俊哉君は無自覚美人。

文月

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「写真出来たら‥ビクターに渡す」
 ここは、「今度来たときに持ってくるね」って言っちゃダメ。
 これ以上は‥アウトでしょ。
 そう言った俺に、俊哉も黙って頷いた。

 (俊哉と会っちゃ)ダメだって自分で言ってたのに、さっき俊哉を見た瞬間そんな常識頭からすっ飛んでた。
 ‥完全に舞い上がっちゃってたんだ。
 舞い上がって、調子に乗って‥この世界の最大のタブーを犯してることを、一瞬忘れちゃってた。
 
 死んだ人は生き返らない。
 死んだ人とはもう、一生会えない。

 当たり前のことだ。
 その境界がなくなった世界とか‥もう「理想郷」超えて、「カオス」でしかない。
 ゾンビや幽霊は境界を越えて来た存在だけど、「生前のその人」と別の物で、同じ人ではない。
 死んだ人と生きてる人には確実に超えられない壁がある。
 凄い重大なタブー。
 ‥だけど、きっと俺はここから帰ったら気軽に
「いい夢見た~! 」
 って思うだろう。
 それだけだ。
 ‥そんな程度にしか思わないだろう。
 そんな自分を容易く想像して‥ゾッとする。

 でも‥そうなんだ。
 だって、この世界は俺にとって‥悲しいかな「そういう存在」でしかない。
 ビクターのいる「リアルの世界」だけど‥でもね、現実とは少し違う。
 いうならば「お気に入りのゲームの世界」みたいな感じなのかも。
 ‥そうだ。夢じゃないな。
 ゲームの世界って言うのは‥正しいかも。
 夢だったら、自分の思い通りに動けない。だけど、夢には違いない‥。つまり‥「普通の夢じゃない」‥「特別な夢」。夢のような「ゲームの世界」。
 「夢のような‥現実じゃないステージ」に行って、現実にはいない「イケメンで優しい理想の王子様《ビクター》」と恋愛ゲームをする」‥そんな感じなのかもしれない。
 きっと、俺にとっての「ビクターとの休日」と、ビクターにとっての「俺との休日」は‥重さが違う。
 俺にとってのビクターとの休日は、頑張った俺へのご褒美的なボーナスステージで、ビクターにとっての俺との休日は、生きる目標‥とまではいかないかもしれないけどそれ位の重さがありそう。
 きっと‥それはうぬぼれじゃない。
 ビクターが俺を思う気持ちが俺がビクターを思う気持ちに勝ってる‥そんな話をしているんじゃない。
 人の気持ちなんて測れないから分からないけど‥きっと同じ位だって思ってる。ビクターは精一杯俺のことを愛してくれてるし、俺もビクターを精一杯愛している。
 その度合いに違いはないだろう。
 だけど‥違う。
 愛情の度合いは同じだとしても、その重要度は違う。

 例えば、喉がカラカラなときに飲むコップ一杯の水と、それ程喉が渇いていないときに飲むコップ一杯の水の価値は違う。

 俺の生活にとって、恋愛は「生活のゆとり、安らぎ部分」なのだが、ビクターにとっては多分もっと大きい部分を占めている。
 それは性格云々以前の話だって思う。

 美醜が生活に占める影響度だとか、周りの認識が違う。

 俺が生きている世界に比べて、ビクターが暮らす世界は‥美醜に対しての認識がずっと厳しく辛い。‥差別が凄い。醜い者に対する周りの視線がもう‥地球の比じゃない。地球なら「整形する」とかいう手もあろうが、この世界にそういう概念はない。それどころか‥人の好みってのもないんだ。
 皆一様‥同じような人を美しいっていい、同じような人を醜いって判断する。
 花姫が特別って言われるのはそのせいだ。
 地球も、一般的にこういう人が美人っていうのはあるけど‥同じように「ぽっちゃりが好き」って人も「熟女好き」っていうジャンルも‥別に「珍しい」って言われない程度に‥存在して、そういう人も社会的に認識されている。(別に「お前趣味悪いな」「ゲテモノ趣味」って言われないってこと)

 ‥そういう当たり前の自由さが、ここにはない。

 醜く産まれたら、「醜い」って皆に認識されて‥死ぬまでそのままだ。
 醜い者は一生蔑まれて‥恋愛もできずに死んでいくしかない。
 ビクターもそうだったらしいって聞いた。
 ビクターにとって‥俺が、「砂漠で得た水」って存在に思えても‥おかしくはないだろう。

 貴重で大事なもの。だけど、扱い慣れない‥珍しいもの。

 俺にとって恋愛は初めてじゃないけど‥ビクターにとっては初めてで‥もしかしたら、この先も俺が唯一になるかも。
 慣れってのは‥やっぱりあるだろう。
 俺はこういう状況に多少なりと慣れているけど、ビクターは慣れていない。
 ビクターは俺との結婚も考えてくれてる。
 きっとふわふわとした「恋愛ごっこ」じゃなくて、ホントに俺を愛してくれてる。
 ‥だけど、それは俺も一緒。
 信じてもらえないかもしれないけど、俺にとってビクターは今までいた恋人たちと同じくくりに入れちゃえる様な人じゃない。
 ここでの生活は想像できないけど、‥でも、ビクターに対する気持ちは嘘じゃない。
 がらじゃないけど、‥それはホント。

 だけど、だ。
 俺の「生活ベース」はあくまでも地球でここではない。ここに俺の居場所はない。言うならば、ビクターのこころの中に俺の居場所があるだけで、ここに俺の居場所があるわけじゃない。ビクターの外に友人なんか作ってはいけないし、それどころか、俺はここの人間と関わってすらいけない。
 子供が出来る、歴史が変わる‥以外にも、「外からくる異分子」の影響は‥「なるべくは」あってはならないものだって思う。
 俺がそんなことをあれこれ考えてる間。ビクターは俺にべったりと張り付いてうっとりとした表情をしてた。ちょっと前までは「どうしたんだよ~。何を考えてるんだよ~? 」って不安そうな顔で聞いて来てたけど、なんか(考え込んでフリーズしてる俺に)慣れたみたい。この頃では、べたべたできるチャンスとばかりに俺にくっついてくる。‥流石にキスして来ようとしたり押したおされたら、逃げる(し、殴る)けど。

 考え事の邪魔はするな!!

「兄さん。‥ありがと。
 今までね。絶対会っちゃいけないって思ってたのに‥会ったら、嬉しくって‥。ホントにホントに‥ただ嬉しくって。
 ダメだね。僕。‥自分がこんなにあっさり「この世界のタブー」みたいなものを易々破っちゃう人間だなんて思ってもいなかった」
 涙をボロボロ流しながら俺の手を握る俊哉。
 それは俺も同じ。
 そんな俺たち兄弟の様子をクラシル君はただ穏やかに‥ベルク君は「? 」って顔で見つめていた。(ビクターは相変わらず俺にべったりと張り付いている)リリアンはどうしてる? って視線をそっちにやると‥俺が持ってきた婚礼衣装を見ていた。
 手芸が得意ならしい彼女は中に「男性用婚礼衣装お直し用布」(※ 陽竹がお直ししてくれた残り布。そのまま入れていた)が入っているのを見ると
「私がクラシルさんと俊哉にあわせてお直ししようか? 」
 って言ったんだ。
「でも‥」
 と、立ち上がり、俺に近づくと、耳元でこそっと
「先に、このままの状態でビクターと写真を撮ったら? この寸法‥多分ビクターなら着れると思う」
 って呟いた。

 ええ?? 俺がビクターと!? 

 真っ赤になる俺に構わず、リリアンは俊哉の裁縫箱から布で出来た巻き尺みたいなのを出すと、(べりっとビクターを俺からはがし)俺の腰回りと俊哉の腰回りを測り、
「ほぼ一緒。先に修斗の寸法でお直ししちゃうわね。それで、ビクターはこの衣装(お直しした父さんの衣装)を着て‥結婚式を挙げましょう! ええと‥修斗はそれで写真? ってのを撮るんだっけ? それは、俊哉でも撮れる? 」
 って俊哉に聞いた。
 俊哉が首を傾げながら、「‥どうだろ。簡単なデジタルカメラなら使えるけど‥兄さんの本格カメラは無理だな」って呟いている。
 ‥俊哉が撮るなら簡単なデジカメを持ってくるよ。
 俺が苦笑いしてる間に、「そういうこと」になった。「嫌だ」「恥ずかしい」って断ろうと思ったけど、
「せっかく手直ししたんでしょ? 使わなきゃ。‥綺麗に縫えてるよ? これ。なのに、使わなかったら勿体ないじゃない? 」
 って言われたら‥断れなかった。
 陽竹(カメラの専門学校の紅一点の名前)にも随分頑張ってもらったもんな‥。俺も頑張ったし‥。
 無駄にするのは‥確かに良くないよな‥って思って、お任せすることにした。

 俺が両親の結婚衣装を着て(しかも、女物)写真を撮るなんてなあ‥。黒歴史間違いなしじゃない?? ‥人間生きてると何が起こるか分からないなあ‥。
 遠い目になったけど‥
「‥せめて、丈はロングにして‥」
 ってリリアンにお願いすることを忘れなかった俺は、なかなかちゃんとしてたって思う。
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