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第一夜
004.聖女、婚礼の儀式を行なう。
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「ここから先は聖女様一人でお進みくださいませ」とラルスに言われ、背筋をぴんと伸ばす。ベールもブーケもティアラもない花嫁姿だけれど、ちゃんと綺麗にしてもらったから満足よ。
木の扉を開けると、教会みたいな空間が広がっている。こぢんまりとしているんじゃなくて、めちゃくちゃ広い――東京ドームだと二つ分くらいの、木と白壁の綺麗な空間。木製の長椅子がずらりと並び、近くにカラフルな衣装を着た人たちが座ってこちらを見ている。白に慣れていたからちょっとびっくりだった。皆薄いベールみたいなものを被っているけど、視線は感じる。そんなに見ないでよ、恥ずかしい。わたしもそのベール欲しかったわ。
見たところ、ステンドグラスやマリア像、十字架なんかはない。左手側に祭壇のようなものがあり、さらにその後ろにある大きな窓の外には聖樹の幹が見える。とにかくここは聖樹に祈りを捧げる神聖な場所なんだろう。ラルスは「聖樹殿」と言っていたかしら。
まぁつまり、祭壇の近くの扉から、ヴァージンロードかどうかもわからない道を一人で歩く羽目になったわけよ。東京ドーム二つ分の距離を歩くんじゃないから良かったけど、早く歩き過ぎないように、それから転ばないように気をつけなくちゃ。花嫁が早足でコケるなんて恥ずかしくて、わたしだったら一週間は立ち直れない。
「聖女様、こちらへ」
真っ白な衣装を着たおじいちゃんが祭壇から声をかけてくる。たぶん、偉い人なんだろう。足元に注意しながら祭壇に向かうのだけれど、立ち位置が全然わからない。普通の結婚式と同じなら、おじいちゃんが牧師で、祭壇の前に立つべきなんだろうけれど。
迷っていたら、無愛想なおじいちゃんが手で誘導してくれた。祭壇の下の段に、キラキラと光る円形の線がある。あぁ、あれの上に立つのね。ドレスをたくし上げながら陣の上に立つ。線が消えてはいないので、ちょっとホッとする。それからおじいちゃんのほうではなく、長椅子のほうを向いて立たされる。新婦一人で立つのも寂しいなぁコレ。
「これより聖女即位の儀と、七国の婚姻の儀を開始する」とおじいちゃんが声を張る。カラフルな列席者の背筋が伸びる。
そのとき、ようやくわたしは並んだ色が七色であることに気づく。七色で七国。そういう分け方なんだろう。
「聖樹サンヌクトゥスボールよ。我ら七聖教の民のもと、新たな聖女を認めたまえ」
サン……? えっ? サンヌ? あぁコレ、聖樹の名前絶対に覚えられないわ。うん、諦めよ。
どうやったら聖なる巨木がわたしを聖女と認めるってわかるんだろう、と疑問に思っていたけれど、足元がじんわりと暖かくなってきた。見ると、さっきのキラキラ光る線がさらに発光している。
「わぁ」と思わず声が漏れてしまう。長椅子の人たちも驚き、どよめいている。だって、キラキラ光る粒子がわたしの真っ白なドレスに吸い込まれ、白い糸で刺繍された模様に色を移していくんだもの。すごーい! めっちゃ綺麗! 魔法みたい!
そうして数分後には、わたしの真っ白なウエディングドレスは、いつの間にかめっちゃカラフルな刺繍が施されたものに変わっていた。お色直しみたいでテンションが上がっちゃう。
「……聖樹が彼の娘を聖女であるとお認めになられた」
あ、そうなんだ? これでいいのね?
おじいちゃんはその後も口上を述べていたけど、まぁ覚えらんないよね。だからゆっくりと七色の人たちの集団を眺めていた。
カラフルな人々は長椅子を七列に並べ、それぞれの色で分かれている。赤青黄緑橙茶紫の衣装は、虹の色ではない。ドレスの刺繍についた色と同じみたい。背中のほうまでは見られないからわからないけれど、たぶんそう。
この中に夫がいるのよね。どこかしら? 先頭? それとも後ろ? イケメンを探せばいいのよね? 見たところ皆普通の人間っぽい。耳やしっぽが生えていたり、触手がうねうねしたりはしていない。まぁ、皆薄いベールみたいなものを被っているから、その下がどうなっているのかは全くわかんないんだけど。
「聖女との婚姻を望む七国の者よ、祭壇の前に集まりたまえ」
おじいちゃんの声に、先頭集団の中からこちらに歩いてくる人たちがいる。各色一人ずつ。彼らがわたしの夫のはずなのだけれど、ベールのせいで顔が全くわからない。イケメンかどうかわからない。……微妙な気分だわ。
そうして、七人の夫はわたしより一段下がったところに等間隔で並ぶ。紫の人だけ二人いるのは、一人の目が見えないせいらしい。もう一人は介助者ね。
「聖女との婚姻を望む者たちよ。汝らの真意を、聖樹と我らの前に示せ」
うーん、聖女に拒否権はないみたいね。わかってはいたけど。
わたしから見て左端の赤い衣装を着た人が歩いてやってくる。背が高く、がっしりした感じの赤い人はわたしの足元に跪き、手のひらを上にして差し出してくる。
うっわ、王子様みたい! またテンションが上がったわたしが右手を差し出すと、赤い人は熱い手でわたしの手を取り、甲にそっと口づけを落とす。なるほど、これが真意を示す、ってやつね。
あとはもう、カラフルな人たちが入れ代わり立ち代わり手の甲にキスをしに来た。わたしの手を両手で包み込みながらキスしてきた青の人、手が震えていた黄色の人、一瞬しかキスしない緑の人、冷たい手の橙の人、わたしの手の倍もある茶色の人、介助人に支えられながら恐る恐るやってきた紫の人。白い手もあれば褐色の手もあった。面白いなぁ、皆、それぞれタイプが違う。
「聖女よ、彼らの真意を受け入れたまえ」
現段階で夫がイケメンかどうかわからないけど、それは仕方ないよねぇ。今さら拒否なんてできないだろうし。まぁいいか。騙されていたとしても、元の世界よりはマシでしょ。
「はい、受け入れます」
結婚式の「誓います」と同じかと思って発言してみたけど、あちこちで吹き出す人がいたから、最後の最後で間違えたのかもしれない。……まぁ、いっか。
木の扉を開けると、教会みたいな空間が広がっている。こぢんまりとしているんじゃなくて、めちゃくちゃ広い――東京ドームだと二つ分くらいの、木と白壁の綺麗な空間。木製の長椅子がずらりと並び、近くにカラフルな衣装を着た人たちが座ってこちらを見ている。白に慣れていたからちょっとびっくりだった。皆薄いベールみたいなものを被っているけど、視線は感じる。そんなに見ないでよ、恥ずかしい。わたしもそのベール欲しかったわ。
見たところ、ステンドグラスやマリア像、十字架なんかはない。左手側に祭壇のようなものがあり、さらにその後ろにある大きな窓の外には聖樹の幹が見える。とにかくここは聖樹に祈りを捧げる神聖な場所なんだろう。ラルスは「聖樹殿」と言っていたかしら。
まぁつまり、祭壇の近くの扉から、ヴァージンロードかどうかもわからない道を一人で歩く羽目になったわけよ。東京ドーム二つ分の距離を歩くんじゃないから良かったけど、早く歩き過ぎないように、それから転ばないように気をつけなくちゃ。花嫁が早足でコケるなんて恥ずかしくて、わたしだったら一週間は立ち直れない。
「聖女様、こちらへ」
真っ白な衣装を着たおじいちゃんが祭壇から声をかけてくる。たぶん、偉い人なんだろう。足元に注意しながら祭壇に向かうのだけれど、立ち位置が全然わからない。普通の結婚式と同じなら、おじいちゃんが牧師で、祭壇の前に立つべきなんだろうけれど。
迷っていたら、無愛想なおじいちゃんが手で誘導してくれた。祭壇の下の段に、キラキラと光る円形の線がある。あぁ、あれの上に立つのね。ドレスをたくし上げながら陣の上に立つ。線が消えてはいないので、ちょっとホッとする。それからおじいちゃんのほうではなく、長椅子のほうを向いて立たされる。新婦一人で立つのも寂しいなぁコレ。
「これより聖女即位の儀と、七国の婚姻の儀を開始する」とおじいちゃんが声を張る。カラフルな列席者の背筋が伸びる。
そのとき、ようやくわたしは並んだ色が七色であることに気づく。七色で七国。そういう分け方なんだろう。
「聖樹サンヌクトゥスボールよ。我ら七聖教の民のもと、新たな聖女を認めたまえ」
サン……? えっ? サンヌ? あぁコレ、聖樹の名前絶対に覚えられないわ。うん、諦めよ。
どうやったら聖なる巨木がわたしを聖女と認めるってわかるんだろう、と疑問に思っていたけれど、足元がじんわりと暖かくなってきた。見ると、さっきのキラキラ光る線がさらに発光している。
「わぁ」と思わず声が漏れてしまう。長椅子の人たちも驚き、どよめいている。だって、キラキラ光る粒子がわたしの真っ白なドレスに吸い込まれ、白い糸で刺繍された模様に色を移していくんだもの。すごーい! めっちゃ綺麗! 魔法みたい!
そうして数分後には、わたしの真っ白なウエディングドレスは、いつの間にかめっちゃカラフルな刺繍が施されたものに変わっていた。お色直しみたいでテンションが上がっちゃう。
「……聖樹が彼の娘を聖女であるとお認めになられた」
あ、そうなんだ? これでいいのね?
おじいちゃんはその後も口上を述べていたけど、まぁ覚えらんないよね。だからゆっくりと七色の人たちの集団を眺めていた。
カラフルな人々は長椅子を七列に並べ、それぞれの色で分かれている。赤青黄緑橙茶紫の衣装は、虹の色ではない。ドレスの刺繍についた色と同じみたい。背中のほうまでは見られないからわからないけれど、たぶんそう。
この中に夫がいるのよね。どこかしら? 先頭? それとも後ろ? イケメンを探せばいいのよね? 見たところ皆普通の人間っぽい。耳やしっぽが生えていたり、触手がうねうねしたりはしていない。まぁ、皆薄いベールみたいなものを被っているから、その下がどうなっているのかは全くわかんないんだけど。
「聖女との婚姻を望む七国の者よ、祭壇の前に集まりたまえ」
おじいちゃんの声に、先頭集団の中からこちらに歩いてくる人たちがいる。各色一人ずつ。彼らがわたしの夫のはずなのだけれど、ベールのせいで顔が全くわからない。イケメンかどうかわからない。……微妙な気分だわ。
そうして、七人の夫はわたしより一段下がったところに等間隔で並ぶ。紫の人だけ二人いるのは、一人の目が見えないせいらしい。もう一人は介助者ね。
「聖女との婚姻を望む者たちよ。汝らの真意を、聖樹と我らの前に示せ」
うーん、聖女に拒否権はないみたいね。わかってはいたけど。
わたしから見て左端の赤い衣装を着た人が歩いてやってくる。背が高く、がっしりした感じの赤い人はわたしの足元に跪き、手のひらを上にして差し出してくる。
うっわ、王子様みたい! またテンションが上がったわたしが右手を差し出すと、赤い人は熱い手でわたしの手を取り、甲にそっと口づけを落とす。なるほど、これが真意を示す、ってやつね。
あとはもう、カラフルな人たちが入れ代わり立ち代わり手の甲にキスをしに来た。わたしの手を両手で包み込みながらキスしてきた青の人、手が震えていた黄色の人、一瞬しかキスしない緑の人、冷たい手の橙の人、わたしの手の倍もある茶色の人、介助人に支えられながら恐る恐るやってきた紫の人。白い手もあれば褐色の手もあった。面白いなぁ、皆、それぞれタイプが違う。
「聖女よ、彼らの真意を受け入れたまえ」
現段階で夫がイケメンかどうかわからないけど、それは仕方ないよねぇ。今さら拒否なんてできないだろうし。まぁいいか。騙されていたとしても、元の世界よりはマシでしょ。
「はい、受け入れます」
結婚式の「誓います」と同じかと思って発言してみたけど、あちこちで吹き出す人がいたから、最後の最後で間違えたのかもしれない。……まぁ、いっか。
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