【R18】肉食聖女と七人のワケあり夫たち

千咲

文字の大きさ
上 下
3 / 91
第一夜

003.聖女、自らの役割を理解する。

しおりを挟む
 女の人たちにめちゃくちゃ綺麗にしてもらってから、ちょっとだけクッキーだかビスケットだかを食べ、今はテレサのあとを歩いているところ。どこへ向かっているのかわからないけれど、結婚式場なんだろう。

「聖女様、おはようございます。よく眠れましたか?」

 角を曲がると、いきなり男の人が現れた。ここには男の人もいるのね。見かけなかったから、いないものだと思っていた。
 ……って、めっちゃイケメンじゃん、彼。キラキラの銀色の短髪に、黒色の瞳。めっちゃ好み。外国人補正がかかっている可能性はあるけれど、彼が夫だと言われても大丈夫だわ、わたし。

「おはようございます。たぶん、よく寝たと思います」
「こちらの都合でお喚び立ていたしまして、誠に申し訳ございません。私はラルス。聖女宮で聖女様の補佐をいたします、聖文官でございます」

 せいぶんかん? 官吏? 神官みたいなもの? 彼もまた真っ白な衣装を着ている。ここにいる人たちは皆真っ白なんだよね。そういう制服なのかもしれない。

「あなたはわたしの夫?」
「お戯れを。私はただの聖職者にございます」
「なんだぁ。イケメンなのに」
「いけめ……?」
「格好いいってこと」

 ラルスはむせた。テレサも肩を震わせている。素直に褒めたら笑われるだなんて……ダメだった? ラルスは顔を真っ赤にしているため、どちらかと言うと照れているのかもしれない。

「聖女様のご夫君はもっと美しい御仁方でございます」
「やったぁ。めっちゃ期待しとくわ」

 イケメンのラルス以上ってことなのよね? なら、期待できそうだ。

「テレサから聞き及んでいるかと存じますが、聖女様の仕事は、ご夫君方と情を交わし、聖樹に命の実を授けることです。前の聖女様が倒れられてから二年、新たな命が誕生しておりません。聖女様は速やかに七人の君と情を交わしていただきたく、お願い申し上げます」

 へえ、初耳のことばっかりだよ。
 この世界の人間の命はとにかく聖樹が握っているというわけね。で、聖女は聖樹と人間の橋渡し的な存在なんだろう。そんな大事な役割、わたしなんかが担っていいの?

「それが終わったら帰れる? 元の世界に」

 ラルスは押し黙る。沈黙は雄弁ねぇ。わたしはもう地球には戻れないんだろう。

「帰りたい、ですか?」
「あ、別にめっちゃ帰りたいってわけじゃないの。一応聞いておいただけ」

 そうですか、とラルスは呟く。さすがに謝ることはしないのね。別の世界から「お喚び立て」した上、帰る方法もないというのに謝罪なしだなんて、どこかの権力者みたい。地球に未練がないわたしで良かったね。じゃなきゃ、大事な大事な「聖女様」に逃げられても仕方ないわよ。
 わたしは地球に戻ることを早々に諦めた。だから、今までの会話で理解できなかったことを尋ねる。

「ねぇラルス、命の実って何?」
「聖樹に宿る命です。その実を食べると、女が子を宿すのです」

 ちょっと待って。理解が追いつかない。実を食べると妊娠する? それって、どういうこと? 排卵を誘発する薬みたいなものなの? それとも、生理がないの? 射精しないの? あなたたち、そういう人間なの? 人間じゃないの? 宇宙人!?
 でも、それが本当なら、すごいシステムだね、それ。命の実を食べれば確実に妊娠できるなら、不妊治療なんてないだろうし、人口の操作も可能ってことじゃん。
 あぁ、でも、聖女がいないと命の実が作れないんだっけ? 責任重大だし、聖女がいなくなったら世界が滅びるってことだよね。二年で人口は減っただろうし。それはそれで大きなデメリットだわ。

「ラルス、この世界の人は性交渉はしないの?」

 ラルスとテレサが同時にむせる。なるほど、するみたいね。

「じゃあ、性交渉で子どもはできないのね?」
「さ、さようで、ございますね」
「じゃあ、夫とどのように情を交わせばいいの?」
「それは……口づけとか、抱き合って眠る、という形で」

 なるほど。七人のイケメンと毎日キスをして抱き合えば、命の実を作り出すことができて、子どもが欲しい夫婦に赤ちゃんが授かる、と。
 へえ、すごい。聖女って割と楽な仕事なんじゃん。ラッキー。あとは給料がどれだけ出て、どれだけ遊べるか、だわ。美味しいもの、食べ歩きたいなー。

「聖女様、あまりあけすけにそういったことを話さぬようお気をつけください。欲の解放に関しては、敏感な部分のことではありますから」
「はぁい。なるべく、ね。頑張る」

 下ネタが好きなわけじゃないのよ。嫌いでもないけれど。だからいきなり聖女って言われても困る。聖なる乙女ってことでしょ? わたし、清らかさなんか持ち合わせていないのだから。

「あ、ねぇ、ラルス。聖女って処女じゃなくても大丈夫なの?」
「ですから! 聖女様! お控えください!」

 顔を真っ赤にしたラルスに叱られて、わたしは何だか少しだけホッとする。聖女に清らかな心と体が必要なら、わたしは絶対に選ばれるわけがないのだもの。
 とにかく、わたしはわたしのままでいい。きっと、そうなのだ。


しおりを挟む
script?guid=on
感想募集中。更新中は励みになりますし、完結後は次回作への糧になります。

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...