後に少しばかり挨拶をと思いまして、少しはしたないのですが、窓から回り込みました」
窓から、の辺りで少し恥ずかしそうにしているが、それ以上に挨拶の内容が気になる。
音や魔力は感じられなかったから交戦はしていないで、言葉だけで終わったんだと思うが、だが言葉通りの単なる挨拶ではなかっただろうな。
「さ、そろそろ行きましょうか」
「い、いや。いやよ!」
環の言葉にケイノアはそう叫んで首を横に振っているが……まあ二人も本気ではないだろう。
以前の様な粘つく様な感情は感じられなかったし、なんというか、癖とか決まった流れの様なものだと思う。
だからそんなに心配することはないだろう。
「アアアアァァァ~~~!」
……多分。
それにしても、シアリスかぁ……。
以前から高圧的というか貴族の様な命令口調になる時はあったし、実際に偉い家柄なのは知っていたが、随分とめんどくさい状況にあるみたいだな。
あの目。ほとんどは感情の見えてこない人形の様な目だったが、ほんのわずかな時間だけだが時折、感情が見え隠れしていた。
あの瞳には色々混ざった様な感じだったが、その中でも一番強く感じたものは──嫉妬。
それが誰に向けられたものなのかと言ったら……。
「ケイノア、だよなぁ……」
普段は中の良い姉妹。世話焼きなしっかり者の妹に見えたが、その実、姉のことを妬み嫉んでいた。そしてもしかしたら恨んでさえも。
でも……本当に悪感情を抱いている奴があんなに優しく笑いかけるだろうか? シアリスは確かにケイノアと心から笑っている様に見えた。確かに恨んでいたのかもしれないが、あの笑顔が嘘だとは、俺には思えない。
それに最後に見せたあの表情。シアリスはこの家から出て行く時に、お姉さまをよろしくと言っていたが、あの時の表情には嫉妬や恨みではなく別の感情が宿っていた様に思える。
なら一体。彼女は何を思って行動し、何を思ってあんなことを言ったのだろうか?
……ダメだな。こればっかりはいくら考えたところで意味がない。直接本人に聞かないと。
「はぁ……。まためんどくさい何かに関わることになるのか」
だが今回も逃げ出すわけにはいかない。ケイノアを手伝って問題を解決し、洗脳されている海斗くんと桜ちゃんの二人を助けないといけないんだから。
ああそうだ。どうせエルフの森だか里だかに行くんだったら、ついでに地球に戻る方法も調べておくか。洗脳を解除したら、あの子達を日本に戻してやりたいし。
「ひどい目にあったわ……。あの子達、なんだか余計に深くなってない?」
しばらくリビングで考え事していると、ケイノアが心底疲れたと言わんばかりに思い足取りで戻ってきて、勢いよく倒れ込む様にソファへと座った。
深くとはまた変わった表現だな。まあ、言いたいことはわかるけど。
「あれでも一時に比べれば落ち着いたんだけどな。まあ、重く感じる時もないわけじゃないけど、あれはあれで味があるっていうか、嫌いじゃないな」
俺も本質的には似た様なもんだし。嫉妬が大罪の一つに数えられてる理由がわかるよ。
「あれで味があるだなんて、濃い味すぎて胃もたれしそうね」
そう言いながらソファに寝転がったケイノアは、うあ~なんて声を出しながらダラけモードに入ったが、ちょうど目の前にいるわけだし、こいつの考えを聞いてみよう。
「……なあ。お前はシアリスのことをどう思ってる?」
「え? ……うーん、そうねぇ……」
ケイノアは一瞬目を瞬かせて戸惑った様に返事をしたが、直後、今まで見せたことのない様な悲しげな顔を見せた。
そんな様子に驚き、俺はぎゅっと目を瞑ってから再びケイノアの顔を見たのだが、そこには悲しみなどかけらもない様ないつもの能天気な顔があったが……今のは見間違いだったんだろうか?
「大事な妹よ!」
……見間違いであったとしても、そうでなかったとしても、どっちでも良いか。
「なら、あいつが悲しんでたら助けたいか?」
「ええ、もちろん」
俺の問いに一瞬すら考えることもなくすぐにそう言って頷いたケイノア。そこには確かな妹への愛情が感じられた。
「なら、助けてやらないとな」
「ケイノアの件でエルフの森に行きたいと思っているんだが、二人はどう思う?」
色々考えた結果、やはり俺はケイノアの故郷であるエルフの森に行ってゴタゴタをどうにかすることにした。
完全に解決……とまではいかないだろう。だがそれでも、最低限ケイノアが連れ戻されない様にしなくては俺の目的は果たせない。
それに、なんとなくこの姉妹を放っておけなかった。
とはいえ、そうしたいのは俺の考えだ。イリンと環の二人がどう思うかは別で、もしかしたら行きたくないっていうかもしれない。
その時は何か方法を考えなければならないんだけど、まずは聞かないと……
そう思って二人に問いかけたのだが、イリンと環はお互いに顔を見合わせてから少し困った様な表情をした。……なんだ?
「……あの、アキト様。私たちを慮ってくださるのは嬉しいですし、相談していこうという姿勢も、素直に嬉しいです。けれど……」
「……そうね。もう少し自由にっていうか、もっと自分についてこい、って感じで言ってくれても良いよ? いえ、そう言ってほしいわ。優しいことは良いことだけど、だからって優しいだけじゃダメなの」
イリンと環は俺を諭す様に静かにそう言ったが、俺はその言葉に困惑する。
「え……だが……」
以前は独りよがりな考えで、そのせいでイリンが悲しみ、傷ついてしまった。
だから俺はこういう大きなことをする時は二人に相談してからと思って行動する様に心掛けてきた。
だというのに……それも間違っていたのか?
「私が原因だということは理解しているのであまり強くいうことはできないのですが……それでも、今の状態はなんとなく違う様な気がするのです」
「女ってめんどくさい生き物なのよ? 無理やりっていうのは嫌だけど、それも場合によりけり。多少強引に引っ張ってくれる方が、嬉しいものなの」
イリンは落ち込んだ様な様子で、環は変わらず困った様な顔で笑いながらそう言った。
「それに、あなたはあなたがやりたいことをやっている時が、一番かっこいいですから」
やりたいこと、か……なら俺は……。
「それで? さっきは何を話してたんだったかしら?」
そんな風にかけられた環の言葉に俺は深呼吸をすると、イリンと環の顔を順番に見てから口を開いた。
「……俺はケイノアを連れてエルフの森に行くが、二人とも……ついてきてくれ」
俺がそう言うと、イリンと環は今度こそ笑顔で頷いた。
「はい──」
「ええ──」
「「喜んで」」
これで二人の了承は得られたし、これであとは実際にエルフの森に行ってみるだけだな。
「え……私、行きたくないんだけど……?」
だが、そんな良い感じの雰囲気になったところで隣の馬鹿が何か言った。
……こいつは何言ってやがんだ。
「お前のためにいこうとしてんだ! 空気読めよ!」
ユーリアに抱き抱えられたままのケイノアへと視線を向けてそう言い放つ。
そんな俺の言葉にユーリアはムッとした様に俺を睨み付けるが、ケイノアを抱えているからか、それともシアリスがいるからか、それ以上の行動を起こそうとはしない。
そしてシアリスはその無感情な瞳で俺を見つめたが、しばらくしてから口を開いた。
「……これは我々の問題です。あなたに口を出す権利があるとで──」
「ここは俺の家で、お前らは不法侵入者だ」
だがそんな言葉を遮って俺はそう切り捨てる。
「俺はケイノアの在宅を認めはしたし、その妹であるお前を招き入れたりもした。が、今回は招いていないし、そっちのユーリアに関しては紹介さえされずに勝手に連れ込まれた状態だ。──帰れ」
「……ええ。お姉さまをお連れして帰ります」
「いいや。そいつは置いてけって言ったろ。そいつはまだ俺と契約中だ。俺が旅の最中はこの家を守るってな。それはお前も知ってるはずだが?」
「ですがあなたの旅は終わり、この家に戻ってきた」
「俺たちは一時的に寄り道をしただけだ。現に、ケイノアとの契約の解除は行なっていない。これは冒険者ギルドを通しての依頼だから、ここで無理やり破らせれば契約違反だ」
依頼人の都合で解除されたならまだしも、受け手の都合で依頼を解除することはできないし、ましてや依頼に関わっていない部外者が口出しして解除できることでもない。
それを無理にやらせようとすれば、そいつはギルドからのお尋ね者として扱われることになる。
「エルフは、人間との約束は一方的に破っても構わないと思うような野蛮で品のない種族なのか? だとしたらそのことを知り合い全員に伝えないといけないんだがな」
知り合いと言ってもそう多いいわけじゃないが、それでも質ならばそれなりだと思っている。何せ王様が知り合いにいるし。
そんな俺の言葉はユーリアにはだいぶ効いたようだ。
あいつは最初姿を見せた時は感情を表に出さない様な使用人然とした顔をしていたが、今ではその感情を隠そうともしない高慢さが表に出ていた。
まあ、元々他者を……エルフ以外限定かもしれないが見下す様な目をしてたし、猫を被ってられる時間も短いんだろうな。
だが、シアリスの表情は全く見えてこない。
「わかりました。お姉さまを置いて引き下がるとします。……今日のところは」
「シアリス様!?」
「大丈夫です。ここで引いたとしても、お姉さまは帰りますよ。……ですよね?」
何を言っているんだとばかりに叫ぶユーリアだが、シアリスはそんな彼女をなだめる。
が、その言葉は視線とともに俺にも向けられていた。
「いやよ!」
その言葉が自分に向けられていると勘違いしたケイノアはそう叫んで暴れているが、だがそれはお前にかけられた言葉ではなく、俺への言葉だ。
だから俺は頷く。今回の件は、いくらここで断っていたところで終わる問題ではない。
近いうちにケイノアを故郷に連れて行って根本から終わらせないとならないのだ。そしてケイノアにいなくなってもらっては困る俺は、それに関わらなくてはならない。
「ではアンドーさん。一週間待ちますので、気が向きましたら私の店へ来てください」
シアリスはそれだけ言って歩き出し、玄関のドアに手をかけた。
だが、そこでピタリと動きを止めると、顔だけをゆっくりとこちらに向けて肩越しに俺と視線があった。
「お姉さまを、よろしくお願いします」
シアリスが最後にそう言うと再び視線を正面へと戻して外へと出ていった。
そんなシアリスの姿を見ていたユーリアは渋々と言った様子でケイノアを下ろし、最後に俺を睨みつけてからシアリスの後を追う様に歩き出して行った。
「あんた、なかなかかっこいいわね。やるじゃない。見直したわ!」
そんな二人の後ろ姿を見ていると、体を伸ばしてほぐしていたケイノアが腰に手を当ててそう言ってきた。
「それはどうもありがとう。だがお前と結婚はしないぞ」
俺がそう言うと、シアリス達が出て行った玄関からイリンと環が入ってきた。
「そうですね。どうしてもというなら、少しお話ししましょうか」
あ……忘れてた。
シアリスの変わり様や、ケイノアの言った勇者の洗脳解除のことについて考えすぎたせいですっかり忘れていたが、そういえばケイノアの結婚宣言をイリン達が聞いてたんだった。
……あれ? でも、環はいいとしても、イリンはキッチンにいたんじゃなかったっけ? なんで玄関から?
「え? イ、イリンッ!? いたの!?」
「ええ、キッチンにいたのですから、聞こえないはずがないでしょう?」
だよな。確かにキッチンにいたよな。空間移動……は無理だし……窓から出たのか? でもなんで?
「私も混ぜてもらっていいかしら? ああ、ちなみに私は庭にいたわよ? 窓が開いてたからよく聞こえたわ」
「タマキッ!?」
イリンだけではなく環もいることに今気がついたのか、ケイノアはこれ以上ないくらいに驚き、震えている。
「ち、違うの! あれはそんな気はなくてっ! 言葉の綾っていうかその場の流れっていうか……わかるでしょ!?」
そして二人の顔へ何度も交互に視線を動かしてから、慌てて弁明をした。
「言いたいことはわかるけど……」
「可能性はしっかり把握しておかなければなりませんから」
が、それでも二人は取り合う気は無いようで、一歩ずつケイノアに近づいている。
「ちょっ、あんたもわかってんでしょ!? 助けなさいよ!」
ケイノアはそう言いながら二人に背を向けて這々の体で俺の元へと縋り付く。
……一応、洗脳の解除には協力してもらうんだし、機嫌を損ねすぎない様に庇っておくか。
「……あー、イリン」
「はい」
「……お前キッチンにいたはずなのに、なんで玄関から来たんだ?」
と思ったのだが、口から出てきたのはそんな言葉だった。
自分を庇う言葉とは全く関係ない言葉が俺の口から出たことで、ケイノアは「ちょっとおおお!?」なんて叫んでいるが、これは仕方がないんだ。
すまん、ケイノア。あの二人を見たらお前を庇うなんてできなかった。
「確かにキッチンにいたのですが、お客様が来られた様なのでお茶を出そうと準備をしていたところ、何やら不穏な様子でしたので様子を伺っておりました」
あ、来ないと思ったらやっぱり様子を伺っていたのか。
「おかえりになられる様でしたので、最後に少しばかり挨拶をと思いまして、少しはしたないのですが、窓から回り込みました」
窓から、の辺りで少し恥ずかしそうにしているが、それ以上に挨拶の内容が気になる。
音や魔力は感じられなかったから交戦はしていないで、言葉だけで終わったんだと思うが、だが言葉通りの単なる挨拶ではなかっただろうな。
「さ、そろそろ行きましょうか」
「い、いや。いやよ!」
環の言葉にケイノアはそう叫んで首を横に振っているが……まあ二人も本気ではないだろう。
以前の様な粘つく様な感情は感じられなかったし、なんというか、癖とか決まった流れの様なものだと思う。
だからそんなに心配することはないだろう。
「アアアアァァァ~~~!」
……多分。
それにしても、シアリスかぁ……。
以前から高圧的というか貴族の様な命令口調になる時はあったし、実際に偉い家柄なのは知っていたが、随分とめんどくさい状況にあるみたいだな。
あの目。ほとんどは感情の見えてこない人形の様な目だったが、ほんのわずかな時間だけだが時折、感情が見え隠れしていた。
あの瞳には色々混ざった様な感じだったが、その中でも一番強く感じたものは──嫉妬。
それが誰に向けられたものなのかと言ったら……。
「ケイノア、だよなぁ……」
普段は中の良い姉妹。世話焼きなしっかり者の妹に見えたが、その実、姉のことを妬み嫉んでいた。そしてもしかしたら恨んでさえも。
でも……本当に悪感情を抱いている奴があんなに優しく笑いかけるだろうか? シアリスは確かにケイノアと心から笑っている様に見えた。確かに恨んでいたのかもしれないが、あの笑顔が嘘だとは、俺には思えない。
それに最後に見せたあの表情。シアリスはこの家から出て行く時に、お姉さまをよろしくと言っていたが、あの時の表情には嫉妬や恨みではなく別の感情が宿っていた様に思える。
なら一体。彼女は何を思って行動し、何を思ってあんなことを言ったのだろうか?
……ダメだな。こればっかりはいくら考えたところで意味がない。直接本人に聞かないと。
「はぁ……。まためんどくさい何かに関わることになるのか」
だが今回も逃げ出すわけにはいかない。ケイノアを手伝って問題を解決し、洗脳されている海斗くんと桜ちゃんの二人を助けないといけないんだから。
ああそうだ。どうせエルフの森だか里だかに行くんだったら、ついでに地球に戻る方法も調べておくか。洗脳を解除したら、あの子達を日本に戻してやりたいし。
「ひどい目にあったわ……。あの子達、なんだか余計に深くなってない?」
しばらくリビングで考え事していると、ケイノアが心底疲れたと言わんばかりに思い足取りで戻ってきて、勢いよく倒れ込む様にソファへと座った。
深くとはまた変わった表現だな。まあ、言いたいことはわかるけど。
「あれでも一時に比べれば落ち着いたんだけどな。まあ、重く感じる時もないわけじゃないけど、あれはあれで味があるっていうか、嫌いじゃないな」
俺も本質的には似た様なもんだし。嫉妬が大罪の一つに数えられてる理由がわかるよ。
「あれで味があるだなんて、濃い味すぎて胃もたれしそうね」
そう言いながらソファに寝転がったケイノアは、うあ~なんて声を出しながらダラけモードに入ったが、ちょうど目の前にいるわけだし、こいつの考えを聞いてみよう。
「……なあ。お前はシアリスのことをどう思ってる?」
「え? ……うーん、そうねぇ……」
ケイノアは一瞬目を瞬かせて戸惑った様に返事をしたが、直後、今まで見せたことのない様な悲しげな顔を見せた。
そんな様子に驚き、俺はぎゅっと目を瞑ってから再びケイノアの顔を見たのだが、そこには悲しみなどかけらもない様ないつもの能天気な顔があったが……今のは見間違いだったんだろうか?
「大事な妹よ!」
……見間違いであったとしても、そうでなかったとしても、どっちでも良いか。
「なら、あいつが悲しんでたら助けたいか?」
「ええ、もちろん」
俺の問いに一瞬すら考えることもなくすぐにそう言って頷いたケイノア。そこには確かな妹への愛情が感じられた。
「なら、助けてやらないとな」
「ケイノアの件でエルフの森に行きたいと思っているんだが、二人はどう思う?」
色々考えた結果、やはり俺はケイノアの故郷であるエルフの森に行ってゴタゴタをどうにかすることにした。
完全に解決……とまではいかないだろう。だがそれでも、最低限ケイノアが連れ戻されない様にしなくては俺の目的は果たせない。
それに、なんとなくこの姉妹を放っておけなかった。
とはいえ、そうしたいのは俺の考えだ。イリンと環の二人がどう思うかは別で、もしかしたら行きたくないっていうかもしれない。
その時は何か方法を考えなければならないんだけど、まずは聞かないと……
そう思って二人に問いかけたのだが、イリンと環はお互いに顔を見合わせてから少し困った様な表情をした。……なんだ?
「……あの、アキト様。私たちを慮ってくださるのは嬉しいですし、相談していこうという姿勢も、素直に嬉しいです。けれど……」
「……そうね。もう少し自由にっていうか、もっと自分についてこい、って感じで言ってくれても良いよ? いえ、そう言ってほしいわ。優しいことは良いことだけど、だからって優しいだけじゃダメなの」
イリンと環は俺を諭す様に静かにそう言ったが、俺はその言葉に困惑する。
「え……だが……」
以前は独りよがりな考えで、そのせいでイリンが悲しみ、傷ついてしまった。
だから俺はこういう大きなことをする時は二人に相談してからと思って行動する様に心掛けてきた。
だというのに……それも間違っていたのか?
「私が原因だということは理解しているのであまり強くいうことはできないのですが……それでも、今の状態はなんとなく違う様な気がするのです」
「女ってめんどくさい生き物なのよ? 無理やりっていうのは嫌だけど、それも場合によりけり。多少強引に引っ張ってくれる方が、嬉しいものなの」
イリンは落ち込んだ様な様子で、環は変わらず困った様な顔で笑いながらそう言った。
「それに、あなたはあなたがやりたいことをやっている時が、一番かっこいいですから」
やりたいこと、か……なら俺は……。
「それで? さっきは何を話してたんだったかしら?」
そんな風にかけられた環の言葉に俺は深呼吸をすると、イリンと環の顔を順番に見てから口を開いた。
「……俺はケイノアを連れてエルフの森に行くが、二人とも……ついてきてくれ」
俺がそう言うと、イリンと環は今度こそ笑顔で頷いた。
「はい──」
「ええ──」
「「喜んで」」
これで二人の了承は得られたし、これであとは実際にエルフの森に行ってみるだけだな。
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