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友人達の村で
394:キリーとナナ
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長い間沈黙していたナナがついにその口を開いて質問をした。
その視線は髪で隠れて見えないが、キリーのことを見据えているのがわかるほどにナナの意識はキリーへと向けられていた。
「聞きたいことねぇ。いいよ。なんでもってわけじゃ無いけど、答えられる事なら答えるよ」
「ありがと。……キリュウって、知ってる?」
キリュウ……桐生? なんだか日本人の名前みたいな感じがするな。
ナナの呼んだ名前はこっちの世界にいてもおかしくは無いが、なんとなくそうでは無い気がする。もっというのなら日本人の名前のように聞こえた。
「キリュウ? そりゃなんだい? 悪いけど、あたしにはわからないよ」
だがそもそも、キリーにはそれが人名だとは思えなかったようで首を傾げている。
「……ほんとに?」
「ああ。本当に知らないね」
「…………そう」
キリーに重ねて確認したが、それでも知らないと否定され、ナナはどことなく悲しげに返事をした
「ナナ。それは人名か?」
もしかしたら日本人なのかもしれない。勇者は今までもいたし、それ以外の転移者もいたのだからおかしいことではない。
だからどうしたってわけでもないんだけど、もしそれが人名で、そのキリュウって人を探しているんだとしたら会ってみたい。そう思って聞いてみた。
「ん」
だがナナは頷いたものの、それ以上答える気はないようで黙ったままだ。
「人名ねぇ……で、それがどうしたんだい? もしかして探してるとかだったら手伝うよ」
「違う。キリュウは死んだから」
死んだ……そうか、もういないのか。できることなら一度俺たち以外の転移者と話をして見たかったんだけどな。
「ならどうしてその人のことを聞いたんだ? それもキリーに」
むしろ本当に転移者なのだとしたら、俺たちに聞くべきじゃないだろうか? 違うならあれだけど。
「……懐かしい感じがしたから」
「懐かしい? あたしがかい?」
「ん。……ならキーリエルは?」
キーリエル? それはさっきと同じで、知っているかと言う意味なんだと思う。……だが、なんだろう。どこかで聞いたような気がしないこともない気がする名前だな。
「……そりゃあ、あたしの家名だよ」
俺が思い出せずに悩んでいると、キリーがそう言って答えた。
ああそうか。キリーの正式な名前にそんな言葉が入ってた気がする。
「……そう」
ナナは今度は心持ち喜んでいるように頷いたように感じた。
「なんだい。あんたは何を知ってるんだ?」
だが突然自身の家名について知っているかと聞かれたキリーとしては、ナナに何か思うところがあるのだろう。どことなく警戒した様子で尋ねている。
そんなキリーに対して、ナナは少し首を傾げた後に自分を指差して言った。
「……私、おばあちゃん」
「…………は?」
キリーは警戒していたところにそんなことを言われて間の抜けた声を出している。
だが、それも仕方がない。二人を見守っていた俺たちだってわけが分からない。
「おばあちゃん?」
なんとか絞り出した声で、キリーはナナが自分のことを指差したようにナナのことを指差して尋ねる。
そんなキリーの問いに、ナナはコクコクと頷いているが、それでキリーが納得した様子はない。
「……どう見てもあんたは私よりも年下に見えるんだけどねぇ。声だって若いし」
まあそうだな。どう見てもおばあちゃんなんて言うようには思えない。……ナナの正体を知らなければ、だが。
ナナは神獣だ。スーラ達と同じくらい生きているのであれば、数百年生きていてもおかしくはない。
「実はその髪の下はしわしわだなんて言わないだろう?」
「ん。ピチピチ」
そう言いながらナナは髪をどけて顔を見せる。
すると当然ながら長い髪で隠れていた素顔が露わになり……
「わぁっ」
今までナナの素顔を見たことのなかった環は、初めて見たナナの顔に驚きの声を漏らした。まあ一見するとアレだが、素顔は美少女だからな。
「……まあ、ある意味では驚いたけど、それでも『おばあちゃん』なんで感じじゃあないねぇ」
ナナの顔を覗き込んだキリーがそう言ったが、ナナは自分のことを指差して言う。
「私、神獣」
「神獣?」
ナナは自分の正体について話したが、どうやらキリーは神獣についてその存在を知らないようなので補足を入れる事にした。ナナに任せたところでうまく伝わらない気もするし。
「神獣ってのは特別な力を持った動物のことだ。強力な力を持っていて、イリンの故郷にもその神獣がいたが、そいつは数百年生きてたらしい」
いた、であって、もういないけど。
「へぇ、そんなもんがいたのかい。……だが、あんたはどう見ても獣に見えないけど? まあ遠目から見れば魔物には見えるかもしれないけど」
キリーがそう言うと、ナナは手を横に突き出して以前俺たちに見せた時のように変化させて見せた。
「どう?」
ナナ自身の手を上下に動かしてキリーにアピールしている。
「あんた……」
キリーが変化したナナの手を見て驚いていると、ナナはより早く動かした。
キリーに話すことができたことを喜んでいるのだろうか?
──ドン。
「あ……」
なにがぶつかる鈍い音と、つい、と言う風なナナの声を聞いて音のした方へと視線を動かすと、そこにはキリーが先ほどまで解体していた獲物の肉と、それを叩き潰すようにして置かれていたナナの手があった。
どうやら手を振り回しすぎて当たってしまったようだ。
「……ごめん」
ナナは一瞬の間の後に謝ったが、キリーはそれに答えない。
だがそれは自身の作業を台無しにされて怒っているからと言うわけではなく、驚きのあまり声が出ないと言う感じだ。
あまりにも驚きすぎな様子に心配になったものの、俺たちが何かを言う前にキリーは口を開いた。
「……あんた。それは蜘蛛かい?」
「ん。私は蜘蛛の神獣」
「……」
「キリー?」
ナナはそう問いかけるが、キリーは黙ったままだった。
その視線は髪で隠れて見えないが、キリーのことを見据えているのがわかるほどにナナの意識はキリーへと向けられていた。
「聞きたいことねぇ。いいよ。なんでもってわけじゃ無いけど、答えられる事なら答えるよ」
「ありがと。……キリュウって、知ってる?」
キリュウ……桐生? なんだか日本人の名前みたいな感じがするな。
ナナの呼んだ名前はこっちの世界にいてもおかしくは無いが、なんとなくそうでは無い気がする。もっというのなら日本人の名前のように聞こえた。
「キリュウ? そりゃなんだい? 悪いけど、あたしにはわからないよ」
だがそもそも、キリーにはそれが人名だとは思えなかったようで首を傾げている。
「……ほんとに?」
「ああ。本当に知らないね」
「…………そう」
キリーに重ねて確認したが、それでも知らないと否定され、ナナはどことなく悲しげに返事をした
「ナナ。それは人名か?」
もしかしたら日本人なのかもしれない。勇者は今までもいたし、それ以外の転移者もいたのだからおかしいことではない。
だからどうしたってわけでもないんだけど、もしそれが人名で、そのキリュウって人を探しているんだとしたら会ってみたい。そう思って聞いてみた。
「ん」
だがナナは頷いたものの、それ以上答える気はないようで黙ったままだ。
「人名ねぇ……で、それがどうしたんだい? もしかして探してるとかだったら手伝うよ」
「違う。キリュウは死んだから」
死んだ……そうか、もういないのか。できることなら一度俺たち以外の転移者と話をして見たかったんだけどな。
「ならどうしてその人のことを聞いたんだ? それもキリーに」
むしろ本当に転移者なのだとしたら、俺たちに聞くべきじゃないだろうか? 違うならあれだけど。
「……懐かしい感じがしたから」
「懐かしい? あたしがかい?」
「ん。……ならキーリエルは?」
キーリエル? それはさっきと同じで、知っているかと言う意味なんだと思う。……だが、なんだろう。どこかで聞いたような気がしないこともない気がする名前だな。
「……そりゃあ、あたしの家名だよ」
俺が思い出せずに悩んでいると、キリーがそう言って答えた。
ああそうか。キリーの正式な名前にそんな言葉が入ってた気がする。
「……そう」
ナナは今度は心持ち喜んでいるように頷いたように感じた。
「なんだい。あんたは何を知ってるんだ?」
だが突然自身の家名について知っているかと聞かれたキリーとしては、ナナに何か思うところがあるのだろう。どことなく警戒した様子で尋ねている。
そんなキリーに対して、ナナは少し首を傾げた後に自分を指差して言った。
「……私、おばあちゃん」
「…………は?」
キリーは警戒していたところにそんなことを言われて間の抜けた声を出している。
だが、それも仕方がない。二人を見守っていた俺たちだってわけが分からない。
「おばあちゃん?」
なんとか絞り出した声で、キリーはナナが自分のことを指差したようにナナのことを指差して尋ねる。
そんなキリーの問いに、ナナはコクコクと頷いているが、それでキリーが納得した様子はない。
「……どう見てもあんたは私よりも年下に見えるんだけどねぇ。声だって若いし」
まあそうだな。どう見てもおばあちゃんなんて言うようには思えない。……ナナの正体を知らなければ、だが。
ナナは神獣だ。スーラ達と同じくらい生きているのであれば、数百年生きていてもおかしくはない。
「実はその髪の下はしわしわだなんて言わないだろう?」
「ん。ピチピチ」
そう言いながらナナは髪をどけて顔を見せる。
すると当然ながら長い髪で隠れていた素顔が露わになり……
「わぁっ」
今までナナの素顔を見たことのなかった環は、初めて見たナナの顔に驚きの声を漏らした。まあ一見するとアレだが、素顔は美少女だからな。
「……まあ、ある意味では驚いたけど、それでも『おばあちゃん』なんで感じじゃあないねぇ」
ナナの顔を覗き込んだキリーがそう言ったが、ナナは自分のことを指差して言う。
「私、神獣」
「神獣?」
ナナは自分の正体について話したが、どうやらキリーは神獣についてその存在を知らないようなので補足を入れる事にした。ナナに任せたところでうまく伝わらない気もするし。
「神獣ってのは特別な力を持った動物のことだ。強力な力を持っていて、イリンの故郷にもその神獣がいたが、そいつは数百年生きてたらしい」
いた、であって、もういないけど。
「へぇ、そんなもんがいたのかい。……だが、あんたはどう見ても獣に見えないけど? まあ遠目から見れば魔物には見えるかもしれないけど」
キリーがそう言うと、ナナは手を横に突き出して以前俺たちに見せた時のように変化させて見せた。
「どう?」
ナナ自身の手を上下に動かしてキリーにアピールしている。
「あんた……」
キリーが変化したナナの手を見て驚いていると、ナナはより早く動かした。
キリーに話すことができたことを喜んでいるのだろうか?
──ドン。
「あ……」
なにがぶつかる鈍い音と、つい、と言う風なナナの声を聞いて音のした方へと視線を動かすと、そこにはキリーが先ほどまで解体していた獲物の肉と、それを叩き潰すようにして置かれていたナナの手があった。
どうやら手を振り回しすぎて当たってしまったようだ。
「……ごめん」
ナナは一瞬の間の後に謝ったが、キリーはそれに答えない。
だがそれは自身の作業を台無しにされて怒っているからと言うわけではなく、驚きのあまり声が出ないと言う感じだ。
あまりにも驚きすぎな様子に心配になったものの、俺たちが何かを言う前にキリーは口を開いた。
「……あんた。それは蜘蛛かい?」
「ん。私は蜘蛛の神獣」
「……」
「キリー?」
ナナはそう問いかけるが、キリーは黙ったままだった。
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