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王国との戦争
339:受け入れてもいいのか
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「珍しいですね、あなたの方から来るだなんて」
「まあな」
旅に出ることが決まったので、その前に挨拶をするべくグラティースに時間をとってもらった。
……一般人である俺が一国の王に時間を取ってもらうとか、我ながらすごい立場にいる気がするな。いや、実際勲章とかもらったし、『気がする』じゃなくて本当にすごい立場にいるんだけど、日本で育ってきた感性はなかなか現状を完全に受け入れられないでいる。
まあそれはいいとして、今日ここにきた本題に移ろう。
「そろそろここを出ていくことにしたよ」
「……そうでしたか。あなたの元々の目的を考えれば、おめでとうと言うべきなのでしょうね」
元々の目的というのは、イリンの怪我を治す方法を探してのことだ。現在いろんな人の協力もあってイリンの怪我はしっかりと治ったので目的は完璧に果たすことが出来ていた。
「けれど、そうですか……せっかくできた友人がいなくなってしまうと言うのは、少し寂しいものですね」
だから俺としては喜ばしいのだが、目の前にいるこの王様としては気軽に話せる相手が──本人曰く初めての友人がいなくなるということなのだから思うところもあるのだろう。
「……別に、友人関係が終わるわけじゃないだろ」
「え?」
「俺たちは旅に出るが、二度とここに帰って来ないってわけじゃない。一年後には帰って規程いるかもしれないし、そうでなくても数年もすれば一度は帰って来てるはずだ。だから、これで友人関係の解消ってわけでも、今生の別れってわけでもないだろ」
我ながら青臭いというか恥ずかしい事を言った気もするが、まあこれまでの俺を思えば今更だ。
「……そうですね。ええ、そうでした」
グラティースは目をパチパチと瞬かせた後、フッと笑ってそう呟いた。
根性の別れではないが、一応今回この街にいるのは後少しだ。これで最後となるかもしれないのだから、話ができる今のうちに少し相談をしてみよう。
「……なあ。話は変わるんだが、お前は複数の妻がいるんだよな?」
「? そうですけど、どうしたのですか?」
「ちょっと相談に乗って欲しい事がな……」
俺はそう言ったものの、なんと切り出したものかと悩んでしまう。
「……ふむ、イリンさんとタマキさんについてでしょうか?」
だが、俺が何かを言う前にグラティースはいつぞやのように俺の言いたい事を言い当てた。
「相変わらず話が早いのはいいけど、なんだか心を見透かされているみたいだな」
「話の流れとあなたの状況から考えれば、そう難しいことでもありませんよ」
「まあ、そうか」
「ですが、正確かは分からないので話していただけるとありがたいですね」
「ん、そうだな。なら──」
事情を事情を理解しているとはいえ、流石に完全に把握している訳ではないようだ。まあそうだよな。そんなことができるのなら、それはもう察しが良いとかじゃ済まない。本当に心が読めていないと無理だろう。
そして俺は今俺が置かれている状況と、俺が感じ取ったイリンと環ちゃんの想いをグラティースに教えた。
「俺はどうすればいいと思う? 環ちゃんを受け入れてもいいんだろうか?」
「イリンさんは環さんを受け入れていると感じましたけど?」
「まあ、確かにそうなのかもしれないけど……」
俺が見ていつ限りでもイリンは環ちゃんのことを受け入れているようには見える。
でもそれは、本当にそうなのだろうか?
「そもそも、イリンは本当に納得しているのか?」
外から見ただけでは納得しているように見えるが、それはイリンが俺に負担をかけまいと自分の気持ちを押し殺して我慢しているだけではないのだろうか?
本当は環ちゃんが側にいることも嫌だけど、環ちゃんを追い出してしまえば俺が悲しむから笑って受け入れているだけなのではないだろうか?
だとしたら、俺はどうすれば良い? どうするのが正解なんだ?
俺はイリンに自分を押し殺すような辛い思いはして欲しくない。
「本人がいいと言っているのでしたら、そうなのでしょうね」
だが、そんな俺の質問に対して返ってきた答えはあまりにも簡素なものだった。
こいつに限って適当に答えているわけではないんだろうけど、そのあまりの短い答えに、俺はムッと眉を寄せてしまう。
それを理解したのか、グラティースは言葉を続けた。
「あなたは少し勘違いをしているというか、イリンさんのことを理解していないようですね」
まるで自分の方がイリンのことを理解していると言わんばかりのその言葉に、俺はさらに顔をしかめてしまう。
「何を理解していないって言うんだ」
そのせいで少し……だいぶぶっきらぼうに言葉を返してしまった。
「おや? ……ああ失礼。イリンさんのこと、というのは正確ではありませんね。正しくは彼女の種族について、もっというのなら獣人という存在について、でしょうか」
「獣人について……」
「ええ。私たちは人ではありますが、同時に獣でもあります。基本的には人としての在り方が前面に出てきますが、どうしてもそちらに引っ張られる時があるのです」
それは理解できる。今まで会ってきた獣人達は、純粋な『人間』とは見た目だけではなく考え方なんかも違っていた。
「自分達を守ってくれる存在には多くの者が集まる。それを理解しているのです。理性ではなく、本能で。ですので、イリンさんは、どれほど気に入らなくとも、あなたのそばに寄ってくる女性を受け入れますよ。彼女はあなたのことを認めているだけに、あなたを慕って集まる者を否定できない」
イリンは俺を認めているからこそ、か……。
イリンの中では俺は『すごい人』ということになっているから、そんなすごい人には女性が集まって当然であると考えるらしい。
実際には俺はそんなすごい奴じゃない。確かに戦闘力だけで言ったらそれなりのものだろう。そこは否定しないさ。
だけど、人間的にどうなのかって言ったら、まだまだ未熟すぎるし、ふがいないことだらけだ。到底『すごい人』だとは胸を張っていられない。
「そしてそれは、大抵の獣人に当てはまります。まあそうは言っても、大抵の場合は一人目の妻が認める合格ラインというものが存在しますが」
いくら俺のもとに集まって来た者を受け入れると言っても、誰でも良いと言うわけではないらしい。
一人目……つまり俺の場合はイリンだ。彼女が合格だと認めるラインに達ていれば、彼女はその存在を否定しないのだとグラティースは言う。
「そもそも、『受け入れるべきか』ではなく、『受け入れてもいいのか』と聞いている時点であなたの心は決まっていると思いますがね」
そうだ。俺はさっき環ちゃんのことを『受け入れてもいいのか』と聞いた。それはつまり、もう俺の中では彼女のことを受け入れてしまっているということ。あとは半端に残っている日本での常識や理性が無駄に抵抗しているだけ。
……そう、だな。このまま考えたところで、どうせ意味なんてないんだ。俺の中の答えは決まってるんだから。
だから、そろそろまともに向き合うとしよう。
「まあな」
旅に出ることが決まったので、その前に挨拶をするべくグラティースに時間をとってもらった。
……一般人である俺が一国の王に時間を取ってもらうとか、我ながらすごい立場にいる気がするな。いや、実際勲章とかもらったし、『気がする』じゃなくて本当にすごい立場にいるんだけど、日本で育ってきた感性はなかなか現状を完全に受け入れられないでいる。
まあそれはいいとして、今日ここにきた本題に移ろう。
「そろそろここを出ていくことにしたよ」
「……そうでしたか。あなたの元々の目的を考えれば、おめでとうと言うべきなのでしょうね」
元々の目的というのは、イリンの怪我を治す方法を探してのことだ。現在いろんな人の協力もあってイリンの怪我はしっかりと治ったので目的は完璧に果たすことが出来ていた。
「けれど、そうですか……せっかくできた友人がいなくなってしまうと言うのは、少し寂しいものですね」
だから俺としては喜ばしいのだが、目の前にいるこの王様としては気軽に話せる相手が──本人曰く初めての友人がいなくなるということなのだから思うところもあるのだろう。
「……別に、友人関係が終わるわけじゃないだろ」
「え?」
「俺たちは旅に出るが、二度とここに帰って来ないってわけじゃない。一年後には帰って規程いるかもしれないし、そうでなくても数年もすれば一度は帰って来てるはずだ。だから、これで友人関係の解消ってわけでも、今生の別れってわけでもないだろ」
我ながら青臭いというか恥ずかしい事を言った気もするが、まあこれまでの俺を思えば今更だ。
「……そうですね。ええ、そうでした」
グラティースは目をパチパチと瞬かせた後、フッと笑ってそう呟いた。
根性の別れではないが、一応今回この街にいるのは後少しだ。これで最後となるかもしれないのだから、話ができる今のうちに少し相談をしてみよう。
「……なあ。話は変わるんだが、お前は複数の妻がいるんだよな?」
「? そうですけど、どうしたのですか?」
「ちょっと相談に乗って欲しい事がな……」
俺はそう言ったものの、なんと切り出したものかと悩んでしまう。
「……ふむ、イリンさんとタマキさんについてでしょうか?」
だが、俺が何かを言う前にグラティースはいつぞやのように俺の言いたい事を言い当てた。
「相変わらず話が早いのはいいけど、なんだか心を見透かされているみたいだな」
「話の流れとあなたの状況から考えれば、そう難しいことでもありませんよ」
「まあ、そうか」
「ですが、正確かは分からないので話していただけるとありがたいですね」
「ん、そうだな。なら──」
事情を事情を理解しているとはいえ、流石に完全に把握している訳ではないようだ。まあそうだよな。そんなことができるのなら、それはもう察しが良いとかじゃ済まない。本当に心が読めていないと無理だろう。
そして俺は今俺が置かれている状況と、俺が感じ取ったイリンと環ちゃんの想いをグラティースに教えた。
「俺はどうすればいいと思う? 環ちゃんを受け入れてもいいんだろうか?」
「イリンさんは環さんを受け入れていると感じましたけど?」
「まあ、確かにそうなのかもしれないけど……」
俺が見ていつ限りでもイリンは環ちゃんのことを受け入れているようには見える。
でもそれは、本当にそうなのだろうか?
「そもそも、イリンは本当に納得しているのか?」
外から見ただけでは納得しているように見えるが、それはイリンが俺に負担をかけまいと自分の気持ちを押し殺して我慢しているだけではないのだろうか?
本当は環ちゃんが側にいることも嫌だけど、環ちゃんを追い出してしまえば俺が悲しむから笑って受け入れているだけなのではないだろうか?
だとしたら、俺はどうすれば良い? どうするのが正解なんだ?
俺はイリンに自分を押し殺すような辛い思いはして欲しくない。
「本人がいいと言っているのでしたら、そうなのでしょうね」
だが、そんな俺の質問に対して返ってきた答えはあまりにも簡素なものだった。
こいつに限って適当に答えているわけではないんだろうけど、そのあまりの短い答えに、俺はムッと眉を寄せてしまう。
それを理解したのか、グラティースは言葉を続けた。
「あなたは少し勘違いをしているというか、イリンさんのことを理解していないようですね」
まるで自分の方がイリンのことを理解していると言わんばかりのその言葉に、俺はさらに顔をしかめてしまう。
「何を理解していないって言うんだ」
そのせいで少し……だいぶぶっきらぼうに言葉を返してしまった。
「おや? ……ああ失礼。イリンさんのこと、というのは正確ではありませんね。正しくは彼女の種族について、もっというのなら獣人という存在について、でしょうか」
「獣人について……」
「ええ。私たちは人ではありますが、同時に獣でもあります。基本的には人としての在り方が前面に出てきますが、どうしてもそちらに引っ張られる時があるのです」
それは理解できる。今まで会ってきた獣人達は、純粋な『人間』とは見た目だけではなく考え方なんかも違っていた。
「自分達を守ってくれる存在には多くの者が集まる。それを理解しているのです。理性ではなく、本能で。ですので、イリンさんは、どれほど気に入らなくとも、あなたのそばに寄ってくる女性を受け入れますよ。彼女はあなたのことを認めているだけに、あなたを慕って集まる者を否定できない」
イリンは俺を認めているからこそ、か……。
イリンの中では俺は『すごい人』ということになっているから、そんなすごい人には女性が集まって当然であると考えるらしい。
実際には俺はそんなすごい奴じゃない。確かに戦闘力だけで言ったらそれなりのものだろう。そこは否定しないさ。
だけど、人間的にどうなのかって言ったら、まだまだ未熟すぎるし、ふがいないことだらけだ。到底『すごい人』だとは胸を張っていられない。
「そしてそれは、大抵の獣人に当てはまります。まあそうは言っても、大抵の場合は一人目の妻が認める合格ラインというものが存在しますが」
いくら俺のもとに集まって来た者を受け入れると言っても、誰でも良いと言うわけではないらしい。
一人目……つまり俺の場合はイリンだ。彼女が合格だと認めるラインに達ていれば、彼女はその存在を否定しないのだとグラティースは言う。
「そもそも、『受け入れるべきか』ではなく、『受け入れてもいいのか』と聞いている時点であなたの心は決まっていると思いますがね」
そうだ。俺はさっき環ちゃんのことを『受け入れてもいいのか』と聞いた。それはつまり、もう俺の中では彼女のことを受け入れてしまっているということ。あとは半端に残っている日本での常識や理性が無駄に抵抗しているだけ。
……そう、だな。このまま考えたところで、どうせ意味なんてないんだ。俺の中の答えは決まってるんだから。
だから、そろそろまともに向き合うとしよう。
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