この世界では僕が思うイケメンはイケメンとは言われない様です。

文月

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12.夢じゃなかった(side クラシル)

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 気が付いたら、「あ、これ‥隠さなきゃ」
 って思った。
 隠して‥誰の目にも触れさせちゃいけないって。
 咄嗟にローブを被せた俺を、俊哉は酷く驚いて‥肩を落として落ち込んだ。
 ‥マズい、こんなことして‥愛想つかされて「出て行く‥」って言われたらどうするつもりだ。咄嗟にしてしまったにしても‥これはないだろう‥。
 焦ったが‥もうどうしようもない。今更ローブを脱がせても仕方がないだろう。‥それに、ちょっと心臓が持たなかったんだ。
 兎に角、誤解は解かないと! だけど‥何故か「自分は醜い」って思いこんでる俊哉に真実を教える気はさらさらない。わざわざ逃げ道を作ってどうするんだ。
 俊哉が「そうなのか! 僕はどこに行っても受け入れられるんだ! 」って気付いて、逃げられたら‥正気でいられる気がしない。
 花嫁にわざわざ逃げ道を与えて‥あの娘を試した「冷めた」俺は、今、ガッチガチに逃げ場を潰すために頭を働かせている。
 みっともなかろうと、酷かろうと‥これは俺の唯一の恋だって思うから。
 精一杯頑張って‥それでもダメだったらその時は、その時だって思えるだろう。

 ズルかろうと、俊哉を脅したり、騙したり‥閉じ込めたり‥俊哉が嫌がること(と、犯罪)はしないと心に強く誓った。(この心がけ、大事)
 
 兎に角は‥まず(方法を間違えないように)フォローだ。
「あんまり美しかったから驚いた」っていうのは、絶対ダメ。
 ここは「ゴメン。‥驚いただけなんだ、‥ホントにゴメン」だ。
 ‥いや、これじゃ「あんまり醜い顔だったから驚いて隠しちゃった」みたいだな‥ああ、そうじゃないんだ! でも、美しいことは気付かせちゃダメだ‥
 そんな感じでおたおたしてたら‥案の定(落ち込んだ)俊哉が
「スミマセン。僕なんかが恋人とか‥迷惑ですよね。‥出て行きますね‥」
 って言って来た。

 ああ~!! もっともやってはいけないことをしてしまった!!

 でも、俺は嘘が苦手なんだ!
「醜い者同士一緒に暮らそう」
 とか‥口から出まかせ言えないんだ!
 俺は、必死で俊哉を引き留めた。
 そんな俺に俊哉は
「でも‥僕がここに居たら‥クラシルさんにも迷惑がかかるんじゃ‥。バケモノを匿ったって思われて‥クラシルさんもたこ殴りにされるんじゃ‥」
 って‥俺の心配をしてくれた。
 え?! バケモノ? それって‥もしかして信じられないけど俊哉のこと?? 俊哉は自分のことバケモノだって思ってる!? 一体誰に何を吹き込まれて育ってきたんだ!? 
 色々疑問満載だけど‥今は俊哉を引き留めて‥俺の傍に居れば安心ってことを伝えなければ!
「‥大丈夫だよ。
 俺は‥強いから」
 うわ~! ちょっと動揺して、変な間を置いちゃった!! 
 笑って誤魔化そうって思ったけど‥うまく笑えている自信がない。
 そもそも‥俺なんかが笑ったところで‥安心する奴、いる? 
 怖! キモ! 
 ってなるだけじゃない??
 だけど、俊哉は安心したように警戒を解いて、「大丈夫? 」って確認してくる。
 そもそも攻めて来る奴らなんていないから、大丈夫。
 寧ろ、俊哉を助けようと‥俺から取り上げようとする奴らなら来そうだけど‥大丈夫絶対、俊哉を奪われたりしないから。
「大丈夫。俺は騎士団長だよ? 強いんだよ」
 って、フード越しに俊哉の瞳を見ながら強調した。
 安心して‥大きく頷いた俊哉に良心はいたんだけど‥「俊哉を逃がさないためには‥仕方がないんだから」と自分に言い聞かせることにした。


 朝、俺のベッドで眠る俊哉を見た時、安心した。

 昨夜、自分だけがベッドを使うなんて‥って遠慮する俊哉と「使え」「使わない」でひと悶着(って程の事もないか)はあった。‥今日にでも、もう一つベッドを入れようと思う。
 そんなことを考えながら、俊哉の眠る部屋を訪れた。(※ ベッドはダイニングキッチンとは別の部屋にあり、クラシルは昨夜はソファーがあるリビングで寝ていた。クラシルは高給取りだから、単身者だけどバストイレ付3LDKの一軒家に住んでいる)
 ‥寝室は割と広いから、もう一床ベッドを置いても大丈夫だな。
 って確認する。
 俊哉が起きてから確認した方が良かったんだろうが、‥昨夜は俊哉が気になって‥まともに眠れなかったんだ。
 俊哉の顔を想い出しドキドキしていた‥ってのも勿論あるんだけど、それよりも、昨夜のことが全部夢で、目が覚めたら全部消えてしまっていたらどうしよう‥ってその恐怖の方が大きかった。(だけど、まさか夜中に確認しにいくわけにはいかないしな)
 で、夜が明けたら、はね起きて、一番に俊哉を見に来たってわけだ。

 つい、
「夢じゃなかった」
 って呟いてしまって焦ったが、幸い俊哉は目を覚ましていない様だ。
 否、‥緊張して正直よくわからない。冷静な判断力が俺から抜け落ちてしまっている様だ。
 なにせ、あの女神のような顔をこの至近距離で見つめているんだ。
 平常心なんて‥無理だ。

 今目を覚まされたら、正直、危ない。

「変質者! 」
「バケモノ! 」
 って叫ばれたりしたら‥もう、死ぬかもしれない。
 いくら俊哉でも‥起き抜けに俺の顔を見たら‥驚くだろう。そもそも‥目が覚めて、人が自分の枕元に立ってるとか、普通に怖い。
 だけど、俺の足は縫い付けられたかのように、そこから動けなかった。
 俊哉が目を開けないことをいいことに‥俺は俊哉の顔をしみじみと見つめた。
 柔らかそうな‥ふっくらとした丸い頬はまるで陶磁器のように滑らかで白い。
 フワフワした‥ブラウンの髪は細くて‥サラサラとして‥見るからに柔らかそうだ。
 同じ色の、なだらかに軽く弧を描く細い眉。
 瞳は、ほっそりと切れ長の一重。上品で‥見る者総てに安らぎを与える‥そんな優し気な瞳だ。
 俺は今は閉じられているその瞳が‥今まで見たことがない程美しい色だったことをはっきり覚えている。
 淡い‥青味のグレー? ‥そんな不思議な色だ。
 金属のような鈍い輝きではない。宝石のように透き通った瞳だった。
 だけど、晴れ渡る真昼の輝かしい空の色とは違う。
 俊哉の瞳の色は、まるでまだ起きやらぬ街の‥何の香りもしない空気‥静かで清涼で透き通った少し肌寒い明け方の空のような‥澄んだ、少し暗めの青なんだ。
 俺の動きを2分弱止めたのは‥まさにあの瞳だった。
 吸い込まれる様だ‥って思った。
 低めの、だけど鼻筋の通った控えめな鼻。
 桜貝のような小さな桜色の唇。
 総てのパーツが何一つ主張し合うことなく、顔に配置されている。
 まさに、完璧としか言いようがない。
  
 昨日‥俊哉は自分のことをバケモノだって言った。
 ‥ホントに‥一体誰に何を吹き込まれて育ってきたんだろう。
 何のために? 
 俊哉が離れて行かないため嘘を教えたのか? ‥ということは、俊哉の家族?
 俊哉をいずれ貴族やなんか‥高い身分の者に嫁がせるため、変な虫がつかないようにするため‥とか? 
 そうだとしたら、最悪だ。
 俊哉はそれを真に受けて、今まで人目を避けて暮らして来たんだ。
 どれ程傷付いてきただろうか。‥そんな俊哉の気持ちを考えたことがあるのか? 
 挙句、一人ぼっちになった(今まで人目を避けて暮らして来たから頼る人も一人もいなかったんだろう)俊哉は誰にも助けてもらえず‥助けを求めることもできず、一人で見知らぬ街に逃げて来た。‥お金すら持たずに、だ。
 俺が保護しなかったらどうなってたかって‥考えるだけゾッとする。

 俊哉は俺を「幸せにする」って言ってくれた。
 ‥誰よりも幸せになるべきなのは俊哉なのに‥だ。
 今まで騙され虐げられてきた俊哉を‥俺は、誰よりも幸せにしようって誓う。
 それが俺のただのエゴであることは間違いないけど‥俺のエゴの檻から逃がしてやることは出来ないけど‥絶対に俊哉を悲しませない。
 
 そう誓ったのに‥
 それからしばらくして目を覚ました俊哉の余りの美貌に、思わず30㎝くらいはね飛んでしまって‥俊哉を更に落ち込ませてしまった。

 違うんだ! ‥た‥耐性が無いだけなんだ。ホント、すまん!!
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