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治癒の神獣
246:約束の内容
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「……すまないアンドー殿。以前の約束を覚えているか?」
昨夜のコーキス達とグラティースの関係を聞いた後は、どう考えてもそのまま楽しくお話しを、って空気じゃなかったしそれぞればらけて休む事になった。それぞれって言っても俺とイリンは俺の出した家の中で一緒にいたけどさ。
で、翌朝。今日はコーキスの故郷にたどり着くだろうと思って外に出て準備をしていると、すでに準備を終えて剣を振っていたコーキスが話しかけてきた。
以前の約束っていうのは、俺の能力についてどこまで知っているのかって質問に対する対価についてだろう。コーキスの知ってる事を話してもらう代わりに、俺はコーキスの言う事を一つ聞くと言う約束だ。
「ああ、もちろん覚えてるよ。でも何をすればいいんだ? まだ聞いてなかったよな?」
「なに、ただ私と戦ってほしいだけだ」
コーキスは自身の腰に視線を下げ腰に帯びている剣に手を乗せ、カチャリと鳴らした。
「……戦う? それは大会の時みたいに、って事か?」
「うむ。まあ、あの時とは違い、制限など設けずに全力で、ではあるがな」
俺のことを射抜くようなその視線は、コーキスの言葉が決して冗談の類ではないことが分かる。
でも戦うって、ここでか? 今日の昼過ぎには故郷に到着するって言ってたのに、なんで今になって……
「何故、と思っているのであれば、昨日の件だ」
「昨日の?」
「そうだ。昨日は無様な姿を見せたように、あの話を改めて口にすると少しばかり己の内側で燻るものがあってな。自身の感情を制御しきれないなど未熟でしかないのだが……今になっても尚、完全に収まる事がないのだ」
コーキスは視線を落として自身の掌を見つめ、その手をグッと握ると真正面から俺を見据えた。
「未熟を押し付けるようで心苦しいが、私と戦ってもらえぬか?」
要はストレス発散のためって事か。そのために思い切り暴れられる相手が欲しいと。
「それに、元々この場所で同じ願いをしようと思っていたのだ。ある意味では良かったとも言える」
「ここである理由は? 今日中には故郷に着くってんなら着いてからでも良いだろうし、別にあの時でもよかったんじゃないのか?」
「いや、ここだからこそ良いのだ。もし怪我をしたとしても、ここであれば今日中には里に着く。故に、治療が必要な時は私が責任をもって貴殿の負った怪我を治してもらうと約束しよう。
今日まで待っていたのはそのためか。致命傷を負ったとしても、回復薬等でしのぎながら急いで神獣の元まで連れて行けば死ぬことはない。そう考えてコーキスは今日まで待っていたのだろう。
「加えて、里では横槍が入るやも知れぬ。かと言って里からの帰りに私が同行できるとも限らん。そうなれば次はいつになるのかわからぬ。それでは遅いのだ」
理由はわかった。まだ納得しきれない部分もあるけど、それでもひとまずは理解できた。
だが、コーキスはなにを焦っているんだ? 俺の勘違いじゃなければ、コーキスは何か急いでいるように思える。
次がいつになるかは分からないって言ってるけど、今後絶対に戦えないってわけじゃないんだから、こんなに突然てなくてもいいだろうに……
「これは私の勝手な思いだが──負けたままではいられんのだよ」
……いや、俺にとっては突然だったかもしれないけど、コーキスにとっては突然なんかじゃないんだ。
負けたままではいられない。その言葉通りにいつか俺に勝つために機会を狙っていたのだろう。
「もちろん、貴殿を殺すつもりはないし、我らの故郷に案内をしよう」
今も続いている俺を射抜くような視線。これほどの真剣な瞳で見られれば、もう逃げ出すことなど出来はしない。
逃げる事が出来たとしても、俺が逃げたくない。そう思ってしまった。
「わか──」
「ならばその勝負。私としていただけませんか?」
だが、俺が了承しようと口を開いた瞬間にイリンが俺の前に現れ、こちらを睨むコーキスに立ちはだかった。
「い、イリン?」
「……何故、と聞いても良いか?」
「ええ。私の大切な方を傷つけ、今も再び傷つけようとしている。そんな相手を思い切り叩き潰したいと思ってもおかしくはないとは思いませんか?」
コーキスはイリンの言葉に一瞬だけポカンと呆けた後、
「くっ、なるほどな。私にはそこまで思うことの出来る『大切な人』とやらに出会った事はないが……イリン。貴女の想いの強さは理解できる。よかろう。それだけの想いを持っての挑戦を受けないのは戦士の恥だ。ならば貴女との戦いに勝った後に改めてアンドー殿に挑むとしよう」
「そんな事はさせません」
俺ではなくイリンとの戦いを承諾したコーキスは口元を歪めて獰猛に笑い、それと相対するイリンは俺の位置からは表情こそ見えないものの、やる気になっているように感じられた。
「えっと……イリン?」
「ご安心を。ご主人様にお手数をおかけする事はありませんので」
これから覚悟を決めて戦おうと思っていたのに、何故か俺を置いてきぼりにしてどんどん話が進んでいく。
主人と定めた者(俺)のために敵に立つ向かうとか……俺なんかよりもイリンがとっても男らしく見えるんだけど……
このままイリンに素直に引いてもらうのは無理なんだろうなぁ……仕方ない。
「はぁ。無茶はするなよ」
ため息を吐きながらそれだけ言って二人の戦いを認める事にした。今更止められないだろうし。
「ありがとうございます」
そしてイリンとコーキス。二人の戦いが始まる事になった。
昨夜のコーキス達とグラティースの関係を聞いた後は、どう考えてもそのまま楽しくお話しを、って空気じゃなかったしそれぞればらけて休む事になった。それぞれって言っても俺とイリンは俺の出した家の中で一緒にいたけどさ。
で、翌朝。今日はコーキスの故郷にたどり着くだろうと思って外に出て準備をしていると、すでに準備を終えて剣を振っていたコーキスが話しかけてきた。
以前の約束っていうのは、俺の能力についてどこまで知っているのかって質問に対する対価についてだろう。コーキスの知ってる事を話してもらう代わりに、俺はコーキスの言う事を一つ聞くと言う約束だ。
「ああ、もちろん覚えてるよ。でも何をすればいいんだ? まだ聞いてなかったよな?」
「なに、ただ私と戦ってほしいだけだ」
コーキスは自身の腰に視線を下げ腰に帯びている剣に手を乗せ、カチャリと鳴らした。
「……戦う? それは大会の時みたいに、って事か?」
「うむ。まあ、あの時とは違い、制限など設けずに全力で、ではあるがな」
俺のことを射抜くようなその視線は、コーキスの言葉が決して冗談の類ではないことが分かる。
でも戦うって、ここでか? 今日の昼過ぎには故郷に到着するって言ってたのに、なんで今になって……
「何故、と思っているのであれば、昨日の件だ」
「昨日の?」
「そうだ。昨日は無様な姿を見せたように、あの話を改めて口にすると少しばかり己の内側で燻るものがあってな。自身の感情を制御しきれないなど未熟でしかないのだが……今になっても尚、完全に収まる事がないのだ」
コーキスは視線を落として自身の掌を見つめ、その手をグッと握ると真正面から俺を見据えた。
「未熟を押し付けるようで心苦しいが、私と戦ってもらえぬか?」
要はストレス発散のためって事か。そのために思い切り暴れられる相手が欲しいと。
「それに、元々この場所で同じ願いをしようと思っていたのだ。ある意味では良かったとも言える」
「ここである理由は? 今日中には故郷に着くってんなら着いてからでも良いだろうし、別にあの時でもよかったんじゃないのか?」
「いや、ここだからこそ良いのだ。もし怪我をしたとしても、ここであれば今日中には里に着く。故に、治療が必要な時は私が責任をもって貴殿の負った怪我を治してもらうと約束しよう。
今日まで待っていたのはそのためか。致命傷を負ったとしても、回復薬等でしのぎながら急いで神獣の元まで連れて行けば死ぬことはない。そう考えてコーキスは今日まで待っていたのだろう。
「加えて、里では横槍が入るやも知れぬ。かと言って里からの帰りに私が同行できるとも限らん。そうなれば次はいつになるのかわからぬ。それでは遅いのだ」
理由はわかった。まだ納得しきれない部分もあるけど、それでもひとまずは理解できた。
だが、コーキスはなにを焦っているんだ? 俺の勘違いじゃなければ、コーキスは何か急いでいるように思える。
次がいつになるかは分からないって言ってるけど、今後絶対に戦えないってわけじゃないんだから、こんなに突然てなくてもいいだろうに……
「これは私の勝手な思いだが──負けたままではいられんのだよ」
……いや、俺にとっては突然だったかもしれないけど、コーキスにとっては突然なんかじゃないんだ。
負けたままではいられない。その言葉通りにいつか俺に勝つために機会を狙っていたのだろう。
「もちろん、貴殿を殺すつもりはないし、我らの故郷に案内をしよう」
今も続いている俺を射抜くような視線。これほどの真剣な瞳で見られれば、もう逃げ出すことなど出来はしない。
逃げる事が出来たとしても、俺が逃げたくない。そう思ってしまった。
「わか──」
「ならばその勝負。私としていただけませんか?」
だが、俺が了承しようと口を開いた瞬間にイリンが俺の前に現れ、こちらを睨むコーキスに立ちはだかった。
「い、イリン?」
「……何故、と聞いても良いか?」
「ええ。私の大切な方を傷つけ、今も再び傷つけようとしている。そんな相手を思い切り叩き潰したいと思ってもおかしくはないとは思いませんか?」
コーキスはイリンの言葉に一瞬だけポカンと呆けた後、
「くっ、なるほどな。私にはそこまで思うことの出来る『大切な人』とやらに出会った事はないが……イリン。貴女の想いの強さは理解できる。よかろう。それだけの想いを持っての挑戦を受けないのは戦士の恥だ。ならば貴女との戦いに勝った後に改めてアンドー殿に挑むとしよう」
「そんな事はさせません」
俺ではなくイリンとの戦いを承諾したコーキスは口元を歪めて獰猛に笑い、それと相対するイリンは俺の位置からは表情こそ見えないものの、やる気になっているように感じられた。
「えっと……イリン?」
「ご安心を。ご主人様にお手数をおかけする事はありませんので」
これから覚悟を決めて戦おうと思っていたのに、何故か俺を置いてきぼりにしてどんどん話が進んでいく。
主人と定めた者(俺)のために敵に立つ向かうとか……俺なんかよりもイリンがとっても男らしく見えるんだけど……
このままイリンに素直に引いてもらうのは無理なんだろうなぁ……仕方ない。
「はぁ。無茶はするなよ」
ため息を吐きながらそれだけ言って二人の戦いを認める事にした。今更止められないだろうし。
「ありがとうございます」
そしてイリンとコーキス。二人の戦いが始まる事になった。
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