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治癒の神獣

243:答え合わせ

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「しかし本当に収納魔術であったか。いやはや、あのようなことができる者がいるとは、やはり世界とは広いな」

 苦笑から一転。コーキスは腕を組み何かを思い出すように目を閉じて、感心したように呟きながらうなずいている。

 俺としてはコーキスがどこまで理解しているのかが気になる。
 コーキスが知ってるって事は他のやつも知ってるって事で、収納を使うのを控えるつもりはないけど、その内容によっては今後の対応も変わるかもしれない。

「なあ、コーキス。俺の術についてどこまで把握しているか聞いてもいいか?」
「む? ふむ、答え合わせか……よかろう」

 コーキスは俺の言葉に何かを考え込むような仕草を見せてから頷いたが、しかしそれと同時に一つの提案をしてきた。

「だが、代わりと言ってはなんだが、この旅の間に一度だけ私の頼みを聞いてはくれまいか?」
「頼み? ……まあ、内容次第なら……」
「内容はまだ言えぬが……なに、すぐに終わる」

 爬虫類の顔でニヤリと笑うのはどう見ても悪事を企んでいるような悪者顔にしか見えないが、ここまでコーキスと付き合ってきて、この人は俺達を罠に嵌めるようなことはしないだろうと思っている。

「わかった。そっちの頼みを聞くよ。だから教えてくれ」

 武人のような性格をしているコーキスなら、そんな無茶な頼みはしないだろう。

 まあ多少の無茶であればこなせる自信はあるし、大丈夫だろう。それよりも、能力についてどの程度知られているのかが気になる。

「では私の予想ではあるが話そう……まず確認したいのだが、貴殿の術は収納魔術、というのは合っているか?」
「ああ。そこから応用したりはするが、基本はそれだ」

 敵を弾いたり押し潰したりってのは、あくまでも応用。本来の使い方ではない。
 本来は術の名前通り、ただ単に物を出し入れするだけの魔術で、それはスキルの方も同じだ。

 コーキスは俺の言葉に頷き話を続ける。

「何度か見た敵の武器を奪うのはそのまま武器を収納しただけであろう」

 武器を振るう敵の攻撃に合わせて収納魔術を発動し、非生物である武器は収納の渦の中にしまわれていく。それが武器奪取の方法だ。

「敵を弾く盾として使っていた事に関しては、それもまた収納魔術の効果である『生物はしまえない』というものを利用したのであろう」

 そして、奪取の際に収納の渦にぶつかった武器の持ち主は、この間のアンデットなどの例外を除き基本的には生き物なので、収納できずに弾かれる。

 俺はその性質を利用して盾として使う事もある。

「問題は貴殿は収納魔術で生み出した入り口を動かして敵に叩きつけた。貴殿以外にそんな事をしている者はいないが、これも消費魔力が多すぎてその使用法は現実的ではないというだけで、他の術者でも出来ないことではない」

 そう。コーキスの言ったように、俺のやっている戦い方は俺以外でもできるのだ。収納魔術はあくまでも魔術であって、再現不可能な『スキル』じゃないんだから。

 まあ、俺みたいに使いこなすようになるまでに障害がないとは言わないけど、できないわけじゃない。

 実際、王国でも似たような事は考えて実験していたみたいだし。その非効率さから見限られた技術で、今は他の空間干渉系魔術の研究をしているみたいだ。

「故に、貴殿の魔術は、どこまでいっても普通のものである。というのが私の中での結論だ……ただ貴殿の収納魔術に関する適性が良すぎるというだけだ。魔術を使うものにとっては常識だが、魔術の適性如何では、その魔術に関する魔力の消費量が格段に少なくなる。生来魔術が分かりやすい例であるな。私で言えば……」

 コーキスはそこで一旦言葉を止めると、腰につけていた短剣を取り出し、自身の腕を切り裂いた。

 そんなことをすれば、当然ながら傷ができ血が流れる。事実、コーキスの腕からは血がポタポタと地面に零れ落ちている。

 だが、その傷は俺が見た限りじゃ結構深かったはずなのに、逆再生でもしているかのように塞がっていき、数秒とたたずに傷などなかったかのように元に戻っていた。

「この通り、自身の治癒に関しては、魔力の消費が常人の百分の一程度であるという具合だな。魔力の消費以外にも、常人の治癒魔術に比べて治癒が始まるまでの時間、治癒にかかる時間共にかなり短いくてすむ。貴殿は特にそれが顕著なのだろう。収納魔術の出入り口は、その大きさに比例して消費魔力が上がると聞く」

 正解だ。半径一メートル程度であればそれほど大きさでの魔力の消費量は変わらないんだけど、それ以上になると、急に消費量が増え始める。それは王国の奴らの実験でも同じだったので、そういう仕様なのだろう。

「だが、貴殿は先の戦の時に敵の群れを飲み込むほどの大きさの術を使ったのであろう? それを鑑みるに、魔術の才能を全て収納魔術に特化されている、というのが私の考えだ。合っているだろうか?」

 合っているか、と言われれば合っているんだけど……

「……あー……正解だ。正直そこまでバレるもんかとも思ってるよ」

 自分で言うのもなんだけど、俺は収納魔術を結構ぶっ飛んだ使い方をしている。それなのに見ただけ完全に看破されるとはちょっと誤算だ。いやまあ、いつかはバレるとは思ってたけどさぁ。

「これは私が似たようなものだから簡単に気づけた、というのもあるだろうな。私も治癒に特化しているからな……もっとも、その特化具合は私と貴殿とでは比べ物にならない程なのだろうがな」

 そのせいで俺は普通の火を出したり水を出したりって魔術が使えないけどな。精々が自己強化と自己治癒だ。それだって覚えるのに時間がかかった割に効果はしょぼい。

 俺としては普通の魔術も使ってみたかったけど、今の状態も役に立ってるし、どっちがいいんだろうな?

「さて、これで答え合わせは終いだろうか?」
「ああ、ありがとう」

 コーキスは自分だから分かった、なんて言ってるけど、他にも理解してる奴はいるだろうから、そう言う奴と戦う事になった時のために対策は考えておかないとな……

 ……でも、対策ってなに考えればいいんだろうな? 改めて思ってみたけど、対策の立てようってなくないか?

 だって対策って、相手が俺の戦い方に対処してきた場合の対応を考えるってことだろ? そもそも俺自身、俺の戦い方に対する対処法とか思いつかないんだが……

 俺も相手の対策に対策を立てられないけど、そもそも相手が俺に対策を立てられないような気がする。

 敵がやってくる事って、精々が生身でパンチとかそんなんだろ。あとはクーデリアみたいな特殊な奴を用意するとかか?

 だったらなんとかなるような気がしないでもない……かな?

 ま、なんにしても生き残ってみせる。もちろん、イリンも一緒にな。
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