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王国との戦争

330:なんでいんの?

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 復興の手伝い一日目を無事に終えて、俺たち三人は家へと帰っている。
 帰りの道中、復興中であるにも関わらず、すでにいくつかの屋台なんかが出来ていた。

 よく見るとそういった屋台は子供達が作業しており、事情を聞くと孤児院の者達らしい。彼らは未だ子供なので瓦礫を運んだり建物を建てたりはできないので、屋台をやっているのだと言う。
 こんな時に復興の手伝いをしないで屋台なんてやっていると周りに何か言われそうだが、屋台をやっている物達もしっかりと復興には協力しているらしい。
 復興中は収める税金が上がるらしく、それが復興の協力になるんだとか。

 この子達は孤児であるが故にまともな稼ぎなんてないだろう。今やっているのも、復興の協力動向ではなく、純粋に少しでも稼ぎになればと思ってやっているんだと思う。
 だが、その稼ぎの多くは税金で持っていかれている。それではまともな収入になんてならないだろう。
 だから、少しでも彼らの助けになればと思って、そんな子供達がやっている屋台を見つけた俺はその屋台で適当に買い食いをしていた。もちろん俺一人分だけじゃなくて二人にも買ってあげた。そして、料金を少し余分に渡した。

 偽善だとか言われそうだが、それがどうした。俺はやりたいからやっただけだ。誰に文句を言われる筋合いはないし、言われてもどうでもいい。

 それにどうせ金は余ってるんだ。王国から奪った物だけど、王国の奴らのせいでこんな被害が出てるんだ。だったらその金をこの国の者に還元しても問題ないだろう。

 そう言った屋台の他には普通にやっている店待ったので、そのうちの一つである服飾店に寄った。
 これは環ちゃんの服を買うためだ。
 環ちゃんもいくつか自分の服を持っていたのだが、その全てが高価で、貴族や金持ちが切るようなものだった。これまでスーラのところの里にいた時は価値観の違いからそんなに目立たなかった。というかそもそも人間ってだけで目立っていたから服なんて関係なかった。
 でもここではもっと一般人ぽい服を着た方がいいだろうと思い、服を買ってあげることにした。

 女性と一緒に街を歩いて服を買ってあげるだなんて、まるでデートだな。
 まだ環ちゃんにどう接するか迷っているのに浮かんだそんな考えに、俺は自嘲的な笑みをこぼした。




「ただいまー」
「おお、帰ったかアンドー!」

 だがそうして三人で話したりしながら家に帰ると、どういうわけかケイノアでもキリーでもガムラでもない、聴きなれない声が俺達を出迎えた。

「は?」

 俺は思わず間の抜けた声を上げてしまうが、それも仕方のないことだろう。

「……なんでお前がここにいんの?」

 家の中をよく見ると、リビングに置いてあるソファーには見慣れないが見覚えのある、できれば今後会いたくなかった赤い髪の女性が寝そべってくつろいでいたのだ。
 見覚えのある赤い髪の女性──クーデリア王女だ。

「つれない事言うなよ。私たちの仲じゃないか」

 どんな仲だよ。俺はお前とそんなに仲良くなった覚えはないんだが?
 というかこいつに家を教えた記憶は無いんだが、なんで知ってんだ? グラティースが教えたって事はないだろうから、もしかして調べたのか? この脳筋が?

「あー、悪いね。その王女様はあたしの客だよ」
「キリー」

 俺が困惑していると、キッチンの方からキリーがやって来た。おそらくは今日も料理を作ってくれていたんだろう。

「詳しく聞いてもいいのか?」
「もちろん。ここはあんたの家なのに、あたしが勝手にあげてるわけだしね」

 キリーはそう言うと、「ちょっと待ってな」と言い残してキッチンに戻って行き、少しするとまたこちらに戻ってきて話し始めた。

「この王女様とは街が襲われた時にあったのさ。んでその時に今度あたしの店で食べさせてやるって約束をしたんだけど、ほら。あたしの店の状態は知ってるだろ?」

 キリーの店は襲撃の時に壊されたと聞いている。だからこそこの家に止まっている訳だし。

「それで壊れちまったもんで店には誘えないって言ったらこの王女様、店じゃなくてもいいからあたしの料理が食べたいっていうんだよ。それで、まあその、なんだ……ついね……」

 そこでキリーにしては歯切れが悪く言葉尻が小さくなっていき、視線も俺たちから少し逸らされた。
 だが、その反応でキリーが何を思ったのか理解できた。
 多分キリーは自分の料理が食べたいと言われたのが嬉しかったんだろうと思う。今までも店では言われてきたと思うが、それでも何か思うものがあったんじゃないだろうか?

「で、それ以来数日に一度は来てるんだよ」
「事情は分かったよ。でもお前は城で食事を取らなくていいのか?」

 まあ、そういう理由があるのは分かった。

 だが、こいつは王女らしくはないが、一応は王女様だ。
 そんなやつが、それなりにいい場所とはいえ一般人の家に食べに来るなんて、他の奴らは許しているんだろうか?

「別にいてもやる事もないし、いらないって言ってあるから大丈夫だろ」
「いや、それもだけど、そうじゃなくて、キリーの料理はなんていうか……独特だろ?」
「ああ、あれな。面白いよな。それに美味かった」
「美味しいって言葉否定しないけど、それをお前みたいな王族が食べてもいいもんなのか?」

 キリーが作るのは魔物を使った料理だ。
 とは言っても魔物由来の材料を使った料理なんてみんな食べたことはあるはずだけど。それこそ王族だって。
 でも、そこらへんに広く知られているようなものであれば魔物料理も文句は言われないんだろうけど、『ゴブリン肉のスライムソースがけ』なんかだと文句を言う奴だっていると思う。

 後から変なものを王女に食べさせたとか言われるような状況にはならないだろうな?

「大丈夫だ。文句なんて言わせない」
「いや、それでも言う奴はいるんじゃないか?」

 こいつは簡単に丸め込まれそうだし、こいつの事自体はそんな事をしないって信じているが、こいつの言葉はあんまり信用できないんだよなぁ……

「なあアンドー、知ってるか? 私はこの国の姫なんだぞ」
「知ってるよ」

 姫って言葉がこれ以上無いくらいに似合ってないけどな。

「つまり私は偉いんだ! 文句を言う奴がいたら叩き潰せばいい!」

 その『叩き潰す』ってのは権力を使ってなのか、物理的になのか微妙にわかりづらいな。どっちでも効果はありそうだけど。でも、それでいいのか?

「それは……大丈夫って言っていいのか?」
「文句があればかかってくればいい! いつでも相手になるぞ私は!」

 そう言ってクーデリアは獰猛に、挑発的に笑う。

「アンドーも文句が有るのか?」
「あるか無いかで言ったら、無いな」

 俺としてはキリーだけではないが、身内に迷惑がかからなければわりとどうでもいいので、文句はない。

「そうか……無いのか……」
「なんで文句が無くて悲しそうなんだよ」

 だが、俺が文句がないと言うと、クーデリアは目に見えてしょんぼりと落ち込んだ。
 これは『文句がなくて』つまらないというのではなく、『戦いにならなかった』せいでつまらないとかそんな感じだと思う。

 だとしても俺は絶対に戦わないぞ。こんな状況で戦ってられるかってのもあるけど、それ以上にめんどくさい。
 技術の競い合いとかはそれなりに好きだけど、こいつと戦うと収納を使う必要がある。そうなると競い合いじゃなくなるから、ただ本当に面倒なだけなのだ。
 だから絶対に戦わないぞ!




「なあ、また来てもいいか?」

 結局、キリーの作った夕食をクーデリアを交えて食べたのだが、いざ帰るという時になってクーデリアは最後にそんな事を言った。
 そんなクーデリアの言葉に俺はため息を吐く。どうやらこいつはまた来るようだ。
 でも今更か。俺がいない間に何度かきてたみたいだし、今更言ったところで意味なんてないだろう。

「……まあ、構わない」
「よしっ! ならまた来るから、そん時はよろしくな!」

 クーデリアはそう言って笑いながら帰っていった。
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