ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第三章 戦争編

第79話 兵どもが夢の跡

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 うず高く積まれたオークの死体の山の上に、腰を下ろしていた。
 激しい戦いだった。
 ちなみに、身体はなんともない。
 何度か斬られて、鉄シリーズの防具はボロボロだが。
 セレナのくれた鎖帷子には傷一つついていない。
 オーク指揮官に脇腹を斬られたが、問題なく反撃できたのはこの鎖帷子のお陰だろう。
 鎖帷子をそっと撫でると、セレナの温もりを感じた気がした。

 何体のオークを斬っただろうか。
 10や20ではきかないだろう。
 夢中で剣を振り回していたのでわからなくなってしまった。
 レベルは3つ上がっていた。
 バイコーンを串刺しにしまくった時に1つ、オークの指揮官を倒した時に1つ、その後、オークの兵士を斬っているうちに1つだ。
 ちなみに今のステータスはこんな感じだった。

 #############################################
【ステータス】
 名前:コウ
 LV:20
 称号:悲哀なる社畜、色事師
 HP:1302/1306(+4)
 MP:210/210(+12)
 筋力:127(+5)
 防御:29(+6)
 敏捷:31(+6)
 器用:32(+5)
 知能:63(+6)
 精神:51(+4)
 スキルポイント:9
 #############################################

 やっとレベル20に到達した。
 カンナさんやセレナのステータスを見ちゃったせいで、全然強くなった気がしないが。

 ステータスのログを閉じて、目を瞑る。
 そして、大きく息を吐いた。

 さすがに疲れた。
 疲労耐性があるので、肉体的には疲れていないのかもしれないけど。
 精神的にはかなりきている。

 この戦争は、俺達の勝ちだ。
 辺りに動いているオークはいない。
 皆、討ち取られたか、逃げていった。
 それでも、俺達のダメージもかなりのものだった。
 戦っている最中に、オークに斬り殺されていく老人たちを何度も見た。
 辺りには、オークの死体だけではなく老人の死体もたくさんある。
 救えなかった。
 目の前のオークを倒すのがやっとで。
 老人たちが死んでいくのを、ただ見ている事しか出来なかった。
 どっと疲れが出る。
 俺はなんの為に。

「……ずいぶん殺られたのう」

 ヴァンダレイジジイの声が聞こえる。
 ヴァンダレイジジイは俺と同じようにオークの死体の山に腰掛けていた。
 その姿は酷いもので、返り血だろうが、全身血まみれで、白髪まで真赤に染まっている。
 俺の横で、それこそ鬼のようにオークを斬りまくっていたもんな。
 というか、片目が……。

「むう、これか? ただのかすり傷じゃ」

 いや、全然かすり傷じゃないだろう。
 ヴァンダレイジジイの右目がグールみたいになっている。
 斬撃でも受けたのだろうか。
 傷とともに、目玉が飛び出て、垂れ下がっていた。
 かなりゾッとする。
 どうすればいいんだろう。
 また嵌め込めば治るのだろうか。
 いやいや。
 ええと、まず救急車を呼んで……。

 俺が完全に混乱していると、ジジイは小さく鼻を鳴らして、ブラブラと揺れていた目玉をブチッと引きちぎると、その辺にポイした。
 ええええええ。

「儂もさすがに歳かのう。オーク如きに遅れをとったわ」

 何事もなかったようにヴァンダレイジジイは言う。
 というか、オーク共をメッタ斬りにしてたから。
 全然遅れをとっているようには見えなかった。
 恐らく70代のジジイには絶対できない芸当だった。
 普段何食べれば、こんな化物ジジイになれるんだろうか。
 まあ、なりたくはないが。

「まあ、儂の事はどうでもいいんじゃ。それよりも、皆の事よ」

 ヴァンダレイジジイが目を向けたのは、オークと相打ちになって事切れている老人だった。
 オークの剣に肩から腹まで切り裂かれながらも、老人の槍がオークの喉元に突き刺さっている。
 壮絶な最期だったのだろう。
 半分になった身体で、オークに噛み付いたまま息絶えた老人もいた。
 周りにあるのは、そんな死体ばかりだった。

「……勇敢だったな」

 柄にもなくそんな感想を漏らしてしまった。

「まったくじゃ。……まったく」

 ヴァンダレイジジイが項垂れる。
 恐らく、俺たちは10人も残っていない。
 最初は100人いたのに。

「戦に犠牲は付き物じゃ。皆、覚悟しておったじゃろう。だが……」

 ヴァンダレイジジイは項垂れたまま声を出している。

「……儂は、誰ひとりとして、欠けることなく、皆で生きて帰るつもりじゃった」

 それはなんとなく感じていた。
 ヴァンダレイジジイの戦術は勝ち戦にひたすら乗るという、姑息と言ってもいいものだった。
 しかし、そのお陰で犠牲は最小限に抑えられていたと思う。
 それでも、犠牲は出ていたのだが。

「それなのに、皆は死に、儂が生き残るとはのう」

 そう言ったヴァンダレイジジイの姿は、年相応の疲れ果てた老人のものだった。
 俺は言葉を返すことができなかった。
 ヴァンダレイジジイは常に先頭で果敢に戦っていた。
 生き残って良かったじゃんと思うのだが。
 まるで恥じ入っているように言うヴァンダレイジジイには、何も声をかけられなかった。
 状況が悪かったのだ。
 あの騎馬隊の存在は異質だった。
 あれが出てこなかったら、今頃皆で勝鬨を上げていたのかもしれない。
 あの騎馬隊は何だったのだろうか。

「ヴァンダレイ」

 そんな時、声をかけてきたのはお嬢様だった。
 お嬢様は無事だった。
 ピートも一緒だ。
 戦っている最中に、お嬢様を守りながらオークを必死に追い払っていたのを見た。
 最後までお嬢様を守り抜いたらしい。
 男だな。
 ちなみに、オーク指揮官の首を掲げて、戦闘には直接参加しなかったラッセルも無事だ。
 今はオーク指揮官の首を刺した槍にもたれ掛かるようにして、座り込んでいる。
 2人が無事だっただけでも気持ちが楽になる。

 お嬢様は騎士の一団を伴っていた。
 先頭にいるのは白馬に跨った白銀の鎧を着た美丈夫だ。
 絵に描いたような騎士だった。
 40歳くらいの、なんというか爽やかなオジサンだった。
 ベンチャー企業の社長みたいな、出来る人オーラがプンプン出ている。
 髭とか綺麗に整えていて、ちょっとかっこいい。
 オジサンの後ろには大きな旗を持った従者や、他の騎士達が続いている。
 王国軍の騎士達だろう。
 今回の戦犯だ。
 こいつらがもたもたしていたせいで、俺たちがオーク騎馬隊を止めなきゃいけなくなった。
 思わず騎士達に向ける目に殺気を孕ませてしまう。

「彼が我が家臣ヴァンダレイ・シュヴァインベルクですわ。大将軍閣下」

 お嬢様が白馬の騎士にヴァンダレイジジイを紹介していた。
 ジジイの名字は初めて聞いたが、なんかかっこいい。
 というか、大将軍?
 あの白馬のオジサンは大将軍らしい。
 ヴァンダレイジジイが素早く地面に膝をついている。
 これは礼を尽くしているのだろうか。
 こっちの作法とかわからないんだけど、俺もやったほうがいいんだろうか。
 そんな事を考えていたら、ヴァンダレイジジイに頭を無理やり地面に押し付けられた。
 頭が高かったらしい。

「今回の戦働き、見事だったぞ」

「ははっ」

 おお。
 時代劇みたいだ。
 ははっとかリアルで言ってるの初めてみた。

「それで、そっちの少年。名はなんという」

 少年とは俺の事だろうか。
 というか、このオジサン偉そうでムカつく。
 大将軍だから偉いんだろうが。
 戦犯のくせに、馬から降りようともしない。
 とはいえ、ヴァンダレイジジイが肘でバキバキつついてくるので仕方なく答えた。

「……コウです」

「ふむ。コウか。貴様の働き見ておったぞ。単独で敵騎馬隊に突撃して敵将を討ち取った時は、年甲斐もなく心が躍ったわ。まるで英雄譚を見ているようだった。凄まじい戦果よな。王に具申しておく故、恩賞は期待しておれよ」

 どうしよう。
 べた褒めされた。
 とはいえ、こいつを許す気はない。
 こいつがさっさと王国軍を纏めていれば、老人たちが死ぬことはなかったのだ。
 とりあえず、無視してガンを飛ばす。
 さっきからヴァンダレイジジイがバキバキと肘をぶつけまくってくるが。
 というか、痛いんだけど。

 社畜だからって舐めんなよ。
 俺は権力には謙らない。
 その分、他人の倍働くので、上に気に入られなくても首は切られないのだ。

「過分なお言葉。ありがたき幸せに存じます!」

 ずっとガンを飛ばしていたら、ヴァンダレイジジイが代わりに答えてしまった。
 それでいいのかジジイ。
 さっきあんなに凹んでたのに。

「ふふ、そう睨むな。貴様の言いたいことはわかる。王国軍にもいろいろあるのだ。いつになっても魔道士部隊が来なくてな」

 そういえば、最後に参戦してきた王国軍の中に魔法使いの姿はなかった。
 この戦争で魔法を使ったのは俺だけかもしれない。
 ルーナ達からさんざん戦争の道具だと聞いていたのに。

「立場上、詫びるわけにはいかんが、許せと言う気もない。とにかく、ヴァンダレイにコウ、大儀であった」

 そう言い残すと、大将軍は颯爽と帰っていった。
 その去り姿は、ちょっとかっこよかった。
 ムカつくが、モテるんだろうなと思ってしまった。
 大将軍という立場もあって、かっこいいとか。
 絶対に悪いやつである。
 20代のイケメンよりも、40代のかっこいいオジサンの方がよっぽど油断ならない。
 40代でナチュラルボーンかっこいいなんてありえないからである。
 歳をとれば、自然と醜くなっていくのである。
 絶対に陰で血の滲む努力をしているに違いない。
 女にモテるために。
 嫌なやつだ。

「……全く貴様は。大将軍閣下になんて態度をとるんじゃ」

 ヴァンダレイジジイに怒られてしまった。
 レティーお嬢様も咎めるような目を向けてくる。

「だ、だって、あいつのせいで」

「だとしてもじゃ。10万の大軍を預かる大将軍が、わざわざ儂ら一兵卒の所に来て下さったんじゃ。それだけでも、ありがたいと思うもんじゃ。まったくこれだから最近の若いもんは」

 そんなものだろうか。
 というか、最近の若者ではないのだが。
 やれやれと言ったように、お嬢様に付き従うピートに目を向けてみる。
 ピートは俺と目が合うと、さっと目を反らしてしまう。
 なんか余所余所しくて傷つくんだけど。

「……コウ、大将軍閣下もおっしゃっていましたが、今回の戦働き本当に見事でしたよ。私からも父に良く伝えておきます」

 お嬢様はそう言って、俺の手を両手で握ってくれた。
 久しぶりに感じる女の感触だった。
 思わず滾ってしまう。
 ピートの手前、手は出さないが。

「それにしても、魔法使いだったのですね。なぜ王宮に士官しないのですか? 爵位と高待遇で迎えられますのに」

 そういえば、ちゃっかり魔法を使ってしまった。
 ルーナにバレたら怒られてしまう。

「はは、まあ、なんというか、その、田舎暮らしが性にあってまして」

 とりあえず、曖昧に誤魔化してみた。
 さらっと引きこもりを匂わせて、真実を混ぜるのが味噌だ。

「まあ、そうなのですか」

 お嬢様はあっさりと納得していた。
 ヴァンダレイジジイは鋭い目を向けてきたが。
 あの目は全てお見通しな気がして苦手だ。



 その後、戦死した老人たちを埋葬した。
 土魔法を使えばあっという間に終わる作業だったが、なんとなく使う気になれなかった。
 一人一人、手作業で穴を掘って丁寧に埋葬した。
 王国軍も手伝ってくれたお陰で、なんとか日が暮れるまでには、全員埋葬することが出来た。
 戦死者は92人だった。
 ほぼ全滅に近い。
 ちなみに、オーククラッシャーの老人も亡くなっていた。
 気の良い老人だったのに。
 オーククラッシャーは老人の墓標として立てておいた。
 この世界での鎮魂の仕方がわからないが、とりあえず両手を合わせて、深く黙祷する。
 心の中で、ノリコさんに老人たちのことを頼んでみた。
 どうか次は戦争のない平和な世界に転生させてあげて下さいと。
 神に祈るなんて、柄にもないが。

 死者への祈りが終わると、帰りたいと思った。
 なんか無性にルーナのもとに帰りたくなった。
 さっさと帰ろう。
 もういいだろう。
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