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友人達の村で
395:キリーの嘆き
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ナナの呼びかけに答えないキリー。それどころか、今までは正面からとナナの顔を見ていたのに、今では俯いてしまっている。
少し離れた場所から見ている俺からしても、そんなキリーに対してどうすればいいのかとナナが戸惑っている様子がはっきりとわかった。
「……ハッ。あんたが言いたいこと、なんとなくだけど……わかったよ」
ようやく顔をあげたかと思うと、キリーは突然そう言った。
だが、その様子はとてもではないがいつもの彼女とは思えないほどに乱暴なものだった。
「何代前か知らないけど、あんたはあたしのご先祖様なんだろ?」
ナナがキリーの先祖? まあ確かに何百年も生きてるんだったらその間に子供の一人や二人いてもおかしくはないけど……いや、ナナがキリーの事を見ていたのはそれに気がついていたからか。
「ん!」
キリーの言葉に嬉しそうに何度もうなずいたナナ。だがそんなナナとは対照的に、キリーはどう見ても嬉しそうと言う様子には見えない。
「って事はあたしがみんなと違う見た目で生まれたのは、あんたの血が濃く出たからかい」
「多分」
ナナはキリーの言葉に頷いたが、その様子はそんなことはどうでもいいと言わんばかりだ。
「多分? ……そうかい」
キリーはそこで空を見上げて大きく深呼吸をすると、視線をナナへと戻した。だがキリーから感じる感情は、先ほどまでのものよりも更に荒々しく、怒りに満ちたものだった。
「……今更なんのようだい? 名乗り出れば優しくしてもらえるとでも思ったのかい?」
「え……」
「ふざけんじゃないよ! あたしがこの見た目でどれだけ苦労したと思ってる? 確かにこの体は便利さ。腕がたくさんあって、体が丈夫で、目も良くて……でも、あたしはこんな腕いらなかった。こんな顔いらなかった。なんだいこの目はっ、口はっ! あたしだって、両親と同じように、周りのみんなと同じように普通の体が欲しかった!」
それはキリーの嘆きだった。
周りとは違う体を持って生まれてしまい、両親とすら違う見た目のせいで捨てられ、どこへ行っても不気味だと周りからも疎まれて生きてきたキリー。
今のキリーは、その辛さの原因とも言えるナナが目の前に出てきたことで、感情に抑えが効かなくなったのだろう。
ガムラの告白を受けてこの村で暮らすようになったことも理由の一つかもしれない。平穏を手に入れたはずなのに、今更現れたから。
「その元凶であるあんたが、今更出てきてなんのようだってんだよ!」
だが、その理由がなんだとしても、今のキリーは止まらない。ただ押し込めていた感情を吐き出すだけだった。
そしてすべての感情を吐き出した後、キリーはまるで怒りを握り潰すかのように拳を握りしめた。
「…………ごめん。でも──」
「悪いけど、話しはこれで終わりだよ。アンドーの客人だから追い出しはしないが……もうあたしに関わらないでおくれ」
謝罪と共に伸ばされたナナの手をキリーは振り払い、それだけ言い残すとその場を去っていった。
「……」
去っていくキリーの背中を無言のまま見ていたナナは、キリーがいなくなった後も彼女が消えていった方向を見続けていた。
「……ナナ」
そんなナナを見ていたら、つい彼女の名前を呼んでしまい、ナナはビクッと体を震わせて反応した。
「だいじょうぶ」
そしてナナは俺の方を振り向くこともせずにそう言うと俯き、こちらに振り返った。
ナナは俯いたまま俺と視線を合わせる事をせずに、キリーが消えていった方向とは違う方向へと歩いていった。
「…………ありがと」
俺とすれ違う時に小さくつぶやかれた感謝の言葉。それはナナとキリーを引き合わせる前に聞いた言葉と同じものだが、そこに込められていた感情は全く違うものだった。
「余計なお世話、だったのかな……」
そんな悲しげに歩いていったナナの背を見ながら呟いてしまう。
俺がナナの背を押してキリーと話をさせなければこんな風になることもなかった。
良かれと思ってやったことだが、もしかしたら彼女らにとっては話せないままの方が幸せだったんじゃないだろうか……。
「そんなことない」
「環」
「キリーもナナも、一生話さないままよりは良かったと思うわ。だって、伝えられないことの方が……ずっと辛いもの」
そう言って俺の事を励ましながらも俯いた環の言葉は、とても実感の籠もったものだった。
「……ありがとう」
まだ後悔も不安も残っているが、環のその言葉で、俺は多少なりとも救われた気がした。
──ジリリリリリリッ
真夜中に鳴り響くその音を聞いた瞬間、俺は目を覚ました。
あの後俺たちはガムラの家に戻ったのだが、夕食の時間となってもナナは戻ってくることなく、キリーも普段とは違いほとんど喋らなかった。
そうしてそのまま時間は過ぎていき、ナナが帰ってくることも、キリーが笑うこともなくとうとう夜になってしまった。
ガムラはその事を気にしていたが、
「俺はお前がお前でよかった」
ただ一言だけキリーにそう言って、それ以上は何も聞くことはなかった。
そしてその後は今夜来るであろう賊達がきた場合の対処方法を話した。
その時に聞いていたが、この音は目覚まし時計なんかじゃなくて、警報の音だ。
村に賊が攻めてきた事を知らせるための合図。つまりは俺たちの出番だ。
こんな賊の襲撃だなんて雑事はさっさと終わらせて、キリーとナナの関係を修復させたい。
俺がよく考えもせずに下手に関わったから拗れたんだけど、だからこそ、だ。だからこそ二人の関係を放っておけない。
俺は警報の音で起きたが眠そうに目を擦っている環を急かして準備させ、既に起きて準備を終えているイリンとともに準備の最終確認をする。
そうしていると、環が準備を終えたようなので、賊を片付けるために三人で部屋をでた。
少し離れた場所から見ている俺からしても、そんなキリーに対してどうすればいいのかとナナが戸惑っている様子がはっきりとわかった。
「……ハッ。あんたが言いたいこと、なんとなくだけど……わかったよ」
ようやく顔をあげたかと思うと、キリーは突然そう言った。
だが、その様子はとてもではないがいつもの彼女とは思えないほどに乱暴なものだった。
「何代前か知らないけど、あんたはあたしのご先祖様なんだろ?」
ナナがキリーの先祖? まあ確かに何百年も生きてるんだったらその間に子供の一人や二人いてもおかしくはないけど……いや、ナナがキリーの事を見ていたのはそれに気がついていたからか。
「ん!」
キリーの言葉に嬉しそうに何度もうなずいたナナ。だがそんなナナとは対照的に、キリーはどう見ても嬉しそうと言う様子には見えない。
「って事はあたしがみんなと違う見た目で生まれたのは、あんたの血が濃く出たからかい」
「多分」
ナナはキリーの言葉に頷いたが、その様子はそんなことはどうでもいいと言わんばかりだ。
「多分? ……そうかい」
キリーはそこで空を見上げて大きく深呼吸をすると、視線をナナへと戻した。だがキリーから感じる感情は、先ほどまでのものよりも更に荒々しく、怒りに満ちたものだった。
「……今更なんのようだい? 名乗り出れば優しくしてもらえるとでも思ったのかい?」
「え……」
「ふざけんじゃないよ! あたしがこの見た目でどれだけ苦労したと思ってる? 確かにこの体は便利さ。腕がたくさんあって、体が丈夫で、目も良くて……でも、あたしはこんな腕いらなかった。こんな顔いらなかった。なんだいこの目はっ、口はっ! あたしだって、両親と同じように、周りのみんなと同じように普通の体が欲しかった!」
それはキリーの嘆きだった。
周りとは違う体を持って生まれてしまい、両親とすら違う見た目のせいで捨てられ、どこへ行っても不気味だと周りからも疎まれて生きてきたキリー。
今のキリーは、その辛さの原因とも言えるナナが目の前に出てきたことで、感情に抑えが効かなくなったのだろう。
ガムラの告白を受けてこの村で暮らすようになったことも理由の一つかもしれない。平穏を手に入れたはずなのに、今更現れたから。
「その元凶であるあんたが、今更出てきてなんのようだってんだよ!」
だが、その理由がなんだとしても、今のキリーは止まらない。ただ押し込めていた感情を吐き出すだけだった。
そしてすべての感情を吐き出した後、キリーはまるで怒りを握り潰すかのように拳を握りしめた。
「…………ごめん。でも──」
「悪いけど、話しはこれで終わりだよ。アンドーの客人だから追い出しはしないが……もうあたしに関わらないでおくれ」
謝罪と共に伸ばされたナナの手をキリーは振り払い、それだけ言い残すとその場を去っていった。
「……」
去っていくキリーの背中を無言のまま見ていたナナは、キリーがいなくなった後も彼女が消えていった方向を見続けていた。
「……ナナ」
そんなナナを見ていたら、つい彼女の名前を呼んでしまい、ナナはビクッと体を震わせて反応した。
「だいじょうぶ」
そしてナナは俺の方を振り向くこともせずにそう言うと俯き、こちらに振り返った。
ナナは俯いたまま俺と視線を合わせる事をせずに、キリーが消えていった方向とは違う方向へと歩いていった。
「…………ありがと」
俺とすれ違う時に小さくつぶやかれた感謝の言葉。それはナナとキリーを引き合わせる前に聞いた言葉と同じものだが、そこに込められていた感情は全く違うものだった。
「余計なお世話、だったのかな……」
そんな悲しげに歩いていったナナの背を見ながら呟いてしまう。
俺がナナの背を押してキリーと話をさせなければこんな風になることもなかった。
良かれと思ってやったことだが、もしかしたら彼女らにとっては話せないままの方が幸せだったんじゃないだろうか……。
「そんなことない」
「環」
「キリーもナナも、一生話さないままよりは良かったと思うわ。だって、伝えられないことの方が……ずっと辛いもの」
そう言って俺の事を励ましながらも俯いた環の言葉は、とても実感の籠もったものだった。
「……ありがとう」
まだ後悔も不安も残っているが、環のその言葉で、俺は多少なりとも救われた気がした。
──ジリリリリリリッ
真夜中に鳴り響くその音を聞いた瞬間、俺は目を覚ました。
あの後俺たちはガムラの家に戻ったのだが、夕食の時間となってもナナは戻ってくることなく、キリーも普段とは違いほとんど喋らなかった。
そうしてそのまま時間は過ぎていき、ナナが帰ってくることも、キリーが笑うこともなくとうとう夜になってしまった。
ガムラはその事を気にしていたが、
「俺はお前がお前でよかった」
ただ一言だけキリーにそう言って、それ以上は何も聞くことはなかった。
そしてその後は今夜来るであろう賊達がきた場合の対処方法を話した。
その時に聞いていたが、この音は目覚まし時計なんかじゃなくて、警報の音だ。
村に賊が攻めてきた事を知らせるための合図。つまりは俺たちの出番だ。
こんな賊の襲撃だなんて雑事はさっさと終わらせて、キリーとナナの関係を修復させたい。
俺がよく考えもせずに下手に関わったから拗れたんだけど、だからこそ、だ。だからこそ二人の関係を放っておけない。
俺は警報の音で起きたが眠そうに目を擦っている環を急かして準備させ、既に起きて準備を終えているイリンとともに準備の最終確認をする。
そうしていると、環が準備を終えたようなので、賊を片付けるために三人で部屋をでた。
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