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治癒の神獣
242:道中の会話
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「せあっ!」
街道を進んでいると時折魔物に出会う。今もどこからかはぐれてきたのか、数体の魔物が俺たちに襲いかかり、コーキスに切り殺されていった。
「やっぱりすごいな。純粋な技術では追いつける気がしないよ」
大会で勝ちはしたけど、アレは勝ちを譲ってもらった感じだし、まともな戦闘技術だけなら勝てる気がしない。
言い訳をさせてもらうなら、俺は分類的には一応は術師であって戦士じゃないから仕方ない。
「ふっ、そうか。自身に勝った男にそう言われるとは、光栄だな」
コーキスは周囲に敵が残っていないことを確認すると、持っていた剣をしまい俺たちの元へと戻ってきた。
なぜコーキスだけが戦っていたのかというと、案内役として俺たちを無事に神獣の元まで送り届けるためらしい。
「だが、戦いに捧げた時間というものが違うのだ。戦闘の勘はそれなりに良いみたいだが、貴殿が剣をとってから長くとも二・三年程度であろう? そう簡単に追いつかれてしまっては私の立つ瀬がない」
二、三年どころか、俺がこの世界に来てから一年も経ってないんだけどな。精々が学生時代の剣道の授業くらいだけど、あれは経験に入らないと思う。
「俺がまともに戦いを意識してからまだ一年経ってないよ」
「ほう。ならば相当な戦場を生き抜いてきたという事か。いや、あれだけ魅せる者だ。それも当然だな」
まあ、戦場というか何度か死にかけた事はあるけど、魅せる者、か……
「それに、今しがた貴殿も自身で言っていたではないか。『純粋な技術では勝てる気がしない』と。ならば技術以外の、大会などではなく、なんでもありの戦場であれば勝てると、そういう事であろう?」
そこまで考えての発言じゃないけど、言われてみればそう取られてもおかしくはない。
俺は慌てて訂正しようと思ったけど。それは目の前で笑っているコーキスに止められた。
「くくっ。なに、良い良い。むしろ、そうでなくてはな。私が認めた男なのだ。自身の強さに傲慢でなくては私は自身の負けを納得できなくなってしまう」
傲慢、か……そんなことを言われたのは初めてだが、そうなのかもしれない。いや、かもしれない、じゃないか。
俺はこの世界には危険があると認識しているが、それと同時に、収納を駆使すれば大抵の危険はどうにかなるとも思っている。どんな状況でも、誰が相手でも、必ず自分だけは生き残れると。それはだいぶ傲慢な考えだと思う。
「つい先日も武功をたてたと聞く。貴殿はそういった星のもとに生まれているのでろうな」
「先日? ……ああ、アンデット狩りの事か。あれは知り合いを助けようとしただけだよ」
あの時はケイノアを助けに行きたいと思ったから行ったけど、アレだって自分なら何とかできるって傲慢さがあったからああも大胆に行動できたんだろう。
「あれは相性が良かったから出来た事だ。他の魔物や人が相手だったらああはいかなかったさ」
「そうであったとしても、結果だけ見れば成した事に変わりはない」
そう言われても、何となく違和感というか言葉にできないもやもやが胸の中で動き回り、俺は顔を顰めてしまう。
そんな俺に何を思ったのかコーキスは腕を組み、一旦目を瞑るとそのまま話し始めた。
「──強者は傲慢であれ」
「え?」
突然の言葉に気の抜けたような声を出してしまった俺に構う事なく、目を開けたコーキスは言葉を続けていく。
「それが私の考えだ。もちろんそれが世界の共通認識であるとは思っておらぬし、何でも好き勝手にやって良いというわけでもない。が、私は勝者とはそうであるべきだと考えている。でなくては、負けた者がそこに至るまでの想いを侮辱する事になろう。それは戦士の行いではない」
故に傲慢であれ、とコーキスは言う。
傲慢。言い換えれば誇りだ。コーキスは自身の行いに誇りをもてと言っているのだろうか?
「……しかし、相性か……」
俺がコーキスから言われたことを考えていると、コーキスはコーキスで何かを考えているようでその口からは言葉が漏れる。
「……貴殿の使う術。あれは収納魔術であっているか?」
考え込んでいたと思うと、いきなりそんな事を言われてしまいバッと反応してしまったが、それは正解だと言っているに等しい。
何で知っているんだと思わなくもないが、元々バレてもいいと言う気持ちで大会では使ってたし、言わないだけで知ってる奴は他にもいるんだろう。
でも、俺の能力が知られているとしても、他にどのくらい知ってる奴がいるんだろうか?
「……誰かから聞いたのか?」
自分で言っておいてなんだが、それは無い。能力の詳細について、俺はイリン以外には誰にも話していないんだから。イリンが誰かに話すような事はないだろう。
「そうではないさ。アレほど大々的に使用していたのだ。多少魔術に関しての心得があれば、後は何某かのきっかけで気付けよう」
ああやっぱり大会が原因か。まあそうだよな。あれだけ派手に使ってたんだから。
でもそれなら、最低でもグラティースは知ってるって事だな。他にも、ギルドと冒険者の上位は知っているとみるべきか?
……でもそうか、コーキスは魔術に心得なんてあったのか。てっきり脳筋、とまではいかないけど魔術には疎いものかと思ってた。
「私は剣の方が得意だが、これでも神獣から力を与えられているのでな。学んだ事があるのだ。火種を作ったり飲み水を作ったりする程度の事しかできぬがな」
俺の視線の意味を察したのか、コーキスは腰に帯びてある剣に手を当てながら苦笑して言った。
街道を進んでいると時折魔物に出会う。今もどこからかはぐれてきたのか、数体の魔物が俺たちに襲いかかり、コーキスに切り殺されていった。
「やっぱりすごいな。純粋な技術では追いつける気がしないよ」
大会で勝ちはしたけど、アレは勝ちを譲ってもらった感じだし、まともな戦闘技術だけなら勝てる気がしない。
言い訳をさせてもらうなら、俺は分類的には一応は術師であって戦士じゃないから仕方ない。
「ふっ、そうか。自身に勝った男にそう言われるとは、光栄だな」
コーキスは周囲に敵が残っていないことを確認すると、持っていた剣をしまい俺たちの元へと戻ってきた。
なぜコーキスだけが戦っていたのかというと、案内役として俺たちを無事に神獣の元まで送り届けるためらしい。
「だが、戦いに捧げた時間というものが違うのだ。戦闘の勘はそれなりに良いみたいだが、貴殿が剣をとってから長くとも二・三年程度であろう? そう簡単に追いつかれてしまっては私の立つ瀬がない」
二、三年どころか、俺がこの世界に来てから一年も経ってないんだけどな。精々が学生時代の剣道の授業くらいだけど、あれは経験に入らないと思う。
「俺がまともに戦いを意識してからまだ一年経ってないよ」
「ほう。ならば相当な戦場を生き抜いてきたという事か。いや、あれだけ魅せる者だ。それも当然だな」
まあ、戦場というか何度か死にかけた事はあるけど、魅せる者、か……
「それに、今しがた貴殿も自身で言っていたではないか。『純粋な技術では勝てる気がしない』と。ならば技術以外の、大会などではなく、なんでもありの戦場であれば勝てると、そういう事であろう?」
そこまで考えての発言じゃないけど、言われてみればそう取られてもおかしくはない。
俺は慌てて訂正しようと思ったけど。それは目の前で笑っているコーキスに止められた。
「くくっ。なに、良い良い。むしろ、そうでなくてはな。私が認めた男なのだ。自身の強さに傲慢でなくては私は自身の負けを納得できなくなってしまう」
傲慢、か……そんなことを言われたのは初めてだが、そうなのかもしれない。いや、かもしれない、じゃないか。
俺はこの世界には危険があると認識しているが、それと同時に、収納を駆使すれば大抵の危険はどうにかなるとも思っている。どんな状況でも、誰が相手でも、必ず自分だけは生き残れると。それはだいぶ傲慢な考えだと思う。
「つい先日も武功をたてたと聞く。貴殿はそういった星のもとに生まれているのでろうな」
「先日? ……ああ、アンデット狩りの事か。あれは知り合いを助けようとしただけだよ」
あの時はケイノアを助けに行きたいと思ったから行ったけど、アレだって自分なら何とかできるって傲慢さがあったからああも大胆に行動できたんだろう。
「あれは相性が良かったから出来た事だ。他の魔物や人が相手だったらああはいかなかったさ」
「そうであったとしても、結果だけ見れば成した事に変わりはない」
そう言われても、何となく違和感というか言葉にできないもやもやが胸の中で動き回り、俺は顔を顰めてしまう。
そんな俺に何を思ったのかコーキスは腕を組み、一旦目を瞑るとそのまま話し始めた。
「──強者は傲慢であれ」
「え?」
突然の言葉に気の抜けたような声を出してしまった俺に構う事なく、目を開けたコーキスは言葉を続けていく。
「それが私の考えだ。もちろんそれが世界の共通認識であるとは思っておらぬし、何でも好き勝手にやって良いというわけでもない。が、私は勝者とはそうであるべきだと考えている。でなくては、負けた者がそこに至るまでの想いを侮辱する事になろう。それは戦士の行いではない」
故に傲慢であれ、とコーキスは言う。
傲慢。言い換えれば誇りだ。コーキスは自身の行いに誇りをもてと言っているのだろうか?
「……しかし、相性か……」
俺がコーキスから言われたことを考えていると、コーキスはコーキスで何かを考えているようでその口からは言葉が漏れる。
「……貴殿の使う術。あれは収納魔術であっているか?」
考え込んでいたと思うと、いきなりそんな事を言われてしまいバッと反応してしまったが、それは正解だと言っているに等しい。
何で知っているんだと思わなくもないが、元々バレてもいいと言う気持ちで大会では使ってたし、言わないだけで知ってる奴は他にもいるんだろう。
でも、俺の能力が知られているとしても、他にどのくらい知ってる奴がいるんだろうか?
「……誰かから聞いたのか?」
自分で言っておいてなんだが、それは無い。能力の詳細について、俺はイリン以外には誰にも話していないんだから。イリンが誰かに話すような事はないだろう。
「そうではないさ。アレほど大々的に使用していたのだ。多少魔術に関しての心得があれば、後は何某かのきっかけで気付けよう」
ああやっぱり大会が原因か。まあそうだよな。あれだけ派手に使ってたんだから。
でもそれなら、最低でもグラティースは知ってるって事だな。他にも、ギルドと冒険者の上位は知っているとみるべきか?
……でもそうか、コーキスは魔術に心得なんてあったのか。てっきり脳筋、とまではいかないけど魔術には疎いものかと思ってた。
「私は剣の方が得意だが、これでも神獣から力を与えられているのでな。学んだ事があるのだ。火種を作ったり飲み水を作ったりする程度の事しかできぬがな」
俺の視線の意味を察したのか、コーキスは腰に帯びてある剣に手を当てながら苦笑して言った。
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