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獣人国での冬
199:再生の薬
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「終わったわよ! 早くご飯を渡しなさい!」
ケイノアは偉そうにそういったが、その背後からイリンが音もなく近寄り、その肩にポンと優しく手を置いた。
「ケイノア。先ほど言葉遣いには注意したはずですが?」
「ひうっ! すみませんでした! 私にご飯を恵んでいただけないでしょうか!?」
……どうやらケイノアは、イリンにだいぶ教育されたらしい。
若干哀れに思いながら、収納から屋台で買った昼食をとりだして渡す。
「ほら。これだ」
「ありがとうございます!」
ケイノアは、その料理を俺からひったくるように取ると、座って休む事すらせずに貪り始めた。
「ああ~。これよ~。やっぱり外のご飯て美味しいわねぇ~」
そういっているが、改めていうほどのものだろうか? 今回買ったのは、適当に目についた屋台で買った、どこにでもある物だぞ?
「こんなのそこらへんにある屋台のもんだぞ?」
「わかってないわねぇ。エルフの森ではこんなものでさえまともに食べられなかったのよ!」
こんな物すらまともに食べられないって、エルフは普段何食ってんだろうか? やっぱ肉は食わないで野菜だけの生活なのか?
「……エルフって、普段何食ってんだ?」
「ん~? ……そうねぇ。たまたま狩った獣とかが出てくる時もあるけど、基本的には霊草とか霊木の実とかね」
予想どおり草がメインだったようだ。
だが、一つ気になることがある。
「霊草とか霊木ってなんだ?」
「え? 知らないの? 森の中に生えてる力のある植物のことなんだけど。……ああでも、外じゃ無理かしらね?」
「……魔草と魔木の事か?」
魔草、魔木とは、魔物の植物版だ。植物が魔力によって変異し、それが一つの種として定着した特殊な効果のある植物だ。
「違うわ。それは霊草とかの出来損ないよ」
「出来損ない? って事は元は同じだったって事か? 霊木なんて見たことどころか聞いた事もないんだが……」
「んと、詳しく説明するには実物を見比べないと分かりづらいから概要だけだけど、簡単に言えば不純物の混じらない成長をしたかどうかってところね」
「不純物、ねぇ……」
「そう。霊木は育つときに自身と同種の魔力だけを受けて育ったもののことを言うのよ。で、複数の雑多な魔力を受けて育ったものを魔木って言うの。基本的に効能は同じだけど、その効果の強さが圧倒的に違うわ」
なるほど。『魔木・改』とか『真・魔草』みたいな上位互換って感じか。
「ふぅん。外ではって言ってたけど、エルフの住む森は違うのか?」
「ええ。それ専用の魔術を森全体にかけて管理しているわ。だからエルフは森を荒らされるのを嫌うのよ。もし予定外の魔力が加わったら、最悪、森全体が壊れてしまうもの」
そうだったのか。いままで普通に排他的な種族なんだと思ってた。
「なるほどなぁ。……なあ、もしかしてお前の言ってた秘伝の薬って、材料はそれか?」
「ええ、そうよ。だから森に行かないと薬は手に入らないのよ」
……ん? なら、俺の持ってる薬はどうなんだ? エルフの森に行かないと手に入らないっていうんなら、あれはエルフが関わってんのか?
「そんなに特殊な物なのか? 人間の国にも欠損を治せる薬はあるぞ?」
というか、|あった(・・・)ぞ。もうないかもしれないけど。
「そうなの? ……まあ作り方が一つだなんて決まってるわけじゃないし、そういうのもあるんじゃない?」
「因みに、これがその薬だ。飲めばなくなった腕でも一瞬で治る」
そう言って収納から俺がいじる前の薬をとりだしてケイノアの目の前でチャポチャポと揺らす。
「へ……? ……ちょっと開けてもいいかしら?」
「ああ。壊すなよ?」
そう言ったケイノアに、俺は薬を薬を渡した。こいつ、落としたりして壊さないだろうか?
だが、ケイノアはそれまでの能天気そうな顔から訝しげなものに変えて俺から受け取った薬をみている。
「……え? ……何よ、これ……」
ケイノアがその薬の蓋を開けて、匂いを嗅いだり中身を舐めてみたりしてから少しすると、ケイノアの表情が驚愕に染まった。
「おい、どうした?」
だが、俺が声をかけてもケイノアは反応せず、ケイノアの顔がどんどん厳しくなっていく。
「……ねえ。貴方はこれを使ったの?」
「使ったってほどじゃないが、試しに少しだけ──」
俺がそう言うと、ケイノアは最後まで聞く事なく俺に飛びついて服を脱がそうとしてきた。
「おまっ! 何する! 離れろ!」
「いいから! 大人しくしてなさい!」
そう言われても、何の説明もなしにおとなしくなんてできるはずがない。
ケイノアの暴挙を見て、イリンも俺から引き剥がそうと動き出した。
だが──
「貴方死にたいの!?」
ケイノアのその一言で俺たちの動きは止まった。
「……どういう事だ?」
「よく考えてみなさい。なくなった腕が一瞬で生えてくるなんて、そんなの普通じゃないでしょ?」
……確かにそうだ。魔術がある世界だからなんでもありだと思ってたが、薬を飲んだだけで手足が生えてくるなんて、言われてみればかなり異常だ。
「ソレは怪我を治す薬なんかじゃないわ。なくなっても平気なように身体を作り替える薬よ」
「は? 作り替える、だと?」
「ええ。ソレは竜の血をベースにいくつもの再生力の高い生き物の素材が使われてるの。スライムとかね。で、ソレを飲んだ者は身体をそういった再生力のある魔物みたいに作り替えるのよ。そうすれば怪我なんてしてもすぐに治るでしょうけど、それはもう、人じゃない」
ケイノアはそう言ったが、その事に俺は口を開いたまま言葉が出なかった。
だって、イリンはそれを……
「それに、ソレを使った者はそう遠くないうちに死ぬわ。魔物に変わった拒絶反応でね」
ケイノアは偉そうにそういったが、その背後からイリンが音もなく近寄り、その肩にポンと優しく手を置いた。
「ケイノア。先ほど言葉遣いには注意したはずですが?」
「ひうっ! すみませんでした! 私にご飯を恵んでいただけないでしょうか!?」
……どうやらケイノアは、イリンにだいぶ教育されたらしい。
若干哀れに思いながら、収納から屋台で買った昼食をとりだして渡す。
「ほら。これだ」
「ありがとうございます!」
ケイノアは、その料理を俺からひったくるように取ると、座って休む事すらせずに貪り始めた。
「ああ~。これよ~。やっぱり外のご飯て美味しいわねぇ~」
そういっているが、改めていうほどのものだろうか? 今回買ったのは、適当に目についた屋台で買った、どこにでもある物だぞ?
「こんなのそこらへんにある屋台のもんだぞ?」
「わかってないわねぇ。エルフの森ではこんなものでさえまともに食べられなかったのよ!」
こんな物すらまともに食べられないって、エルフは普段何食ってんだろうか? やっぱ肉は食わないで野菜だけの生活なのか?
「……エルフって、普段何食ってんだ?」
「ん~? ……そうねぇ。たまたま狩った獣とかが出てくる時もあるけど、基本的には霊草とか霊木の実とかね」
予想どおり草がメインだったようだ。
だが、一つ気になることがある。
「霊草とか霊木ってなんだ?」
「え? 知らないの? 森の中に生えてる力のある植物のことなんだけど。……ああでも、外じゃ無理かしらね?」
「……魔草と魔木の事か?」
魔草、魔木とは、魔物の植物版だ。植物が魔力によって変異し、それが一つの種として定着した特殊な効果のある植物だ。
「違うわ。それは霊草とかの出来損ないよ」
「出来損ない? って事は元は同じだったって事か? 霊木なんて見たことどころか聞いた事もないんだが……」
「んと、詳しく説明するには実物を見比べないと分かりづらいから概要だけだけど、簡単に言えば不純物の混じらない成長をしたかどうかってところね」
「不純物、ねぇ……」
「そう。霊木は育つときに自身と同種の魔力だけを受けて育ったもののことを言うのよ。で、複数の雑多な魔力を受けて育ったものを魔木って言うの。基本的に効能は同じだけど、その効果の強さが圧倒的に違うわ」
なるほど。『魔木・改』とか『真・魔草』みたいな上位互換って感じか。
「ふぅん。外ではって言ってたけど、エルフの住む森は違うのか?」
「ええ。それ専用の魔術を森全体にかけて管理しているわ。だからエルフは森を荒らされるのを嫌うのよ。もし予定外の魔力が加わったら、最悪、森全体が壊れてしまうもの」
そうだったのか。いままで普通に排他的な種族なんだと思ってた。
「なるほどなぁ。……なあ、もしかしてお前の言ってた秘伝の薬って、材料はそれか?」
「ええ、そうよ。だから森に行かないと薬は手に入らないのよ」
……ん? なら、俺の持ってる薬はどうなんだ? エルフの森に行かないと手に入らないっていうんなら、あれはエルフが関わってんのか?
「そんなに特殊な物なのか? 人間の国にも欠損を治せる薬はあるぞ?」
というか、|あった(・・・)ぞ。もうないかもしれないけど。
「そうなの? ……まあ作り方が一つだなんて決まってるわけじゃないし、そういうのもあるんじゃない?」
「因みに、これがその薬だ。飲めばなくなった腕でも一瞬で治る」
そう言って収納から俺がいじる前の薬をとりだしてケイノアの目の前でチャポチャポと揺らす。
「へ……? ……ちょっと開けてもいいかしら?」
「ああ。壊すなよ?」
そう言ったケイノアに、俺は薬を薬を渡した。こいつ、落としたりして壊さないだろうか?
だが、ケイノアはそれまでの能天気そうな顔から訝しげなものに変えて俺から受け取った薬をみている。
「……え? ……何よ、これ……」
ケイノアがその薬の蓋を開けて、匂いを嗅いだり中身を舐めてみたりしてから少しすると、ケイノアの表情が驚愕に染まった。
「おい、どうした?」
だが、俺が声をかけてもケイノアは反応せず、ケイノアの顔がどんどん厳しくなっていく。
「……ねえ。貴方はこれを使ったの?」
「使ったってほどじゃないが、試しに少しだけ──」
俺がそう言うと、ケイノアは最後まで聞く事なく俺に飛びついて服を脱がそうとしてきた。
「おまっ! 何する! 離れろ!」
「いいから! 大人しくしてなさい!」
そう言われても、何の説明もなしにおとなしくなんてできるはずがない。
ケイノアの暴挙を見て、イリンも俺から引き剥がそうと動き出した。
だが──
「貴方死にたいの!?」
ケイノアのその一言で俺たちの動きは止まった。
「……どういう事だ?」
「よく考えてみなさい。なくなった腕が一瞬で生えてくるなんて、そんなの普通じゃないでしょ?」
……確かにそうだ。魔術がある世界だからなんでもありだと思ってたが、薬を飲んだだけで手足が生えてくるなんて、言われてみればかなり異常だ。
「ソレは怪我を治す薬なんかじゃないわ。なくなっても平気なように身体を作り替える薬よ」
「は? 作り替える、だと?」
「ええ。ソレは竜の血をベースにいくつもの再生力の高い生き物の素材が使われてるの。スライムとかね。で、ソレを飲んだ者は身体をそういった再生力のある魔物みたいに作り替えるのよ。そうすれば怪我なんてしてもすぐに治るでしょうけど、それはもう、人じゃない」
ケイノアはそう言ったが、その事に俺は口を開いたまま言葉が出なかった。
だって、イリンはそれを……
「それに、ソレを使った者はそう遠くないうちに死ぬわ。魔物に変わった拒絶反応でね」
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