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二章.柊 紅葉
1.無駄なこと
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柊 紅葉は、目の前で顔を赤くしている男子高生に対して何ら感情を持つことはなかった。
ただ、今どうこの場を「上手く」乗り切ろうか、それだけ。
ひどいことをいうわけにはいかない。それは、「この子」に悪い。
だけど、だからと言ってこの男子高生に「いい顔」するわけにはいかない。(そもそも、俺が無理だから許してほしい)
適当なことをいうのは、双方(男子高生と「この子」だ)に失礼だから‥自分で言うのもなんだけど結構努力している。随分営業用スマイルじゃない「女子高生らしい笑顔」もうまくなってきた‥と思う。
借り物の体で、自分は「この子」の評価を上げることはしろ、「この子」の評価を下げるようなことをするわけにはいかない。
だから、毎日念入りに肌の手入れをし、髪にくしをかける。日焼けに気をつけるし、虫刺されもかきむしったりしない。
おかげで肌はつるつるだし、髪はサラサラだ。
総ては「この子」の為!
この行為に、これ以上の意味はない。
今までの人生で一度もやってきたことがない努力で、ただ面倒だとしか思わない。自分の事、結構「凝り性」だって思ってたけど、それは「ただし興味のあることに限る」らしい。
興味どころか、未知の領域だ。初めはどうしたらいいかわからず随分戸惑ったもんだ。
「妹」のマネをしたり、周りの話に耳を傾けたり‥ファッション雑誌なるものも読んだ。
教科書通り? それのどこが悪い。
兎に角だ。今は目の前の男‥
もじもじと小声で喋ってる言葉に耳を傾けると‥
「柊さんは‥頭もいい。‥お洒落ばっかりしてる他の子とは違うなって‥」
とか言ってる。
‥人の苦労が分かっちゃいない。
お洒落ばかりじゃないかもしれんが、お洒落もしてるぞ! メイクだけがお洒落だと思うな! 肌の手入れこそ、お洒落じゃないか?! こちとら、そこいらの女子高生よりよっぽど肌の手入れに時間かけてるぞ!! (注 特別なことをしているわけでは無くなれなくて悪戦苦闘している為)
そういうの分からん男はモテないぞ! (今までの自分を顧みてちょっと後悔。女子の皆さんすみません‥)
まあ‥ね、何とかしなくてはいけないとはいえ、毎度のことだが困る。
どうする? といっても相手は男だ。
それが気持ちが悪い。考えれば考えるほど気持ち悪い。
事実、状況だけ言えば、「この子」・柊 紅葉は女の子だから気持ち悪くはないのだろうが、俺はどうも割り切れない。
5年も経つってのに、未だに慣れない。
だから、出来るだけ男と話すらしないのに‥(そして、「そこが更に好き! 」ってファンを作っちゃう‥)
「ごめんね。困らせちゃったね」
黙っていたら、相手が気を使って言ってくれた。優しさなのか、単に沈黙に耐えられなくなったのかはわからない。
「いえ、そんな」
俺‥紅葉は恥ずかしくて顔も上げられない。
という風に見えているようだが、実際は
‥どんな顔をすればいいのかわからず、顔を上げるわけにはいかない。
俯きながら、冷や汗たらたらだ。
「せめて友達になってもらってもいいかな」
と、男子高生。
「‥」
紅葉、黙ってこくんとうなずく。
‥ああ、「友達」これで何人目だ。
友達といいながら、「二人きり」で映画に誘ってくるのはどういうわけだ。
だが、生憎紅葉は忙しい。外国語にスイミング、剣術に弓、ピアノ。
スイミングと剣術は、10歳の時引き継いだお稽古に勝手にプラスさせてもらった。(ゴメン! )
お母さん(紅葉の)驚いてたな~。「大丈夫なの?? 」って。
因みにお母さんは、俺の生みの母の姉らしく、(元の)俺の顔そっくりだった。
で、(従兄弟同士だから)顔がそっくりって理由で、今回俺と紅葉は入れ替わってる‥ってわけだ。
全く、あの人も恐ろしいことを考える‥。
それに紅葉ちゃんもよく受けてくれたよな‥とも。ホント、いい人過ぎて心配になる。
まあ、それはそれで‥
今日はピアノの日だった。
「今日は、ピアノだから。‥ごめんなさいね」
俺は、気弱そうに微かに笑って、新しい友達と別れた。
ピアノを習ってるって知った時には絶望しかなかったけど、有難いことに紅葉ちゃんはピアノにそう熱心じゃなかったようだ。
「もう~! いつもいつも練習してきてくれないんだから~。次は練習してきてね」
って先生が「相変わらず」って感じで言った時にはほっとした。
よかった‥
「‥どうしたの紅葉ちゃん!? 記憶喪失にでもなった!? 」
って言われたらどうしようって思ったよ‥。
紅葉ちゃんの手紙には「ピアノを習ってます」とは書いてあったけど、熱心かそうでもないか‥は書かれてなかったからね。
まあ‥書かんわな‥。
「あ~ピアノピアノと‥」
しかし、今日もお互いにとって時間の無駄をしてしまったなあ。
まあ‥ピアノも俺にとっては苦痛でしかないんだが‥。
だけど‥まあ、老後とかの趣味にしてもいい‥かも。
俺はさっさと気持ちを切り替えることにした。
ただ、今どうこの場を「上手く」乗り切ろうか、それだけ。
ひどいことをいうわけにはいかない。それは、「この子」に悪い。
だけど、だからと言ってこの男子高生に「いい顔」するわけにはいかない。(そもそも、俺が無理だから許してほしい)
適当なことをいうのは、双方(男子高生と「この子」だ)に失礼だから‥自分で言うのもなんだけど結構努力している。随分営業用スマイルじゃない「女子高生らしい笑顔」もうまくなってきた‥と思う。
借り物の体で、自分は「この子」の評価を上げることはしろ、「この子」の評価を下げるようなことをするわけにはいかない。
だから、毎日念入りに肌の手入れをし、髪にくしをかける。日焼けに気をつけるし、虫刺されもかきむしったりしない。
おかげで肌はつるつるだし、髪はサラサラだ。
総ては「この子」の為!
この行為に、これ以上の意味はない。
今までの人生で一度もやってきたことがない努力で、ただ面倒だとしか思わない。自分の事、結構「凝り性」だって思ってたけど、それは「ただし興味のあることに限る」らしい。
興味どころか、未知の領域だ。初めはどうしたらいいかわからず随分戸惑ったもんだ。
「妹」のマネをしたり、周りの話に耳を傾けたり‥ファッション雑誌なるものも読んだ。
教科書通り? それのどこが悪い。
兎に角だ。今は目の前の男‥
もじもじと小声で喋ってる言葉に耳を傾けると‥
「柊さんは‥頭もいい。‥お洒落ばっかりしてる他の子とは違うなって‥」
とか言ってる。
‥人の苦労が分かっちゃいない。
お洒落ばかりじゃないかもしれんが、お洒落もしてるぞ! メイクだけがお洒落だと思うな! 肌の手入れこそ、お洒落じゃないか?! こちとら、そこいらの女子高生よりよっぽど肌の手入れに時間かけてるぞ!! (注 特別なことをしているわけでは無くなれなくて悪戦苦闘している為)
そういうの分からん男はモテないぞ! (今までの自分を顧みてちょっと後悔。女子の皆さんすみません‥)
まあ‥ね、何とかしなくてはいけないとはいえ、毎度のことだが困る。
どうする? といっても相手は男だ。
それが気持ちが悪い。考えれば考えるほど気持ち悪い。
事実、状況だけ言えば、「この子」・柊 紅葉は女の子だから気持ち悪くはないのだろうが、俺はどうも割り切れない。
5年も経つってのに、未だに慣れない。
だから、出来るだけ男と話すらしないのに‥(そして、「そこが更に好き! 」ってファンを作っちゃう‥)
「ごめんね。困らせちゃったね」
黙っていたら、相手が気を使って言ってくれた。優しさなのか、単に沈黙に耐えられなくなったのかはわからない。
「いえ、そんな」
俺‥紅葉は恥ずかしくて顔も上げられない。
という風に見えているようだが、実際は
‥どんな顔をすればいいのかわからず、顔を上げるわけにはいかない。
俯きながら、冷や汗たらたらだ。
「せめて友達になってもらってもいいかな」
と、男子高生。
「‥」
紅葉、黙ってこくんとうなずく。
‥ああ、「友達」これで何人目だ。
友達といいながら、「二人きり」で映画に誘ってくるのはどういうわけだ。
だが、生憎紅葉は忙しい。外国語にスイミング、剣術に弓、ピアノ。
スイミングと剣術は、10歳の時引き継いだお稽古に勝手にプラスさせてもらった。(ゴメン! )
お母さん(紅葉の)驚いてたな~。「大丈夫なの?? 」って。
因みにお母さんは、俺の生みの母の姉らしく、(元の)俺の顔そっくりだった。
で、(従兄弟同士だから)顔がそっくりって理由で、今回俺と紅葉は入れ替わってる‥ってわけだ。
全く、あの人も恐ろしいことを考える‥。
それに紅葉ちゃんもよく受けてくれたよな‥とも。ホント、いい人過ぎて心配になる。
まあ、それはそれで‥
今日はピアノの日だった。
「今日は、ピアノだから。‥ごめんなさいね」
俺は、気弱そうに微かに笑って、新しい友達と別れた。
ピアノを習ってるって知った時には絶望しかなかったけど、有難いことに紅葉ちゃんはピアノにそう熱心じゃなかったようだ。
「もう~! いつもいつも練習してきてくれないんだから~。次は練習してきてね」
って先生が「相変わらず」って感じで言った時にはほっとした。
よかった‥
「‥どうしたの紅葉ちゃん!? 記憶喪失にでもなった!? 」
って言われたらどうしようって思ったよ‥。
紅葉ちゃんの手紙には「ピアノを習ってます」とは書いてあったけど、熱心かそうでもないか‥は書かれてなかったからね。
まあ‥書かんわな‥。
「あ~ピアノピアノと‥」
しかし、今日もお互いにとって時間の無駄をしてしまったなあ。
まあ‥ピアノも俺にとっては苦痛でしかないんだが‥。
だけど‥まあ、老後とかの趣味にしてもいい‥かも。
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