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友人達の村で

408:襲撃者との戦い

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 突然岩が現れたせいか、それとも岩を切ったからか、女は一旦俺から距離をとって剣を担ぎなおしてこちらの様子を見ている。
 が、そんなことはどうでもいい。

「クズだと? そうか。お前らにはあそこの人たちをクズだと言うのか」

 あの村の人たちは悪い事など何もしていない。毎日を必死に生きて、些細な事で笑い、泣き、喜ぶ。仲間が大変そうだったら手を差し伸べ、助ける。

 数日しか一緒にいなかったがそれでもわかる。あの村の人たちは、決してクズだなんて言われるような人たちじゃない。

「? ……あそこの人たちだと?」

 女が何かを不思議そうにしているけど関係無い。

「お前は強いよ。だけど……」

 俺はこの女を倒すべく、無手のまま歩いて近づいていく。

「止まれ。それ以上近づくなら斬るぞ」

 女から忠告が来たが、それで止まるはずがないし、そもそも止まる理由がない。攻撃を仕掛けてきたのはそっちだろ?

「……警告はした。はああああああ!」

 女は今までと同じように片腕で大きな剣を振り下ろした。確かにその一撃は調子に乗るだけの力がある。並の相手ではまともに受ける事さえ難しいだろう。
 でも……

「そんな強さなんて、俺には関係ない」
「ああああ! ……は?」

 俺が女に近づいていき、女が俺に向かって振り下ろした剣が当たったその瞬間、女の持っていた剣は音もなく消え去った。

 突然の出来事に体制を崩した女。だが、かなり場慣れしているのだろう。武器が訳もわからず無くなったというのに即座に体勢を立て直そうと動き出す。が、それよりも俺の攻撃の方が早い。

「うぐっ……」
「硬いな。防具か魔術具か……やっぱ素の攻撃じゃ無理だな」

 大勢の崩れていた女の腹に身体強化の魔術と魔術具を併用して思い切り拳を叩き込んだが、それでも数メートル吹き飛ばすだけで限界だった。
 地球なら人が人を殴って数メートル飛ばすなんてのはとんでもない事だが、ここは異世界だ。この程度なら、できるやつなんてザラにいる。
 所詮俺がまともに正面から戦った時の素の能力は、『ちょっとやるな』程度のものでしかないのだと再確認させられた。

「……おい、何をした? 私の武器をどこへやった!」
「答えると思うか?」

 けどそれでも構わない。だって、もともとまともに戦う気なんてないんだから。

「チイッ! ならこれでっ」

 剣を失った女は腰のポーチに手をつっこむと、そこから乱暴に剣を引き抜いた。

 今度の剣は随分と小さい。いや、さっきまで持っていた剣が大き過ぎたしで、相対的に小さく見えるだけか。俺が普段使うようなやつに比べれば全然大きい。

「これもか!」

 女は新たに取り出した剣を今度は横なぎで放ったが、その攻撃も俺に触れた瞬間に収納の中へと消えていく。
 今度はしっかりと予想していたのだろう。女は剣が消えたと同時にその場を飛び退き、俺の攻撃を避けた。

「無駄だ。いくらやっても意味はない。……そろそろおとなしくしてもらうぞ」

 少し時間をかけ過ぎた。今は村が襲われているのだからもっと早く終わらせるべきだった。

 そう反省した俺は、今度こそさっさと終わらせようと再び女に向かって歩き出す。走らないのは何が起きても対処できるようにするためだ。剣や魔術なんかの道具の類は効かないが、素手で殴りかかられたら別の方法で対処しないといけないからな。

「っ。舐めるな! ハアアアアアア……」

 だが女は当然というべきか、まだ戦う気でいるらしくポーチから最初に持っていた大きな剣と同じような剣を取り出した。
 ……なんか、威圧感を感じる剣だな。王宮から持ってきた武具と似た気配を感じる。ってことは、魔術具か。それもかなりの逸品だろう。

 そして大きく身を捻ってその剣の半分が背中に隠れるように構えるが、いかにもこれから大技を放ちますよといった感じだ。それも放った後のことなんて、成功しようが失敗しようが考えないような一撃必殺の技。

 そうして女は、今度は全身から魔力を漲らせて剣へと流していった。
 するとその剣は、黒い雷とでも呼べばいいのか。そんな代物をその刀身から放ち始めた。

 言うまでもなくこれが全力。この女にできる最強の技なのだろう。これほどまでに威圧感を感じる攻撃であれば、まだ見たことはないけどドラゴンでも一撃で倒せるかもしれないな。

「せああああああああ!」

 まあそんなものに意味はないが。

「あがっ!? っぐああああああ!」

 最初の時と同じように思い切りきりかかってきた攻撃をその身で受けて、収納する。それだけで剣も、黒い雷も綺麗に消え去った。

 その事に大きく目を見開いた女に、賊達にも使った麻痺と痛みを発生させる魔剣を取り出して足に突き刺した。
 腹に刺さなかったのは、死なれたら困るからだ。この女は確実に他の賊とは違う。どうしてこんなところにいるのかとか、俺たちが知りたいことを何かしら知ってるはずだ。

 そして剣を引き抜くとその場に崩れ落ちるように女は倒れた。

「とりあえず殺しはしない。聞きたいことがあるからな」

 しばらく動けないだろうし、村を助けるまでこのまま放置でいいか。
 そう思って身を翻して村へと歩き出したのだが、背後から何かが動く音が聞こえた。

「……な、めるなと、言っている。まだだ。まだ私は負けてなどいない……」

しばらくは動けないと思っていた女が、ゆっくりと、だが 力強く大地を踏み締めて立ち上がった。
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