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王国との戦争
293─裏:ウースの異変
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──ガアアアア!!
街を歩いていると、突然建物を壊しながら魔物が現れた。
いや、あれは魔物なのか? あんなのは今までに見たことも聞いたこともない。
「チッ! なんだよお前ら!」
けど、襲ってくるんだったら倒すまでだ。
俺はイリンを攫って行ったあの男──アンドーとかいうクソ野郎からイリンを取り戻すために鍛えてた。
本当は今すぐにでもアイツを倒してイリンを取り戻したいが、前に戦ったときは勝てなかった。
俺はイリンを取り戻すのに、取り戻さなくちゃいけないのに、でも出来なくて、それが悔しくて情けなくて、勝てなかったときは頭ん中がぐちゃぐちゃして訳が分からなくなった。
けど今の俺は違う。大会で負けたあの後、変な奴から手に入れた薬。あれを使ってから俺の力は強くなった。
純粋な力は上がり素手で岩を砕けるようになった。
大地を蹴ればより風を感じられるようになった。
怪我の治りも早くなり骨が折れた程度じゃ三日もあれば治るようになった。
もちろんそれがおかしいなんてのは分かってる。アイツから買った薬は、違法なもんを使ってる筈だ。じゃないとこれほどの効果はありえない。
だけどっ! ……だけど、そうだったとしても、俺はそれを使ってでもアイツに勝たないといけないんだっ!
そうじゃないと、俺はいつまで経っても……
……それに、イリンも助けないとだ。
だから、早くアイツを倒して俺は里に帰るんだ。
親父の言いつけを破ってこっちに来たが、まだ掟を破ったわけじゃない。だからまだ戻れる。
アイツを殺して、イリンを手に入れて、それで里に戻る。
そうすれば、全部元通りだ。元通りに戻るんだ。
だから、早く強くならないと……
「だってのに、なんなんだよこいつらは!」
襲いかかってきた魔物を殺しながら、俺は冒険者ギルドへと向かう。
元々は狩った魔物を売りにいく途中だったんだが、その途中でこいつらに襲われた。
こいつらの正体は分からないが、ギルドに行けば何かしら分かるだろう。
俺がこの街のために動く必要なんてないんだが、さっさと解決しないと装備や道具の補充ができない。
俺はまだまだ強くなるために戦わなくちゃなんねえんだ。
「ほらあんたら! さっさと動きなさい!」
ギルドに行くと、生意気そうなエルフの……多分女が周囲の冒険者達に命令していた。
関わると面倒そうだから、そいつを避けて受付に状況を聞きに行った。
だが、どうもギルドでも状況を把握していないようだ。一応対処はしているが、原因は分かっていないとのこと。
「……ん? あれ?」
魔物の討伐を頼まれたが、そんなことを頼まれなくても俺はやるつもりだった。
さっさとこの騒ぎを終わらせてアイツを倒すために強くならねえと……
「あっ、ちょっ! ちょっとあんた! 待ちなさいよ!」
そう思ってギルドから出て行こうとした時に、冒険者達に命令していたエルフが俺の肩を掴んで引き留めた。
うるさい。なんだってんだ。こんな状況だけでもイラつくのに、これ以上邪魔するんじゃねえよ。
「待てって言ってんでしょ!」
俺はその肩を掴んだ腕を強引に振り解き、走ってその場からギルドから出て行った。
「あんたっ! ……もーーー!! 誰かアイツを──」
背後から引き止めるエルフの声が聞こえたが、どうでもいい。さっさと魔物を狩って終わらせるんだ。
「ハアアッ!」
ギルドを飛び出してから遭遇する魔物を狩ったが、その数はとっくに十を超えていた。
「……だいぶ狩ったのに減らないな……増えてる?」
俺以外にも魔物を狩っている筈だ。なのに減らないって事は、新しく増えてるって事だ。
「なら元凶をどうにかしないとか」
そう判断して元凶を探そうとしたのだが、問題はどうやって元凶を探すかだ。
「イリン!」
元凶を探す方法を考えていると、背後からそんな声が聞こえ、俺の心臓が跳ねる。
「っ!?」
だが振り返ったそこにはイリンの姿はなく、魔物に襲われかけていた子供の姿があるだけだった。
求めた者ではなかったが、とりあえず魔物を切っておこう。話を聞くにしても邪魔だし。
「セアッ!」
そうして魔物を切って、いざ話を聞こうと思い振り返る。
「ああ、イリス! よかった。無事でよかった! ああ……」
イリス? イリンじゃなくて?
……聞き間違えたのか。
「ってそうだ! イリン! アイツは無事なのかっ!?」
今更ながらに気がついた。こんな魔物に街を襲われている状況で、あのイリンが生き残ってられるのか?
そうだ。元凶を探すことなんかよりも、もっと重要なことのはずだ。
「くそっ! 待ってろイリン。今行く──ぐっ!?」
だが、イリンを探すべく足に力を入れたところで、その足から力が抜け両膝をついてしまう。
そして起こったのはそれだけではなかった。
「ぐがぁっ!」
突然胸の奥から耐え難い痛みが襲いかかってきた。
思わず胸を押さえるが、その程度じゃ全然痛みが治らない。
「く、そ……。なんだよ、これ……」
なんだよこの痛みはっ! これからイリンを探さないといけないってのに、なんで今!
まるで全身の骨を砕いて肉を溶かして作り替えているかのような堪え難い痛み。
くそっ、なんだ、何が原因だ!
だがいくら考えても痛みのせいで考えがまとまらない。
「あ、ああ……ああああああ!!」
……なんだ、これ……。
痛みが終わるのをただ何もできずに待っていると、次第に痛みは収まっていき、今ではもうさっきまで俺を襲っていた痛みがきれいになくなっていた。
……なんだよこれ。なんでこんな……こんな事になってんだよ!
だが、倒れていた体を起こして自分の体を見てみると、そこには間違いなく自分の体があるはずなのに、俺の体ではなかった。
全身が大きく膨れ上がり、気持ちの悪い毛に覆われている。
顔はわからないけど、いつもと感覚が違う。
これじゃ元通りなんて……いや違う。まだだ。まだ大丈夫だ。アイツさえ、元凶のアイツさえ殺せば、まだ大丈夫だ。
だからっ! ……ああそうだ。そうだった。殺せば良いんだ。アイツさえ殺せればそれで良いんだ。
「ガアアアアアア!!」
「きゃああ!」
振り回した腕が周りの建物を砕く。その時に聞こえた音が、壊した感触が心地良い。
……ああ、これなら勝てる。負けるはずがない。やっと殺せる。やっとアイツをコロスことができる!
殺す殺すころすころすころすコロスコロス──アイツをコロス。
「アンドオオオォォー!」
オマエヲッ、コロスウウウゥゥ!
街を歩いていると、突然建物を壊しながら魔物が現れた。
いや、あれは魔物なのか? あんなのは今までに見たことも聞いたこともない。
「チッ! なんだよお前ら!」
けど、襲ってくるんだったら倒すまでだ。
俺はイリンを攫って行ったあの男──アンドーとかいうクソ野郎からイリンを取り戻すために鍛えてた。
本当は今すぐにでもアイツを倒してイリンを取り戻したいが、前に戦ったときは勝てなかった。
俺はイリンを取り戻すのに、取り戻さなくちゃいけないのに、でも出来なくて、それが悔しくて情けなくて、勝てなかったときは頭ん中がぐちゃぐちゃして訳が分からなくなった。
けど今の俺は違う。大会で負けたあの後、変な奴から手に入れた薬。あれを使ってから俺の力は強くなった。
純粋な力は上がり素手で岩を砕けるようになった。
大地を蹴ればより風を感じられるようになった。
怪我の治りも早くなり骨が折れた程度じゃ三日もあれば治るようになった。
もちろんそれがおかしいなんてのは分かってる。アイツから買った薬は、違法なもんを使ってる筈だ。じゃないとこれほどの効果はありえない。
だけどっ! ……だけど、そうだったとしても、俺はそれを使ってでもアイツに勝たないといけないんだっ!
そうじゃないと、俺はいつまで経っても……
……それに、イリンも助けないとだ。
だから、早くアイツを倒して俺は里に帰るんだ。
親父の言いつけを破ってこっちに来たが、まだ掟を破ったわけじゃない。だからまだ戻れる。
アイツを殺して、イリンを手に入れて、それで里に戻る。
そうすれば、全部元通りだ。元通りに戻るんだ。
だから、早く強くならないと……
「だってのに、なんなんだよこいつらは!」
襲いかかってきた魔物を殺しながら、俺は冒険者ギルドへと向かう。
元々は狩った魔物を売りにいく途中だったんだが、その途中でこいつらに襲われた。
こいつらの正体は分からないが、ギルドに行けば何かしら分かるだろう。
俺がこの街のために動く必要なんてないんだが、さっさと解決しないと装備や道具の補充ができない。
俺はまだまだ強くなるために戦わなくちゃなんねえんだ。
「ほらあんたら! さっさと動きなさい!」
ギルドに行くと、生意気そうなエルフの……多分女が周囲の冒険者達に命令していた。
関わると面倒そうだから、そいつを避けて受付に状況を聞きに行った。
だが、どうもギルドでも状況を把握していないようだ。一応対処はしているが、原因は分かっていないとのこと。
「……ん? あれ?」
魔物の討伐を頼まれたが、そんなことを頼まれなくても俺はやるつもりだった。
さっさとこの騒ぎを終わらせてアイツを倒すために強くならねえと……
「あっ、ちょっ! ちょっとあんた! 待ちなさいよ!」
そう思ってギルドから出て行こうとした時に、冒険者達に命令していたエルフが俺の肩を掴んで引き留めた。
うるさい。なんだってんだ。こんな状況だけでもイラつくのに、これ以上邪魔するんじゃねえよ。
「待てって言ってんでしょ!」
俺はその肩を掴んだ腕を強引に振り解き、走ってその場からギルドから出て行った。
「あんたっ! ……もーーー!! 誰かアイツを──」
背後から引き止めるエルフの声が聞こえたが、どうでもいい。さっさと魔物を狩って終わらせるんだ。
「ハアアッ!」
ギルドを飛び出してから遭遇する魔物を狩ったが、その数はとっくに十を超えていた。
「……だいぶ狩ったのに減らないな……増えてる?」
俺以外にも魔物を狩っている筈だ。なのに減らないって事は、新しく増えてるって事だ。
「なら元凶をどうにかしないとか」
そう判断して元凶を探そうとしたのだが、問題はどうやって元凶を探すかだ。
「イリン!」
元凶を探す方法を考えていると、背後からそんな声が聞こえ、俺の心臓が跳ねる。
「っ!?」
だが振り返ったそこにはイリンの姿はなく、魔物に襲われかけていた子供の姿があるだけだった。
求めた者ではなかったが、とりあえず魔物を切っておこう。話を聞くにしても邪魔だし。
「セアッ!」
そうして魔物を切って、いざ話を聞こうと思い振り返る。
「ああ、イリス! よかった。無事でよかった! ああ……」
イリス? イリンじゃなくて?
……聞き間違えたのか。
「ってそうだ! イリン! アイツは無事なのかっ!?」
今更ながらに気がついた。こんな魔物に街を襲われている状況で、あのイリンが生き残ってられるのか?
そうだ。元凶を探すことなんかよりも、もっと重要なことのはずだ。
「くそっ! 待ってろイリン。今行く──ぐっ!?」
だが、イリンを探すべく足に力を入れたところで、その足から力が抜け両膝をついてしまう。
そして起こったのはそれだけではなかった。
「ぐがぁっ!」
突然胸の奥から耐え難い痛みが襲いかかってきた。
思わず胸を押さえるが、その程度じゃ全然痛みが治らない。
「く、そ……。なんだよ、これ……」
なんだよこの痛みはっ! これからイリンを探さないといけないってのに、なんで今!
まるで全身の骨を砕いて肉を溶かして作り替えているかのような堪え難い痛み。
くそっ、なんだ、何が原因だ!
だがいくら考えても痛みのせいで考えがまとまらない。
「あ、ああ……ああああああ!!」
……なんだ、これ……。
痛みが終わるのをただ何もできずに待っていると、次第に痛みは収まっていき、今ではもうさっきまで俺を襲っていた痛みがきれいになくなっていた。
……なんだよこれ。なんでこんな……こんな事になってんだよ!
だが、倒れていた体を起こして自分の体を見てみると、そこには間違いなく自分の体があるはずなのに、俺の体ではなかった。
全身が大きく膨れ上がり、気持ちの悪い毛に覆われている。
顔はわからないけど、いつもと感覚が違う。
これじゃ元通りなんて……いや違う。まだだ。まだ大丈夫だ。アイツさえ、元凶のアイツさえ殺せば、まだ大丈夫だ。
だからっ! ……ああそうだ。そうだった。殺せば良いんだ。アイツさえ殺せればそれで良いんだ。
「ガアアアアアア!!」
「きゃああ!」
振り回した腕が周りの建物を砕く。その時に聞こえた音が、壊した感触が心地良い。
……ああ、これなら勝てる。負けるはずがない。やっと殺せる。やっとアイツをコロスことができる!
殺す殺すころすころすころすコロスコロス──アイツをコロス。
「アンドオオオォォー!」
オマエヲッ、コロスウウウゥゥ!
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