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獣人達の国
183:神獣への面会計画
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やってきた部屋は以前と同じだったが、そこにいる面子は前回とは違う。
まず、王族はグラティースとあの俺を睨みつけるチンピラ王子しかいない。代わりに俺が戦い、神獣の元に案内をしてくれる者であるコーキスがいる。後は使用人が何人かいるけど、話自体には関わってこないだろうから気にする必要はないだろう。
「どうぞお掛けください」
俺は勧められたとおりに席につくが、まあ、いつものようにイリンは俺の後ろについた。
いや良いんだけどな? 本人がそれで良いんなら。まあ普通に横に座って欲しいと思わなくもないが、それはまず俺が態度を改めてからだろう。
「まずは、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます。──それで今回は例の件でのお話でよろしいのですよね?」
もう取り繕う必要なんてないとは思うが、一応この国の王の前だ。礼儀がなっていないのは不味いだろう。今回はコーキスもいることだし、ヘタな様子は見せられない。
「ええ。先日もお話ししたのですが、コーキスさんは貴方達の事を案内してくださるそうです」
「そうですか。ありがとうございます」
……これでやっと……。
俺ははやる気持ちを抑え、拳を握りしめた。
「いや、礼は不要だ。そういう約束であったからな」
……前にも思ったけど、なんかこの国の戦士にしては礼儀正しいんだよなこの人。戦士ってか武人って感じだ。
「だが、貴殿らを里に連れていくのはしばらく待ってほしい。具体的には冬が終わるまで」
「……理由を伺っても?」
「一つは、案内するのは構わぬが、里には前もって知らせねばならぬという事だ」
それは理解できないでもない。わざわざ王が秘密にするほどの場所なのだから、向こうとしても誰かを招く場合には前もって知っておきたい筈だ。客が来るにあたって|色々と(・・・)準備があるかもしれないし。
「二つ目は、冬が来るからだ」
「冬?」
「そうだ。この国は基本的に暖かいが、それでも北の方に行けば寒くなり雪も降る。時には積もることさえある。そんな時に客を歓待しなければならないとなると、どうしても悪感情を抱く者は出てくる」
まあ、それも分かるな。雪で大変な時に仕事を増やすなって思う奴はいるだろうし、歓待するには冬籠りの食料とかを使わなくてはならないのだから、迷惑に思う奴だっているだろう。それが里の存続に関わることなら仕方のないことなのかもしれないが、今回は個人的なことで行くのだ。仕方がないとは思われないだろう。
「故にスーラ様の元へ案内するのは冬が終わってからにして欲しい。私は案内はするし取次もするが、その後は貴殿ら次第だ。少しでも願いを聞き入れてもらう可能性を高めるのであれば、一族の者から疎まれるのは避けた方がよいのではないか?」
「それは……確かにそうですね。……一つお聞きしたいのですが、『スーラ様』というのは、件の神獣のことでよろしいのですか?」
「む? そうだ。我々の祀る神の名は『スーラ』と言う。だが、貴殿は里ではその名を呼ばないで欲しい。できれば里以外でも」
「何故ですか?」
「里の仲間と認められた者以外が自身等の祀る神の名を呼ぶ事を忌避する者もいるのだ。私は里の外に出るのでそういったことをあまり気にしないが、里ではそうはいかない」
「分かりました。気をつけます」
意外とめんどくさいんだな、と思ってしまうのは許して欲しい。まあ田舎なんてそんなもんだしな。いや、田舎に限らずどこだってそうか。その土地ごとの風習やしきたり、暗黙の了解なんてものは必ずある。
「では其方の話は終わったようなのでこちらの話を進めて良いでしょうか? ああ、話があるのはアンドウさんなので、コーキスさんは帰っていただいて構いませんよ」
今まで話すことなく成り行きを見守っていたグラティースがそう言った。
帰って構わないとは言っているが、それは暗に帰れっていう命令に等しい。
「そうか。では失礼させていただく」
コーキスはそう言って立ち上がると、一礼してから歩き出した。
だが、扉に手をかけてところで突然立ち止まり、こっちに振り返った。
「忘れていたことがあった。里に向かう準備が出来次第こちらから知らせを出すが、どこに出せばよいのだ?」
そういえばそれを決めないといつまで経っても連絡がつかないな。
「城に連絡していただければ私に通るように手配しておきます」
俺が答える前にグラティースがそう言った。
……まあ良いんだけどな? どうせ俺の方に連絡きてもそっちに知らせないといけないわけだし。
「わかった」
それだけ言うと今度こそコーキスは部屋を出て行った。
だが、なんだろうか? なんとなくコーキスの態度に違和感を感じたのだが……。
……ああそうか。コーキスは自国の王であるはずのグラティースよりも、俺に敬意を払っている感じだった。そのグラティースに対する態度が俺の中のコーキスのイメージとズレがあったのか。
でも、あいつのこれまでの態度からすると、相手は王なんだから敬意を払いそうなもんだけどな。
まず、王族はグラティースとあの俺を睨みつけるチンピラ王子しかいない。代わりに俺が戦い、神獣の元に案内をしてくれる者であるコーキスがいる。後は使用人が何人かいるけど、話自体には関わってこないだろうから気にする必要はないだろう。
「どうぞお掛けください」
俺は勧められたとおりに席につくが、まあ、いつものようにイリンは俺の後ろについた。
いや良いんだけどな? 本人がそれで良いんなら。まあ普通に横に座って欲しいと思わなくもないが、それはまず俺が態度を改めてからだろう。
「まずは、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます。──それで今回は例の件でのお話でよろしいのですよね?」
もう取り繕う必要なんてないとは思うが、一応この国の王の前だ。礼儀がなっていないのは不味いだろう。今回はコーキスもいることだし、ヘタな様子は見せられない。
「ええ。先日もお話ししたのですが、コーキスさんは貴方達の事を案内してくださるそうです」
「そうですか。ありがとうございます」
……これでやっと……。
俺ははやる気持ちを抑え、拳を握りしめた。
「いや、礼は不要だ。そういう約束であったからな」
……前にも思ったけど、なんかこの国の戦士にしては礼儀正しいんだよなこの人。戦士ってか武人って感じだ。
「だが、貴殿らを里に連れていくのはしばらく待ってほしい。具体的には冬が終わるまで」
「……理由を伺っても?」
「一つは、案内するのは構わぬが、里には前もって知らせねばならぬという事だ」
それは理解できないでもない。わざわざ王が秘密にするほどの場所なのだから、向こうとしても誰かを招く場合には前もって知っておきたい筈だ。客が来るにあたって|色々と(・・・)準備があるかもしれないし。
「二つ目は、冬が来るからだ」
「冬?」
「そうだ。この国は基本的に暖かいが、それでも北の方に行けば寒くなり雪も降る。時には積もることさえある。そんな時に客を歓待しなければならないとなると、どうしても悪感情を抱く者は出てくる」
まあ、それも分かるな。雪で大変な時に仕事を増やすなって思う奴はいるだろうし、歓待するには冬籠りの食料とかを使わなくてはならないのだから、迷惑に思う奴だっているだろう。それが里の存続に関わることなら仕方のないことなのかもしれないが、今回は個人的なことで行くのだ。仕方がないとは思われないだろう。
「故にスーラ様の元へ案内するのは冬が終わってからにして欲しい。私は案内はするし取次もするが、その後は貴殿ら次第だ。少しでも願いを聞き入れてもらう可能性を高めるのであれば、一族の者から疎まれるのは避けた方がよいのではないか?」
「それは……確かにそうですね。……一つお聞きしたいのですが、『スーラ様』というのは、件の神獣のことでよろしいのですか?」
「む? そうだ。我々の祀る神の名は『スーラ』と言う。だが、貴殿は里ではその名を呼ばないで欲しい。できれば里以外でも」
「何故ですか?」
「里の仲間と認められた者以外が自身等の祀る神の名を呼ぶ事を忌避する者もいるのだ。私は里の外に出るのでそういったことをあまり気にしないが、里ではそうはいかない」
「分かりました。気をつけます」
意外とめんどくさいんだな、と思ってしまうのは許して欲しい。まあ田舎なんてそんなもんだしな。いや、田舎に限らずどこだってそうか。その土地ごとの風習やしきたり、暗黙の了解なんてものは必ずある。
「では其方の話は終わったようなのでこちらの話を進めて良いでしょうか? ああ、話があるのはアンドウさんなので、コーキスさんは帰っていただいて構いませんよ」
今まで話すことなく成り行きを見守っていたグラティースがそう言った。
帰って構わないとは言っているが、それは暗に帰れっていう命令に等しい。
「そうか。では失礼させていただく」
コーキスはそう言って立ち上がると、一礼してから歩き出した。
だが、扉に手をかけてところで突然立ち止まり、こっちに振り返った。
「忘れていたことがあった。里に向かう準備が出来次第こちらから知らせを出すが、どこに出せばよいのだ?」
そういえばそれを決めないといつまで経っても連絡がつかないな。
「城に連絡していただければ私に通るように手配しておきます」
俺が答える前にグラティースがそう言った。
……まあ良いんだけどな? どうせ俺の方に連絡きてもそっちに知らせないといけないわけだし。
「わかった」
それだけ言うと今度こそコーキスは部屋を出て行った。
だが、なんだろうか? なんとなくコーキスの態度に違和感を感じたのだが……。
……ああそうか。コーキスは自国の王であるはずのグラティースよりも、俺に敬意を払っている感じだった。そのグラティースに対する態度が俺の中のコーキスのイメージとズレがあったのか。
でも、あいつのこれまでの態度からすると、相手は王なんだから敬意を払いそうなもんだけどな。
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