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第264話
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「うわぁ、広いな……」
日向と桜は、共にゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた。
所々の隙間から差し込む太陽の光を頼りに、2人は暗い部屋の中を見渡していく。
流石は長の屋敷、内装も立派で頑丈な作りになっており、代々受け継がれてきたという趣も感じた。
これはもはや、志柳の遺産だろう。
「日向くん、少し見て回る?」
「そうだな……何か、手がかりに繋がるものがあるかもしれねぇし」
「分かった。私も手伝うよ」
「いいのか?悪ぃな、桜」
「ううん」
2人は、それぞれ屋敷の中を見て回った。
虎珀の結界に守られていたせいか、屋敷は虫の1匹もいない綺麗な場所だった。
当時の志柳の当主がここを離れてから、ずっと時が止まっていたかのように、屋敷内は生活感が残っている。
もし日向が、今からここで暮らし始めると言っても、十分生活できるほど。
いくつか見て回っていた時、日向は台所に立ち寄った。
屋敷ということもあって、一般的に見る台所よりは広く、備え付けられている器具も丈夫なものだった。
そしてふと、日向はある場所に目が止まる。
「最後にここで暮らしていたのは……2人、か?」
日向が見ていたのは、台所付近にあった食器棚。
その食器棚の中には、2人分の食器がいくつか並べられていた。
湯のみも2人分、食事に使う敷物も2人分。
明らかに1人暮らしでは無い食器の量に、日向は顎に手を当て考える。
思えば、日向は虎珀から、志柳の最後の当主が誰だったのかを聞いていない。
歴代当主の名前も、龍禅しか知らないのだ。
(もしかして、龍禅が最後の当主だったのか?)
その時。
「日向くん!」
日向がじっと考えていると、別の部屋を調べていた桜が遠くから日向を呼んだ。
日向はその声に顔を上げ、足早に桜の元へと向かう。
桜がいたのは、何やら書斎のような場所だった。
「桜、どうした?」
「これ見て」
日向がたどり着くと、桜は手に持っていたあるものを日向に見せる。
それは、日記のようなものだった。
その日記は他にもあり、何冊にも渡って書かれていた。
日向がその日記を受け取り表紙などを確認すると、日記の後ろに、小さく文字が書かれていた。
【45代目当主 龍禅の記録】
「っ…………!」
書かれていたのは……龍禅の名前だった。
虎珀を志柳に誘った妖魔であり、彼にとってたった1人の親友……その男の日記が、日向の手にある。
(じゃあやっぱり、龍禅は最後の当主だったんだ)
となると、あの2人分の食器も、龍禅と虎珀の可能性が高いだろう。
龍禅という文字を見て固まった日向に、桜は不安そうに尋ねた。
「日向くん。その、どうかした?」
「……この日記を書いた人物の話を、前に聞いたことがあるんだ」
日向は緊張の面持ちで、日記を開く。
日記の中は、綺麗な字がズラっと並んでいた。
日付、天気、その日の体調、特別な日であれば何の日だったのか……。
それらが細かく書かれていて、そしてその後に1日の出来事が綴られていた。
8月19日 晴れ 元気!
今日は、みんなと野菜の収穫をした!
子どもたちも一生懸命手伝ってくれて、予定より早く終わったぞ!
だが去年に比べると、少し収穫量が減った気がする。
でも大丈夫だ!これからは、もっと美味しいもんがたくさん手に入る!
10月4日 曇り 元気!
今日は、子どもたちに絵本を読み聞かせた!
人間の子どもは成長が早いし、妖魔の子どもはどんどん強くなってる。
日々感じる子どもの成長ってのは、最高だ!
せっかくの機会だ、明日は子どもたちと手合わせでもしてやろうかな?
1月8日 晴れ 元気!
今日はここ最近の中で、特に冷え込んでたぜ!
だから、みんなで温かい料理を作った!
たまには、こうしてみんなで集まって食事をするのもいいかもしれない!
また機会があったら、今度は屋敷に招待しよう!
2月26日 晴れ 元気!
今日は、志柳の周りを彷徨いていた妖魔を倒してやった!
ちょっと怪我しちまったけど、みんなを守れたんだから良い事だよな!
それにしても、最近外の妖魔が活発になっている気がする……。
45代目当主として、俺が志柳を守り抜くぞ!
明日も頑張れ、俺!
日記に書かれている文面から、龍禅は本当に明るく元気な妖魔だったことが分かる。
この前向きなところが、当時の志柳の住民から慕われていた理由の一つなのだろう。
日記に書かれている内容も、自分のことではなく、志柳の皆のことばかり。
よほど、彼は志柳を大事にしていたのだろう。
(……あっ……)
その時、日向はある日の日記に目が止まった。
5月12日 晴れ 元気! 【白虎の妖魔】
今日、数年ぶりに志柳の外に出た。
そしたら、凄く不思議な妖魔に出会った。
名前のない寂しい妖魔で、仙人の死体の山の上に、ただ静かに座ってた。
愛想はあまり良くなかったけど……また明日、会いに行ってみようと思う。
どうしてか、その妖魔が気になるんだ。
その記録は、まさに龍禅と虎珀が出会った日。
そしてこの日から、龍禅の日記は……虎珀一色へと変わっている。
5月13日 晴れ 元気!
今日、またあの妖魔に会ってきた。
すっごい嫌な顔されたけど、なんだかんだ話してくれた。
でも悲しいことに、あの子は名前を持ってなかった。
だから、俺が「虎珀」と名付けた!
我ながら、良い名前だと思う!
いつか、自分の名前として使ってくれると嬉しいな。
9月5日 曇り 元気!
今日、最悪なことが起きた!
虎珀が仙人に捕まって、酷いことされてたんだ!
あの小さな妖魔が知らせに来てくれなかったら、虎珀は殺されていたかもしれない。
しかも虎珀ったら、怪我のことを心配しても知らんぷりしたんだ。
全く、少しは自分を大切にして欲しいものだよ。
9月6日 晴れ 元気!【岩の妖魔と遭遇!】
今日は、すっげぇ面白かったなぁ!
ちょーでかい岩の妖魔を見つけて、なんか怒らせちまってさぁ、虎珀と一緒に逃げ回った!
一時はどうなるかと思ったけど、俺の力で倒してやったぜ!
しかも今日は、黒神様の必殺技も使えた!
でもきっと、あの方はもっと凄かったんだろうなぁ。
12月1日 晴れ 元気!
虎珀と旅をして、3ヶ月が経った。
もう、毎日楽しくて、幸せで。
初めは、虎珀とこうやって一緒に居れるとは思わなかったけど、今となっては仲良しだ!
それにしても、虎珀の獣狩りは大したもんだ!
俺も、頑張んねぇと!
明日は、新しい料理を提案してみる!
虎珀好みの味付けも、忘れねぇようにしねぇとな!
3月17日 晴れ 元気!【虎珀、初志柳!】
今日は、虎珀が志柳に遊びに来た!
まさか来てくれるとは思わなかったよ!
久々の我が家にも帰ってきたし、みんなとも再会できた。
今日はここ最近の中で、1番幸せだ!
虎珀、このまま志柳に住んでくれねぇかな。
旅は休憩して、一緒に暮らしたい。
なんて、言ったら引かれちまうかな~。
虎珀と出会ってから、龍禅の日記はだんだん長くなっていた。
今までは一日の報告のような日記が、虎珀との出会いをきっかけに、躍動感のある思い出として書かれている。
文面から見て、龍禅が虎珀との日々をとても楽しんでいるのが分かった。
虎珀が龍禅を親友と思うように、龍禅もきっと、虎珀のことが大好きだったのだろう。
日向は龍禅の日記をざっくりと読み進めながら、幸せそうな日記に笑みを零す。
しかし……日向が日記の紙をめくる度、今まで楽しそうだった日記の文面が、何故か少しずつ変化していった。
11月9日 雨 頭痛
虎珀が志柳に来て、丁度5年目になった。
志柳のみんなが虎珀にやっと慣れてきて、だんだんと町も平和になってきた。
でも、最近外の様子がおかしい気がする。
仙人が、妙な動きをしていた。
志柳の周辺を彷徨いているのを、よく見かける。
どうして?何か、悪い妖魔でもいるのかな。
11月16日 晴れ 体が重い
今日、仙人が志柳の中を覗こうとしていた。
それを見た時はビックリしてしまって、声をかけることが出来なかった。
……もしかして、誰かに会いに来てたのか?
だとしたら、失礼なことしちゃったな。
でも……仙人が志柳の誰かに会いに来ることなんて、ない、よね?
一体、仙人たちは何を見てたんだ……?
1月26日 曇り 目眩がする
今日は、何だか調子が悪かった。
だって、ここ最近落ち着いていた仙人の動きが、また活発になり始めたんだ。
この2ヶ月間、何も起こらなかったから忘れてたのに、どうしてまた……。
いや、悩みすぎは良くない。
俺は志柳の45代目当主、いつでも明るくいなきゃいけない。
みんなを安心させるために、前向きでいなきゃ。
6月3日 雨 きつい
今日は、何があったっけ。
毎日書かなきゃいけないのに、今日起きたことが分からないなんて、疲れてたかな。
そういえば、虎珀に体調を心配されたな。
何でだろう、どこか変だったのかな。
……また、仙人が彷徨いていた。
何で……何をしているんだ、彼らは。
10月5日 雨
あれから、1年近く経つか……?
俺、今日もちゃんと当主らしく振舞えたよな?
志柳のみんなは、仙人が彷徨いていることを知らない。
でも、もし知ってしまったら……?そんなのダメだ、絶対に不安にさせちまう。
隠すんだ、志柳は安全だって、平和だって。
虎珀には…………いや、言わないでおこう。
12月2日
今日、こっそり外に出てみた。
少し、1人にならないといけないと思って。
当主の立場が、大変だと思ったことは無い。
みんなのことは大好きだし、この志柳も大好きだ。
でも……みんなの求める当主の姿を、今の俺は出来てんのかな。
そういえば、最近やけに虎珀が俺の体調を気にしてくる。
まずいな、ちゃんと隠さねぇと。
仙人のことも、隠して、隠して、隠し続けるんだ。
12月5日
今日は、書く気にならない。
だから一言だけ。
今日は……ちょっと、疲れちまった。
12月24日
神様……多くは望まない。
だからお願い……虎珀を助けてくれ。
虎珀は、俺の大切な存在なんだ、失いたくない。
神が無理なら、誰でもいい……。
虎珀を、ここより安全で、幸せな場所に……。
助けて下さい……黒神様っ……。
日記は、ここで終わっていた。
最後の日の日記は、慌てて書いたのか、文字がぐちゃぐちゃになっていた。
気づけば、ずっと書いていた天気やその日の体調は無くなって、日付だけが記録されている。
最初の頃に見た日記とは、がらりと変わった内容に、日向は開いた口が塞がらない。
あまりにも不穏な雰囲気を残して、日記は終止符を打っている。
この最後の日以降、龍禅はどうしたのだろうか。
(龍禅は……一体、何が……)
日向がゆっくりと日記を閉じた瞬間……
「日向くん、日向くん!」
「っ………………」
ふと、遠くから桜の叫び声が。
日向が顔を上げると、いつの間にか桜は別の部屋に移動していた。
そしてあの叫び声、何か見つけたのだろう。
日向は近くにあった机に日記を置くと、慌てて桜の声の方へと駆け出す。
声が聞こえたのは、屋敷の奥の、更に奥。
客人は絶対に通らないような薄暗い廊下を、日向は桜の声を頼りに走る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
自分の体調など後回しで、日向はただ桜の元へと駆け抜けた。
そしてようやく、桜の姿を見つける。
「桜!」
「あっ、日向くん!これ見て!」
「えっ?」
日向がたどり着いて早々、桜は慌てた様子で、自分の目の前にあるものを指さした。
日向が顔を上げると……
そこにあったのは、結界が張られた頑丈な扉。
だがこの結界、今まで見てきた虎珀の結界とは少し違う。
そして日向は、思い出す。
黒神に関する書物は、屋敷の最奥の部屋に隠されていると。
ということは、つまり…………。
(………………見つけたっ………………)
ここだ。
ここが……黒神の、全てが隠されている場所。
魁蓮の過去の記憶を取り戻す、1番有力な、鍵……。
日向と桜は、共にゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた。
所々の隙間から差し込む太陽の光を頼りに、2人は暗い部屋の中を見渡していく。
流石は長の屋敷、内装も立派で頑丈な作りになっており、代々受け継がれてきたという趣も感じた。
これはもはや、志柳の遺産だろう。
「日向くん、少し見て回る?」
「そうだな……何か、手がかりに繋がるものがあるかもしれねぇし」
「分かった。私も手伝うよ」
「いいのか?悪ぃな、桜」
「ううん」
2人は、それぞれ屋敷の中を見て回った。
虎珀の結界に守られていたせいか、屋敷は虫の1匹もいない綺麗な場所だった。
当時の志柳の当主がここを離れてから、ずっと時が止まっていたかのように、屋敷内は生活感が残っている。
もし日向が、今からここで暮らし始めると言っても、十分生活できるほど。
いくつか見て回っていた時、日向は台所に立ち寄った。
屋敷ということもあって、一般的に見る台所よりは広く、備え付けられている器具も丈夫なものだった。
そしてふと、日向はある場所に目が止まる。
「最後にここで暮らしていたのは……2人、か?」
日向が見ていたのは、台所付近にあった食器棚。
その食器棚の中には、2人分の食器がいくつか並べられていた。
湯のみも2人分、食事に使う敷物も2人分。
明らかに1人暮らしでは無い食器の量に、日向は顎に手を当て考える。
思えば、日向は虎珀から、志柳の最後の当主が誰だったのかを聞いていない。
歴代当主の名前も、龍禅しか知らないのだ。
(もしかして、龍禅が最後の当主だったのか?)
その時。
「日向くん!」
日向がじっと考えていると、別の部屋を調べていた桜が遠くから日向を呼んだ。
日向はその声に顔を上げ、足早に桜の元へと向かう。
桜がいたのは、何やら書斎のような場所だった。
「桜、どうした?」
「これ見て」
日向がたどり着くと、桜は手に持っていたあるものを日向に見せる。
それは、日記のようなものだった。
その日記は他にもあり、何冊にも渡って書かれていた。
日向がその日記を受け取り表紙などを確認すると、日記の後ろに、小さく文字が書かれていた。
【45代目当主 龍禅の記録】
「っ…………!」
書かれていたのは……龍禅の名前だった。
虎珀を志柳に誘った妖魔であり、彼にとってたった1人の親友……その男の日記が、日向の手にある。
(じゃあやっぱり、龍禅は最後の当主だったんだ)
となると、あの2人分の食器も、龍禅と虎珀の可能性が高いだろう。
龍禅という文字を見て固まった日向に、桜は不安そうに尋ねた。
「日向くん。その、どうかした?」
「……この日記を書いた人物の話を、前に聞いたことがあるんだ」
日向は緊張の面持ちで、日記を開く。
日記の中は、綺麗な字がズラっと並んでいた。
日付、天気、その日の体調、特別な日であれば何の日だったのか……。
それらが細かく書かれていて、そしてその後に1日の出来事が綴られていた。
8月19日 晴れ 元気!
今日は、みんなと野菜の収穫をした!
子どもたちも一生懸命手伝ってくれて、予定より早く終わったぞ!
だが去年に比べると、少し収穫量が減った気がする。
でも大丈夫だ!これからは、もっと美味しいもんがたくさん手に入る!
10月4日 曇り 元気!
今日は、子どもたちに絵本を読み聞かせた!
人間の子どもは成長が早いし、妖魔の子どもはどんどん強くなってる。
日々感じる子どもの成長ってのは、最高だ!
せっかくの機会だ、明日は子どもたちと手合わせでもしてやろうかな?
1月8日 晴れ 元気!
今日はここ最近の中で、特に冷え込んでたぜ!
だから、みんなで温かい料理を作った!
たまには、こうしてみんなで集まって食事をするのもいいかもしれない!
また機会があったら、今度は屋敷に招待しよう!
2月26日 晴れ 元気!
今日は、志柳の周りを彷徨いていた妖魔を倒してやった!
ちょっと怪我しちまったけど、みんなを守れたんだから良い事だよな!
それにしても、最近外の妖魔が活発になっている気がする……。
45代目当主として、俺が志柳を守り抜くぞ!
明日も頑張れ、俺!
日記に書かれている文面から、龍禅は本当に明るく元気な妖魔だったことが分かる。
この前向きなところが、当時の志柳の住民から慕われていた理由の一つなのだろう。
日記に書かれている内容も、自分のことではなく、志柳の皆のことばかり。
よほど、彼は志柳を大事にしていたのだろう。
(……あっ……)
その時、日向はある日の日記に目が止まった。
5月12日 晴れ 元気! 【白虎の妖魔】
今日、数年ぶりに志柳の外に出た。
そしたら、凄く不思議な妖魔に出会った。
名前のない寂しい妖魔で、仙人の死体の山の上に、ただ静かに座ってた。
愛想はあまり良くなかったけど……また明日、会いに行ってみようと思う。
どうしてか、その妖魔が気になるんだ。
その記録は、まさに龍禅と虎珀が出会った日。
そしてこの日から、龍禅の日記は……虎珀一色へと変わっている。
5月13日 晴れ 元気!
今日、またあの妖魔に会ってきた。
すっごい嫌な顔されたけど、なんだかんだ話してくれた。
でも悲しいことに、あの子は名前を持ってなかった。
だから、俺が「虎珀」と名付けた!
我ながら、良い名前だと思う!
いつか、自分の名前として使ってくれると嬉しいな。
9月5日 曇り 元気!
今日、最悪なことが起きた!
虎珀が仙人に捕まって、酷いことされてたんだ!
あの小さな妖魔が知らせに来てくれなかったら、虎珀は殺されていたかもしれない。
しかも虎珀ったら、怪我のことを心配しても知らんぷりしたんだ。
全く、少しは自分を大切にして欲しいものだよ。
9月6日 晴れ 元気!【岩の妖魔と遭遇!】
今日は、すっげぇ面白かったなぁ!
ちょーでかい岩の妖魔を見つけて、なんか怒らせちまってさぁ、虎珀と一緒に逃げ回った!
一時はどうなるかと思ったけど、俺の力で倒してやったぜ!
しかも今日は、黒神様の必殺技も使えた!
でもきっと、あの方はもっと凄かったんだろうなぁ。
12月1日 晴れ 元気!
虎珀と旅をして、3ヶ月が経った。
もう、毎日楽しくて、幸せで。
初めは、虎珀とこうやって一緒に居れるとは思わなかったけど、今となっては仲良しだ!
それにしても、虎珀の獣狩りは大したもんだ!
俺も、頑張んねぇと!
明日は、新しい料理を提案してみる!
虎珀好みの味付けも、忘れねぇようにしねぇとな!
3月17日 晴れ 元気!【虎珀、初志柳!】
今日は、虎珀が志柳に遊びに来た!
まさか来てくれるとは思わなかったよ!
久々の我が家にも帰ってきたし、みんなとも再会できた。
今日はここ最近の中で、1番幸せだ!
虎珀、このまま志柳に住んでくれねぇかな。
旅は休憩して、一緒に暮らしたい。
なんて、言ったら引かれちまうかな~。
虎珀と出会ってから、龍禅の日記はだんだん長くなっていた。
今までは一日の報告のような日記が、虎珀との出会いをきっかけに、躍動感のある思い出として書かれている。
文面から見て、龍禅が虎珀との日々をとても楽しんでいるのが分かった。
虎珀が龍禅を親友と思うように、龍禅もきっと、虎珀のことが大好きだったのだろう。
日向は龍禅の日記をざっくりと読み進めながら、幸せそうな日記に笑みを零す。
しかし……日向が日記の紙をめくる度、今まで楽しそうだった日記の文面が、何故か少しずつ変化していった。
11月9日 雨 頭痛
虎珀が志柳に来て、丁度5年目になった。
志柳のみんなが虎珀にやっと慣れてきて、だんだんと町も平和になってきた。
でも、最近外の様子がおかしい気がする。
仙人が、妙な動きをしていた。
志柳の周辺を彷徨いているのを、よく見かける。
どうして?何か、悪い妖魔でもいるのかな。
11月16日 晴れ 体が重い
今日、仙人が志柳の中を覗こうとしていた。
それを見た時はビックリしてしまって、声をかけることが出来なかった。
……もしかして、誰かに会いに来てたのか?
だとしたら、失礼なことしちゃったな。
でも……仙人が志柳の誰かに会いに来ることなんて、ない、よね?
一体、仙人たちは何を見てたんだ……?
1月26日 曇り 目眩がする
今日は、何だか調子が悪かった。
だって、ここ最近落ち着いていた仙人の動きが、また活発になり始めたんだ。
この2ヶ月間、何も起こらなかったから忘れてたのに、どうしてまた……。
いや、悩みすぎは良くない。
俺は志柳の45代目当主、いつでも明るくいなきゃいけない。
みんなを安心させるために、前向きでいなきゃ。
6月3日 雨 きつい
今日は、何があったっけ。
毎日書かなきゃいけないのに、今日起きたことが分からないなんて、疲れてたかな。
そういえば、虎珀に体調を心配されたな。
何でだろう、どこか変だったのかな。
……また、仙人が彷徨いていた。
何で……何をしているんだ、彼らは。
10月5日 雨
あれから、1年近く経つか……?
俺、今日もちゃんと当主らしく振舞えたよな?
志柳のみんなは、仙人が彷徨いていることを知らない。
でも、もし知ってしまったら……?そんなのダメだ、絶対に不安にさせちまう。
隠すんだ、志柳は安全だって、平和だって。
虎珀には…………いや、言わないでおこう。
12月2日
今日、こっそり外に出てみた。
少し、1人にならないといけないと思って。
当主の立場が、大変だと思ったことは無い。
みんなのことは大好きだし、この志柳も大好きだ。
でも……みんなの求める当主の姿を、今の俺は出来てんのかな。
そういえば、最近やけに虎珀が俺の体調を気にしてくる。
まずいな、ちゃんと隠さねぇと。
仙人のことも、隠して、隠して、隠し続けるんだ。
12月5日
今日は、書く気にならない。
だから一言だけ。
今日は……ちょっと、疲れちまった。
12月24日
神様……多くは望まない。
だからお願い……虎珀を助けてくれ。
虎珀は、俺の大切な存在なんだ、失いたくない。
神が無理なら、誰でもいい……。
虎珀を、ここより安全で、幸せな場所に……。
助けて下さい……黒神様っ……。
日記は、ここで終わっていた。
最後の日の日記は、慌てて書いたのか、文字がぐちゃぐちゃになっていた。
気づけば、ずっと書いていた天気やその日の体調は無くなって、日付だけが記録されている。
最初の頃に見た日記とは、がらりと変わった内容に、日向は開いた口が塞がらない。
あまりにも不穏な雰囲気を残して、日記は終止符を打っている。
この最後の日以降、龍禅はどうしたのだろうか。
(龍禅は……一体、何が……)
日向がゆっくりと日記を閉じた瞬間……
「日向くん、日向くん!」
「っ………………」
ふと、遠くから桜の叫び声が。
日向が顔を上げると、いつの間にか桜は別の部屋に移動していた。
そしてあの叫び声、何か見つけたのだろう。
日向は近くにあった机に日記を置くと、慌てて桜の声の方へと駆け出す。
声が聞こえたのは、屋敷の奥の、更に奥。
客人は絶対に通らないような薄暗い廊下を、日向は桜の声を頼りに走る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
自分の体調など後回しで、日向はただ桜の元へと駆け抜けた。
そしてようやく、桜の姿を見つける。
「桜!」
「あっ、日向くん!これ見て!」
「えっ?」
日向がたどり着いて早々、桜は慌てた様子で、自分の目の前にあるものを指さした。
日向が顔を上げると……
そこにあったのは、結界が張られた頑丈な扉。
だがこの結界、今まで見てきた虎珀の結界とは少し違う。
そして日向は、思い出す。
黒神に関する書物は、屋敷の最奥の部屋に隠されていると。
ということは、つまり…………。
(………………見つけたっ………………)
ここだ。
ここが……黒神の、全てが隠されている場所。
魁蓮の過去の記憶を取り戻す、1番有力な、鍵……。
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