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王国との戦争

295:苛立ちと追加

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本日は設定ミスで投稿できていませんでした。申し訳ありません!

お詫びとして本日は裏話ではありますが後二話投稿しております。どうぞそちらもお読みください。

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「オマエがッ! オマエがいたカラ! オマエさえイナケればイリンは!」

 妙に聞き取りづらい重なって聞こえる声で叫ぶウース。

 異形となったウースは、背中から新たに生えた歪な人の手を使って乱暴に掻き毟っている。

 それははたから見れば、化け物が狂いった行動をとっている様にしか見えないだろう。

 だが俺は、ウースはそれ程までに思い詰めていたのかと同情してしまった。

 俺がイリンを助けなければどのみちウースのそばにイリンがいる事はなかったのだろうが、それでも俺が関わらなければこいつはもっと普通に、真っ当に幸せを求められたんじゃないかって、そう思ってしまった。

「イリンッ! はッ! アレはオレノダ!」

 だがそんな俺の同情心は、ウースの言った言葉によって一瞬で消え去った。

 ウースの言った言葉──『アレ』。
 もしかしてだが、そのアレというのはイリンのことだろうか? いや、もしかしなくてもそうなんだろうな。

「カエセヨ! カエセヨオオオオオオオ!」

 尚も叫び続けるウースだが、俺はすでに奴に同情する気はなく、ウースを見る目が冷たくなっていくのが自分でも理解できる。

「……さっきから聞いてれば……返せだと? アレだと?」

 そして堪えきれずに口から出るのはそんな言葉。

「ふざけんな。イリンは俺のものだと言うつもりはないが、お前のものってわけでもねえよ。イリンが俺のところに来たのは、あいつ自身が選んだことだ」
「ガアアアア!」

 ウースは俺の話を聞く事なく走り出し俺へと攻撃してくるが、俺は構う事なく話し続ける。

 イリンが拐われた際のウースの行動を思えば、奴に対するイリンの行動はあんまりと言えばあんまりである。

 幼いころから仲良くしてきて、将来は結婚するはずだった相手。
 そんな相手が突然いなくなり、探しに行って見つけたと思ったら自分ではない男に好意を向けている。

「確かに俺はお前から見ればイレギュラーだろうな。イリンが死にそうなところを助けたとは言え、それでもお前らの『あるはずだった今後』に影響を与えたのは否定しない。イリンが俺を選んでくれた事は嬉しいが、それ自体は多少なりとも悪いと思ってるんだ。……いや、悪いと思ってんだ」

 そうなればその相手の事を恨んでも仕方がない。俺だってそれを理解しているから恨まれる覚悟はしていた。

 だが今のウースを見ている限りでは、到底そう思えない。

「ジャマダアアアッ! キエロキエロキエロオオオオ!」

 殴りかかられる丸太のように太い腕を収納魔術で防ぎ、ウースの頭上や後方に展開した収納魔術から剣や槍を射出して攻撃を加えて行く。

 そもそも、将来の結婚相手というのだって正確ではない。なにせイリンは結婚の約束などしたことがないらしいのだから。
 親や周りが勝手に口にしていただけであり、それだって明確な約束ではなくそうなるんじゃないか、程度のものだという。

 それに、イリンは俺と会った時にすでにかなり精神的に成熟していた。そんなイリンであれば、結婚についても考えたことがあるだろう。ウースをそういう相手として見た事だってあるはずだ。
 それなのにイリンが里に帰るための心の拠り所になれなかったのはウース自身のせいだ。
 本当に好きなんだったら、しっかりとイリンを繋ぎ止められるように行動しておくべきだった。それだけの時間はあったはずなのだから。

「けどな、だからといってイリンのことを物扱いした事を許せるわけじゃないし、今のお前にイリンを任せたいとも思えない」

 ウースはあたかもイリンが自分の『もの』であるかのように思い込み、こんな姿になってまで暴れている。

 自分の好きな人のことを『もの』として扱うような奴に、イリンを預けられるはずがないし預けたいとも思えない。

「ウルサイウルサイ! オマエサエイナケレバッ!」

 叫びながら今もなお続くウースの連撃には最初ほどのキレがなく、ただ闇雲に暴れているようにしか見えず、その姿は、まるで駄々をこねる子供のようだった。

「それに、お前はイリンの事が好きらしいが……それは本当にそうなのか? イリンのことが好きだ。手に入れたいなんて思うんなら、何でこっちに来た? 何でイリンのところへ行かなかった? 俺のところにこれたんだから、イリンのところにだって行こうと思えばいけたはずだ。今なら俺がいないわけだし、素直にイリンのほうに行けばよかったじゃないか。そら、今ならイリンを連れて行くのは簡単だぞ?」

 そう。今イリンは治療のために意識がないんだから攫うのは簡単だ。
 まあイリンを守るためにコーキス達がいるけど、少なくとも連れて行く時にイリンに手を振り払われる事はない。ウースはそれを知らないだろうが、それでも、返せと、欲しいと願うのならそっちにいくべきだ。いやそっちに行かないとおかしい。だってこっちにはイリンはいないんだから。
 だというのにウースは、何故か求めているはずのイリンではなく俺の方へとやって来た。

「ゥグウウウアアアアア!」

 ウースは聞きたくないとばかりに頭を押さえ振っているが、そんな事をしたところで、何の意味もない。

「……結局お前は、自分の思い描いていた理想が現実にならないことに腹を立ててるだけなんだよ。そしてその邪魔をした俺が憎い。だから俺を殺したい。ただそれだけだ」
「ダマレエエエエェェェェェ!」

 俺の言葉とともに悲鳴のようにも思える叫びを上げながら、ウースは新たに何本もの腕を背中から生やす。
 その腕は人のものが多いが、中には人ではないものまで混じっている。どうやら、ウースは本当に『人』を辞めた様だ。

「まあもし違ったとしても……」
「シネエエエエエェェェエ!」

 そしてその腕で体に刺さっている武器を乱暴に抜き、その傷が瞬く間に塞がっていったと思ったら抜いた武器を構えて俺へと突進をした。

 でも……

「今はもう、イリンのことを手放す気はないんでね」

 誰が何と言おうと、イリンに拒絶されない限り俺はあいつの事を離さない。

「一応殺さないように加減はするが……」

 俺はそう言うと自分より前の地面を全て収納した。

 突進してきたウースは突然なくなった足場に対応する事ができずに、その穴へと落ちて行く。

「死んでも文句は言うなよ」

 そして、ウースだったものが落ちていった穴の天井を塞ぐように収納魔術を展開し、そこから雨のように武具を降り注がせる。

「再生能力があるみたいだし、死にはしないだろう」

 ウースは地面の下に閉じ込められたまま暴れているが、それでも蓋となっている収納魔術を壊す事はできないでいる。

 だが、そうして適度に加減しながら攻撃をしていると……

 ──ガアアアアアァァァッ!!

「ッ──! くそっ、今度は何だってんだ!?」

 遠くからそんな叫びが聞こえ、同時に何かが勢い良く飛んできて俺へと当たった。
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