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第一章 出会い
第三話 幸せな食事と質問
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「本日より、お嬢様付きの専属侍女となりました、メアリー・アネッタと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
(……せんぞくじじょ? 専属、侍女? えーっと、つまり……本物の、メイドさん?)
ワゴンに載せて食事を持ってきてくれたメイドさん、改め、メアリーさんは、綺麗な一礼をして自己紹介をしてくれる。ただ、良く分からないのが、なぜ、私なんかに専属侍女がつくのかということ。なぜ、『お嬢様』などと呼ばれているのかということ。
あまりの衝撃に、私は質問しようとしていたことを一時的に忘れてしまう。
「さぁ、お嬢様。どうぞお召し上がりください。足りなければ他のものも用意させますよ?」
ふんわりと微笑むメアリーさんを前に、私は言われるままにサイドテーブルに載せられた食事へと目を移す。そこには、ムニエルとカボチャのポタージュスープ、白パン、ベーコン入りのサラダがあって、美味しそうな匂いを漂わせている。ここが異世界だったとしても、どうやら食事はあまり変わらないらしい。
(こんな、豪華な食事、食べて、良いの?)
普段のほぼ残飯のみだった食事から比べると、十分に豪華なそれを前にして、私はついつい躊躇してしまう。
「どうしましたか? 何か、苦手なものがございましたか?」
中々手をつけない私を見て、メアリーさんは眉をハの字にして問いかける。
「(違います)」
声は出ないものの、そう呟きながら首をフルフルと横に振れば、メアリーさんはホッとした様子で微笑む。
「遠慮する必要はございませんよ」
そこまで言われたら、食べるしかない。それに、またお腹が鳴って恥ずかしい思いをするのは勘弁してほしい。
『いただきます』と心の中で呟いた私は、意を決して、右手にスプーンを持ち、まず、スープに口をつける。トロリとしたポタージュスープの甘さが口の中いっぱいに広がり、私は久々のまともな食事にホゥッと息を吐く。
「(美味しいっ)」
ポタージュスープなんて、何年ぶりだろうか。祖母が生きている時はたまに作ってもらっていたものの、最近では全く見ることもなくなっていた。
白パンに手を伸ばすと、焼き立てなのか、まだ少し温かい。千切ってみると、途端にパンの芳醇な香りが広がって、そのままパクリと口に含む。
(柔らかくて、美味しい)
頬が緩むのを感じながら、私はフォークを手に取って、サラダの皿を引き寄せる。
(ベーコンだけじゃなくて、ナッツも入ってる)
シャキシャキとしたレタスとともに、それを食べると、ドレッシングの酸味とベーコンの塩気、そして、ナッツのカリカリとした食感が絶妙な味わいを引き出していた。
(これも、美味しいっ。どうしよう。こんなに美味しいものばかりで、バチが当たらないかな?)
そんな感想を抱きながらも、食べる手は止まらない。後、まだ一口も食べていないのは、ホワイトソースがかかったムニエルだ。
(何の魚だろう?)
白身魚だということは分かるものの、それがどの魚かということまでは分からない。一つ分かることは、きっとこれも美味しいのだということだ。
少しカリカリした表面にフォークをゆっくり沈め、ナイフで切り取ると、ホワイトソースをたっぷりつけて、恐る恐る口に運ぶ。
(っ、やっぱり、美味しいっ)
濃厚なホワイトソースに、カリカリとした表面の食感と中のしっとりとした食感の差が楽しくて、塩加減もちょうど良かった。もしかしたら、私はこの一食でこれまでの幸運を全て使い果たしてしまったかもしれない。
メアリーさんは相変わらずそこに立っていたものの、私はそれも気にならないくらいに食事に夢中になった。けれど……。
(もう、お腹一杯……)
出された料理の四分の一ほど食べたところで、私は限界を迎える。本心ではもっとこの食事を楽しみたいところではあったけれど、長年、虐げられて小さくなってしまった胃には、これ以上、何も入らなかった。
「もう、よろしいのですか?」
食べるのをすっかり止めてしまった私を見て、メアリーさんは驚いたように問いかける。
「(はい。残してごめんなさい)」
コクリとうなずきながら声にならない声を出して答えると、メアリーさんは一瞬、困惑したような表情を浮かべたものの、すぐに微笑みを取り戻す。
「そうでございますね。確かに、お嬢様は丸々三日、眠り続けておられたのですから、すぐにたくさん召し上がるのは難しかったかもしれませんね」
(一日!? 眠り続けた!?)
突然もたらされた衝撃の事実に、カチンと固まると、それをどう思ったのか、メアリーさんは心配そうに顔を歪める。
「熱は引いたはずですが、どこか、まだ痛いところがおありですか?」
熱が出ていたということも初耳だったけれど、今はとにかく否定しなければなるまい。フルフルと首を横に振って否定すると、メアリーさんはあからさまなくらいにホッとした表情に変わる。
「それは、ようございました。それでは、片付けさせていただきます。後程、また参りますので、それまでの間、どうぞおくつろぎください」
美味しかった料理の数々が、メアリーさんの手でワゴンに乗せられていくのを見ながら、私はここでようやく質問しなければいけないということを思い出して、メアリーさんの服をちょんと掴む。
「? どうかされましたか?」
声は出ない。しかし、きっとそのこと自体は、すぐに分かってくれるだろう。
「(ここは、どこですか?)」
案の定、口パクで問いかけてみれば、メアリーさんは目を見開く。それは、ちょっと大袈裟なくらいに驚きをあらわにする。
「まさかとは思っておりましたが、声が出ないのでございますか?」
その問いに、コクリとうなずくことで答えると、メアリーさんは少し考え込んですぐに微笑みを浮かべる。
「声が出ないとしても、何の心配もございません。わたくし、専属侍女として読唇術の心得くらいは持ち合わせておりますゆえ」
「(読心術!?)」
つい、メアリーさんは心を読めるのかと思ってしまったものの、私の驚きように何かを感じ取ったらしいメアリーさんはすぐさま説明を追加する。
「唇の動きから、話の内容を読むことができますので」
(あ、そっちか)
考えるまでもなく、普通は唇を読む方だったけれど、言われるまで気づきもしなかった。どうやら、私は随分と声が出ないという事実を深刻に考えていたらしい。
「さて、先程の問いは、『ここはどこか?』というものでよろしかったでしょうか?」
「(はい)」
通じるのであれば、ボディーランゲージは必要ない。優しく微笑むメアリーさんを見つめながら応えると、メアリーさんはすぐに答えを返してくれた。
「ここは、ヴァイラン魔国の王都にあるマリノア城でございます」
ただし、その答えは、私の理解を超えるものだった。
(……せんぞくじじょ? 専属、侍女? えーっと、つまり……本物の、メイドさん?)
ワゴンに載せて食事を持ってきてくれたメイドさん、改め、メアリーさんは、綺麗な一礼をして自己紹介をしてくれる。ただ、良く分からないのが、なぜ、私なんかに専属侍女がつくのかということ。なぜ、『お嬢様』などと呼ばれているのかということ。
あまりの衝撃に、私は質問しようとしていたことを一時的に忘れてしまう。
「さぁ、お嬢様。どうぞお召し上がりください。足りなければ他のものも用意させますよ?」
ふんわりと微笑むメアリーさんを前に、私は言われるままにサイドテーブルに載せられた食事へと目を移す。そこには、ムニエルとカボチャのポタージュスープ、白パン、ベーコン入りのサラダがあって、美味しそうな匂いを漂わせている。ここが異世界だったとしても、どうやら食事はあまり変わらないらしい。
(こんな、豪華な食事、食べて、良いの?)
普段のほぼ残飯のみだった食事から比べると、十分に豪華なそれを前にして、私はついつい躊躇してしまう。
「どうしましたか? 何か、苦手なものがございましたか?」
中々手をつけない私を見て、メアリーさんは眉をハの字にして問いかける。
「(違います)」
声は出ないものの、そう呟きながら首をフルフルと横に振れば、メアリーさんはホッとした様子で微笑む。
「遠慮する必要はございませんよ」
そこまで言われたら、食べるしかない。それに、またお腹が鳴って恥ずかしい思いをするのは勘弁してほしい。
『いただきます』と心の中で呟いた私は、意を決して、右手にスプーンを持ち、まず、スープに口をつける。トロリとしたポタージュスープの甘さが口の中いっぱいに広がり、私は久々のまともな食事にホゥッと息を吐く。
「(美味しいっ)」
ポタージュスープなんて、何年ぶりだろうか。祖母が生きている時はたまに作ってもらっていたものの、最近では全く見ることもなくなっていた。
白パンに手を伸ばすと、焼き立てなのか、まだ少し温かい。千切ってみると、途端にパンの芳醇な香りが広がって、そのままパクリと口に含む。
(柔らかくて、美味しい)
頬が緩むのを感じながら、私はフォークを手に取って、サラダの皿を引き寄せる。
(ベーコンだけじゃなくて、ナッツも入ってる)
シャキシャキとしたレタスとともに、それを食べると、ドレッシングの酸味とベーコンの塩気、そして、ナッツのカリカリとした食感が絶妙な味わいを引き出していた。
(これも、美味しいっ。どうしよう。こんなに美味しいものばかりで、バチが当たらないかな?)
そんな感想を抱きながらも、食べる手は止まらない。後、まだ一口も食べていないのは、ホワイトソースがかかったムニエルだ。
(何の魚だろう?)
白身魚だということは分かるものの、それがどの魚かということまでは分からない。一つ分かることは、きっとこれも美味しいのだということだ。
少しカリカリした表面にフォークをゆっくり沈め、ナイフで切り取ると、ホワイトソースをたっぷりつけて、恐る恐る口に運ぶ。
(っ、やっぱり、美味しいっ)
濃厚なホワイトソースに、カリカリとした表面の食感と中のしっとりとした食感の差が楽しくて、塩加減もちょうど良かった。もしかしたら、私はこの一食でこれまでの幸運を全て使い果たしてしまったかもしれない。
メアリーさんは相変わらずそこに立っていたものの、私はそれも気にならないくらいに食事に夢中になった。けれど……。
(もう、お腹一杯……)
出された料理の四分の一ほど食べたところで、私は限界を迎える。本心ではもっとこの食事を楽しみたいところではあったけれど、長年、虐げられて小さくなってしまった胃には、これ以上、何も入らなかった。
「もう、よろしいのですか?」
食べるのをすっかり止めてしまった私を見て、メアリーさんは驚いたように問いかける。
「(はい。残してごめんなさい)」
コクリとうなずきながら声にならない声を出して答えると、メアリーさんは一瞬、困惑したような表情を浮かべたものの、すぐに微笑みを取り戻す。
「そうでございますね。確かに、お嬢様は丸々三日、眠り続けておられたのですから、すぐにたくさん召し上がるのは難しかったかもしれませんね」
(一日!? 眠り続けた!?)
突然もたらされた衝撃の事実に、カチンと固まると、それをどう思ったのか、メアリーさんは心配そうに顔を歪める。
「熱は引いたはずですが、どこか、まだ痛いところがおありですか?」
熱が出ていたということも初耳だったけれど、今はとにかく否定しなければなるまい。フルフルと首を横に振って否定すると、メアリーさんはあからさまなくらいにホッとした表情に変わる。
「それは、ようございました。それでは、片付けさせていただきます。後程、また参りますので、それまでの間、どうぞおくつろぎください」
美味しかった料理の数々が、メアリーさんの手でワゴンに乗せられていくのを見ながら、私はここでようやく質問しなければいけないということを思い出して、メアリーさんの服をちょんと掴む。
「? どうかされましたか?」
声は出ない。しかし、きっとそのこと自体は、すぐに分かってくれるだろう。
「(ここは、どこですか?)」
案の定、口パクで問いかけてみれば、メアリーさんは目を見開く。それは、ちょっと大袈裟なくらいに驚きをあらわにする。
「まさかとは思っておりましたが、声が出ないのでございますか?」
その問いに、コクリとうなずくことで答えると、メアリーさんは少し考え込んですぐに微笑みを浮かべる。
「声が出ないとしても、何の心配もございません。わたくし、専属侍女として読唇術の心得くらいは持ち合わせておりますゆえ」
「(読心術!?)」
つい、メアリーさんは心を読めるのかと思ってしまったものの、私の驚きように何かを感じ取ったらしいメアリーさんはすぐさま説明を追加する。
「唇の動きから、話の内容を読むことができますので」
(あ、そっちか)
考えるまでもなく、普通は唇を読む方だったけれど、言われるまで気づきもしなかった。どうやら、私は随分と声が出ないという事実を深刻に考えていたらしい。
「さて、先程の問いは、『ここはどこか?』というものでよろしかったでしょうか?」
「(はい)」
通じるのであれば、ボディーランゲージは必要ない。優しく微笑むメアリーさんを見つめながら応えると、メアリーさんはすぐに答えを返してくれた。
「ここは、ヴァイラン魔国の王都にあるマリノア城でございます」
ただし、その答えは、私の理解を超えるものだった。
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