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獣人達の国

178:戦いを終えて

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「お前、明日は王女様とヤんのか」

 ……確かに俺は明日クーデリア王女と試合があるが、その言い方は言葉だけ聞くと誤解を招きそうだからやめてほしい。

 俺は今ガムラと向かい合って夕食を食べている。
 あの後、俺たちは倒れたガムラの見舞いに行ったのだが、起きる様子がないので書き置きと、起きたときの差し入れとして食べ物をおいてキリーの店に帰った。

 だが、ガムラは日が暮れる頃には目が覚めたようで、選手が倒れた場合は安全のため意識が戻っても泊まっていっていいという係の言葉を断りこっちに来たという。

 とはいえ、目が覚めたと言っても失った体力や魔力が完全に回復しているというわけではない。
 目が覚めるなり直ぐにこっちに来たせいで、ガムラは店に着いた途端に空腹と疲労でまた倒れ、そのせいでキリーに怒られ、ついさっき店が閉まるまで部屋に放り込まれていた。

「まぁそうなるな。……あんまり気乗りはしねえけど」

 俺が顔をしかめながらそう言うと、ガムラは食べながら苦笑した。

「そう言うなよ。王族の方々と戦えるってのは、俺たちの間じゃそれだけで人気者になれんだぞ」
「……それは知ってる。さっきまで昨日の日じゃないくらい人が寄ってきたからな」

 さっきまで部屋に放り込まれていたガムラは知らないだろうが、俺はいつものようにキリーの手伝いとして客寄せと、集まった客の相手をしていたのだが、決勝に出る事になったせいでその集まった客の数がひどい事になっていたのだ。

 加えて、俺に大会後に対戦を求めてくるやつや求婚をしてくるやつが多くて大変だった。

 俺と戦いたいって奴は、俺自身が戦うことの楽しさを理解できてしまっただけに邪険にはしづらかった。

 そしてそんな奴らよりも厄介なのが、求婚してくる奴だ。そりゃあ俺だって男だからそう言われて悪い気はしないし、反応だってする。
 けど、俺にその気はないって断っているのに、それでもと縋ってくる者の多さに辟易せざるを得なかった。
 中には俺がイリンのことが好きだと察しているのに自分の方が良いぞと言ってくる奴がいたが、ぶん殴りたくなった。

 確かにそいつは男受けするスタイルだったし、顔だって悪くない。寧ろ、悪くないどころかかなり美人の部類に入るだろう。加えて、ウサギ系の獣人だったのか、頭の上には長いうさ耳がついていて短い毛玉のような尻尾もついていた。リアルバニーガールだ。

 それに対してイリンは、元々可愛らしい顔立ちをしていて成長して美人になったが、まあ、なんというか、残念とまではいかないが普通と言えるスタイルだ。

 初見であったならどちらに惹かれるかと言ったら多分大多数の男はその女の方を選ぶだろう。正直に言えば、俺だって惹かれるものがなかったわけじゃない。

 だが、それでも俺が好きになったのはイリンなのだ。未だはっきりとはいえていないが、少なくとも見た目だけで決めたわけではない。
 何より、他人の好きな子を馬鹿にしてでも取り入ろうとするその姿勢が気に入らなかった。

 だからその時だけは誤魔化したり曖昧にするんじゃなくてハッキリと言ってしまったが、後悔はないしそれ以降は求婚も減ったので良しとしておこう。

「あ~、まあ仕方ねえだろ。決勝に出たってだけでもこの国ではすげえ事なんだぜ」
「この国じゃなくても、こんだけの規模の大会で決勝に出るのはすげえ事だろ」
「ハハッ、そりゃそうだな」

 そう言って俺たちは笑い合った。

 こいつは──ガムラは、俺がこっちの世界に来てから初めてできた友人だ。
 こっちに来た時はそんな人物ができるなんて思ってもいなかった。まあ、そんなことを考えるよりも生き残るために頭を使ってたから考える余裕なんてなかったからなんだが。

 ……やっぱり気楽に笑えるってのは良いもんだな。

 イリンといる時も楽しいし笑ってはいるが、こいつと笑うのはそれとはまた違う類の楽しさがある。
 無駄に気負うこともなく、ただその場を楽しむ。そんな関係になれる友人なんて、こっちどころか日本にいたときですらいなかった。
 だというのに、命の危険を感じるようなこっちの世界でそんな関係を築けるとは……。人生本当に何があるかわからないな。

 ……こんなことをしみじみと思うだなんて、まだそんなに歳がいってるわけじゃないんだけどなぁ。
 まあ、俺もそれなりに酔ってるってことなんだろう。後はイリンの件に目処がついたおかげで、俺の中で色々と緩んでるってのもあるか。

「……」
「……」

 俺たちの間にしばらく無言の時間が続いたが、だがそれが苦痛というわけではなかった。

「……なあ」

 ガムラが食事を終えて酒に手を伸ばしたところで、そう声をかけてきた。

「ん?」
「また、遊んでくれるかよ」

 ……遊ぶ。一瞬なんのことだと思ったが、その後すぐに今日の試合のことだと分かった。

 今日、俺たちは本気で戦ってはいたが、だからといってお互いに憎しみ合っているわけでも、ましてや殺し合っているわけでもない。だけど相手を倒すために全力で戦う。

 今日のあれは、確かに遊びだった。
 以前の俺だったら理由をつけて逃げていただろうが、今は違う。

「ふっ……。ああ、もちろん」

 俺が自分のコップを突き出すと、ガムラも自分のコップを突き出した。
 そして、お互いのコップがぶつかり、カツンッと小気味いい音が響いた。
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