相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

文字の大きさ
9 / 54
一章.相生 四朗

8.自分から? の手紙。

しおりを挟む
「っていうか。しんちゃんってそんなに筋肉ないかな。結構あるように思えるんだけど。
 ってか‥そもそも男の身体に興味なんてないけど☆」
 相崎が手を伸ばして、四朗の腕を掴もうとするのを、四朗は咄嗟に避けた。

 ‥まるで条件反射だな。潜在的に嫌なのかな、相崎が。
 ‥いや、男に触られるなんて気持ち悪いだろ。ただ、それだけのことだ。

「やめろよ‥」
 四朗が相崎を睨む。
「うん? ごめんね? 」
 ぽかんとした顔で相崎が四朗を見た。
「四朗様、着きましたよ」
 と、そのタイミングで車が止まった。
 気が付けば、車は四朗の家の前に着いていた。
「ありがとうございます」
 相崎の運転手にお礼を言って四朗は車を降りる。

「四朗! 」
 相崎の車が家の前に止まったのを見た四朗の母親が、何事かと外に出てきて、‥中から四朗が出て来たのを見て、驚いて叫んだ。
 相崎の車はこの辺りでは他に絶対見ないような黒塗りの高級車で、やたら目立つんだ。
 そりゃ、急にそれが家の前にとまったら「何事?? 」って思うよね? 
「どうしたの? 何かあったの? 」
 慌てる母親に四朗は苦笑いして、心配ないと伝える。
「ちょっと倒れてね‥」
 母親は、運転手に丁寧に礼をして、四朗の荷物を受け取った。
 相崎の運転手は車に乗ったまま、愛想のいい笑顔で会釈を返すと車を発車させる。

 ‥いつもの方とは違うわね。いつもの方なら降りてきて丁寧に挨拶されるのに。

 ちらっと、四朗の母はそんなことを思った。

 ‥いつもの相崎家の運転手は年配の人だけれど、今の方は若そうに見えた。運転手としてのマナーが‥(失礼ながら)相崎家にしては‥なってない。だけど、それを御子息は咎めなかった。(御子息はあれでも、使用人のマナーに厳しい)多分、御子息と親しいとかそういう事情があって、御子息が私用に車を使う際に使っている運転手かなにかなのだろう。

 一瞬の間に、それだけの情報を読み取る。
 四朗の母もまた、抜かりない相生の人間だった。

「ええ!? 大丈夫なの? 」
 だけど、やっぱり息子が心配な、ただの母親だ。
 息子の顔を心配そうな表情で覗き込む。覗き込むっていっても、二人の身長差は頭一つ分以上あるから‥完全に見上げる様な形だ。

「兄ちゃんって、割と体弱いよね」
 いつの間にか出て来ていた博史がその後ろに立っておかしそうに笑う。
「え? 」
 四朗が弟をぎろりと睨む。‥勿論、本気で怒っているのではない。四朗はこの弟に凄く甘いから。
「一か月に一回くらいは寝込むし」
 睨まれてもけろっとした顔で弟がからからと笑った。
「‥」
 博史の言葉に、四朗は苦笑いする。
 ‥確かに、そうなんだ。俺は‥一ヶ月に一回くらいは、寝込む。
 それも、普通に病気で寝込むとは違う。
 その時は、起き上がることすら出来ない。意識もない。‥その時の記憶が全くない。

 ‥そんなことあるものなのかな。

「‥着替えてくる」
 苦笑いしたまま四朗は二人に背を向け、家に入った。
「そうね」
 母親が慌てて四朗の後を追って家に入る。

「お風呂に入ったらどう? 清さんお願い出来るかしら」
 母親が荷物を清に渡すと、奥から祖母が出てきて、清に指示を出した。
「はいはい」
 清が穏やかな笑顔で請け負うと、風呂場に向かった。
「そうね。今日はゆっくり休みなさい」
 母親が頷き、四朗に用意を促す。
「んー」
 母親に背中を押されて自室に戻りながら、四朗は祖母に「心配かけてすみません」と苦笑いする。

 ‥どうもすっきりしない。この頃、今まで意識してこなかったことが、気になって仕方がない。
 一ヶ月に一回くらい倒れる程、病弱な体って何なんだろ。逆になんで今まで気にならなかったんだろう。
 すると‥ふと、ホントに「なんでこのタイミングで? 」ってタイミングで‥自分の机の引き出しが無性に気になった。
 それも、今までどうしても開けようとも思わなかった‥一つだけ鍵のついた引き出しだ。
 鍵の位置も知っている。隣の引き出しの奥だ。
 だけど、今まで何故かこの引き出しを自分は「どうしても」開けようとしなかった。
 ‥開けてはならないって思ってたんだ。
 四朗は躊躇なく、鍵を差し込み引き出しを開ける。

 そこには
「相生 四朗様」
 と自分の字で書かれた自分宛の手紙が入っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...