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獣人達の国

184:大会の優勝賞品

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「さて、では話を始めましょうか」

 コーキスがいなくなった事で改めて話が始まった。

「話は二つ。一つは貴方への大会の優勝賞品についてです。まずはこちらから終わらせてしまいましょう」

 そういえば優勝者は王に直接何か願えるんだったか。
 でも、俺は特に願いとかないんだよな。治癒の件はもう終わりが見えたし。

「何か願いはありませんか? 可能な限り対応しますよ。──ああそれと、コーキスさんはいなくなった事ですし、態度を崩してくださって構いませんよ」
「よろしいのですか? そちらの王子は厳しい顔をしておりますが」
「この子は気にしないでください。一応次期王であるので同席させましたが、発言は許しておりませんので」
「そうですか。──じゃあ、そうさせてもらう」

 俺が言葉を崩した途端、横にいる……えっと、王子からの視線が更に鋭いものに変わった。けど、なにかを言うこともないから気にしない事にする。

「それで、願いだったか……」
「ええ。なんでも構いませんよ」

 特に欲しいものはなかったのだが、ふと先ほどの冬に関する話を思い出した。

「……なら家をもらうことは可能か?」
「家ですか。可能ですよ」
「それの維持費やその他の費用はそっち持ちにすることは?」
「それも可能です」

 俺は現在キリーの家の一室を借りて住んでいるが、それは宿を借りようとしていたがちょうど祭りと被ったせいで借りることができなかったからだ。元々祭りが終わって宿なり貸家なりが空いたらそっちに移ろうと思っていた。なら折角だから家を貰えば良いかなと思ったわけだ。
 将来この国に住むのなら貸家じゃなくて持ち家があったほうがいいし、住まないにしてもあって損はない筈だ。維持費とかの金がかかることは向こうに押し付けられるんだからマイナスにはならない。

「じゃあそれで頼む。……ああそうだ。言っておくが普通の家で頼む」
「普通の家、ですか?」
「そうだ。城の一角だとか豪邸だとかはいらない。普通に一般区画に普通の家族が住むような家だ」
「なぜですか? 優勝したのですから城の一角に土地を寄越せと言っても文句は出ませんよ?」
「俺はこの国に永住するつもりはない。今のところは、だが。だから持っていても使うかわからないんだよ」

 それに、城の一部や側に土地を持っていたら面倒が起こりそうな気がする。こう、すり寄ってくるやつとかそんな感じのだ。

「ふむ。分かりました。他に何かありますか?」
「いや。普通の家さえ用意してくれるんならそれで十分だ」
「……そうですか」

 なんでこいつちょっと困った感じなんだ? 国としては使う金が少ないほうが嬉しいんじゃないのか?
 少し気になったので聞いてみる。

「折角優勝した者にそれだけの物しか与えなかったら色々と不評が立つ可能性有るからです。『人間族だから正当な評価をしなかった』とでも言われればそれを否定することはできません。なにせ実際に与えたものが他にないのですから」
「でもそれは俺が望んだことだろ?」
「ええ、ですがそれは他人からみれば分かりません。ですので、他にも何か……そうですね、女性を侍らせたり、王女との結婚などは如何ですか?」

 確かにハーレムは夢だという奴はいるが、俺から言わせて貰えば、そんなものは要らない。人間関係とか面倒くさそうだし、王女も同じだ。
 加えてイリンがどう行動するか分からないし、俺にはイリンを抑えるだけで手一杯だ。

「いらないな。それは賞品どころか俺にとっては単なる嫌がらせだ」
「そうですか。過去の勇者方はそれらを望んだようなのですが、同じである貴方は要らないのですか?」
「ああ、まあそういう奴もいただろうな。そいつらのことも理解できなくはない。でも過去の勇者がどうであれ、俺はいい」
「……否定は、されないのですね」
「は? いや、今……チッ」

 そこまで言って、俺は自分がミスをした事に気がついた。

「……騙される方が悪いってか?」

 さっき俺は、グラティースが俺のことを勇者と同じと言ったのにそれを否定しなかった。それは俺も勇者であるということだ。
 俺が否定しなかったのはグラティースのセリフがあまりにも自然に出てきたからではあるのだが、そんな言い訳をしたところで意味はない。

 くそっ! ウォルフの時にも同じようなことがあっただろ! 学べよ、俺!

 グラティースを睨みつけるが、こいつは俺の視線をいつもと変わらずに笑顔で受け止めている。

「そこまでは言いませんよ。私としてはただ確認したかっただけなのです」
「……その言い様じゃ確認するまでもなく分かってたんだろ?」
「こうだろうなという予想はしていましたが、それでも確証があったわけではありませんので。それに、この事は貴方が自分から言うのと私が言うのでは、その後が全然違いますから。私が貴方の正体について言ってしまえば、事実はどうあれ、それはこの国において真実になります。それでは今後の貴方の活動に支障が出るのではないですか?」

 これでも気を使ったのですよ、とグラティースは最後に付け加えた。

 つまりこいつは、このまま一般人として行動を続けるのも、勇者という正体をバラして行動するのも俺の自由にしろと言っているのだ。
 勇者という立場を強制されないで済むのはありがたいが、こいつの場合は何か企んでいるんじゃないかと思ってしまう。

「そっちの見返りは?」
「見返り? 貴方について黙っている事に対する、ですか? 要りませんよ。私としましては、貴方と仲良くしておきたいだけです。味方になっていただければ有り難いですし、そうでなくとも敵になって欲しくはありませんから」

 ……嘘は言っていない、か? まあいいか。どうせ今疑ったところで何にもならない。

「……敵になるつもりは、ない」
「そうですか。それは良かったです」
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