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王国との戦争
338:旅立ちの相談
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「二人に相談したいことがあるんだ」
イリンと環ちゃんの二人が家事を終えて一階のリビングへと集まってきた。この後は特になにがあるってわけでもないので、ゆっくりと話をする時間が取れる。
「相談ですか?」
「何かあったんですか?」
環ちゃんは何か問題でもあったのかと少し心配そうに訪ねてくるが、俺は首を振って否定する。
「いや、何かあったってわけじゃないよ。そろそろこの街を出て行こうかと思ってね。それで二人はどう思ってるのか聞こうかなって」
「ここを出て行く……以前から言っていた旅に出るのですか?」
「ああ。まあ出ていくって言っても今すぐにじゃなくて、一ヶ月後くらいのつもりでいたんだけど、どうかな?」
流石に今すぐに出て行くって言っても準備ができていないし、この街にいる間にできた知り合いに挨拶もしないとだ。
それに後一ヶ月で俺がこの世界に来てから一年になる。どうせ旅に出るっていうんなら、その節目にするのがちょうど良いと思った。
でも、それは俺がそう思ったからであって、二人がもっとここに居たいというのならいても良いと思っている。まあ流石にずっとは無理だけど。
イリンの故郷に行かないといけないし、勇者二人の洗脳を解除する方法も探さないといけない。それに何より、俺がこの世界を旅したい。
とはいえ、最後のは俺のわがままだ。いや、言ってしまえば勇者の子達を助ける方法を、ってのも俺のわがままとも言える。
けどイリンの事に関しては早めに一度帰っておいた方がいいだろう。ここにいる時間を伸ばしたとしても、せいぜい半年くらいだろうか? その後になるとまた冬の準備があるから~、なんて迷惑になりそうだし落ち着いて滞在できない。
「私は構いません。私の居場所はあなたの横ですから」
「私もついていきます!」
だがイリンも環ちゃんも、特に悩むそぶりを見せる事なく俺の提案を受け入れてくれた。
「ありがとう。二人とも」
良かった。二人に了承してもらえたのなら、後は一ヶ月後に出ていけるように準備と挨拶まわりに行かないとだな。
「それにしても、今なのはキリーさん達が出ていったからですか?」
「うんまあ、それがきっかけではあるな」
「きっかけ……ということはもっと別な理由も?」
環ちゃんの問いに、俺はどうして一ヶ月後に旅に出ようなんて言ったのか、その理由を話す。
「ああ。実は、ってほどでもないんだけど、後一ヶ月もすれば俺たちがこっちの世界に召喚されて一年経つし、旅立つ節目としてはちょうどいいかなって思ってね」
「! そうですね。ちょうどいいかもしれません!」
俺がそう説明すると、環ちゃんは目を丸くして驚いた後、急に機嫌よく笑った。
「どうしたのですか、タマキ」
その理由はイリンにも分からなかったようで、少しだけ眉を寄せながら不思議そうに首を傾げて尋ねている。
そんなイリンに、環ちゃんは笑いを向けると、彼女が喜んでいる理由を話し出した。
「ふふっ、彰人さんがこっちに召喚されてから一年ってことは、私が召喚されてから一年ということ。そして、それはつまり私たちが出会ってから一年ということでもあるわ。一度離れ離れになった私たちがもう一度出逢い、そして初めて出会ってから一年後に一緒に旅に出るなんて素敵じゃないかしら」
……まあ、素敵っていえば、素敵……なのか?
俺は特にそんな事を考えていた訳じゃないけど、俺の一年の節目で旅に出たいって考え方もある意味では環ちゃんと同じようなものだと言える。
だがそれを聞いたイリンは少しだけむすっとした顔になっていた。
「……あなたは、時折すごく夢みがちになりますね」
そしてなにを思ったのか、イリンは微妙にトゲを感じさせる声で環ちゃんにそう言った。
「なに? 悪いかしら? それとも負け惜しみ?」
俺が感じたように環ちゃんもそう感じたのか、やけに挑発的な返事をしている。
「……負け惜しみなど……そのようなもの、する必要がありません。確かにあなたのいう状況は素敵と言えますが、実際には一度別れてから再び出逢うよりも、その離れていた期間ずっと一緒にいた方がいいに決まっているではないですか」
「む……そんなの、これから遺書にいる時間を考えたら微々たる差でしかないんじゃないかしら?」
「その微々たる差で悔しい思いをしているのはどこのどなたです?」
「……」
「……」
「久しぶりに、ちょっと話が必要だとは思わないかしら?」
「そうですね。少し、お話をしましょうか」
どうやらいつものジャレあいの一種のようだった。
だが、二人の背後には何やら不吉なオーラが見える気がする。多分だが、この後に起こる『話し合い』というのは、ただの話し合いでは済まない類のものだろう。
二人も周りへの被害を考えるだろうが、実際に二人が戦ったらそれなりに被害が出るだろう。
何せ、ただの肉体能力ならイリンの方が圧倒的だ。それに対抗するためには環ちゃんは魔術とスキルを使用していかなければならない。でもそうなると、今度はイリンの方も少し本気を出さないといけない。
ほら、被害が出るのは目に見えているだろう?
俺はため息を吐くと、パンと手を叩いて二人の注意をこちらに向ける。
「そこまでだ。一応、今は話し合いの途中だ」
二人は渋々と言った様子ではあるが、背景として出ていたオーラを引っ込めて再び話を聞く体勢へと戻った。
それでも、環ちゃんは最初の時のように殺意を持っているわけでもないし、二人とも後に引きずるような険悪さじゃないのだからまだマシなのだと思える。
「改めて聞くけど、二人は一ヶ月後に出発しても良い、ってことで良いのか?」
「「はい」」
二人は先ほどまで喧嘩をしようとしていたとは感じさせないほどに息をぴったりにして返事をした。
「そうか。突然のことなのに、ありがとう」
こうして俺たちは一ヶ月後にはこの街を出て旅に出ることが決まった。
イリンと環ちゃんの二人が家事を終えて一階のリビングへと集まってきた。この後は特になにがあるってわけでもないので、ゆっくりと話をする時間が取れる。
「相談ですか?」
「何かあったんですか?」
環ちゃんは何か問題でもあったのかと少し心配そうに訪ねてくるが、俺は首を振って否定する。
「いや、何かあったってわけじゃないよ。そろそろこの街を出て行こうかと思ってね。それで二人はどう思ってるのか聞こうかなって」
「ここを出て行く……以前から言っていた旅に出るのですか?」
「ああ。まあ出ていくって言っても今すぐにじゃなくて、一ヶ月後くらいのつもりでいたんだけど、どうかな?」
流石に今すぐに出て行くって言っても準備ができていないし、この街にいる間にできた知り合いに挨拶もしないとだ。
それに後一ヶ月で俺がこの世界に来てから一年になる。どうせ旅に出るっていうんなら、その節目にするのがちょうど良いと思った。
でも、それは俺がそう思ったからであって、二人がもっとここに居たいというのならいても良いと思っている。まあ流石にずっとは無理だけど。
イリンの故郷に行かないといけないし、勇者二人の洗脳を解除する方法も探さないといけない。それに何より、俺がこの世界を旅したい。
とはいえ、最後のは俺のわがままだ。いや、言ってしまえば勇者の子達を助ける方法を、ってのも俺のわがままとも言える。
けどイリンの事に関しては早めに一度帰っておいた方がいいだろう。ここにいる時間を伸ばしたとしても、せいぜい半年くらいだろうか? その後になるとまた冬の準備があるから~、なんて迷惑になりそうだし落ち着いて滞在できない。
「私は構いません。私の居場所はあなたの横ですから」
「私もついていきます!」
だがイリンも環ちゃんも、特に悩むそぶりを見せる事なく俺の提案を受け入れてくれた。
「ありがとう。二人とも」
良かった。二人に了承してもらえたのなら、後は一ヶ月後に出ていけるように準備と挨拶まわりに行かないとだな。
「それにしても、今なのはキリーさん達が出ていったからですか?」
「うんまあ、それがきっかけではあるな」
「きっかけ……ということはもっと別な理由も?」
環ちゃんの問いに、俺はどうして一ヶ月後に旅に出ようなんて言ったのか、その理由を話す。
「ああ。実は、ってほどでもないんだけど、後一ヶ月もすれば俺たちがこっちの世界に召喚されて一年経つし、旅立つ節目としてはちょうどいいかなって思ってね」
「! そうですね。ちょうどいいかもしれません!」
俺がそう説明すると、環ちゃんは目を丸くして驚いた後、急に機嫌よく笑った。
「どうしたのですか、タマキ」
その理由はイリンにも分からなかったようで、少しだけ眉を寄せながら不思議そうに首を傾げて尋ねている。
そんなイリンに、環ちゃんは笑いを向けると、彼女が喜んでいる理由を話し出した。
「ふふっ、彰人さんがこっちに召喚されてから一年ってことは、私が召喚されてから一年ということ。そして、それはつまり私たちが出会ってから一年ということでもあるわ。一度離れ離れになった私たちがもう一度出逢い、そして初めて出会ってから一年後に一緒に旅に出るなんて素敵じゃないかしら」
……まあ、素敵っていえば、素敵……なのか?
俺は特にそんな事を考えていた訳じゃないけど、俺の一年の節目で旅に出たいって考え方もある意味では環ちゃんと同じようなものだと言える。
だがそれを聞いたイリンは少しだけむすっとした顔になっていた。
「……あなたは、時折すごく夢みがちになりますね」
そしてなにを思ったのか、イリンは微妙にトゲを感じさせる声で環ちゃんにそう言った。
「なに? 悪いかしら? それとも負け惜しみ?」
俺が感じたように環ちゃんもそう感じたのか、やけに挑発的な返事をしている。
「……負け惜しみなど……そのようなもの、する必要がありません。確かにあなたのいう状況は素敵と言えますが、実際には一度別れてから再び出逢うよりも、その離れていた期間ずっと一緒にいた方がいいに決まっているではないですか」
「む……そんなの、これから遺書にいる時間を考えたら微々たる差でしかないんじゃないかしら?」
「その微々たる差で悔しい思いをしているのはどこのどなたです?」
「……」
「……」
「久しぶりに、ちょっと話が必要だとは思わないかしら?」
「そうですね。少し、お話をしましょうか」
どうやらいつものジャレあいの一種のようだった。
だが、二人の背後には何やら不吉なオーラが見える気がする。多分だが、この後に起こる『話し合い』というのは、ただの話し合いでは済まない類のものだろう。
二人も周りへの被害を考えるだろうが、実際に二人が戦ったらそれなりに被害が出るだろう。
何せ、ただの肉体能力ならイリンの方が圧倒的だ。それに対抗するためには環ちゃんは魔術とスキルを使用していかなければならない。でもそうなると、今度はイリンの方も少し本気を出さないといけない。
ほら、被害が出るのは目に見えているだろう?
俺はため息を吐くと、パンと手を叩いて二人の注意をこちらに向ける。
「そこまでだ。一応、今は話し合いの途中だ」
二人は渋々と言った様子ではあるが、背景として出ていたオーラを引っ込めて再び話を聞く体勢へと戻った。
それでも、環ちゃんは最初の時のように殺意を持っているわけでもないし、二人とも後に引きずるような険悪さじゃないのだからまだマシなのだと思える。
「改めて聞くけど、二人は一ヶ月後に出発しても良い、ってことで良いのか?」
「「はい」」
二人は先ほどまで喧嘩をしようとしていたとは感じさせないほどに息をぴったりにして返事をした。
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