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第一夜
020.緑の君との初夜(二)
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「はいはい、リヤーフ、こんなところで寝ないのよー」
どんなテンションで夫に夜這いをかけるべきなのか、わたしにはわからない。だって、初めてだもん。
リヤーフは寝ぼけているのか、ソファでぐったりしたまま「あぁ」とか何とかむにゃむにゃ言っている。お酒臭いのもしょうがない。格好いいけど重そうな衣装はここで脱がしてから寝室へ連れて行こう。シワになるといけないもんね。
「自分で脱げる? 脱がそうか?」
「んん、頼む」
寝ぼけていても、王子様なんだねぇ。
マントの紐とボタンを外し、上着のボタンも外す。深い緑色の生地と金色の縁取りがベースになった、シックな衣装。ベロアっぽい素材でめちゃくちゃ格好いい。さすが王子様。金色のジャラジャラしたアクセサリーも宝石も綺麗。
ほんと、何でこれを堂々と妻のわたしに見せてくれなかったかなぁ。もったいない。
「俺は、誰からも愛されない……」
「そうなのー?」
「父も、母も、ずっと俺を、邪険に扱ってきた」
「そうなんだー」
目を閉じたまま、リヤーフは身上話を始める。わたしはブーツと戦っている。編み上げてあるの、脱がしづらいなぁ!
「俺の髪の色が、少し黒いだけで……誰も、愛してはくれなかっ」
「そっかぁ。綺麗な色だと思うけどなー」
「聖女は、美しい黒髪だった……嬉しかった。だから、俺のことも、好いてくれる、思っ、のに……」
「うんうん」
「なぜ、迎えに、来なかった……」
あー、四つ時にはもう来ていたのね、リヤーフ。申し訳ないことをしたなぁ。こんなになってしまっているのは、遅刻したわたしのせいだね。ごめんね。バラーもサーディクもそんなこと一言も教えてくれなかったじゃない。もう。
わたしは薄着になったリヤーフを支え、立たせる。フラフラとした足取りで、夫は何とか歩き出す。背が高くて、いい匂いがする。わたしのためにお洒落してくれたんだよね。申し訳ないなぁ。すっごい重いけど、わたしが悪いんだから頑張らないと。
「聖女が、俺を愛さないなら、俺も、俺も、愛さないぞっ」
「そうだねーそれがいいねー」
わたしの部屋と間取りは大体同じみたい。広さや調度品は違うけれど。隣の支度部屋を抜けると、その先が寝室だ。一人用だからか、わたしのベッドより幅が少し小さめ。それでもキングサイズくらいはあるんじゃないかな。
リヤーフはヨロヨロしながらベッド際までたどり着いた。そして、夫を何とか布団に押し込み、わたしも潜り込む。お酒臭いけど、あったかい。リヤーフとは向かい合っているけれど、腕枕はしてくれそうにない。ぎゅっと抱き合って眠るの、好きなんだけどなぁ。
「でも、リヤーフ。聖女がもしあなたを愛してくれるなら、どうする?」
「そんなこと、あるわけが、ない。アルマースも、俺と結婚なんて、嫌だったはずだ。俺は……黒の王子、皆から嫌われて……」
黒の王子? 髪の色かな? もしかしたら、黒いと疎まれるのかもしれない。七聖教は白を神聖な色としているから、黒猫や烏みたいに、黒は邪悪な色だとか不吉な色とされていても不思議ではない。それが差別に繋がっているのかも。
自己評価が低いのは、コンプレックスのせいか、皆から愛されなかったという状況のせいか。どこかで屈折しちゃったんだろうな。本来は優しい人だったとバラーが言っていたし、傲慢さも我儘も、彼の精一杯の虚勢のような気もしてくる。
リヤーフの頬に触れる。褐色の肌はつるつるすべすべ。もしかして、彼はわたしより若い? この世界の成人年齢っていくつなんだろう?
そんなことを思ってリヤーフを眺めていると、いきなり緑色の双眸が開いた。褐色に黒髪だから、エメラルドみたいな瞳が暗闇で輝いて見える。黒猫みたい。綺麗。
「……これは、夢か?」
「うん、夢だよ」
「そうだよな……聖女がここに来るわけが」
ごちゃごちゃうるさい唇を塞ぐ。ヒューゴは単なるお喋りだったけど、リヤーフはネガティブすぎる。そんな言葉を聞いていたら、こっちまで暗くなっちゃう。
リヤーフは素直にキスを受け入れている。これが夢だから。現実だと知ったら、きっと拒絶されてしまうんだろう。少し弾力のある夫の唇の感触を楽しんでいると、彼のほうから舌を差し入れてきた。もちろん、わたしは喜んで舌を絡める。
もぞもぞと、リヤーフの両手が動く。抱きしめてくれるのかと思ったら、彼の両手はわたしの胸を優しく揉み始めた。寝間着の上からだけど、胸が弱いわたしには刺激的なことに変わりない。困るなぁ。セックスしたくなっちゃうじゃん。
「……やわらかい」
唇なのか胸なのかわからないけど、リヤーフはどちらも気に入ったようだ。舌を絡め、吸いながら、寝間着の上から胸を捏ねる。わたしがボタンを外すと、夫は嬉しそうに寝間着の中に手のひらを入れ、直に触り始める。
Dカップの胸は、リヤーフの手にちょうど収まる大きさみたい。やわやわと揉み、固くなった乳首を手のひらで転がしながら、夫は何を考えているんだろう。夢の中で射精したいのなら、手伝うけれど。
リヤーフの唇が離れる。夫の舌は首筋、鎖骨を這い、彼自身の体も布団の中に沈み込んでいく。彼が何をしたいのかはわかっている。わたしはもう一つ、ボタンを外す。
「柔らかい……」
リヤーフは胸に顔を埋め、わたしをぎゅうと抱きしめた。彼は、それ以上を望んでいない様子だ。谷間にかかる吐息が規則正しく、静かになっていく。
寝ちゃった。まるで小さな子どもみたい。
夫の艷やかな髪を撫でる。不思議な人だ。黒髪が疎まれているなら、わたしなら坊主にするかも。でも、彼は長く伸ばしている。まるで、彼を愛さない人たちに対する当てつけみたいに。
あぁ、そうか、彼は天邪鬼なんだ。子どもなんだ。
理解した瞬間、笑えてきた。「行かない」は行きたい、「好きになってもらえるはずがない」は好きになってもらいたい、「愛されない」は愛してほしい――あぁ、なんて素直じゃない夫なの。
従者たちはそれを知っているから、あんな暴言を吐かれても彼に仕えるんだろう。素直じゃないなぁ、なんて内心苦笑しながら、我儘な王子様を見守っているのだろう。
バカだなぁ、リヤーフは。皆から愛されていない? あなた、従者からは愛されているじゃないの。気づいていないんだろうな、きっと。
わたしはむぎゅと夫の頭を抱きしめる。さて、素直じゃない夫は更生させるべきかしら? どうやって?
「おやすみ、リヤーフ」
ごめん、考えるの無理。今は眠い。体がつらい。次からヒューゴには回数制限をつけなくちゃ。彼は絶倫でも、わたしはそうじゃないのだから。
どんなテンションで夫に夜這いをかけるべきなのか、わたしにはわからない。だって、初めてだもん。
リヤーフは寝ぼけているのか、ソファでぐったりしたまま「あぁ」とか何とかむにゃむにゃ言っている。お酒臭いのもしょうがない。格好いいけど重そうな衣装はここで脱がしてから寝室へ連れて行こう。シワになるといけないもんね。
「自分で脱げる? 脱がそうか?」
「んん、頼む」
寝ぼけていても、王子様なんだねぇ。
マントの紐とボタンを外し、上着のボタンも外す。深い緑色の生地と金色の縁取りがベースになった、シックな衣装。ベロアっぽい素材でめちゃくちゃ格好いい。さすが王子様。金色のジャラジャラしたアクセサリーも宝石も綺麗。
ほんと、何でこれを堂々と妻のわたしに見せてくれなかったかなぁ。もったいない。
「俺は、誰からも愛されない……」
「そうなのー?」
「父も、母も、ずっと俺を、邪険に扱ってきた」
「そうなんだー」
目を閉じたまま、リヤーフは身上話を始める。わたしはブーツと戦っている。編み上げてあるの、脱がしづらいなぁ!
「俺の髪の色が、少し黒いだけで……誰も、愛してはくれなかっ」
「そっかぁ。綺麗な色だと思うけどなー」
「聖女は、美しい黒髪だった……嬉しかった。だから、俺のことも、好いてくれる、思っ、のに……」
「うんうん」
「なぜ、迎えに、来なかった……」
あー、四つ時にはもう来ていたのね、リヤーフ。申し訳ないことをしたなぁ。こんなになってしまっているのは、遅刻したわたしのせいだね。ごめんね。バラーもサーディクもそんなこと一言も教えてくれなかったじゃない。もう。
わたしは薄着になったリヤーフを支え、立たせる。フラフラとした足取りで、夫は何とか歩き出す。背が高くて、いい匂いがする。わたしのためにお洒落してくれたんだよね。申し訳ないなぁ。すっごい重いけど、わたしが悪いんだから頑張らないと。
「聖女が、俺を愛さないなら、俺も、俺も、愛さないぞっ」
「そうだねーそれがいいねー」
わたしの部屋と間取りは大体同じみたい。広さや調度品は違うけれど。隣の支度部屋を抜けると、その先が寝室だ。一人用だからか、わたしのベッドより幅が少し小さめ。それでもキングサイズくらいはあるんじゃないかな。
リヤーフはヨロヨロしながらベッド際までたどり着いた。そして、夫を何とか布団に押し込み、わたしも潜り込む。お酒臭いけど、あったかい。リヤーフとは向かい合っているけれど、腕枕はしてくれそうにない。ぎゅっと抱き合って眠るの、好きなんだけどなぁ。
「でも、リヤーフ。聖女がもしあなたを愛してくれるなら、どうする?」
「そんなこと、あるわけが、ない。アルマースも、俺と結婚なんて、嫌だったはずだ。俺は……黒の王子、皆から嫌われて……」
黒の王子? 髪の色かな? もしかしたら、黒いと疎まれるのかもしれない。七聖教は白を神聖な色としているから、黒猫や烏みたいに、黒は邪悪な色だとか不吉な色とされていても不思議ではない。それが差別に繋がっているのかも。
自己評価が低いのは、コンプレックスのせいか、皆から愛されなかったという状況のせいか。どこかで屈折しちゃったんだろうな。本来は優しい人だったとバラーが言っていたし、傲慢さも我儘も、彼の精一杯の虚勢のような気もしてくる。
リヤーフの頬に触れる。褐色の肌はつるつるすべすべ。もしかして、彼はわたしより若い? この世界の成人年齢っていくつなんだろう?
そんなことを思ってリヤーフを眺めていると、いきなり緑色の双眸が開いた。褐色に黒髪だから、エメラルドみたいな瞳が暗闇で輝いて見える。黒猫みたい。綺麗。
「……これは、夢か?」
「うん、夢だよ」
「そうだよな……聖女がここに来るわけが」
ごちゃごちゃうるさい唇を塞ぐ。ヒューゴは単なるお喋りだったけど、リヤーフはネガティブすぎる。そんな言葉を聞いていたら、こっちまで暗くなっちゃう。
リヤーフは素直にキスを受け入れている。これが夢だから。現実だと知ったら、きっと拒絶されてしまうんだろう。少し弾力のある夫の唇の感触を楽しんでいると、彼のほうから舌を差し入れてきた。もちろん、わたしは喜んで舌を絡める。
もぞもぞと、リヤーフの両手が動く。抱きしめてくれるのかと思ったら、彼の両手はわたしの胸を優しく揉み始めた。寝間着の上からだけど、胸が弱いわたしには刺激的なことに変わりない。困るなぁ。セックスしたくなっちゃうじゃん。
「……やわらかい」
唇なのか胸なのかわからないけど、リヤーフはどちらも気に入ったようだ。舌を絡め、吸いながら、寝間着の上から胸を捏ねる。わたしがボタンを外すと、夫は嬉しそうに寝間着の中に手のひらを入れ、直に触り始める。
Dカップの胸は、リヤーフの手にちょうど収まる大きさみたい。やわやわと揉み、固くなった乳首を手のひらで転がしながら、夫は何を考えているんだろう。夢の中で射精したいのなら、手伝うけれど。
リヤーフの唇が離れる。夫の舌は首筋、鎖骨を這い、彼自身の体も布団の中に沈み込んでいく。彼が何をしたいのかはわかっている。わたしはもう一つ、ボタンを外す。
「柔らかい……」
リヤーフは胸に顔を埋め、わたしをぎゅうと抱きしめた。彼は、それ以上を望んでいない様子だ。谷間にかかる吐息が規則正しく、静かになっていく。
寝ちゃった。まるで小さな子どもみたい。
夫の艷やかな髪を撫でる。不思議な人だ。黒髪が疎まれているなら、わたしなら坊主にするかも。でも、彼は長く伸ばしている。まるで、彼を愛さない人たちに対する当てつけみたいに。
あぁ、そうか、彼は天邪鬼なんだ。子どもなんだ。
理解した瞬間、笑えてきた。「行かない」は行きたい、「好きになってもらえるはずがない」は好きになってもらいたい、「愛されない」は愛してほしい――あぁ、なんて素直じゃない夫なの。
従者たちはそれを知っているから、あんな暴言を吐かれても彼に仕えるんだろう。素直じゃないなぁ、なんて内心苦笑しながら、我儘な王子様を見守っているのだろう。
バカだなぁ、リヤーフは。皆から愛されていない? あなた、従者からは愛されているじゃないの。気づいていないんだろうな、きっと。
わたしはむぎゅと夫の頭を抱きしめる。さて、素直じゃない夫は更生させるべきかしら? どうやって?
「おやすみ、リヤーフ」
ごめん、考えるの無理。今は眠い。体がつらい。次からヒューゴには回数制限をつけなくちゃ。彼は絶倫でも、わたしはそうじゃないのだから。
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