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第35話「夏休みについて(1)」
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今朝の天気は土日に比べて幾分か落ち着いていた。
太陽は顔を出しているものの、そこまで暑さを感じることはなく、むしろ清々しい爽やかな朝だった。
俺は路上脇に生える朝露に濡れた草木を横目に見ながら学校へ向かう。
降り注ぐ陽の光に照らされて草木が煌めいている。
まさに『夏の朝』という感じだ。
学校に着くと、昇降口には白いワイシャツ姿の生徒がちらほら見受けられた。
先週まではブレザーを羽織っている生徒が多かったが、土日の暑さもあってか今日は皆しっかりとアイロンをかけられ、シワ1つないワイシャツを着ている。
清涼感溢れる姿で各々の教室へ向かう生徒たちを見ながら靴を履き替え、教室へと向かった。
教室内では幾つかのグループになってクラスメイトが談笑しているのが見える。
俺は教室後方のドアを開けて中に入る。
ドアを開けて入ると、秀一がこちらに気付き声をかけてくる。
「おっ!悠、おはよー」
「あぁ、おはよう。今朝も朝練あったのか?」
「今朝は大会明けで朝練は無し。だから1人で自主練してた」
そういう秀一はとても生き生きとした表情をしている。
やはり大会での結果が秀一の心に火をつけたのだろう。
以前より陸上に対する想いが強まっている気がする。
「殊勝な心がけだな。無理しない程度に頑張れよ」
「おう!」
そう言って俺は自分の席に着くと、ふと気になっていたことを秀一に尋ねてみた。
「ところで秀一。昨日はどうだったんだ?」
「あー……悠の予想してる通りだよ。男子100Mは山吹が優勝した」
秀一は困ったような、感心するような表情で答えた。
「やっぱりか……うちの陸上部からは誰か県大会に進むのか?」
「男子110Mハードルで先輩が県大会に出場することになったよ。先輩にとってはこれが最後の大会になるだろうから頑張ってほしい」
「あの先輩か……それじゃあそのうち、学校にも横断幕が飾られるかもな」
最後の大会で県大会に出場することになった秀一の先輩は、3年間練習を積み重ね、血の滲むような努力を続けてきたのだろう。
目標に向かってひたすら突き進む姿勢は、俺にはとても眩しく、輝いて見える。
「夏休み明けに県大会があるから俺も応援頑張るよ。もちろん練習もな!」
そう言って秀一は白い歯をニッと見せて笑った。
「夏休みといえば一昨日榊原と一緒に帰った時、夏休みのイベントについて少し話したんだが秀一、何かないか? こういうイベント事、得意だろ?」
秀一の口から『夏休み』という単語が出たため、俺は相談を持ちかけた。
秀一や朝霧は夏休みもほぼ毎日部活があるだろうから、そんなに多くのイベントには参加できないだろう。
それでもせっかくの夏休みだ。
秀一、朝霧、榊原とできるだけたくさんの思い出を作りたいと思う。
そんなことを思っていると、秀一は机から身を乗り出して俺の方にグッと顔を近づけた。
「任せろ! 俺が忘れられない夏休みをプロデュースしてやる!」
秀一の鼻息が顔にかかる。
「お、おう……頼もしいな……それは」
俺は仰け反りながら相槌を打つ。
夏休みのイベントに参加している自分を想像し、興奮気味に話す秀一は陸上をしている時よりさらに生き生きとした表情をしている。
秀一の中では部活に懸ける想いより、夏休みに対する期待の方が占める割合が大きいらしい。
「まずはプールだよな!榊原さんの水着姿は何としても見ておかないといけないからな。できれば海にも行きたいな。川辺でキャンプってものいいよなぁ。あと、絶対に外せないのが花火大会!紫陽花祭りの時はあんまり屋台を見て回れなかったしリベンジしたい!その他にも……」
秀一の口は止まることを忘れて、次から次へと夏休みのイベントについて語り出す。
こいつの予定にはどうやら『夏休みの課題』は入っていないらしい。
「わかったわかった……少し落ち着け」
このまま放置しておくといつまでも夏休みについて語っていそうだったため、俺は秀一の話を途中で遮った。
「秀一、部活はいいのか?夏休みも練習あるんだろ?まずはどれかに絞った方が……」
そう言うと秀一は俺の机を勢いよく叩き、物を言わせない態度で語り出す。
「馬鹿野郎!!!部活とイベント、どちらも両立させるに決まってんだろ!何のための夏休みだと思ってんだ!」
あまりにも熱く語る秀一に圧倒され、俺は頷くしかなかった。
「部活とイベントの両立」とは言ったが、課題は一体どこへ行ったのだろう……
もしかするとイベントの中に『勉強会』が入っているのかもしれない。
それが夏休み最終日に開催されなければいいのだが……
そんなことを考えていると、始業の鐘が教室内に鳴り響いた。
秀一は平静を取り戻し、黒板の方を向いて椅子に腰を下ろす。
すると、教室前方の入り口から担任の佐倉先生が入ってきた。
「いやぁ~、土日は暑かったね。蝶谷市の運動競技場でテニス部の大会があったんだけど、あまりの暑さに倒れそうになったわ……そういえば陸上部も大会があったんでしょ? 大変だったわね~。お疲れ様!」
先生は教壇に立つなり土日の暑さを思い出したのか、顔をしかめながら土日の大会について話し出した。
運動競技場のテニスコートで試合をしていたのはうちのテニス部だったらしい。
やけにうちの高校のジャージを着ている生徒が多いと思ったらそういうことだったのか。
「今週で1学期も終わりだけど、みんな夏休みまでしっかり気を引き締めなさいよー。それじゃあ、HR始めるわねー」
そういう佐倉先生の顔にもうっすらと夏休みへの期待が現れている。
佐倉先生たち教師には、俺たちのような長期休暇は与えられないだろう。
しかし、佐倉先生は学校の教師の中でも若い方で、数年前までは俺たちと同じ学生だったのだ。
だから、佐倉先生が『夏休み』という単語を聞いて少し浮かれているように見えるのもなんだか納得できるような気がした。
終業式まで残り4日。
それが終わればいよいよ待ちに待った夏休みがやってくる。
俺は教室の窓から蒼く澄み渡り、どこまでも広がる夏の空を見上げ、これから来る夏休みに胸を膨らませた——。
太陽は顔を出しているものの、そこまで暑さを感じることはなく、むしろ清々しい爽やかな朝だった。
俺は路上脇に生える朝露に濡れた草木を横目に見ながら学校へ向かう。
降り注ぐ陽の光に照らされて草木が煌めいている。
まさに『夏の朝』という感じだ。
学校に着くと、昇降口には白いワイシャツ姿の生徒がちらほら見受けられた。
先週まではブレザーを羽織っている生徒が多かったが、土日の暑さもあってか今日は皆しっかりとアイロンをかけられ、シワ1つないワイシャツを着ている。
清涼感溢れる姿で各々の教室へ向かう生徒たちを見ながら靴を履き替え、教室へと向かった。
教室内では幾つかのグループになってクラスメイトが談笑しているのが見える。
俺は教室後方のドアを開けて中に入る。
ドアを開けて入ると、秀一がこちらに気付き声をかけてくる。
「おっ!悠、おはよー」
「あぁ、おはよう。今朝も朝練あったのか?」
「今朝は大会明けで朝練は無し。だから1人で自主練してた」
そういう秀一はとても生き生きとした表情をしている。
やはり大会での結果が秀一の心に火をつけたのだろう。
以前より陸上に対する想いが強まっている気がする。
「殊勝な心がけだな。無理しない程度に頑張れよ」
「おう!」
そう言って俺は自分の席に着くと、ふと気になっていたことを秀一に尋ねてみた。
「ところで秀一。昨日はどうだったんだ?」
「あー……悠の予想してる通りだよ。男子100Mは山吹が優勝した」
秀一は困ったような、感心するような表情で答えた。
「やっぱりか……うちの陸上部からは誰か県大会に進むのか?」
「男子110Mハードルで先輩が県大会に出場することになったよ。先輩にとってはこれが最後の大会になるだろうから頑張ってほしい」
「あの先輩か……それじゃあそのうち、学校にも横断幕が飾られるかもな」
最後の大会で県大会に出場することになった秀一の先輩は、3年間練習を積み重ね、血の滲むような努力を続けてきたのだろう。
目標に向かってひたすら突き進む姿勢は、俺にはとても眩しく、輝いて見える。
「夏休み明けに県大会があるから俺も応援頑張るよ。もちろん練習もな!」
そう言って秀一は白い歯をニッと見せて笑った。
「夏休みといえば一昨日榊原と一緒に帰った時、夏休みのイベントについて少し話したんだが秀一、何かないか? こういうイベント事、得意だろ?」
秀一の口から『夏休み』という単語が出たため、俺は相談を持ちかけた。
秀一や朝霧は夏休みもほぼ毎日部活があるだろうから、そんなに多くのイベントには参加できないだろう。
それでもせっかくの夏休みだ。
秀一、朝霧、榊原とできるだけたくさんの思い出を作りたいと思う。
そんなことを思っていると、秀一は机から身を乗り出して俺の方にグッと顔を近づけた。
「任せろ! 俺が忘れられない夏休みをプロデュースしてやる!」
秀一の鼻息が顔にかかる。
「お、おう……頼もしいな……それは」
俺は仰け反りながら相槌を打つ。
夏休みのイベントに参加している自分を想像し、興奮気味に話す秀一は陸上をしている時よりさらに生き生きとした表情をしている。
秀一の中では部活に懸ける想いより、夏休みに対する期待の方が占める割合が大きいらしい。
「まずはプールだよな!榊原さんの水着姿は何としても見ておかないといけないからな。できれば海にも行きたいな。川辺でキャンプってものいいよなぁ。あと、絶対に外せないのが花火大会!紫陽花祭りの時はあんまり屋台を見て回れなかったしリベンジしたい!その他にも……」
秀一の口は止まることを忘れて、次から次へと夏休みのイベントについて語り出す。
こいつの予定にはどうやら『夏休みの課題』は入っていないらしい。
「わかったわかった……少し落ち着け」
このまま放置しておくといつまでも夏休みについて語っていそうだったため、俺は秀一の話を途中で遮った。
「秀一、部活はいいのか?夏休みも練習あるんだろ?まずはどれかに絞った方が……」
そう言うと秀一は俺の机を勢いよく叩き、物を言わせない態度で語り出す。
「馬鹿野郎!!!部活とイベント、どちらも両立させるに決まってんだろ!何のための夏休みだと思ってんだ!」
あまりにも熱く語る秀一に圧倒され、俺は頷くしかなかった。
「部活とイベントの両立」とは言ったが、課題は一体どこへ行ったのだろう……
もしかするとイベントの中に『勉強会』が入っているのかもしれない。
それが夏休み最終日に開催されなければいいのだが……
そんなことを考えていると、始業の鐘が教室内に鳴り響いた。
秀一は平静を取り戻し、黒板の方を向いて椅子に腰を下ろす。
すると、教室前方の入り口から担任の佐倉先生が入ってきた。
「いやぁ~、土日は暑かったね。蝶谷市の運動競技場でテニス部の大会があったんだけど、あまりの暑さに倒れそうになったわ……そういえば陸上部も大会があったんでしょ? 大変だったわね~。お疲れ様!」
先生は教壇に立つなり土日の暑さを思い出したのか、顔をしかめながら土日の大会について話し出した。
運動競技場のテニスコートで試合をしていたのはうちのテニス部だったらしい。
やけにうちの高校のジャージを着ている生徒が多いと思ったらそういうことだったのか。
「今週で1学期も終わりだけど、みんな夏休みまでしっかり気を引き締めなさいよー。それじゃあ、HR始めるわねー」
そういう佐倉先生の顔にもうっすらと夏休みへの期待が現れている。
佐倉先生たち教師には、俺たちのような長期休暇は与えられないだろう。
しかし、佐倉先生は学校の教師の中でも若い方で、数年前までは俺たちと同じ学生だったのだ。
だから、佐倉先生が『夏休み』という単語を聞いて少し浮かれているように見えるのもなんだか納得できるような気がした。
終業式まで残り4日。
それが終わればいよいよ待ちに待った夏休みがやってくる。
俺は教室の窓から蒼く澄み渡り、どこまでも広がる夏の空を見上げ、これから来る夏休みに胸を膨らませた——。
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