ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第三章 戦争編

第80話 再会 ①

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 帰り道はスムーズだった。
 行きとは比べ物にならないくらいの速度で行軍している。
 いや、もう行軍とは呼べないかもしれない。
 たった8人と輜重の馬車だけだ。
 3人は怪我をしていたので、輜重の馬車で休んでいる。
 馬車は行きの分の糧食を消費していたので、半分はスペースが空いていたのだ。
 馬車を囲むようにして、俺とヴァンダレイジジイ、ピートにラッセル、騎馬のお嬢様が続く。
 傍目には軍と言うよりも商隊に見えるだろう。
 寂しくなってしまったものだ。
 道中、俺たちは殆ど口を聞かなかった。
 共通の話題なんて、同じ討伐軍の仲間内の話しかなく、その仲間は殆どいなくなってしまったからだ。

 夜の夜営中も、ピートとラッセルとバカ話もせずに大人しく寝た。
 そんな話をする気分ではなかったし。
 というか、そもそもピートが余所余所しい。
 避けられている気すらする。
 俺にしては珍しく、結構仲良くなれたと思っていたのだが。
 お嬢様に両手を握られてお礼を言ってもらった時に、ドサクサに紛れて手をさわさわしてしまったのがバレたのだろうが。
 それくらいで怒るなんて、尻の穴の小さい男である。
 まあ、もしもピートがルーナの手をさわさわしたら殺すが。
 ……あれ、殺すような事をしてしまっていた。

「ぴ、ピート? 大丈夫か? 歩くの疲れてないか?」

 急に不安になって、機嫌を取るために猫なで声で話しかけてしまった。
 もう帰り道の半分くらいを歩いている。
 若いといっても、激しい戦の後なんだから、疲れていてもおかしくない。
 疲れていたら、ひょいっと小脇に抱えてやろうと思ったのだ。
 筋力ステータス100超えの俺にとって、ピートを抱えるくらい楽勝だ。
 気色の悪い画ではあるが。

「いえ! 大丈夫です!」

 け、敬語とか……。
 ピートの怒りは相当らしい。
 しばらくそっとしておこう。
 まあ、俺はもともと孤高で孤独な誇り高いボッチだ。
 と、友達の1人や2人いなくなったって寂しくないんだかんねっ!

 俺はちょっとしょんぼりしながらとぼとぼと歩き続けた。

「……そういえば、貴様の剣についてじゃが」

 急にヴァンダレイジジイが話しかけてきた。
 ヴァンダレイジジイは失った片目を布で覆っている。
 ちょっと厨二病の臭いがしてかっこいいと思ってしまった。
 というか、今まで無言のお通夜状態だったのに。
 俺がさっきピートに話しかけたのが良いきっかけになったのだろうか。
 どうしよう。
 たった一言で場の空気を和ませてしまった。
 これで俺も明日からリア充の仲間入りだろうか。
 困ったな。美学に反するんだが。

「それは月光魔剣という。その名の通り魔剣でのう。魔力を込めると切れ味が増すんじゃ。あれだけの土魔法が扱える貴様なら使いこなせるじゃろう」

 ヴァンダレイジジイは良い事教えてやった的な顔をしていた。
 ちょっとイラッとした。
 もう知ってますぅー。
 とりあえず、剣を抜いて魔力を通してみる。
 月光魔剣が薄ぼんやりと発光しだした。
 ジジイにドヤ顔を返す。

「むう、知っておったのか」

 戦争中はMPがカツカツで使えていなかった。
 オーク相手なら魔力なしの月光魔剣でも十分戦えたので良かったのだが。

「前の持ち主が使っているのを見たからな」

 山賊長が使っていなかったら、この剣に光るギミックが仕込まれているなんて気づかなかっただろう。
 ほんといつ見ても光る月光魔剣はかっこいい。
 密林的なショッピングサイトで売っていたら、数万円でもクリックしてしまっただろう。
 思わずうっとり月光魔剣を眺めてしまう。

「……前の持ち主じゃと? 貴様、以前は河原で拾ったとほざいておったではないか」

「うっ!」

 そうだった。
 エロ本かよと突っ込みたくなるような嘘で誤魔化していたんだった。

「貴様、もしかして嘘をついたのか? この儂に嘘を……? 剣士のくせに、嘘を、ついたのか!」

 ジジイが真赤になって血管を浮き上がらせながらプルプル震えだす。
 嘘は地雷だったらしい。
 というかやめて。
 怪我した目から血がドバドバ出てるから。
 傷口開いてるからそんなに怒らないで。

「嘘をつく奴はクソ野郎じゃ! 男なら正直に生きんか!!!」

 嘘をつかなくても十分クソ野郎なので、今更なんとも思わないが。
 ただジジイが脳溢血になりそうなので、慌てて弁明しておく。

「いや、本当は山賊から奪ったんだ。とある理由から山賊と喧嘩になってな。山賊長が持ってた剣なんだ。その、山賊を一人で壊滅させたとか信じてもらえないと思ったし……」

 ぶつぶつと言い訳がましく説明してみる。
 女を襲われたので、怒って山賊のアジトに乗り込んで壊滅させるとか。
 どこの世紀末覇者だと言いたくなる。

「山賊じゃと? その剣を持っていたのはどんな男じゃった?」

「え? えーと」

 山賊長がどんな男だったか?
 ええと、よく思い出してみたけど、女ではなかったくらいの感想しか思い浮かばない。
 顔は薄ぼんやりと、というか靄がかかったようにしか覚えていない。
 俺の脳内HDDはオートフィルターがかかっていて、男の顔は自動的に消去されるのだ。
 そんなの覚えても意味がないし。

「……ふむ。その剣はグロッグという男の家に代々伝わる家宝でな。かつて儂の部下だった男じゃが、良い軍人じゃった」

「ほう」

「最近、見かけぬとは思っておったが、民を人一倍大切にする奴じゃったからのう。よもや山賊に身をやつしているなんてことはあるまいが……」

「あーそういえば、民がどうの言ってたな。皆、生活に苦しんだ挙句に山賊になった的な」

 山賊長が最期に喋っていたことを思い出す。
 細部は思い出せないが、ニュアンス的にはそんな感じだったはずだ。

「……まさか、本当にグロッグか。ありえん、あれほど忠義に厚い男が!」

 ヴァンダレイジジイがなんかショックを受けている。
 確かに他の山賊たちとは雰囲気が違ったような気がするが。
 うーん、どうなんだろう。
 山賊長を殺してしまった今となっては、本当にそのグロッグさんかどうかはわからない。

「まあ、確かに税の徴収厳しいもんな。うちなんて農作物全部持っていかれてもまだ足りないとか言われたし。それで俺が徴兵される羽目になったんだ」

「……さすがにそれは、その、そんなはずはないのですが」

 馬上のお嬢様が口を挟んできた。
 ジジイとの会話なんて砂漠よりも不毛な行為だったので、美人のお嬢様の一声はオアシスのように感じてしまう。
 思わずにやけそうになってしまうが、ピートが嫉妬するので必死に我慢した。
 まったく面倒くさいお年頃である。

「土地税は収穫量の3割が基本で、戦時特例を適用しても4割のはずです。最近はずっと戦時特例ですが……」

 ふむ。
 4割でも十分高い気がするが。
 日本政府がそれをやったら俺は亡命する。

「ちなみに、コウの所に行った徴税官は誰でしたか? 名前は?」

 え、名前?
 ええと、うーんと。
 だ? た? 田中さんだったかな。
 絶対に違うが、完全に忘れてしまった。
 男の名前なんて覚える趣味はない。
 女の名前、特に風俗嬢とかキャバ嬢の名前は覚えるが。
 次に指名する時に困るので。

「……ちなみに、どんな風貌でした?」

 風貌?
 ええと、オッサンだったけど、なんか靄がかかったようになっている。
 だから、俺の脳内HDDは(略)
 女の、特に美人の見た目なら完全に焼き付けるのに。
 例えば、俺の周りの女達の顔を隠して裸体だけ見てもすぐに誰かわかる(ドヤ顔)。
 え、というか物凄く楽しそうな遊びを思いついてしまった。
 帰ったらやってみようか。
 いや、裸体じゃ簡単すぎるか。
 背格好で判ってしまう。
 いっそ、おっぱいだけを見て当てるという方が。
 いやいや、乳首だけのほうが趣があって……。
 ……ダメだ。最近、禁欲生活をしていたせいで、考えることが中学生みたいになってきた。
 そもそも、そんな事をしたらルーナがブチ切れるに違いない。

「貴様の頭は鳥並みじゃな。記憶力がないにも程があるわい」

 ヴァンダレイジジイに悪口を言われてしまった。
 すごく失礼なんですけど。
 俺の脳は高度なアルゴリズムが組んであるのであって、決して記憶力が低いわけではない。
 絶対にだ。

「とはいえ、民が困窮しておるのは本当ですわい。長引く戦争に重税。役人どもは私腹を肥やすのに必死ときている。まあ、軍人である儂が口を出すことではないのじゃが」

「……私もその徴税官が誰か判った所で、どうすることも出来ないのですが……。お父様に言っても、出戻りの私の言葉なんて聞いてもらえないでしょうし」

 お嬢様がしょぼんとしてしまう。
 なんかこのお嬢様には不幸オーラがよく似合う。
 薄幸系美人というのだろうか。
 無職で家で酒ばかり飲んでいる夫に殴られながら、必死に内職とかしてそうなイメージだ。
 うう、なんか想像しただけで泣けてきた。
 ピートめ、ちゃんと働け!
 ちなみに、無職の夫のイメージはピートだった。
 思わず睨みつけると、ピートはポカンとした顔をしていた。
 そりゃそうですわ。

「……コウ、さっきの山賊長の話じゃが、奴は今どこにおるんじゃ? 居場所を教えてくれんか?」

 ヴァンダレイジジイが思い出したようにそんな事を聞いてくる。
 そういえば、顛末はまだ話していなかった。
 会いにでも行こうとしたのだろうか。

「山賊長は殺した。俺がこの手で首を跳ね飛ばした」

「……そうか。山賊じゃからのう。よくやったと言うべきじゃな」

 そう言って、ヴァンダレイジジイもしょぼんとしてしまった。

 というか、どうしよう。
 せっかく会話していたのに、またお通夜みたいな重苦しい雰囲気になってしまった。
 ここは一発、気の利くギャグでもぶちかまそうか。
 ダメだ。
 どんなに考えても全裸芸くらいしか思いつかない。
 そんなのでウケを狙えるのは小学生までだ。
 そもそも、ウケを狙おうと思って狙えたら、システムエンジニアなんてやってなかったわけで。
 うーん、困った。

 そんな時、一人の旅人とすれ違った。

 頭からすっぽり覆うようなフード付きのマントを身に着けている。
 そのマントはかなりくたびれていて、長旅をしてきた事を伺わせる。
 フードを目深に被っているせいで、その表情は伺えない。

 別に旅人とすれ違うのなんて珍しいことじゃない。
 行軍中に何人もすれ違っている。
 だというのに、なぜかその旅人に引き寄せられた。
 旅人は疲れ果てているのか、その足取りは怪しく、よろよろしている。
 木の棒を杖代わりにやっと歩いている状態だった。

 そんな旅人と一瞬目があった。
 フードに覆われて影になった顔はよく見えない。

 ただ直感が走った。

 旅人は俺と目が合うと、ピタッと止まった。
 カランと持っていた木の棒が地面に落ちる。
 そして、そのままよたよたと近づいてくる。

 俺は旅人を抱きしめていた。
 その感触は懐かしくて。
 夢にまで見ていた感触で。

「……ふぐっ、こ、コウ、ひっく」

 旅人が涙に濡れた声で俺の名を呼ぶ。
 良く泣く女である。

 やぼったいフードをめくる。
 そうすると、封印されていた光が解き放たれるように、綺麗な金髪がふわりと風に揺れて、長い尖った耳が飛び出てきた。
 薄汚れている上に、泣きじゃくっているせいでその顔は酷いものだったが、世界中の誰よりも美しいと思ってしまう。

 旅人はルーナだった。
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