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13.俊哉、この世界の常識について考える。

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 今朝、
「仕事に行ってくる。ついでに、家具屋にベッドを注文してくる」
 ってクラシルさんは出掛けて行った。
 仕事に行くんだから、僕は勿論ついてはいけない。クラシルさんは僕が一人でお留守番することを凄く心配して
「絶対誰が来ても扉を開けちゃダメだよ」
 なんて御伽噺の「オオカミと七匹の子ヤギ」でお母さんが子ヤギたちにいう台詞みたいなことを何度も僕に言い聞かせてたけど、渋々(ホント渋々って顔で)出掛けて行った。

 僕ってそんなに信用ならないかな~。ってか‥僕ってホントに子供だって思われてるんだなあ。

 ってちょっと複雑な気分になった。
 じゃあ、待ってる間に「クラシルさんを幸せにする」計画を具体的に‥考えよう。
 実はね昨日からそういう話はちょっとしてあるんだ♪
 それは、料理だ。
 美味しいもの食べると幸せじゃない? (食いしん坊じゃないよ! 僕は標準体重だからね! )
 昨日、折角屋台で買ってきたおかずをお家で食べながら思いついたんだ。
 作りたてのあったかいおかずを買ったんだけど、クラシルさんはその場で食べると他の人の目が気になるっておかずを家に持って帰ったんだ。
「帰って一人で食べた方が気が楽だからいつもそうするんだ」
 って言ってたけど‥クラシルさんは人目を気にする人じゃなくて、人に気を遣ってるんだ。クラシルさんが並んでる間も「遠慮ない」人たちはクラシルさんをあからさまに避けたり、顔をしかめたりしてて‥だけど、クラシルさんが大きくて怖いから、表立って何も言えないんだ。陰でこそこそさ、ホント、ヤな感じ! 
「相手はビビってるんだから、ガツンと言ってやれ。‥てか、何も言わなくてもチラッと睨みつけてやったら、奴らこそこそ逃げていくぜきっと」
 って下の兄さんなら舌打ちするだろうけど‥クラシルさんはそんなことしない。(できると思うけど、しない)嫌な顔するどころか「別にいつものことだ」って許して‥気を遣っておかずを持ち帰るんだ。
 きっとさ、その場で食べないとおかずは冷めちゃうだろう。クラシルさんには当たり前に「アツアツを食べる権利」があるのにさ! ホント‥世間って‥人の視線って怖いって思う。
 でも、僕も「嫌だな」って思っても、「そういうこと‥ホントガキみたい。感じ悪いよね」とか言えない。言った後に「なんか白けちゃった」ってなることを思ったら‥「まあいいか‥」って‥我慢した方がいいやって思う。別にそんなことで後々苛めれるとは思わないけど‥わざわざね、って思う。知らない人なら「その場」だけで済むけど、知らない人相手ならなおさら「まあいいか」って思う。‥そもそも、僕が睨んだところで誰も怖がらないしね。
 そういうのって労力の無駄だし、「どうでもいいこと」なんだ。(これは、上の兄さんの口癖。兄さんは‥事なかれ主義っていうより、多分面倒くさがり)
 結論。

 買って帰るから冷めるんなら、家で作ったらいい。

 アツアツご飯を作って、クラシルさんと一緒に食べたらきっとおいしい。
 上の兄さんの手伝いでよくご飯を作っててよかった。僕、美味しいものを作ること出来るよ! 幸いこのお家には台所も付いてるしね!
 ご飯をつくってもいいかとクラシルさんに聞いたらクラシルさんは「俊哉はそんなことも出来るんだな」って、またちょっとびっくりしたような表情をしていた。
「だけどなあ~」
 クラシルさんはちょっと苦笑い。
 この国は自炊する家が少なく、朝ごはん以外の食事は外食で済ませることが多いらしい。
「子供の多い家だったらまだしも、単身世帯や夫婦二人だけの家で、わざわざ食事を作る度に火を起こすのは大変だろ? 」
 ってクラシルさん。
 火を起こすって言葉が引っかかってキッチンをみたら、ガスコンロやIHじゃなくて‥備え付けのタイプのかまどだった。
 生活魔法みたいなのがあって、ポンって火をつけるのかな? って見てたら、普通に着火装置(火打ち石みたいな奴だった)で火をつけてくれた。
 暫く小枝やなんかをくべて‥火を安定させて‥それにヤカンをかける。
 その間、数十分。
 沸かしたお湯でお茶を飲んだ。
 キャンプみたい。
 確かに、朝からこんなのやってたら、仕事に遅刻しそう。
「朝ごはんは何を食べるの? 」 
 って聞いたら、前日買ってきたパンをかじったり果物を食べるって答えが返ってきた。
 それはクラシルさんだけの話じゃなくて、大概の人はそうらしい。
 朝は慌ただしいからね。
 って納得して聞いてたんだけど、
「火を起こして火事になった時、対処できる者がいないだろ? 」
 って言われた。
 ああそうか。消防とか、24時間体制じゃないんだ。‥成程。それを考えると、現在社会の安全管理ってのは、ホントに「よくできてる」よね。
 だけど‥ここの人たちにとっては、24時間体制は必要じゃないのかもしれない。24時間起きてるから、24時間対処しなくちゃならないだけで、明るくなったら起き暗くなったら眠る暮らしにはそこまでの対策はいらないのかも? 江戸時代の火消しも絶対24時間体制じゃなかったよね? 火が出れば‥周り近所で協力して消す‥
 そんなことを考えて、ふと気が付いた。
 ‥周り近所に協力を要請しにくい(もしくは要請したくない)場合‥。
 そんなことに思い及んで‥結局、「朝はパン一択」の結論にたどり着いた。

 大した理由もないのに、人と違うことするの、良くない。

 つまり、今この家にあるのはパン(今朝の残り。クラシルさんが僕の分に買ってくれた。コッペパンサイズの固いパン。「二つくらい食べれるだろ? 」って言われたけど‥一つしか食べられず、結果一つ残った)だけ。
 ‥サンドイッチ? いや、挟むものがないし、挟んで食べるにはパンが硬すぎる。
 これは‥アレだ。オニオングラタンスープに浮かべて‥ふやかして食べるとかしよう。
 冷蔵庫がないからお肉の買い置きが無いのは勿論のことなんだけど‥この家、玉ねぎやなんかもない。
 ‥それどころか、鍋もない。食器も平皿が奇跡的に2枚あっただけだ。
「俺は料理を作らないから‥明日夕方でも買いに行こう」
 僕が待ってる間に一人で買いに行ってもいいんだけど、‥何分お金がないからね。
 それに、絶対に一人で外に出たらいけないってクラシルさんに言われている。きっと、迷子になるって思われてるんだろう。クラシルさんは過保護すぎて困る。
 僕は方向音痴でもないし子供ではないから誘拐の心配もない。だけど、合い鍵を持っていない僕が出掛けようと思ったら‥この家を施錠せずに出かけることになるってことだ。‥それは、良くない。
 掃除でもしよう。
 って思ったけど、必要最低限の家具しかないクラシルさんの家は、部屋を全部掃除してもすぐに終わってしまった。
 そういえば、引っ越しして来たばっかりって言ってたね。
 それにしても‥お兄さんが連れて来て家族に紹介したお嫁さんに横恋慕する弟とか‥どうなってんだ。
 一目惚れしたってこと?
 義理のお母さんの連れ子って言ってたから、クラシルさんとは全然似てないと思うけど‥その人もカッコイイってことかな? 
 多分あれだ。
 身長だ。
 背が小さいの好き族たちに威圧感を与えない「目に優しい小さい人」なんだろう。

 け、つまんないこと言ってやんの!

 だけど‥ホントにただ身長だけの問題なんだろうか‥? 
 ふと‥そんな考えが浮かんだ。人間暇だと色んな事を考える。きっと‥考えないでいいこととか考えてしまう。 
 昨日の騎士団の団員さんの‥ベルクさん。
 あの人も大きかった。だから、街の人からやっぱり遠巻きにされてた。だけどあの後‥実はちょっとした事件があったんだ。
 ひったくりが出たんだ。
 そんな時、街の人たちは「騎士様! 」ってベルクさんに助けを求めた。
 僕的にどう見てもたくましくって、どう見ても頼りになりそうなクラシルさんにでは無くて。
 クラシルさんも騎士服を着てたのに、だ。
 ベルクさんの顔を真っすぐ見て、「何とかしてください! 」って話す街の人たちの様子に、怯えや嫌悪感は感じられなかった。寧ろ、期待で? キラキラしてた。「頼りにしてるぜ! 旦那」って表情だった(と思う)
 頼りにするなら、絶対、クラシルさんだろう。
 どう違った? クラシルさんとベルクさんは‥どう違った? 
 クラシルさんは‥アレだ。ギリシャの彫刻級の美しさだ。美の化身って奴だ。
 精悍で男前。綺麗な卵型のフェイスライン。彫の深い顔立ちに、凛々しい眉。すっきりと通った鼻筋。高い鼻。眼光鋭い‥濃い青色の瞳。切れ長だけど、僕みたいに線目じゃない。
 つまり‥細形アーモンドアイって言うのかな? アーモンド形なんだけど、細長い‥シャープな感じの目。
「まさにクール! 普段凛々しいんだけど、たまに微笑んだら可愛い~! 」
 って感じのアレだ。(← どれだ)
 しっかりした「絶対絡まって抜けるとか無縁そう」な黒い髪。意志が強そうにきゅっと結ばれた薄い唇。‥だけど、笑ったら八重歯があるんだ。‥可愛くない? 完璧だよね。その上、身体も引き締まってて高身長って‥どれだけ恵まれてるんだよ。
 対してダンテさん。
 高身長で身体が引き締まってそうだった。そこは同じ。ベルクさんよりクラシルさんの方が頭一個分以上身長が高かったかな? だけど、身体つきは変わらなかった感じ。二人とも騎士さんだから、鍛えてるんだろう。
 顔は‥全然違った。
 ベルクさんは‥僕ら日本人にも馴染みが深い、彫が浅い、淡泊な顔。
 目は‥細めだったね。僕よりは大きかったけどどちらかというと線目に分類される感じ。切れ長って感じじゃない。シュッとしてるっていうより‥ホント、線目。眉も細くて‥なだらかな感じだった。‥あれは、多分手入れしてるんだろうね。日本の男の人でも眉の手入れする人、いるもんね。
 目の色は‥淡い水色。僕よりずっと明るい色だった。おちょぼ口で、若干たらこ唇。下の兄さんみたいに「チェリーみたいな唇♡」(って、下の兄さんのファンが言ってた)じゃないよ。ぼてっとしたたらこ唇。
 髪の毛は‥僕と同じ。寝起きが爆発する、ザ・猫毛。
 それと、これが一番に目についたんだけど‥若干丸顔だった。
 そのせいで、顔の印象がぐっと幼く見えた。
 アレだ。僕ほどではないけど、「リアルこけし」に分類される感じ。親近感持てる感じ。
 ‥男前だとは思えないけど。
 
 ああそうか。
 
 あれだ。中学生の女の子とか本命でホントの男前には臆して引っ込み思案になっちゃうけど、フツメンには平気で「アンタ何言ってんのよ! 」とか偉そうに軽口叩ける‥とかいう感じ? 皆‥ホントの男前を前に緊張しちゃって喋れません‥って感じなのかな?? (‥目が怖く見える‥とかも、でもあるかも。クラシルさんの目って、笑ったら可愛いのに、普通にしてたら睨んでるみたいに見えるから‥)
 きっとそうだと思うけど‥凄い低確率で「淡泊顔love」な国民性‥そう言うこともあり得る‥かも?
 う~ん。
 クラシルさんに聞くわけにもいかないが‥他に誰にも確認する術はない‥。それに、それこそ確認する必要あるかって話だよね。人を顔で差別する人間なんて、絶対に受け入れられない。「そうか、それがここの好みなんだから仕方がないよね」とか‥絶対に納得しない! 

「ただいま。
 俊哉。今から家具が入るから、ちょっと部屋の隅に行ってて? ぶつかって怪我なんかしたら大変だから」
 
 クラシルさんが僕の耳元で、小声で呟いた。
 耳元で‥イケボ‥っ!
 勝手に考えて勝手にむかむかしてた僕は、不意打ちイケボにすっかり腰を抜かし‥見上げてクラシルさんの麗しいキョトン顔をまともに見てしまい‥盛大に赤面。
 ~~く~! イケメン‥っ!

 ‥イケメン、イケボ‥三日で飽きるどころか‥三日経っても慣れる気がしない‥っ!
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