【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

文字の大きさ
上 下
4 / 91
第一夜

004.聖女、婚礼の儀式を行なう。

しおりを挟む
「ここから先は聖女様一人でお進みくださいませ」とラルスに言われ、背筋をぴんと伸ばす。ベールもブーケもティアラもない花嫁姿だけれど、ちゃんと綺麗にしてもらったから満足よ。
 木の扉を開けると、教会みたいな空間が広がっている。こぢんまりとしているんじゃなくて、めちゃくちゃ広い――東京ドームだと二つ分くらいの、木と白壁の綺麗な空間。木製の長椅子がずらりと並び、近くにカラフルな衣装を着た人たちが座ってこちらを見ている。白に慣れていたからちょっとびっくりだった。皆薄いベールみたいなものを被っているけど、視線は感じる。そんなに見ないでよ、恥ずかしい。わたしもそのベール欲しかったわ。
 見たところ、ステンドグラスやマリア像、十字架なんかはない。左手側に祭壇のようなものがあり、さらにその後ろにある大きな窓の外には聖樹の幹が見える。とにかくここは聖樹に祈りを捧げる神聖な場所なんだろう。ラルスは「聖樹殿」と言っていたかしら。
 まぁつまり、祭壇の近くの扉から、ヴァージンロードかどうかもわからない道を一人で歩く羽目になったわけよ。東京ドーム二つ分の距離を歩くんじゃないから良かったけど、早く歩き過ぎないように、それから転ばないように気をつけなくちゃ。花嫁が早足でコケるなんて恥ずかしくて、わたしだったら一週間は立ち直れない。

「聖女様、こちらへ」

 真っ白な衣装を着たおじいちゃんが祭壇から声をかけてくる。たぶん、偉い人なんだろう。足元に注意しながら祭壇に向かうのだけれど、立ち位置が全然わからない。普通の結婚式と同じなら、おじいちゃんが牧師で、祭壇の前に立つべきなんだろうけれど。
 迷っていたら、無愛想なおじいちゃんが手で誘導してくれた。祭壇の下の段に、キラキラと光る円形の線がある。あぁ、あれの上に立つのね。ドレスをたくし上げながら陣の上に立つ。線が消えてはいないので、ちょっとホッとする。それからおじいちゃんのほうではなく、長椅子のほうを向いて立たされる。新婦一人で立つのも寂しいなぁコレ。
「これより聖女即位の儀と、七国の婚姻の儀を開始する」とおじいちゃんが声を張る。カラフルな列席者の背筋が伸びる。
 そのとき、ようやくわたしは並んだ色が七色であることに気づく。七色で七国。そういう分け方なんだろう。

「聖樹サンヌクトゥスボールよ。我ら七聖教しちせいきょうの民のもと、新たな聖女を認めたまえ」

 サン……? えっ? サンヌ? あぁコレ、聖樹の名前絶対に覚えられないわ。うん、諦めよ。
 どうやったら聖なる巨木がわたしを聖女と認めるってわかるんだろう、と疑問に思っていたけれど、足元がじんわりと暖かくなってきた。見ると、さっきのキラキラ光る線がさらに発光している。
「わぁ」と思わず声が漏れてしまう。長椅子の人たちも驚き、どよめいている。だって、キラキラ光る粒子がわたしの真っ白なドレスに吸い込まれ、白い糸で刺繍された模様に色を移していくんだもの。すごーい! めっちゃ綺麗! 魔法みたい!
 そうして数分後には、わたしの真っ白なウエディングドレスは、いつの間にかめっちゃカラフルな刺繍が施されたものに変わっていた。お色直しみたいでテンションが上がっちゃう。

「……聖樹が彼の娘を聖女であるとお認めになられた」

 あ、そうなんだ? これでいいのね?
 おじいちゃんはその後も口上を述べていたけど、まぁ覚えらんないよね。だからゆっくりと七色の人たちの集団を眺めていた。
 カラフルな人々は長椅子を七列に並べ、それぞれの色で分かれている。赤青黄緑橙茶紫の衣装は、虹の色ではない。ドレスの刺繍についた色と同じみたい。背中のほうまでは見られないからわからないけれど、たぶんそう。
 この中に夫がいるのよね。どこかしら? 先頭? それとも後ろ? イケメンを探せばいいのよね? 見たところ皆普通の人間っぽい。耳やしっぽが生えていたり、触手がうねうねしたりはしていない。まぁ、皆薄いベールみたいなものを被っているから、その下がどうなっているのかは全くわかんないんだけど。

「聖女との婚姻を望む七国の者よ、祭壇の前に集まりたまえ」

 おじいちゃんの声に、先頭集団の中からこちらに歩いてくる人たちがいる。各色一人ずつ。彼らがわたしの夫のはずなのだけれど、ベールのせいで顔が全くわからない。イケメンかどうかわからない。……微妙な気分だわ。
 そうして、七人の夫はわたしより一段下がったところに等間隔で並ぶ。紫の人だけ二人いるのは、一人の目が見えないせいらしい。もう一人は介助者ね。

「聖女との婚姻を望む者たちよ。汝らの真意を、聖樹と我らの前に示せ」

 うーん、聖女に拒否権はないみたいね。わかってはいたけど。
 わたしから見て左端の赤い衣装を着た人が歩いてやってくる。背が高く、がっしりした感じの赤い人はわたしの足元に跪き、手のひらを上にして差し出してくる。
 うっわ、王子様みたい! またテンションが上がったわたしが右手を差し出すと、赤い人は熱い手でわたしの手を取り、甲にそっと口づけを落とす。なるほど、これが真意を示す、ってやつね。
 あとはもう、カラフルな人たちが入れ代わり立ち代わり手の甲にキスをしに来た。わたしの手を両手で包み込みながらキスしてきた青の人、手が震えていた黄色の人、一瞬しかキスしない緑の人、冷たい手の橙の人、わたしの手の倍もある茶色の人、介助人に支えられながら恐る恐るやってきた紫の人。白い手もあれば褐色の手もあった。面白いなぁ、皆、それぞれタイプが違う。

「聖女よ、彼らの真意を受け入れたまえ」

 現段階で夫がイケメンかどうかわからないけど、それは仕方ないよねぇ。今さら拒否なんてできないだろうし。まぁいいか。騙されていたとしても、元の世界よりはマシでしょ。

「はい、受け入れます」

 結婚式の「誓います」と同じかと思って発言してみたけど、あちこちで吹き出す人がいたから、最後の最後で間違えたのかもしれない。……まぁ、いっか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...