ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第23話 死の香り

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 セレナさん、いやセレナに膨大な魔力が集まっていく。
 高密度な魔力が、セレナを宙に浮かべ、その美しい銀髪をふわふわと漂わせた。
 圧倒的な魔力量だった。

 俺は剣を構えながら思うのだ。

 なんかすげえ強そうだと。
 魔力量だけで言えば、俺より遥かに勝っている。

「お前が森の主なのか?」

 背中で庇ったルーナがそんな事を聞く。

「森の主? まあ、確かにこの森は私のものだけれど」

 そうだった。
 俺は森の主を殺りにきたのだ。
 おっぱいに全てを上書きされて忘れていた。
 今やそのおっぱいは宙に浮かんでいる。
 空飛ぶおっぱいである。
 夢いっぱいすぎてやばい。

「お前達が、私の可愛い子供を殺したのはわかっているわ。コウが私のものになるのを大人しく認めるのであれば、許してあげてもいいのよ?」

 可愛い子供というのは、あのグールのことだろうか。
 腐った死体が子供とはこれいかに。
 そもそも、俺がセレナのものになっている時点で、俺は許されていないんだけど。

「認めるわけないだろう!」

 ルーナは問答無用で、いつの間にか構えていた弓を放つ。
 放たれた矢は、正確にセレナの眉間へと吸い込まれていき。

 その美しい左手の人差し指と中指に挟まれていた。

「……言っておくけれど、私はかなり寛大な事を言っているのよ? その男を差し出せば、命を助けてやると言っているの。わかっている? 私と戦えば、お前は死ぬわ」

 セレナの赤い瞳が鋭く光る。
 指先だけで挟んで止めた、ルーナの矢を握りつぶすように粉々にした。

「……黙れ」

 ルーナは、次の矢をつがえながら、セレナに狙いを定めている。
 その表情は固い。
 セレナの言っている事が、冗談ではないと薄々勘付いているのだろう。

 ……なんでもいいけど、俺を無視して話を進めるのやめてくれない?
 ものすごく帰りたくなるんだけど。

 とりあえず、剣を構えてルーナにアイコンタクトを送る。
 頷いたルーナは弓を構えながら、後退していく。

 俺が前衛、ルーナが後衛だ。

 そんな俺達を見て、セレナは小さくため息をついた。

「……愚かな。死んで後悔しなさいな」

 突然、セレナの纏う雰囲気に殺気が混じる。

 来る。

 そう感じた時には、剣を交差させて防御していた。

 動きづらいはずの黒いロングドレスを物ともせず、セレナが飛ぶように跳躍して来る。

 交差させた剣に、重い衝撃。

 響き渡る金属音。

 セレナは丸腰だったはずだ。

 しかし、肉薄したセレナが腕を振るうごとに、受け止める剣が火花を上げる。

 火花に照らされる刹那、セレナの指先が驚くほど鋭利化してるのがわかる。
 それは爪だった。

 化物かよ。

 セレナの攻撃はまさに変幻自在だった。
 両手を縦横無尽に振り回す。

 俺は必死に剣を合わせて対応するが、明らかに剣が綻び始めている。
 セレナの爪の方が硬いのだ。

 その時、ルーナの援護射撃がセレナの連撃を止める。

「今のうちに!」

 ルーナに言われるまでもなく、俺はセレナに剣をぶつけるように投げ捨てる。
 投げ捨てた剣はあっさりセレナに払われた。

「武器を捨てるなんてもう諦めたの?」

「諦めるのは、お前だ!」

 ルーナが驚異的なスピードで矢を放ち続ける。
 かつて俺と戦った時に見せたマシンガンのような連続矢だ。
 矢をつがえる腕の動きが早すぎて見えない。

「ふふふ、あくびが出るわね」

 セレナはそんなルーナの高速矢を、最小限の動きで躱してていく。
 長い銀髪と黒いドレスが残像を残して揺れる。
 ルーナの矢は一本もセレナに当たっていなかった。

 俺はこの隙に、新しい剣を生成する。

「なっ――!?」

 作ったばかりの剣を一閃させる。
 左手で横を薙ぎ、右手で振り下ろす。
 二刀流ならではの、十字を描く躱せるはずのない必殺技。

 しかし、セレナは俺の攻撃を両手の爪であっさりと受け止める。

「……驚いた。なあに、今のは?」

 剣と爪で鍔迫り合いをする俺とセレナは、息がかかる距離で肉薄する。
 思い切り力を込めているのに、微動だにしないセレナの細腕に違和感を受ける。

「ちょっとした手品のようなものだ」

 軽口を叩きながらも、汗一つかかずに、美しさも全く損なわないセレナに舌を巻いた。
 やってることは化物そのものなのに、美人だっていうのが質が悪い。
 ゲームとかでよくあるように、戦う時は化物に変身してくれないだろうか。

 その時だった。

 ターンッと軽快な音を響かせて、セレナの額に矢が突き刺さる。

 音はもちろん、気配も魔力も全く感じさせない一撃だった。
 振り返れば、ルーナが綺麗な残心をとっている。

「私の目の前で、他の女といちゃつくな!」

 ルーナが空気を読めない事を言っているが、ルーナの放った一撃は確実にセレナの頭蓋を貫通していた。
 額を貫かれたセレナは、糸が切れた人形のように首をカクンと折らせて、膝から崩れ落ちていく。

 美人なので少しもったいない気がする。
 これでは即死だろう。
 ルーナは容赦ない。
 そんな事を思った。

「……痛いわ」

 崩れ落ちようとしていたセレナが踏みとどまる。

 その赤い瞳には、力が宿ったままだ。

 そして、矢に貫かれたままの額に手を当てると、ずぶずぶとゆっくり矢を引き抜いていく。

「そんな……」

 ルーナが呆然と呟く。
 俺も目の前で起きている事に声を失っていた。

 やっぱり人間じゃなかった。

「……今のは静寂矢(サイレントアロー)というやつ? 小娘のくせに生意気な」

 セレナは、抜き終わった矢を床にカランと捨てる。
 貫かれたはずの額の穴は、わずかな血を流したのみで、綺麗に塞がっていく。
 セレナの額から流れた一筋の血は、整った鼻梁を伝っていき、やがて真っ赤な舌に舐め取られた。
 それは背筋が凍るほど艶やかな仕草だった。

「私の顔を傷つけた罰よ」

 セレナが片手をルーナに向ける。

 俺は咄嗟に土の防壁をルーナの前に作ろうと――。

 閃光だった。

 紫色の稲妻がルーナを貫く。

 文字通りの光の速度だった。

 皮肉にも、俺の土壁が生成されるのと、ルーナが倒れるのは同時だった。

「ルーナ!」

 思わず叫んでいた。
 全身から血の気が引いていく音が聞こえる。
 咄嗟にルーナに駆け寄ろうとした。
 しかし、傷ついたルーナに、俺は何もすることができない。
 ――それよりも。

「……ふん、バカな小娘」

 そんなセレナの言葉を聞きながら。

 俺は血が滲むほど歯を食いしばっていた。

 目の前の女を睨みつける。

 こみ上げてくる激情。

 なぜかわからないが、この女を殺したくて仕方がない。

「あら? もしかして、怒っているの? 邪魔な小娘がいなくなってよかったじゃない」

「……黙れ」

「小娘の代わりに、私を好きにしていいのよ?」

 セレナは両手で自分を抱くようにして、その豊満な胸を強調させる。

「黙れと言っている」

 俺は一度鍔迫り合いをしただけで、もう刃毀れしている剣を捨てて、新しい剣を生成し直した。
 今度は刃毀れしないように、念入りにオーバーロードを発動させて剣先を硬質化させていく。

 オーバロードによって纏わりつく魔力の残滓を、剣を振るって振り払う。

 セレナはそんな俺を不躾に値踏みするように眺めた

「……ふうん。もっと見た目だけのくだらない男だと思っていたのだけれど」

 俺は殺意を込めて、セレナに向かって剣を構えた。

「いいわ。少し遊んであげる」

 セレナは親指を唇に当てると、白い歯で噛みちぎった。
 セレナの親指から、赤い血が溢れ出す。
 溢れ出した血は、親指から流れ落ち、地面に触れるか、触れないかの辺りで止まった。
 自然現象としてありえない動きを見せる血は、やがて一振りの剣の形を成していく。
 それは、血液でできた剣だった。

 セレナは血の剣を掴むと、俺に見せつけるようにゆっくりと振り下ろす。

「ほら、素敵な剣でしょう? 特別にこれで相手をしてあげる。爪で八つ裂きにされるよりは、マシな死に方ができるわよ?」

「……上等だ」

 俺は目の前のふざけた女を殺そうと、ゆっくりと一歩踏み出した。 
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