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獣人国での冬
214:ケイノアの働く理由
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玄関からまるで我が物顔でズカズカと入ってくるケイノア。確かに居候させてやっているが、もう少し遠慮とかしてもいいんじゃないだろうか?
「あっ、シアリス。来てたのね」
ああいや、違う。今はそんなことはどうでもいい。それよりも──
「お姉様!?」
「ケイノア!?」
俺とシアリスの声が同時に響き、その突然のことにケイノアはビクリと体を震わせた。
「な、何よ、二人して。びっくりするじゃない」
ケイノアにギルドで依頼を受けた件について聞こうと思ったのだが、妹であるシアリスの方から聞くか? と思ってシアリスの事を見ると、向こうも同じように思ったようで、俺のことを見ている。
「って、そうだ! イリン、これ!」
どっちから言い出すかと無言のやりとりをしていると、ケイノアは何かを思い出したようにして収納魔術を使い、その中から取り出した板(?)を台所にいるイリンに見せにいった。
「どう? これでいいんでしょ?」
「……はい。確かに」
イリンはケイノアが差し出した物を手に取ると、じっくりと眺めてから頷いた。
「ですが早いですね。もっと時間のかかるものかと思っていました」
「ふふん! 私だってやればできるよの!」
ケイノアは威張っているが、俺たちには何がなんだかわからない。
気になったのでケイノアの後を追ってイリンの元に行ってみる事にした
「イリン。それはなんだ?」
そう訊ねると、イリンは若干小首を傾げながら持っている板を俺に見せてきた。
「これは、冒険者ギルドの依頼達成表、と言ったところでしょうか?」
「達成表? そんなもの聞いたことがないが……」
そんなものは今まで聞いたことがないし、軽く知識の中を漁ってみるが何も情報がない。
「あ、いえ。公式的なものではなく、私がギルドの方に頼んでやってもらっている、ケイノア専用のものです」
「わざわざやってもらってる?」
「それにお姉様専用とはいったい……」
「それは──」
イリンの話を聞くと、こうだ。
一応ケイノアはイリンの配下としてこの家にの手伝いをしているが、基本的に大抵のことはイリン一人でなんとかなってしまう。
そのため家事を手伝うと言っても、暇なことが多い。
そしてケイノアはその暇な時間をぐーたらして過ごしており、それを見かねたイリンがケイノアに言ったらしい。
「冒険者ギルドの依頼を十個達成すればケイノアの好きなお菓子を作ってあげます」
と。
たったそれだけのことではあるが、ケイノアはとてもやる気を出したそうだ。
そしてその依頼を十個達成した事を証明する為に職員に頼んで作ったのが、件の証明証らしい。
「だが、なんでそこまでするんだ? 別に放っておけばいいだろ」
どうせ、ほとんど部屋で寝てるだけなんだし、特に邪魔をするってわけじゃないんなら放置で構わないと思う。
「ケイノアもいつまでもここにいるわけではありません。ご主人様との依頼が終わって仕舞えばこの家にいる理由がありませんから。その際に、突然追い出すと言うのも気が引けます。ですので、せめて自分で生活できるだけは稼いで貰いたいのです」
「えっ!? ちょっと待ってよ! 私ここから追い出されるの!?」
ケイノアがなんか言ってるけど、知らん。
だがまあ、確かに言われてみればそうだな。ケイノアはいつまでもここにいるわけじゃないし、そのうちには出て行ってもらうつもりだ。けど、その後の事を考えてなかったな。
「まさか、お姉さまのことをそこまで考えてくださる方がいるとは思いませんでした……。イリンさん。お姉様が色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかよろしくお願いいたします」
シアリスは、姉であるケイノアの為に行動してくれているイリンに感謝し、その手を取り笑顔を向けていた。
「はい。もちろんです。私もケイノアに不幸になって欲しいとは思っていませんので。……それに、早くご主人様と二人で暮らしたいので」
「え?」
そんなシアリスに返事をしたイリンだが、最後の方は声が小さくなっていったせいでよく聞こえなかった。それはシアリスも同じようで、首を傾げている。
「いえ、なんでもありません」
「そんなことよりさぁ~。達成したんだからお菓子作ってよ~」
俺たちが話をしていると、待ちきれなくなったのかケイノアが話に割り込みイリンの肩を掴んで揺さぶっている。
そんなケイノアの行動に、イリンは若干顔を顰めながら対応する。
「夕食の時に一緒に出すから待ってなさい。ケイノア」
「は~い」
イリンのその言葉を聞くと、ケイノアは鼻歌を歌いながら自分の部屋に戻っていった。
俺たちもこれ以上調理の邪魔をしちゃまずいかと思ったので、もう一度リビングに戻っていく。
「これでケイノアも借金の返済を出来るようになるでしょう」
……いやー、それはどうなんだろう? あいつのことだから、稼いだ瞬間に買い食いとかで消えそうだな。
「まあいつまで続くかわからないけど、ひとまずは様子見しようか」
ケイノアのことだから、飽きた、とか言って依頼を受けるのを止める可能性がある。しばらくは怠けないように見ていた方がいいだろう。そうじゃないと、あいつはいつまで経っても自立しない。
……なんで俺、ケイノアの親みたいなことを思ってんだろう?
「では、私はそろそろ失礼いたします。これからも、お姉様のことをよろしくお願いします」
「ん、分かった。それじゃあ、また──いや、ちょっと待った」
シアリスが立ち上がり帰ろうとしたが、ふと思いついたことがあったので呼び止める。
「はい? どうされました?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、シアリス、お前は魔術具に詳しいか?」
「専門家というわけではありませんので、それなりに、と言ったところでしょうか」
「それは、人間や獣人よりは詳しいってことでいいのか?」
「ええ。ですがお姉様の方が詳しいと思いますよ?」
「ああ、あいつにも聞くけど、できれば色んな意見が聞きたいんだ。少し見てもらえないか?」
呼び止めたのは、本来ならケイノアに聞こうと思った新しい収納の魔術具の出来具合だ。姉妹と言っても、ケイノアとしありすでは考え方が違うだろうから、違う意見が出るかもしれない。
「ええ、色々とお姉様がお世話になっていますので、その程度でしたら構いませんよ」
シアリスがそう言って席につき直すと、すかさずイリンがお茶のおかわりを持ってきて、再び下がっていった。
ほんと、出来た子だよ。
「あっ、シアリス。来てたのね」
ああいや、違う。今はそんなことはどうでもいい。それよりも──
「お姉様!?」
「ケイノア!?」
俺とシアリスの声が同時に響き、その突然のことにケイノアはビクリと体を震わせた。
「な、何よ、二人して。びっくりするじゃない」
ケイノアにギルドで依頼を受けた件について聞こうと思ったのだが、妹であるシアリスの方から聞くか? と思ってシアリスの事を見ると、向こうも同じように思ったようで、俺のことを見ている。
「って、そうだ! イリン、これ!」
どっちから言い出すかと無言のやりとりをしていると、ケイノアは何かを思い出したようにして収納魔術を使い、その中から取り出した板(?)を台所にいるイリンに見せにいった。
「どう? これでいいんでしょ?」
「……はい。確かに」
イリンはケイノアが差し出した物を手に取ると、じっくりと眺めてから頷いた。
「ですが早いですね。もっと時間のかかるものかと思っていました」
「ふふん! 私だってやればできるよの!」
ケイノアは威張っているが、俺たちには何がなんだかわからない。
気になったのでケイノアの後を追ってイリンの元に行ってみる事にした
「イリン。それはなんだ?」
そう訊ねると、イリンは若干小首を傾げながら持っている板を俺に見せてきた。
「これは、冒険者ギルドの依頼達成表、と言ったところでしょうか?」
「達成表? そんなもの聞いたことがないが……」
そんなものは今まで聞いたことがないし、軽く知識の中を漁ってみるが何も情報がない。
「あ、いえ。公式的なものではなく、私がギルドの方に頼んでやってもらっている、ケイノア専用のものです」
「わざわざやってもらってる?」
「それにお姉様専用とはいったい……」
「それは──」
イリンの話を聞くと、こうだ。
一応ケイノアはイリンの配下としてこの家にの手伝いをしているが、基本的に大抵のことはイリン一人でなんとかなってしまう。
そのため家事を手伝うと言っても、暇なことが多い。
そしてケイノアはその暇な時間をぐーたらして過ごしており、それを見かねたイリンがケイノアに言ったらしい。
「冒険者ギルドの依頼を十個達成すればケイノアの好きなお菓子を作ってあげます」
と。
たったそれだけのことではあるが、ケイノアはとてもやる気を出したそうだ。
そしてその依頼を十個達成した事を証明する為に職員に頼んで作ったのが、件の証明証らしい。
「だが、なんでそこまでするんだ? 別に放っておけばいいだろ」
どうせ、ほとんど部屋で寝てるだけなんだし、特に邪魔をするってわけじゃないんなら放置で構わないと思う。
「ケイノアもいつまでもここにいるわけではありません。ご主人様との依頼が終わって仕舞えばこの家にいる理由がありませんから。その際に、突然追い出すと言うのも気が引けます。ですので、せめて自分で生活できるだけは稼いで貰いたいのです」
「えっ!? ちょっと待ってよ! 私ここから追い出されるの!?」
ケイノアがなんか言ってるけど、知らん。
だがまあ、確かに言われてみればそうだな。ケイノアはいつまでもここにいるわけじゃないし、そのうちには出て行ってもらうつもりだ。けど、その後の事を考えてなかったな。
「まさか、お姉さまのことをそこまで考えてくださる方がいるとは思いませんでした……。イリンさん。お姉様が色々とご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかよろしくお願いいたします」
シアリスは、姉であるケイノアの為に行動してくれているイリンに感謝し、その手を取り笑顔を向けていた。
「はい。もちろんです。私もケイノアに不幸になって欲しいとは思っていませんので。……それに、早くご主人様と二人で暮らしたいので」
「え?」
そんなシアリスに返事をしたイリンだが、最後の方は声が小さくなっていったせいでよく聞こえなかった。それはシアリスも同じようで、首を傾げている。
「いえ、なんでもありません」
「そんなことよりさぁ~。達成したんだからお菓子作ってよ~」
俺たちが話をしていると、待ちきれなくなったのかケイノアが話に割り込みイリンの肩を掴んで揺さぶっている。
そんなケイノアの行動に、イリンは若干顔を顰めながら対応する。
「夕食の時に一緒に出すから待ってなさい。ケイノア」
「は~い」
イリンのその言葉を聞くと、ケイノアは鼻歌を歌いながら自分の部屋に戻っていった。
俺たちもこれ以上調理の邪魔をしちゃまずいかと思ったので、もう一度リビングに戻っていく。
「これでケイノアも借金の返済を出来るようになるでしょう」
……いやー、それはどうなんだろう? あいつのことだから、稼いだ瞬間に買い食いとかで消えそうだな。
「まあいつまで続くかわからないけど、ひとまずは様子見しようか」
ケイノアのことだから、飽きた、とか言って依頼を受けるのを止める可能性がある。しばらくは怠けないように見ていた方がいいだろう。そうじゃないと、あいつはいつまで経っても自立しない。
……なんで俺、ケイノアの親みたいなことを思ってんだろう?
「では、私はそろそろ失礼いたします。これからも、お姉様のことをよろしくお願いします」
「ん、分かった。それじゃあ、また──いや、ちょっと待った」
シアリスが立ち上がり帰ろうとしたが、ふと思いついたことがあったので呼び止める。
「はい? どうされました?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、シアリス、お前は魔術具に詳しいか?」
「専門家というわけではありませんので、それなりに、と言ったところでしょうか」
「それは、人間や獣人よりは詳しいってことでいいのか?」
「ええ。ですがお姉様の方が詳しいと思いますよ?」
「ああ、あいつにも聞くけど、できれば色んな意見が聞きたいんだ。少し見てもらえないか?」
呼び止めたのは、本来ならケイノアに聞こうと思った新しい収納の魔術具の出来具合だ。姉妹と言っても、ケイノアとしありすでは考え方が違うだろうから、違う意見が出るかもしれない。
「ええ、色々とお姉様がお世話になっていますので、その程度でしたら構いませんよ」
シアリスがそう言って席につき直すと、すかさずイリンがお茶のおかわりを持ってきて、再び下がっていった。
ほんと、出来た子だよ。
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