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獣人達の国

177:楽しかった

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まさか昨日に引き続き投稿ミスをするとは……!

いつも読んでくださっている方、申し訳ないです。
今日もこの後もう一話投稿しますんでどうかご容赦を
__________________


「試合終了! 勝者アンドウ選手!」

 その宣言で勝敗が決すると、爆発したような歓声が上がった。

 俺は纏っていた収納魔術を解除し、持っていた武器をしまってから倒れたまま体を起こそうとしないガムラに近寄った。

「よう。生きてるか?」
「ああ。身体は動かねえけどな」
「……さっきの薬か?」
「おう。体内の魔力を強制的に使って強化の魔術を発動するってもんだ」
「そんなものあったのか? 聞いたこともないぞ」
「……まあ、欠陥品だかんな。……確か、変換効率が悪いってのと、使ったら倒れるまで魔力を使い果たすって事でな」

 なるほどな。それは確かにあまり出回らないだろうな。特に人間の国では。

 人間は魔力量的にも魔術の適性的にも、そんな薬なんて使わなくても自前で強化できるやつが多い。ステータスを収納に極振りしているであろう俺だって使えるんだ。その効果に強弱はあっても、騎士や冒険者みたいに必要な奴は全員覚えているだろう。

 だからこの世界において最も長く滞在していたのにもかかわらずその存在を知らなかったんだろうな。

「……あー、悪い。ちっと疲れたわ」
「ん? ああそうか。いやこっちこそ悪いな。ゆっくり休んどけ」
「……おう」

 ガムラはそれだけ言うと目を閉じて、カクリと動かなくなってしまった。
 その様子を見るだけなら死んでしまったように見えるが、死んではいない。眠ってしまっただけだ。

 恐らくはさっきの薬の副作用だろう。

 魔力を使い過ぎると、その後は眠気と空腹に襲われる。これは本来は体内を満たしているはずの魔力がなくなった事で、それを補おうと身体が働いているからなのだが、今回のガムラはそれだろう。

 ガムラが言っていたように倒れるまで魔力を使うのであれば、それを回復するために身体は休息を欲する。それが眠気となって襲ってきたのだ。

 ……差し入れでも持っていっておいてやるかな。

 意識が保っていられないほどの眠気を感じたのであれば、恐らくはガムラが起きた後は酷い空腹を感じるだろうからな。



 その後は大会の係の者がやってきて手際良くガムラを担架に乗せて運んでいった。
 まあ特に外傷があるってわけでもないし、心配する必要もないだろう。

 俺はと言うと、絡まれていた。王子様に。
 王子と言っても、アルディスではなくてその兄。俺が殴り飛ばした失礼な方だ。確か名前は……なんだったか。
 ……まあいいか。特に名前を呼ぶようなこともないだろうし。

 会場から観戦室に戻る通路で待ち構えていたのだから、俺が目的なのだろう。他にこの通路を通る奴はいないし。

「これは王子。なぜここに?」

 もう既にやらかした後だが、とりあえずは下手に出ておく。
 対応が面倒だからと、真面目にやらなかったから馬鹿にした感じが出てしまったかもしれないが、気にしないことにする。一応王子なんだし、それくらいで怒って何か行動を起こしたりはしないだろう。

「……。俺はお前を認めない」

 それだけ言うと、王子は振り返って足早に去っていった。

 ……えっと……何がしたかったんだ? 認めないと言われたところで、別に認めてもらわなくてもいいんだが……。

 どうせこの国に生まれたわけでも、この国に骨を埋めるつもりでもない。
 まあ他の国に比べて住みやすいから、どこかに定住するとなったらこの国に来るかもしれないが、それだって絶対じゃない。だってまだ王国とこの国しか知らないし。

 イリンの怪我の件が終わったら旅をしてみるつもりだ。その時に何箇所かは住みたいと思える場所も見つかるだろう。

 ……本当にあの王子が何しにきたか分からないな。

 まず間違いないのはあいつの独断だってことだ。あんなわけわからないことをグラティースがやるとは思えない。今のは意味がないどころかマイナスだからな。

「……まあどうでもいいか。問題があったとしても、どうとでも出来るだろ」

 そんなことよりも、早くイリン達のとこに戻ろう。



「お疲れ様でした、ご主人様」

 予想通りというか、予想外というか……。

 俺が既にイリンとキリーしか残っていない観戦室に入ると、イリンが扉の前でお辞儀をしていた。
 それは不思議ではない──それを不思議じゃないと思うのもどうなんだと思うがそれはともかく、そこにはなぜかお茶と軽食が用意されていた。今までも軽いものであればあったのだが、今回のはもっとしっかりしたものだ。所謂お茶会みたいなセットだ。

 おそらくイリンが用意したんだと思うが、多分他に人がいなくなったから迷惑とか気にする必要がないとでも思ったんだろう。前にあげた収納具の鞄は壊れてしまったみたいなので新しいのを渡したが、その中に入っていたんだろう。

 ……そういえば、今更だけどなんでイリンに渡した鞄が壊れたんだ? アレ、宝物庫にあっただけあってなかなかいい奴だったと思うんだけど。……歴代の勇者が使ってボロくなってたとか? 後で確認しておこうかな。

「お疲れ様。いい試合だったよ」

 俺が考え込んでいると、イリンの後ろからキリーの声が聞こえた。

「ありがとう」

 俺がそういうと、なぜかキリーは驚いたような態度をとった。なんだ? 俺はそんなに感謝しないように思われていたのか?

「なんだい、ガムラに勝ったのがそんなに嬉しかったのかい?」
「ん? いや、そう言うわけじゃないけど……なんでだ?」
「だって、あんた随分楽しそうにしてるじゃないか」

 ……楽しそう? あんな疲れることをしていたのに? 疲れる事は嫌だったはずなのに?
 でも、キリーの言葉を否定する事はできない。さっきの試合を振り返ると、俺の中には確かに楽しいと感じている自分がいた。

「……そう、かもな。ああそうだな。うん、楽しかったな」

 今まではどうしてこの国の奴らがあんなに戦いたがっているのかわからなかったけど、今ならなんとなくわかる。

 元々何かを競い合うって言うのはそれほど好きじゃなかった。時々であれば、勝ち負けを気にして競うのも楽しいが、毎回|そう(・・)だと疲れるからな。

 でも、今回ガムラと真剣に戦ってみて、俺は楽しかった。攻撃を受けたり、奥の手を使ったりして、痛かったし疲れたけど、それでも今は心地よい疲労と満足感を感じている。
 もし負けたとしても、この感覚は変わらないだろう。

 この国の奴らは、この感覚を知っていたのだろう。だからこそ、この国ではしょっちゅう喧嘩があるし、喧嘩をしたとしてもすぐに何もなかったかのように笑い合うことができるんだろうな。
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