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第二章 少女期 瘴気編
第二百三十話 大切な贈り物
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パーティーが終わり、イルト様にエスコートされた私は……なぜか、またしても、イルト様の私室でテーブルを挟み、向かい合わせに座っていた。
「あ、あの、イルト様? 私、そろそろ帰らなければならないと思うのですが……」
「うん? ユミリアの帰る場所はここだよ?」
「みゅ?」
メイドの姿があって、二人っきりというわけではないにしろ、イルト様の私室というのは落ち着かないとソワソワしていた私は、何やら聞き捨てならない言葉を聞いたような気がして、首をかしげる。
「っ、ユミリアが、可愛いっ」
「えっと、イルト様?」
何やら小さな声で呟いたイルト様。しかし、それは本当に小さな声で、私の耳でも聞き取れない。
「いや、何でもない。ねぇ、ユミリア? ユミリアは、僕のお嫁さんになるために、花嫁修業をこの城で行うことになったんだよ? ここに来る前、話したでしょう?」
「…………みゅ!?」
何の話だと混乱しかけるものの、そこまで鈍くない頭は、その話をしていたであろう瞬間を思い出してしまう。
(あ、あの時!? イルト様と一緒に休むって言葉に混乱してる最中の話!?)
よくよく思い出してみれば、私は、イルト様の何らかの同意を求める言葉にうなずいてしまっていた。そして、その言葉に対して、お父様とミーシャが沈み、その他の面々から生暖かい視線を送られたのも覚えている。
「え、えっと……」
「さすがに、同じ部屋で眠る許可は下りなかったけど、ユミリアには隣の部屋を用意してもらったから、いつでも僕のところにおいで。もちろん、内緒で一緒に寝るのも歓迎するよ?」
まさか、本当に一緒に眠ることになるのだろうかと、顔を赤くしたり青くしたりしていた私に、イルト様は少し困ったような微笑みを浮かべて告げる。
(よ、良かった……ちょっとざんね、いやいや、うん、良かった良かった)
さすがに、もう私達は幼い子供と言える年ではない。だから、同じ部屋というのはダメだとの真っ当な判断が下されたのだろう。……まぁ、一緒に寝ようという提案は、恐らく本気なのだろうけど。
「本当は、ずっとユミリアを独占したいんだけどね? あぁ、後、一人じゃ寂しいだろうから、ミーシャ嬢も近々呼ばれると思うよ? 部屋は、全く別のところになるだろうけど」
なぜ、そこでミーシャが? と思うものの、きっと何か考えがあってのことだろうとうなずく。もちろん、ミーシャが側に居てくれるのはありがたいとも思うので、否定する気にはならない。
「一応、荷物は全て運び込んであるし、今回送られたプレゼントもユミリアの部屋にあるよ。後で、しっかり確認してね」
「は、はい」
「それと……これは、僕から」
そうして取り出されたのは、小さなプレゼント。
「あ、そ、その、私、今回は何も用意してなくて」
「それは構わないよ。僕は、ユミリアさえ居てくれたら良いんだから。それより、開けてみて?」
私の誕生日であり、イルト様と初めて出会った記念日。それなのに、何も用意していないことを謝れば、イルト様はそれを全く気にした様子もなく、私にプレゼントを差し出す。
ピンクの可愛らしい包装紙。茶色のリボンを解いて、中身をそっと取り出すと、黒いケースが出てくる。その中身の想像ができる形のケースに、胸を高鳴らせて慎重に蓋を持ち上げれば……そこには、美しく輝く指輪があった。
「こ、れ……」
「うん、ブラックダイヤの指輪。一年間、僕の魔力を込め続けた特製の指輪だよ?」
この学園で三年間勉強した後に、私達は結婚することになっている。結婚が決まったのは、イルト様の瘴気を浄化した翌日であり、それによって、私のイルト様の婚約者という立場は揺るぎないものとなった。
「僕からユミリアに、ようやく渡せる」
婚約者としての発表はされていたものの、婚約指輪は、男性側が一年間、指輪に魔力を込め続けなければならないという王族のみの風習があったため、準備に時間がかかっていた。それも、イルト様は瘴気に侵されていたため、その影響がなくなってから作るべきとの意見が多く、ずっと、婚約指輪がないままだったのだ。
「一時的に瘴気に侵されたことはあったけど、ミーシャ嬢の話では、その影響は出てないみたいだから、安心して? もう、絶対に離さないからね?」
「っ、はいっ」
この日、私は嬉しさのあまり、初めて涙をこぼしたのだった。
「あ、あの、イルト様? 私、そろそろ帰らなければならないと思うのですが……」
「うん? ユミリアの帰る場所はここだよ?」
「みゅ?」
メイドの姿があって、二人っきりというわけではないにしろ、イルト様の私室というのは落ち着かないとソワソワしていた私は、何やら聞き捨てならない言葉を聞いたような気がして、首をかしげる。
「っ、ユミリアが、可愛いっ」
「えっと、イルト様?」
何やら小さな声で呟いたイルト様。しかし、それは本当に小さな声で、私の耳でも聞き取れない。
「いや、何でもない。ねぇ、ユミリア? ユミリアは、僕のお嫁さんになるために、花嫁修業をこの城で行うことになったんだよ? ここに来る前、話したでしょう?」
「…………みゅ!?」
何の話だと混乱しかけるものの、そこまで鈍くない頭は、その話をしていたであろう瞬間を思い出してしまう。
(あ、あの時!? イルト様と一緒に休むって言葉に混乱してる最中の話!?)
よくよく思い出してみれば、私は、イルト様の何らかの同意を求める言葉にうなずいてしまっていた。そして、その言葉に対して、お父様とミーシャが沈み、その他の面々から生暖かい視線を送られたのも覚えている。
「え、えっと……」
「さすがに、同じ部屋で眠る許可は下りなかったけど、ユミリアには隣の部屋を用意してもらったから、いつでも僕のところにおいで。もちろん、内緒で一緒に寝るのも歓迎するよ?」
まさか、本当に一緒に眠ることになるのだろうかと、顔を赤くしたり青くしたりしていた私に、イルト様は少し困ったような微笑みを浮かべて告げる。
(よ、良かった……ちょっとざんね、いやいや、うん、良かった良かった)
さすがに、もう私達は幼い子供と言える年ではない。だから、同じ部屋というのはダメだとの真っ当な判断が下されたのだろう。……まぁ、一緒に寝ようという提案は、恐らく本気なのだろうけど。
「本当は、ずっとユミリアを独占したいんだけどね? あぁ、後、一人じゃ寂しいだろうから、ミーシャ嬢も近々呼ばれると思うよ? 部屋は、全く別のところになるだろうけど」
なぜ、そこでミーシャが? と思うものの、きっと何か考えがあってのことだろうとうなずく。もちろん、ミーシャが側に居てくれるのはありがたいとも思うので、否定する気にはならない。
「一応、荷物は全て運び込んであるし、今回送られたプレゼントもユミリアの部屋にあるよ。後で、しっかり確認してね」
「は、はい」
「それと……これは、僕から」
そうして取り出されたのは、小さなプレゼント。
「あ、そ、その、私、今回は何も用意してなくて」
「それは構わないよ。僕は、ユミリアさえ居てくれたら良いんだから。それより、開けてみて?」
私の誕生日であり、イルト様と初めて出会った記念日。それなのに、何も用意していないことを謝れば、イルト様はそれを全く気にした様子もなく、私にプレゼントを差し出す。
ピンクの可愛らしい包装紙。茶色のリボンを解いて、中身をそっと取り出すと、黒いケースが出てくる。その中身の想像ができる形のケースに、胸を高鳴らせて慎重に蓋を持ち上げれば……そこには、美しく輝く指輪があった。
「こ、れ……」
「うん、ブラックダイヤの指輪。一年間、僕の魔力を込め続けた特製の指輪だよ?」
この学園で三年間勉強した後に、私達は結婚することになっている。結婚が決まったのは、イルト様の瘴気を浄化した翌日であり、それによって、私のイルト様の婚約者という立場は揺るぎないものとなった。
「僕からユミリアに、ようやく渡せる」
婚約者としての発表はされていたものの、婚約指輪は、男性側が一年間、指輪に魔力を込め続けなければならないという王族のみの風習があったため、準備に時間がかかっていた。それも、イルト様は瘴気に侵されていたため、その影響がなくなってから作るべきとの意見が多く、ずっと、婚約指輪がないままだったのだ。
「一時的に瘴気に侵されたことはあったけど、ミーシャ嬢の話では、その影響は出てないみたいだから、安心して? もう、絶対に離さないからね?」
「っ、はいっ」
この日、私は嬉しさのあまり、初めて涙をこぼしたのだった。
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